初入香山院対月    初めて香山院に入って月に対す 白居易

   老住香山初到夜  老いて香山こうざんに住せんとして初めて到る夜
   秋逢白月正円時  秋 白月はくげつの正まさに円まどかなる時に逢う
   従今便是家山月  今より便すなわち是れ家山かざんの月
   試問清光知不知  試みに問う 清光せいこう知るや知らずや
老いて香山に住もうと 初めてきた夜
白い秋の月が まるく輝いていた
今からこの月は わが家の月となる
清らかな月の光は そのことを知っているだろうか

 翌太和六年八三二に、白居易は元稹の遺族から元稹の墓碑銘を書いてほしいと頼まれ、喜んでそれに応じました。元稹の家族は銘文の謝礼を贈ろうとしますが、白居易は受け取ろうとしません。
 親友の墓碑銘を書くのは当然のことと思っていたのです。ところが元稹の家族は、どうしても受け取ってほしいと言って聞き入れません。
 そこで白居易はその金を香山寺に喜捨することにし、寺院の再建費用に充てることにしました。こうしたことから、白居易は香山寺の僧と親しく交わるようになりました。香山寺は龍門東山にあり、石窟のある西山とは伊水を隔てて向かい合っています。
 龍門東山は現在でも緑の美しいなだらかな丘で、白居易はこの地の風光を愛して、しばしば香山寺に通うようになりました。


   香山寺二絶 其一    香山寺 二絶 其の一 白居易

   空門寂静老夫間   空門くうもん 寂静せきせいにして 老夫間かんなり
   伴鳥随雲往復還   鳥に伴ともない雲に随って往き復た還る
   家醞満瓶書満架   家醞かうんは瓶へいに満ち 書は架に満つ
   半移生計入香山   半ばは生計を移して香山こうざんに入る
人けのない門はひっそりとして 老夫の心も静か
鳥を追い雲に随って 散歩する
手造りの酒は瓶に満ち 書物も書架に満ちている
生活の半ばを移して 香山寺に入る

 秋になると、白居易は香山寺に自室を設け、院内に住むことも考えるようになります。河南尹の職にありますので、生活のすべてを寺に移すことはできませんが、蔵書なども寺院に移し、別荘のようにしたようです。

目次