人を恋うる歌
与謝野鉄幹 詞
妻をめとらば才たけて みめ美わしく情ある友を選ばば書を読みて 六分の侠気四分の熱 恋の命をたずぬれば 名を惜しむかな男ゆえ 汲めや美酒うたひめに 乙女の知らぬ意気地あり ああわれダンテの奇才なく バイロンハイネの熱なきも 人やわらわん業平が 小野の山ざと雪をわけ 見よ西北にバルカンの それにも似たる国のさま 妻子を忘れ家を捨て 義のため恥を忍ぶとや 玉をかざれる大官は みな北道の訛音あり 四度玄海の波を越え 韓の都に来てみれば ああわれ如何にふところの 剣は鳴りをひそむとも わが歌声の高ければ 酒に狂うと人のいう あやまらずやは真ごころを 君が詩いたくあらわなる おのずからなる天地を 恋うるなさけは洩らすとも 口をひらけば嫉みあり 筆を握れば譏りあり おなじ憂いの世に住めば 千里のそらも一つ家 はるばる寄せしますらおの うれしき文を袖にして |