南楼望 南楼の望め 盧 僎
去国三巴遠 国を去って三巴遠く
登楼万里春 楼に登れば 万里春なり
傷心江上客 傷心 江上の客
不是故郷人 是れ故郷の人ならず
国を離れて 遠い三巴の地にやってきた
楼に登れば 見わたす限りの春景色
川岸に独り佇む旅人の 目にするものは見知らぬ人
故郷を離れた淋しさが 胸一杯に満ちてくる
官途の途中、巴地(四川省)に左遷されたことがあったらしく、三巴は後漢末に巴地が巴・巴東・巴西にわけられたので三巴と言うのであって、巴地と同じ意味です。詩題の「南楼」は巴地のどこかの町の城壁にあった南門の望楼で、そこからあたりを眺めたのでしょう。
「江上客」は作者自身のことで、楼から降りて川岸に佇んだのです。
路ゆく人は異郷の見知らぬ人ばかりでした。
秋 日 秋 日 耿 湋
返照入閭巷 返照閭巷 に入る
憂来誰共語 憂い来るも 誰と共にか語らん
古道少人行 古道 人の行くこと少 に
秋風動禾黍 秋風禾黍 を動かす
村里に 黄昏の光がさしこみ
胸の憂いを 誰に語ればよいのか
古びた道を ゆきかう人はまれで
秋風が禾黍 の畑を吹いていく
乱後、粛宗の宝応二年(七六三)に三十歳で進士に及第し、大理寺(行政実務機関)の司法から左拾遺(従八品上)に至ったとありますので、官途には恵まれなかったようです。
詩には安史の乱後の村里の寂れたようすがうかがわれます。
没年は不詳ですので、在官していなかったのでしょう。
題竹林寺 竹林寺に題す 朱 放
歳月人間促 歳月人間 に促し
烟霞此地多 烟霞 此の地に多し
殷勤竹林寺 慇懃にす 竹林寺
更得幾回過 更に幾回か過るを得ん
人の世を促し 歳月は移りゆくが
この地には ゆたかに霞が立ちこめる
竹林寺の佇むさまにひたりつつ
再訪の日は来るのかと 危ぶみながら歩み去る
当時、「竹林寺」と称する寺は輝県(河南省)、江陵(湖北省)、廬山(江西省)の三か所にあったといわれており、江西節度使の参謀を辞して去るときの作とすれば、廬山の竹林寺になる。