林あまり ・ あなたの上にわたしのからだを乗せたまま すこし眠るということの蜜
・ うしろからじりじり入ってくる物の 正体不明の感覚たのしむ ・ 花また花 夜の小川に流れゆき 声をたてずに交わりしことも ・ とびだしてくる声の不思議は水鳥の 類かあとからおもうひとつに ・ 手をひきて蛍みせれば高すぎる その背をまげてお七とおなじ背 ・ 唇を幹にはわせて息ひそめ かんざし打ち込む夜桜お七 ・ 産むあてのない娘の名まで決めている 狂いはじめは覚えておこう ・ あなたに重なりゆらゆら体を揺らしている どうしてこんなにやすらげるのか
・ そのひとと眠ったベッドに横たわり むすんでひらいてしてみる手のひら
・ いま咲くと言ってから咲く営みの 声のすこしの嘘なつかしく ・ まず性器に手を伸ばされて悲しみが ひときわ濃くなる秋の夕暮れ
・ 部屋に着くなり脱ぎ出す男というものに なにか違ってしまったような
・ 立て膝をゆっくり割ってくちづける あなたをいつか産んだ気がする
・ 満たされたからだは重たいプールから 上がる水着の吸った水ほど ・ 気がつけば岸に打ち寄せられていて 横にはあなたも倒れている ・ クリスマスイブに精液はじける国 汚れた雪にまみれて祈る ・ 無意識にのりこえられたらしい悲しみが つながるたびに押し寄せてくる
・ 細く長い氷で乳房を貫かれ――、 夢より覚めて 腑に落ちている ・ たっぷりとかまわれた夜はあなたから 花束が届く夢などもみる ・ くちびるでくちびるつつむはじめから 成立しない誓はたてず ・ 会える日は化粧を落とす頬と頬 へだてるものはなにもいらない ・ 衿のレースをいじるあなたが花びらを めくってくれる夜まで ・ あなたの上にからだを落とすほとんどの 重荷は下ろしてしまった気がする
・ 灯を消して二人抱くときわが手もて 握るたまくき太く逞し ・ くちびるにうつるぬくもり膨らんだ あなたの口に含む花冷え ・ 入れた瞬間ああと深い息を吐く このひとを包む羽などなくて |