池上二絶 其一 池上 二絶 其の一 白居易

山僧対棊坐   山僧さんそうに対して坐す
局上竹陰清   局上きょくじょう 竹陰ちくいん清し
映竹無人見   竹に映えいじて人の見る無し
時聞下子声   時に聞く 子を下おろす声
山寺の僧 碁盤の前に坐し
盤上に 竹の葉かげは清らか
影の他に 見る人の姿はなく
ときどき 碁石を打つ音がする

 太和九年八三五の春、白居易の次女阿羅は二十歳になっていました。
 白居易は阿羅を監察御史従八品上の談弘謨だんこうぼに嫁がせました。
 阿羅は白居易の唯一の実子ですので、白居易の血は阿羅の生む子に受け継がれることになります。そのあと三月に白居易は渭村の下邽かけいを訪れ、その地で母親の喪に服していた又従兄弟の白敏中はくびんちゅうに会っています。
 白敏中は長慶元年八二一に進士に及第し、弟の白行簡が亡くなったいま、白敏中は一族の期待をになう星でした。春の終わりに洛陽にもどった白居易は、『白氏文集』六十巻の編集に取りかかります。「池上二絶」は文集をまとめるあいだの閑日月に成った小品ですが、佳作であると思います。


池上二絶 其二 池上 二絶 其の二 白居易

小娃撑小艇   小娃しょうあ 小艇しょうていを撑あやつ
偸採白蓮廻   偸ひそかに白蓮はくれんを採って廻かえ
不解蔵蹤跡   蹤跡しょうせきを蔵かくすを解せず
浮萍一道開   浮萍ふひょう 一道いちどう開く
村の小娘 小舟をあやつり
こっそり 白蓮を採ってゆく
航跡を 消しておく知恵がないので
浮草に ひとすじの道

 『白氏文集』六十巻は夏の終わりにはまとまり、一本を江州廬山の東林寺に納め、他見無用の保管を依頼しています。
 白居易は自分の詩が散逸せずに残ることを望んでいました。
 九月九日に白居易は同州陝西省大荔県刺史に任ぜられますが、病を理由に辞退しています。そこで改めて十月に太子少傅正二品分司東都に任ぜられ、馮翊県侯ふうよくけんこうを拝しました。爵位は侯爵に進んだのです。
 都では野心家の李訓が反宦官の計画を推し進めていました。
 李訓は文宗の本心が宦官勢力の排除にあることを知っていましたので、実行の志を打ち明けて文宗の信頼を取り付けます。
 太和八年十月に李訓は周易博士から翰林講学士に抜擢され、さらに太和九年には宰相に任ぜられました。

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