秋遊          秋遊 白居易

   下馬間行伊水頭  馬より下りて間行かんこうす 伊水いすいの頭ほとり
   涼風清景勝春遊  涼風 清景せいけい 春遊しゅんゆうに勝まさ
   何事古今詩句裏  何事ぞ 古今 詩句の裏うち
   不多説著洛陽秋  多く洛陽の秋を説著せっちゃくせざる
馬を下りて 伊水のほとりをぶらぶら歩く
涼しい風や清らかな陽は 春の遊びに勝る
どうしたことか 古今の詩句のなかで
洛陽の秋を詠うものが少ないのは

 中隠の生活といっても、それは政事的な立場を中心とする処世観であり、人生の不幸や別れの悲しみはつぎつぎに訪れてきます。友を喪い、つづいて愛児を失った白居易を慰めてくれるのは、気の合う友との詩の交換です。
 劉禹錫との交流は以前にまして頻繁になります。掲げた詩は劉禹錫に「秋思」という詩があって、それに応える作品と思われます。


     晩秋閑居        晩秋の閑居 白居易

   地僻門深少送迎   地は僻かたより 門は深くして送迎少まれなり
   披衣閑坐養幽情   衣を披て閑坐かんざし 幽情ゆうじょうを養う
   秋庭不掃携藤杖   秋庭しゅうていはらわず 藤杖とうじょうを携え
   閑蹋梧桐黄葉行   閑かんに梧桐ごとうの黄葉こうようを蹋みて行く
辺鄙なうえに奥まった家 訪れる客も稀だ
上着を着て静かにすわり 閑雅な心にひたる
秋の庭を掃くこともなく 藤の杖を手にして
ゆっくりと 桐の落ち葉を踏んでゆく

 悲しみの秋も、やがていつものように暮れてゆきます。
 庭の落ち葉を掃くこともせずに、孤独に堪えている白居易ですが、冬になって劉禹錫が蘇州刺史になって江南に行くことになりました。劉禹錫は赴任の途中、洛陽の白居易のもとに立ち寄って、酒を交えて歓談します。
 蘇州は白居易がかつて在任した地でもあり、話がはずんだことでしょう。

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