秋夜寄丘二十二員外  秋夜丘二十二員外に寄す 韋応物
懐君属秋夜      君を懐うは秋夜に属し
散歩詠涼天      散歩して涼天に詠ず
山空松子落      山空しゅうして松子(しょうし)落つ
幽人応未眠      幽人 (まさ)に未だ眠らざるべし
なつかしく 君を懐いつつ夜は更けて
秋風のなか そぞろ歩いて詩をつくる
山は閑かで 松かさがぽつりと落ち
世捨て人よ まだ眠らずに覚めているのか

 丘二十二(二十二は輩行)は韋応物の友人で、尚書省戸部員外郎(従六品上)を務めていましたが、辞職して臨平山(浙江省杭州市の北東)に隠棲していました。その丘二十二を思って送った詩ですが、転句(第三句)以下は相手を想像して詠っています。
 「山空」の山は臨平山、空は人がいなくて静かなことです。
 「幽人応未眠」は隠棲はしていても、国のことをいろいろと心配して眠れないでいることだろうと、同憂の愁いを述べたものと思います。


  登 楼         楼に登る  韋応物
茲楼日登眺     茲の楼 日に登り眺む
流歳暗蹉跎     流歳 暗に蹉跎たり
坐厭淮南守     坐して厭う淮南の守
秋山紅樹多     秋山 紅樹多し
高楼に登って 毎日あたりを眺める
来し方を懐えば おのずから悔やまれる
淮南の刺史となったが 嬉しくもなく
秋の山に 紅葉はみちている

 「蹉跎(さた)」はつまずく、時機を失するの意で、後悔することのみ多いという意味でしょう。「淮南守」は滁州刺史(じょしゅうしし)のことで、刺史になったが嫌なことばかり多くて、美しいのは秋の山の紅葉だけだと、自然の美しさに心を和ませるのです。


  聞 雁         雁を聞く  韋応物
故園眇何処     故園 眇として何処ぞ
帰思方悠哉     帰思 (まさ)に悠なる哉
淮南秋雨夜     淮南 秋雨の夜
高斎聞雁来     高斎 雁の来るを聞く
都の方は 漠として定かに見えず
帰心がつのって眠れない
淮南の夜に 秋雨が降り
楼上の部屋で 飛び来る雁の声を聞く

 韋応物の任地滁州は淮水の南の地(淮南)にあたりますので、刺史のときの作品と思われます。「故園」は生まれ故郷のことですが、韋応物は京兆長安県の生まれですので、都を意味します。
 都が「眇何処」というのはあり得ないことですので、地方勤務がながくて都の状況もわからなくなったという意味でしょう。
 都に帰りたくて眠れない。「悠哉」は『詩経』関雎の「悠哉悠哉 輾転反側」を踏まえており、心に悩みがあって眠れないことを意味します。
 眠れないでいる高楼の部屋で雁が飛んできたのを耳にしました。
 秋雨の降る秋の季節ですので、雁は北から南へ飛んでいったのです。
 雁はいつもの通り北からやってきたが、都からの便りはないという意味を含んでいる。

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