黄鸝巷のあたりでは 鶯が鳴きはじめ
烏鵲河のほとりでは 氷が融けかかる
東西南北 どちらをみても清らかな流れ
三百九十 紅欄の橋
つがいの鴛鴦は 羽根を並べてただよい
岸辺のやなぎは 無数の枝をさしかわす
お尋ねする 春風はいつから吹きはじめたのか
ほんの昨日から 今朝にかけて吹いたのです
年が明けて宝暦二年八二六、白居易は蘇州ではじめての春を迎えます。
詩題の「間行」かんこうは散歩をする意味で、正月三日の早春に街中で鶯の鳴く声を聞き、氷が融けかかっているのを目にします。白居易は蘇州の街中を歩きまわり、春の訪れが長安や洛陽と比べて早いのに驚くのでした。
春風はいつから吹きはじめたのかと尋ねると、蘇州では一夜の風で春は盛りになりますという答えがかえってきました。
半月のあいだ 悠然と揚州に遊び
いずれの塔 いずれの楼にもいっしょに登る
お互いにまだ 筋力のあるのを喜び合って
ついに棲霊塔の九階まで登ったのだ
元気にはじまった五十五歳の春でしたが、春が深まると白居易は啖と咳に苦しむようになり、一か月ほど病臥しました。
二月の末には落馬して足に怪我をし、また数年前からすこしずつ悪くなっていた目の疾も治癒しません。
七月になると白居易は病を理由に蘇州刺史の辞任を申し出ました。
辞任の願いは八月の終わりに認められ、九月には蘇州を去ります。
一年と四か月の在任で、しかも病気がちだったので、その間まともな勤務はできませんでした。蘇州から運河を北上して揚州に着いたときは、すでに冬になっていました。白居易は揚州で劉禹錫と会います。
白居易が蘇州に来たとき、劉禹錫は和州安徽省和県刺史に在任中で、親しく文通する仲になっていました。
劉禹錫も同じ時期に和州の任期が満ちて長安にもどることになっていましたので、二人は揚州で落ち合う約束をしていました。
二人は揚州で十五日間を過ごし、詩酒を共にして文学を論じます。
また揚州の寺院楼閣を見物して歩き、詩を作りました。
詩題の「夢得」ぼうとくは劉禹錫の字あざなです。
詩中の「広陵」は揚州の古名であり、「棲霊塔」せいれいとうは揚州の西北壁外にあった大明寺の塔で、多くの文人が訪れている著名な場所でした。
白居易は老齢の二人が九層まで登れたことを喜んでいます。