風と笛 白秋

  光堂

  法隆寺

 夢殿の
 石段に、石段に、
 すみれが咲いてをりました、
 をりました。
 
 花の盛りの
 法隆寺、法隆寺、
 霞がかけてをりました、
 をりました。
 
 ことりことりと
 誰やらが、誰やらが、
 陰を歩いてをりました、
 をりました。
 
 春の日向の
 法隆寺、法隆寺、
 門が開いてありました、
 ありました。

   鴬張り

 春が来ました、智恩院、
 ホウ、ホホ、ホケキヨウ、
 キヨ、キヨ、キヨキヨキヨ。
 
 ここは日向のおえんがは、
 ホウ、ホホ、ホケキヨ、
 キヨ、キヨ、キヨキヨキヨ。
 
 あれよ、鳴きます、鶯が。
 いいえ、おききよ、この音を。
 ホウ、ホホ、ホケキヨウ、
 キヨ、キヨ、キヨキヨキヨ。
 
 ここは板ばり、おえんがは、
 ホウ、ホホ、ホケキヨウ、
 キヨ、キヨ、キヨキヨキヨ。
 
 ほうれ、鳴りましよ、あるきましよ。
 ホウ、ホホ、ホケキヨウ、
 キヨ、キヨ、キヨキヨキヨ。
 
 なんていい音のおえんがは、
 ホウ、ホホ、ホケキヨウ、
 キヨ、キヨ、キヨキヨキヨ。
 
 花に霞もかかります。
 ホウ、ホホ、ホケキヨウ、
 キヨ、キヨ、キヨキヨキヨ。

  水車船

 お船のおうち、
 水ぐるま、
 かたりことりと
 なにを搗く。
 
 搗くはくろ米、
 美濃の米、
 水に水だま、
 まはつてく。
 
 まはれ、お船の
 水ぐるま、
 右とひだりの
 四つぐるま。
 
 けふはこの岸、
 あすは下、
 ながれながれの
 瀬について。
 
 夏の木曾川、
 おもしろい、
 お船の両わき、
 水ぐるま。

  東大寺

 一つ、釣鐘、
 ごうんと撞きつや、
 撞いた坊さん
 ゐやはらぬ。
 
 二つ、釣鐘、
 ごうんと撞きつや、
 撞いた坊さん
 ゐやはらぬ。
 
 三つ、釣鐘、
 ごうんと撞きつや、
 撞いた坊さん
 ゐやはらぬ。
 
 こはい釣鐘、
 東大寺、
 誰もゐやへん、
 昼日なか。
 
 鐘がひとりで
 鳴るんやな。
 風に撞木が
 鳴るんやな。

  猿沢の池

 猿沢の池のやなぎに
 日がさした、冬の朝日が。
  とつとつと、
  とつとつと、
 さむさうね、あの鹿、
 こちらへと来てるよ。
 
 猿沢の池の向かふに
 日があたる、寺の築地に。
  とつとつと、
  とつとつと、
 さむさうね、あの鹿、
 遠くから見てるよ。
 
 猿沢の池のまはりに
 日があがる、露の朝日が。
  とつとつと、
  とつとつと、
 さむさうね、あの鹿、
 鹿の子も走るよ。

  唐寺

 ここはなあ、唐寺や、
 唐招提寺言やはりまん。
 
 寒い日どすえな、
 扉が閉つてありまつしやろ。
 
 御像がなあ、あんさん
 鑑真さまがな、
 
 お眼々をつむつてなあ、かうして。
 松風どす。
 
 お見えになりやへんしな、
 聴いてばかしいやはりましたぞな。
 
 ちやうど通りかかつてな、
 母さんがさう云やはりました。
 
 門前の、なあ、養魚池には氷が張つて、
 赤い金魚ひとつ見えやはりません。

  光堂

 夏はみちのく、
 光堂。
 
 雨のはれまになく啼く鳥は
 『日、月、星。』
 
 光堂なら金色堂、
 日、月、星なら三光鳥。
 
 金色堂には何がある。
 黄金づくめの軒、垂木、
 見る眼まぶしい仏さま。
 
 何がさびしい金色堂、
 朝は朝日に照らされて、
 夕は夕日に照らされて。
 
 杉の木立にかこまれた
 小さい鞘堂、光堂。
 
 雨のはれまに啼く鳥は、
 『日、月、星。』
 日、月、星なら三光鳥。

  野の宮

  鳥追ひ

 ほういほういのほうじやり棒、
 さつさ追ひましよ、子持鳥、
 松笠ぱちぱち燃してやれ。
    ほういほうい。
 
 葭原雀は葭の中、
 さつさ追ひ越せ、へら鷺を、
 夜明の明星もちろめいた。
    ほういほうい。
 
 雉子のめん鳥、霜夜鳥、
 さつさ追ひ出せ、柴鳥も、
 それでも立たなきやおん婆よべ。
    ほういほうい。
 
 向ふ洲の崎、鳥ゐぬか、
 さつさ追へぬか、萱無いか、
 牛でも馬でもぞろ引いて来い。
    ほういほうい。
 
 こちの苗代、八つ畷、
 さつさ追へ追へ、立ち鳥を、
 えいや、田の神の鳥追ひだ。
    ほういほうい。
 
 ほういほういのほうじやり棒、
 さつさ追ひましよ、田ん鳥を、
 千羽も万羽も立ち上がれ。
    ほういほうい。

  野の宮

 春の田に、春の田のお宮に、
 のぼりが立つ、笹をつけたのぼりが。
 
 ころろころ、ころろころ、のどかに、
 田螺が啼く、芹の下の田螺が。
 
 鷺の子が鷺の子が、ふはりよ、
 はぐれて来る、沼の靄をはぐれて。
 
 吹けよ、笛、吹けよ、笛、子どもよ、
 祭は明日、明日は祭、朝から。

  春の田

 春の田の、田の、
 げんげ田のうらで、
 けろつき、くくく、と、
 かはづが鳴いた。
 
 ――廸子さあん、
 ――篁子さあん、
 ――りえ子ちやあん、
 早うおいでと
 かはづが鳴いた。
 
 春の田の、田の、
 げんげ田へ出たら、
 鶩、鶏、
 野鴨も出てる。
 
 ――廸子さあん、
 ――篁子さあん、
 ――りえ子ちやあん、
 もつと遠くよ、
 かはづが鳴いた。
 
 春の田の、田の、
 げんげ田の上で、
 けろつき、くくく、と、
 かはづが鳴いた。
 
 ――廸子さあん、
 ――篁子さあん、
 ――りえ子ちやあん、
 紅い霞で、
 かはづが鳴いた。

  いたち

 あかい手拭、
 あねさまかぶり、
 鼬見つけた、
  ちらりと見えた。
 
 蓬、菜の花、
 横路、小路、
 鼬かくれた、
  ちらりときえた。
 
 子供、この路、
 横ゆく鼬、
 手ん手はなすな、
 ひとりは恐い。

  おひる

 誰か乗つてる
 てふてふの翅に、
 そして飛んでる
 日の照る方へ。
 
 誰か乗つてる
 てふてふの翅に、
 そして息して
 揺れ揺れしてる。
 
 誰か乗つてる
 てふてふの翅に、
 そして何やら
 光つて見える。
 
 誰か乗つてる
 てふてふの翅に、
 そして野山に
 霞がかかる。

  わにぐち

 わにぐち、
 ぐわららん、
 また夜が明けた。
 わにぐち、わんぐり、
 大きなお口。
 
 わにぐち、
 ぐわららん、
 霞がかかる。
 昼間のお宮よ、
 さびしいお山。
 
 わにぐち、
 ぐわららん、
 むすびの玉は、
 ねぢりのだんだら、
 だらりと長い。
 
 わにぐち、
 ぐわららん、
 ほい来た、誰か。
 時をり、ぐわららん、
 気長よ、日永。
 
 わにぐち、
 ぐわららん、
 また日が暮れる。
 ペロリと、舌でも、
 出しそなお口。

  とんすつ

 春の川瀬の水ぐるま、
 まはれまはれよ、とんかたり、
 けふの日永の日ぐらしを、
 春は、とんすつ、小舎のなか。
    とんすつ、とんかた、すつとんとん、
    かかれ、水だま、米の粉。
 
 うらの川瀬の水ぐるま、
 やまずめぐれよ、とんかたり、
 いつもおうちの窓越しに、
 鳴くは雑木のじようびたき。
    とんすつ、とんかた、すつとんとん、
    かかれ、水だま、米の粉。
 
 里の川瀬の水ぐるま、
 のどかのどかよ、とんかたり、
 遠い野道を行く,バスも
 ゆれて、菜の花、もうさかり。
    とんすつ、とんかた、すつとんとん、
    かかれ、水だま、米の粉。
 
 春の川瀬の水ぐるま、
 まはれまはれよ、とんかたり、
 あかい夕日に、月の出に、
 杵は、とんすつ、小舎のなか。
    とんすつ、とんかた、すつとんとん、
    かかれ、水だま、米の粉。

  花まつりの歌

 花まつり、花をあつめて、
 ささげましよ、春の草ばな。
   仏さま、
   ちさい赤さま、お釈迦さま、
 花がおつむににほひましよ。
 
 花まつり、甘茶ぬくめて、
 そそぎましよ、お湯の甘茶を。
   仏さま、
   おめめのどかなお釈迦さま、
 空がお手々ににほひましよ。
 
 花まつり、子供あつめて、
 うたひましよ、花をふらして、
   仏さま、
   けふは子供のお釈迦さま、
 声が遠くににほひましよ。
 
 花まつり、花をあつめて、
 ささげましよ、けふの草ばな。
   仏さま、
   四月八日のお釈迦さま、
 花がまはりににほひましよ。

  ころころ蛙    父の詩
 
 鳴いてる、
 ほら、
 ころころころ、
 あ、蛙だ、
 初蛙だよ、ね。
 
 そつとおきき、そつと、
 ほら、
 遠く水田で
 ころ、
 ころころころ。
 
 雨はあがつたやうだな、
 霧の雨だつたが、
 馬頭観音の
 あの石のあたりで、
 草つぽいにほひもする。
 
 もう春だな、
 春の夜だな、
 月がおぼろにくもつて、
 ほら、
 蛙が鳴く、蛙が鳴く。

  かはづの鳴く音

 かはづの鳴く音は
 波のよだ。
 遠くの遠くに
 ひびいてる。
 
 かはづの鳴く音は
 波のよだ。
 近くの近くに
 寄せて来る。
 
 かはづの鳴く音は、
 波のよだ。
 田圃の田圃を
 揺れて来る。
 
 かはづの鳴く音は
 波のよだ。
 枕に枕に
 寄せて来る。

  かへる

 くく、くく、くく、きよつ、
 くく、くく、くく、きよつ、
 草がもえる、田のくさ、
 草をとれ、田のくさ。
 
 くく、くく、くく、きよつ、
 くく、くく、くく、きよつ、
 水がゆれる、田のみづ、
 水よ泥、田のみづ。
 
 くく、くく、くく、きよつ、
 くく、くく、くく、きよつ、
 星がひかる、夜空に、
 星を見ろ、あの星。
 
 くく、くく、くく、きよつ、
 くく、くく、くく、きよつ、
 眼々がいたい、ねむいよ、
 眼々よねろ、ねむいよ。
 
 くく、くく、くく、きよつ、
 くく、くく、くく、きよつ、
 くくく、くくく、くく、くく、
 くくく、くくく、くく、くく。

  田植ゑ

 田うゑ、田うゑ、
 田うゑしら鷺、
 ひよこりしら鷺、
 田うゑ、田うゑ。
 
 水田、水田、
 水田苗代、
 畦の苗代、
 水田、水田。
 
 こども、こども、
 こども菅笠、
 まろい菅笠、
 こども、こども。
 
 田うゑ、田うゑ、
 田うゑしら鷺、
 子らよしら鷺、
 田うゑ、田うゑ。
 
 おひる、おひる、
 おひるおむすび、
 あがれおむすび、
 おひる、おひる。

  お馬の湯

 ゆくら、ゆつくら、
 お馬の湯、
 お湯はたんぼの稲のなか、
 お馬首出せ、によつぽりと、
    よいながめだなあ、とね。
 
 ゆくら、ゆつくら、
 お馬の湯、
 ざぶらん、ざぶらん、波のおと、
 海が見えましよ、きらきらと、
    よいながめだなあ、とね。
 
 ゆくら、ゆつくら、
 お馬の湯、
 湯気がたちます、しろい湯気、
 湯気よ、お昼の雲になれ。
    よいながめだなあ、とね。

  笛が鳴る

  つむぎ車

 つむぎぐるまでなにつむぐ、
 ぶうんぶうんと綿つむぐ。
 
 つむぎぐるまのお婆さま、
 日がな日ぐらし鳴らしてた。
 
 つむぎぐるまの鳴るそばに、
 いつもあの子は見てました。
 
 つむぎぐるまの綿ぼこり、
 どこへあの子は行たのやら。
 
 つむぎぐるまのお婆さま、
 山へ行たよと言ひました。
 
 つむぎぐるまの輪の音も、
 遠いむかしになりました。
 
 つむぎぐるまの綿ぼこり、
 山へ行た子がなつかしい。

  草餅

 武州御嶽の のぼりくち、
 村は払沢、桃日和。
   お爺さんとお婆さんが臼に杵、
   ぽつたらこよぽつたらこと廻つてる。
 
 ここは往還、道の端、
 吹くなつむじよ、ほこり風。
   お爺さんとお婆さんが臼に杵、
   ぽつたらこよぽつたらこと廻つてる。
 
 搗くは草もち、蓬もち、
 明日は山家のひなまつり。
   お爺さんとお婆さんが臼に杵、
   ぽつたらこよぽつたらこと廻つてる。
 
 湯気が立つ立つ、道の端、
 孫子でてこい、お日が照る。
   お爺さんとお婆さんが臼に杵、
   ぽつたらこよぽつたらこと廻つてる。

  ととんとん

 水ぐるままはる樋口は、
   ととんとん、
 萩がさかりよ。
 水ぐるままはるお家は、
   ととんとん、
 麦粉ひいてる。
 
 水ぐるままはれ、まはれよ、
   ととんとん、
 山にひびけよ。
 
 水ぐるままはるお里は、
   ととんとん、
 水がおほいよ。

  七夕さま

 七月の七日は。
  あい。
 七夕さまのおまつり。
 
 朝露をとろぞな。
  あい。
 芋の葉がよろしな。
 
 その露を硯に。
  あい。
 うけて、ころと、おとして。
 
 そして、墨を磨つてな。
  あい。
 ほれな、これが色紙。
 
 なにか歌、かくとよろしな。
  あい。
 笹にさげてあげよな。
 
 七夕は今夜な。
  あい。
 あかりをつけてあげよな。

  祭の前

 笛が鳴る、
 きけよ、月夜の笛が鳴る。
 あれは祭の前しらべ、
 前しらべ、
 黍と蓮田の涼風が
 何かそよそよにほはせる。
 
 灯が揺れる、
 行こよ、お宮の灯が揺れる、
 あれは祭の前あかり、
 前あかり、
 風に野鴨のよいこゑも
 明日の幸福呼びかける。

  祭のあと

 独楽をまはそか、五色独楽、
 きのふ、祭もをへました。
 
 独楽をまはそか、五色独楽、
 笛や太鼓もやみました。
 
 独楽をまはそか、五色独楽、
 百舌が啼きます、渋柿に。
 
 独楽をまはそか、五色独楽、
 風も出ました、高黍に。
 
 独楽をまはそか、五色独楽、
 けふはお留守居、もうお午。
 
 独楽をまはそか、五色独楽。
 秋の祭もをへました。

  まんどん

 まんどん、まんどん、
 三社祭のまんどん。
 
 まんどんの夜空を、
 白鷺がわたつた。
 
 誰が云つた、まんどん、
 お月さまが云つたよ。
 
 お月さま知らなんだよ、
 うちの姉さま見てたよ。
 
 ほそい肩した姉さま、
 白鷺が飛んだと。
 
 まんどん、まんどん、
 まんどんがとほるよ。

  朝顔、昼顔、夕顔

 朝顔や、あさがほ、
 お納戸いろの朝顔、
 朝咲いて
 すぼんで、
 ほうら、朝咲いて、
 すぼんで、
   またあした、ぽん/\。
 
 昼顔や、ひるがほ、
 うすももいろの昼顔、
 昼咲いて
 よぢれて、
 ほうら、昼咲いて、
 よぢれて、
   またあした、ぽん/\。
 
 夕顔や、ゆふがほ、
 大きな白い夕顔、
 夜咲いて
 しぼんで、
 ほうら、夜咲いて、
 しぼんで、
   またあした、ぽん/\。

  かんぺう

 かんぺう、かんぺう、
 かんぺう干してる。
   あの空、この空、
   かんぺうはしろいよ。
 
 かんぺう、かんぺう、
 かんぺう干してる。
   あの紐、この紐、
   かんぺうは長いよ。
 
 かんぺう、かんぺう、
 かんぺう干してる。
   さらさら、さらりと、
   かんぺうはゆれるよ。
 
 かんぺう、かんぺう、
 かんぺう干してる。
   誰だか、誰だか、
   かんぺうをくぐるよ。
 
 かんぺう、かんぺう、
 かんぺう干してる。
   馬車から、馬車から、
   かんぺうが見えるよ。
 
 かんぺう、かんぺう、
 かんぺう干してる。
   お父やん、お母やん、
   かんぺうはしろいよ。

  笛がなる

 笛が鳴る、あの笛は
 裏ん子が手づくり、
 ヤンレ、裏ん子が手づくり。
 
 笛が鳴る、あの笛は
 ぴよろへうと鳴る笛、
 ヤンレ、ぴよろへうと鳴る笛。
 
 笛が鳴る、あの笛は
 月の夜のなぐさみ。
 ヤンレ、月の夜のなぐさみ。
 
 笛が鳴る、あの笛は
 露にふく、夜露に。
 ヤンレ、露にふく、夜露に。
 
 笛が鳴る、あの笛は
 えごの木のかげから、
 ヤンレ、えごの木のかげから。

  瓢箪

 へうたん、
 へうたん、
 花咲け、へうたん。
   あらへう、ふらへう。
 
 へうたん、
 へうたん、
 棚からへうたん。
   あらへう、ふらへう。
 
 へうたん、
 へうたん、
 千成れ、へうたん。
   あらへう、ふらへう。
 
 へうたん、
 へうたん、
 ゆれ、ゆれ、へうたん。
   あらへう、ふらへう。
 
 へうたん、
 へうたん、
 月夜にへうたん。
   あらへう、ふらへう。

  左義長

 どんどや、左義長、
 ぼうぼうの山で、
 燃せ燃せ、どんど。
 
 どんどや、左義長、
 山ん坊の風に、
 燃せ燃せ、どんど。
 
 どんどや、左義長、
 囃せや子供、
 燃せ燃せ、どんど。
 
 どんどや、左義長、
 しやつぎりこつぎり練れや、
 燃せ燃せ、どんど。
 
 どんどや、左義長、
 斎の神の勧進だ、
 燃せ燃せ、どんど。
 
 どんどや、左義長、
 注連縄、松、小笹、
 燃せ燃せ、どんど。
 
 どんどや、左義長、
 今年の餅やうまいな、
 燃せ燃せ、どんど。
 
 どんどや、左義長、
 子供は風の子、
 燃せ燃せ、どんど。
 
 どんどや、左義長、
 爺さん婆さん火の子、
 燃せ燃せ、どんど。
 
 どんどや、左義長、
 山行け、子供、
 燃せ燃せ、どんど。
 
 どんどや、左義長、
 裏ん町も呼ばへ、
 燃せ燃せ、どんど。
 
 どんどや、左義長、
 早や夜が明ける、
 燃せ燃せ、どんど。
 
 どんどや、左義長、
 ぼうぼうの山で、
 燃せ燃せ、どんど。

  朝だ朝

  朝だ朝

 風がふく。
   風は川もやふきたてる。
 
 月だ、ほら、
   月は大きなしろい毬。
 
 窓があく。
   窓は子供があけてゐる。
 
 木がうごく。
   木には燕がなきたてる。
 
 舟が出る。
   舟は早舟、旗が立つ。
 
 朝だ、朝、
   朝はすずしい音ばかり。

  月に開いた

 月に開いたあの窓は
 屋根裏の窓、
 小さい顔、
 うすい硝子も光ります。
 
 月に開いたあの窓に
 ひとつ出てゐる
 しろい顔、
 あれは子供よ、きつとさう。
 
 月に開いたあの窓の
 中は暗いか、
 つめたいか、
 遠い筋雲見てゐます。
 
 月に開いたあの窓よ、
 なにか声して、
 母さんと、
 月に呼んでる気がします。
 
 月に開いたあの窓も、
 いまに閉めましよ、
 夜もふけよ、
 あをい狭霧がかけてます。

  茶の芽どき

 月がぼんやり出てゐます。
 ニヤオと何かが啼きました。
 
 あれはラジオの研究所、
 塔が見えます、鉄の塔。
 
 埃立て立て、自動車の
 青い光もはしります。
 
 お茶の垣根の若芽どき、
 露がおりててよいにほひ。
 
 ほうら、お帰り、お父さん、
 靴がことこと鳴つてます。

  風に眼がある

 風に眼がある、
 ちらちら光る。
 
 あれは椎の葉、
 ちらちら光る。
 
 いくつ眼がある、
 日和の風に。
 
 かぞへきれない、
 ちらちら光る。
 
 まるで、さかなの
 うろこのやうに。
 
 とても眼がある、
 ちらちら光る。

  風は

 風は近道はしります。
 竹はわか葉になりました。
 
 風は近道はしります。
 馬鈴薯の花、蝶のよだ。
 
 風は近道はしります。
 麦の刈りあと、黍が出る。
 
 風は近道はしります。
 ボール投げ投げ、はしります。

  草堤

 あをい月夜の草堤、
 誰か来てます、小さい影。
 
 影は二人よ、草堤、
 靄が立ちます、早稲岡穂。
 
 姉か弟か、草堤、
 なにかおつかひ、宵の土手。
 
 月に狭雰の草堤、
 とうに祭も過ぎたのか。
 
 あれは無線よ、草堤、
 眼にも消えそな鉄の塔。
 
 虫の音ばかり、草堤、
 虫の音ばかり、きりぎりす。

  むぐつちよ

 ここは潮来の十二橋、
  十二橋、
 水にむぐつちよが
 およいでる。およいでる。
 
 かはいむぐつちよ、川のなか、
  川のなか、
 およぎつめては
 またもどる。またもどる。
 
 なんでもどるぞ、むぐつちよよ、
  むぐつちよよ、
 あかいつけひも、
 橋の杭、橋の杭。
 
 およぎつめては、またもどり、
  またもどり、
 つぶり、むぐつては、
 ほら、ういた。ほら、ういた。

 

 霧は朝霧、
 ぽつりと、ひとり。
 山は深いよ、
 落葉松原よ。
 
 霧は朝霧、
 ぽつりと、来てる。
 影はくろいよ、
 湖水のそばよ。
 
 霧は朝霧、
 ぽつりだ、ぽつり。
 熊の皮きて、
 あるいて来るよ。
 
 霧は朝霧、
 ぽつりと、ひとり。
 ほうい、爺つあん、
 お早うがんす。

  鴨と猟師

 鴨がゐたゐた、
 印旛の沼に、
 鴨は葦鴨、
 お月見してる。
 
 人が来た来た、
 楊の堤を、
 影はのつぽで、
 けそけそしてる。
 
 鴨はのし首、
 ほほんとしてる。
 そこで、一発、
 づどんとはなす。
 
 なにがづどんだ、
 月見のじやまだ。
 闇の晩にでも、
 づどんとおいで。

  鴎の卵

 1
 鴎が卵うんだと、
 砂に卵うめたと。
 
 浜ゑんどうの蔭だと、
 砂もりかけて去つたと。
  ほいさうか、鴎の
  足あと砂についてる。
 2
 月夜の月夜の鴎は
 見えても影の遠いと。
 
 さざなみ千里に凪いでも
 鴎の卵は寒いと。
  ほいさうか、月夜は
  見えても、とても遠いか。
 3
 鴎の卵かへると、
 誰かそつと聴いたと。
 
 卵が砂をはじくと、
 光が内から揺れると。
  ほいさうか、月夜の
  鴎の卵が鳴いてる。

  池辺の鶴

  朝のお月さん

  朝のお月さん
 
 ほろんとしてる。
 白いお皿だ、
 ほろんとしてる。
 
 下の港も
 ほろんとしてる。
 船の出たあと
 ほろんとしてる。
 
 上の学校も
 ほろんとしてる。
 けふはおやすみ
 ほろんとしてる。
 
 ひなたひなたが
 ほろんとしてる。
 啼いた雄鶏
 ほろんとしてる。

  さより

 サヨリはうすい、
 サヨリはほそい。
 ぎんのうを、サヨリ、
 きらりとひかれ。
 
 つきのよのかはに
 だれだれでてる。
 さざなみ、こなみ。
 ちらりとひかれ。
 
 サヨリのうちは
 まみづか、しほか、
 つめたいサヨリ、
 みづのたまはけよ。
 
 サヨリはうすい、
 サヨリはほそい。
 ぎんのうを、サヨリ、
 おねえさまににてる。

  お皿

 お皿を洗はう。
  一皿、
  二皿、
  三皿、
  四皿。
 
 お皿を積んだ。
 一皿、二皿、三皿、四皿。
 
 お皿のうへを飛び越す魚、
  一匹、
  二匹、
  三匹、
  四匹。
 
 笊から出て、ぽい、
 笊から出て、ぽい、
 ぽいぽい飛んだ。
 
 お皿に描いた子供が見てる、
 パツチリお眼々
 ぽいと来りや、つぶる。
 
 パツチリコの、ぽいぽい、
 パツチリコの、ぽいぽい。

  東へ行けば

 東へ行けば
 早や夜があける、
 ラランとあける。
 牡丹のやうに
 ラランとあける。
 
 西行く子ども
 すぐ日が暮れる、
 チロリと暮れる。
 茅花のやうに
 チロリと暮れる。
 
 北へと行けば
 北斗が光る、
 チカチカ光る。
 杓子のやうに
 チカチカ光る。
 
 南へ行けよ、
 綿雲出てる、
 ポカリと出てる。
 海豚のやうに、
 ポカリと出てる。

  月夜にも

 月夜にも、
 月夜にも、
 誰かあげます、白い凧、
  ひようと空からうなります。
 
 月夜にも、
 月夜にも、
 風が見えます、うろこ雲、
  道がつぎつぎひらけます。
 
 月夜にも、
 月夜にも、
 森が揺れます、昼のよに、
  若葉なんぞもにほひます。
 
 月夜にも、
 月夜にも、
 馬が来てます、白い人、
  たたつたつたと来てゐます。

  秋の野

 あの子がゆくよ、
 見たよな、あの子。
 おんなじ道を、
 おんなじ方へ。
 
 誰だろ、あの子、
 ちひさなあの子。
 わたしの前を、
 わたしのやうに。
 
 あの子がゆくよ。
 髪の毛がひかる、
 野の道、径、
 もう日は暮れる。
 
 はぐれな、あの子、
 見たよなあの子、
 お月さま出たに、
 ほういと呼ぼよ。

 

 からかんと、からかんと、
 からかんとうつたよ。
 秋のひなたの
 あかるい谷で。
 
 からかんと、からかんと、
 向うでうつたよ。
 山にひびいて、
 からかんとうつたよ。
 
 からかんと、からかんと、
 からかんとうつたよ。
 ひとがふたりで
 かなづちをふつたよ。
 
 からかんと、からかんと、
 からかんとうつたよ。
 空のお日さま、
 からかんとうつたよ。

  池辺の鶴

 風があるのか、
 かすかな風が、
 鶴はくちばしあげあげ見てる。
 
 空は薄墨、
 何かの枝の、
 雪が舞つてる、羽虫の雪が。
 
 鶴はこちらの
 汀に一羽、
 池にその羽根しらしら映る。
 
 雪は粉雪、
 ふるかと見れば、
 水につぎつぎ吸はれてしまふ。
 
 りようと啼きます
 向ふの鶴が、
 あかいお頭がここから見える。

 

 「お早う。」「ようおいで。」
 「ゐますか、鶴が。」
 「ゐますよ、うらに。」
 
 「一羽なの。」
 「いいえ、しろいのが二羽よ、
 お池のふちに。」
 
 「なんといふ鶴よ。」
 「丹頂の鶴よ、
 おつむりあかい。」
 
 「画にかいたとほり。」
 「そりやよい羽根よ、くろい尾羽さげて。」
 
 「その脚やほそい。」
 「とてもとても長い、
 しやつくんしやつくんあるく。」
 
 「見にいつていいの。」
 「よいとも、おいで、咲いてる、梅も。」
 
 「その鶴啼くの。」
 「お空を見ては、くわうくわうと啼くよ。」

  鷭の声

  雁風呂

 雁風呂よ、
 雁風呂、
 ここは浜の
 波ぎは。
 
 もそよ、もそよ、
 雁風呂、
 これは供養の
 雁風呂。
 
 おはひりなされ、
 雁風呂、
 旅の衆や、
 お子さま。
 
 わいた、わいた、
 雁風呂、
 雁が落した
 もし木で。
 
 よいな、月夜は
 雁風呂、
 しろい湯気立つ
 この風呂。


 雁は渡り鳥です。雁が遠く遠く海を渡る時に小さな木ぎれを一つづつ啣へて来て、疲れるとそれを波に浮べて休みます。
 いよいよ、これから陸地つづきだとなると木ぎれをみんな浜へ落してゆきます。
 その木ぎれで雁風呂を立てるのです。
 さうしたところはいろんな渡鳥が集る猟場ですから、供養のために雁風呂を立てて旅の人にはひつてもらふのです。

  鷭のこゑ

 鷭のこゑする
 夜あけごろ、
 舟で兄さん
 ゆきました。
 
 月もこずゑに
 ありました、
 雨のあとから
 はれました。
 
  てんとんとん、
  てんとんとん、
 草鞋うつ音してました。
 鷭が迎へにきたのでしよ、
 母さんそれきり
 やせました。

  唐黍もぎに

 唐黍もぎに行かうよ、
 ぽきりぽきりもがうよ。
 
 唐黍の毛は赤いよ、
 きいききと鳴くは百舌だよ。
 
 郵便夫さんも通るよ、
 ほらほら裏へまはるよ。
 
 新屋のをばさんひとりで、
 つまんなさうにしてるよ。
 
 兵隊へ行つた兄さも、
 機動演習にくるとよ。

  機動演習

 嫁菜が咲いたら、野菊が咲いた、
 てとてとてつとう、兵隊さんが駈けてつた。
 
 鵯鳥ちいぴい、櫟が枯れた、
 てとてとてつとう、兵隊さんが散らばつた。
 
 機関銃ぱらぱら、赤い旗振つた、
 てとてとてつとう、兵隊さんが休んだ。
 
 鍋釜、くるまに、お馬がつづいた、
 てとてとてつとう、兵隊さんが草臥れた。
 
 お日さんが落ちたら、お月さんが出てた。
 てとてとてつとう、兵隊さんが泊つた。

  日のくれ

 お月さまあかいな、
 むく鳥さわぐな、
  おつかれさん。
  おつかれさん。
 鍬の柄ながいな。
 
 お馬ももどるな、
 てつくりてつくりさむいな。
  おつかれさん。
  おつかれさん。
 汽車のけむりもしろいな。

  稲穂ぬすみ

 子供がぽつり、
 お月様、
 稲穂ぬすみに来てゐます。
 
 後から後から、
 お月様、
 群れて、影して、掻いてます。
 
 おう、お猿です、
 お月さま、
 腰に稲の穂さしてます。
 
 群れて、かがんで、
 お月様、
 さわりさわりと、夜ふけます。

  氷のひわれめ

 氷のひわれ目、
 月夜には、
 ぴちぴち音して、
 つめたいな。
 
 氷のひわれ目、
 裏田圃、
 ぴちぴち音して、
 風が吹く。

  ちろり

 あかりが ちろり
 野原に ちろり。
  じねんじよ掘りよ、
  もう日は暮れた。
 
 鼠が ちろり、
 野道に ちろり。
  かあんかん六部、
  もう日は暮れた。
 附記
 六部さんは仏さまのお厨子を背中にしよつて、鉦をかんかんと敲いて歩くひとです。

  鳥さし

 鳥さし、とりもち
 つけました。つけました。
 棹はほそざを、
 腰に籠。
  ホイ、腰に籠。
 
 鳥さし、さむかろ、
 風がふく。風がふく。
 ちつち、雀が、
 屋根のうへ。
  ホイ、屋根のうへ。
 
 鳥さし、おかへり、
 日がくれる。日がくれる。
 遠いお山も、
 もう雪だ。
  ホイ、雪だ。

  雪のほらあな

 雪のほらあな、
 うすむらさきよ、
 なかで子供が
 おそなへしてる。
 
 雪のほらあな、
 なかから見れば、
 海が見えます、
 こほつた海が。
 
 雪のほらあな、
 日のくれごろは、
 赤い蝋燭
 三つ四つつける。
 
 雪のほらあな、
 とんよりぬくい。
 ねむくなるまで
 お話してる。

  雪女

 吹雪の晩に、
 呼ぶのは誰だ。
 
 曠野のをんな、
 夜ふけのをんな。
 
 遠くて、近い、
 白くて青い。
 
 吹雪の中に、
 ほら、また、呼んだ。
 
 おねんね、坊や、
 もう夜がふかい。

  風邪の神さま

 風邪の神様、
 粉の花、
 ちらりちらりとお飛びなる。
  ハ、ハ、ハクシヨン。さうらね。
 
 風邪の神様、
 目に見えぬ。
 あへば、ぞくぞくさむくなる。
  ハ、ハ、ハクシヨン。さうらね。
 
 風邪の神様、
 ふつかかりや、
 風邪をひきます、草も木も。
  ハ、ハ、ハクシヨン。さうらね。
 
 風邪の神様、
 流行神、
 子供目つける、咽喉に来る。
  ハ、ハ、ハクシヨン。さうらね。
 
 風邪の神様、
 月の夜も、、
 街の方からお飛びなる。
  ハ、ハ、ハクシヨン。さうらね。

  つらつらつばき

 つらつらつばき、
 つらつら咲いた。
 村道、小道、
 つらつらあかれ。
 
 つらつらつばき、
 つらつら咲いた。
 車よ、車、
 つらつらきしれ。
 
 つらつらつばき、
 つらつら咲いた。
 子供よ、子供、
 つらつらとほれ。
 
 つらつらつばき、
 つらつら咲いた。
 とつとよ、とつと、
 つらつらあされ。

  雪がとける

 サンシユユの
 花が咲けば、咲けば、
 山椒の魚は
 うまれる。
  雪がとける、とける、とける、
  ほうら、雪がとけるよ。
 
 山淑の
 魚が出たよ、出たよ、
 井川の水に声
 わいたよ。
  雪がとける、とける、とける、
  ほうら、雪がとけるよ。
 
 早よ来いよ。
 雑子が飛ぶよ、飛ぶよ。
 尾を引くよ、空に
 光るよ。
  雪がとける、とける、とける、
  ほうら、雪がとけるよ。

 
 
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