贈除中書望終南山歌 除中書に贈る 終南山を望む歌 王 維
晩下兮紫微     晩くれに紫微しびを下くだ
悵塵事兮多違   塵事じんじ 多く違たがうことを悵うら
駐馬兮双樹     馬を双樹そうじゅに駐とど
望青山兮不帰   青山せいざんを望んで帰らず
暮れ方に中書省を退出したが
世俗のことは 多くが気に入らず落胆する
沙羅双樹のあたりに馬をとめ
青い山を眺めていたが 行かなかった

 この詩は同僚とみられる除中書舎人に贈る作品ですが、五言と六言が混在し、即興の詩であると思われます。
 しかも「兮」けいを各句に用いて楚辞風にしているのは、公職の身をはばかる何かがあるからと思われます。終南山の別業がどこにあったか正確には分かりませんが、長安城外、南郊にあったはずです。
 王維は南門を出てゆこうかどうしようかと迷いますが、結局は行かずに城内の官舎にもどったことになります。「馬を双樹に駐め」とありますが、「双樹」は二本の木ではないでしょう。ここでは「沙羅双樹(さらそうじゅ)」が意識されており、仏教への関心が暗示されていると思います。


  送 別       送 別     王 維
下馬飲君酒   馬を下りて君に酒を飲ましむ
問君何所之   君に問う 何いずくにか之く所ぞ
君言不得意   君は言う 意を得ず
帰臥南山陲   帰り臥す 南山の陲ほとり
但去莫復問   但だ去れ 復た問う莫なか
白雲無尽時   白雲は尽きる時無し
馬を下りて 君に酒を飲ませよう
お尋ねするが 君は何処に行くのかね
君は答える 面白くもないので
南山のほとりに ひっこもうかと
では行きなされ 二度と尋ねたりなされるな
白雲は 尽きることなく立ち昇っている

 題は「送別」となっていますが、この詩は誰かを送る詩ではなく、みずからの心境を語る自問自答の架空の送別詩と思われます。
 五言六句の詩で外に出すような作品ではありません。
 詩中に「南山」の語が出てきますが、終南山の省略であると同時に陶淵明の南山でもあります。
 王維は隠退して終南山の別業にひきこもるかどうか迷っており、行くなら行け、二度ともどっては来れないぞと決めかねているのです。
 最後にぽつんと、「白雲は尽きる時無し」と言っているところが、王維らしくて好ましいと思います。

目次へ