広角鏡(20040816―0915)
中国の核戦略は迅速な転換が必要である
著者 高岩
 米中が台湾問題を契機に随時全面衝突に至る可能性がある今日、核兵器と核戦略は、中国の国家安全上、最も脆弱な部分となっている。
 理性を機能させること、核軍備競争に加わらないこと、米国との力の均衡を図るため核兵器を利用しないこと、及び太平洋地域において核戦力を誇示しない、としてきた抑制的な中国の核戦略は、現段階において国家の核心利益を守る上で事実上無力となり、中国は、核戦略の迅速な転換と革新を迫られている。
 現段階において、大国における核兵器開発の動機と目的は、自国の核心利益を守り、自国民族の生存を維持することにある。
 この意味から言えば、中国の核兵器と核戦略は、その使命を果たしていない。
 したがって中国が「ハイテク条件下の局地戦争」を戦う準備を整え、中国の現代化事業をいかに発展させようとも、米国との戦力のバランスを欠き、核戦力において米国に劣るならば、中国が現在進めている現代化事業は、外力によって中断され、中華民族の生存権の保障が得られなくなる可能性がある。
 中国は核保有国の特権を利用すべきである。
 近年、中国の国家意思決定者達は、米国が台湾問題で中国と直接対抗する姿勢を日増しに顕著にしてきているため、政治戦略と同様に対米軍事戦略を変更しつつあり、それは最後の仕上げの段階に至っている。
 この間、ある一つの概念が次第に明確にかつ頻繁に民衆の目に触れるようになり、又この概念が中国の意思決定者達の戦略上の基本思想となりつつある。
 この概念とは、すなわち核兵器と核威嚇である。
 中国は、世界の中で完全に承認された核大国であり、核兵器で自由に武装することができる五つの大国の一員である。
 現在の世界の中で、核武装の利益を享受できるのは、大国のみの特権であり、すでに核を保有しているインド、パキスタン、イスラエルを含めて、国際社会は、五大国以外に核兵器保有の権利を認めていない。
 戦敗国である日本とドイツも認められていない。
 したがって現行の国際秩序の下では、五大国以外のその他の国家は、国際社会から核兵器を保有することを企図することさえ容認されておらず、イラクのサダムは、大規模殺傷兵器の開発を企図したとの理由で米英連合軍に打倒された。
 イランは、次の核保有国になる可能性があり、このため米国による軍事行動の次の目標になる可能性がある。
 リビアは、長年西側の制裁を受けたのち、核武装計画を完全に放棄し、事実上西側に妥協した。
 現在、朝鮮の核兵器問題は、国際社会のホットな議題となっており、処理を誤ると戦争になる危険性がある。
 しかし現在の国際社会の傾向は、朝鮮に圧力をかけて核兵器計画を放棄させようとしている。
 現在の国際社会は、核兵器の保有を五大国以外一切認めないとしている。
 中国の核兵器大国としての地位は、中国共産党の古い先輩が中華民族のために残した最も偉大な貢献の一つである。
 歳月が流れるにしたがってこの点がますます明確になってきた。
 中国は、建国初期の困難な状況下において自ら核戦力を開発し国家の独立と大国としての行動の自由を有効に確保してきた。
 大規模核攻撃戦略は不可避である。
 中国は現在、通常兵器による軍事戦略を正式に採用している。
 それは、「ハイテク条件下の局地戦争に勝利する」ことである。
 しかし中国は、核戦略については明確にしておらず、中国が国家として対外的に公表している核に関する約束は、自ら率先して核兵器を使用しないこと、及び限定的な数の核兵器を保有し自衛のためにしか使用しないことである。
 各種の方面から判断すると、又核戦略本来の目的から判断すると、現行の中国の核戦略は、最低限度の核威嚇戦略であると認定できる。
 すなわち、中国の核戦略は、数量制限及び率先して核兵器を使用しないという自ら課した二重の制限を基礎にしており、限定的な核報復能力を保有するだけである。
 中国の一部の核専門家は、「中国は、いわゆる核兵器による「超殺」 (注:over kill) 能力は必要としない。
 敵が中国を百回核攻撃しても、中国は敵を一回核攻撃できればよい。
 一国家を百回核攻撃するのと、一回核攻撃するのとは効果は同じである」としている。
 しかしこの核戦争の概念は、完全に誤っている。
 なぜならば、真の殺傷一回と百回の殺傷の効果が同じならば、米国と旧ソ連は、大規模な核殺傷能力の建設競争をしなかったはずである。
 米国と旧ソ連が建設した「超殺」核戦力は、十分な核威嚇を実現するために行ったものである。
 したがって核戦略計画を策定するに当たっては、様々な戦争状態に対応するため、様々な核攻撃手段と運搬手段を準備すると共に、各種の核弾頭を開発し各種の任務を実行する準備をしなければならない。
 一般的に、「超殺」核弾頭の殺傷能力は、これらの蓄積された個々の核弾頭の殺傷能力の合計とは等しくない。
 理論上、「超殺」能力があるとされる核兵器の能力は、実戦に使用した場合、使用する個々の核兵器の殺傷能力の合計数値よりも小さい。
 「超殺」能力という言葉は、ある種の形容にすぎない。
 敵が百万の軍隊を有しているからといって、我々がちょうど百万発の弾丸だけを準備するだけでは不足である。
 これと同じように、理論上一発の弾丸が一人の敵を倒すことができるとしても、現実には数千発の弾丸を発射してやっと一人の敵を倒すことができるのと同じである。
 核兵器にも同じ理論を当てはめれば、中国の最低限度の核威嚇戦略は、核戦力が不足していた核兵器開発初期の段階でのみ必要に迫られて採用した過渡的な戦略であり、これが永久的な核戦略或いは核戦略の全てであるとするならば、それは誤りだ。
 中国の一部にこのような核戦略に対する幼稚な観念が存在するため、中国の限られた核兵器と核戦略は、現在まで中国の軍事力の骨幹とはなっていなかった。
 中国は、現在、台湾問題、周辺海域問題、及び我が国家領土侵犯問題に直面したことによって、未だ有効な核威嚇力も通常兵器による威嚇力も完成していなかったという重大な事実を暴露した。
 これらのことから、中国の現行の「ハイテク条件下の局地戦争に勝利する」という軍事戦略に事実上重大な欠陥があることが明らかになった。
 それでは全面的核戦争の脅威に中国はどのように対処すべきなのか?中米の戦略的パートナーの関係及び中米の戦略に対する共通認識は、すでに消滅した。
 中米が台湾問題を契機に全面戦争に突入する可能性がある今日、核兵器と核戦略は中国の国家安全上最も脆弱な部分となった。
 しかし中国は、改めて戦略の主導権を掌握し、新たな戦略をもって米国及び米国のアジアにおける同盟国と対抗する新たな戦場に出発した。
 この戦場は、中国が必ず勝てる戦場であり、必要とするのは、決心だけである。

核威嚇をもって台湾海峡の主導権をとれ

 中国が敵の核威嚇力と完全なバランスがとれない場合、台湾海峡の戦争は、エスカレートし、中国の戦略計画に示された「ハイテク条件下の局地戦争」の範疇から逸脱する最悪の局面を迎えるであろう。
 戦争とは、それ自身の中に推進力と規律を有する人類活動である。
 すなわち戦争に突入することの意味は、平和を維持するために必要な安全保障戦略と戦争予防戦略が後退し効力を失うことである。
 一旦戦争が開始されると、戦争はコントロール不可能となり、唯一戦争をコントロールできる手段は、自己の軍事力を使用して敵を消滅させるか或いは敵に一定の条件と要求を受け入れさせることしかなくなる。
 或いは、自ら敵の武力によってコントロールを受ける。
 言い換えれば、武力を用いなければ、武力をコントロールできないということである。
 核兵器の時代は、核兵器と核戦略のみが推進力を持ち、戦争をコントロールすることができる。
 したがって、強大な核戦力を持つものが、戦争の全過程をコントロールすることができる。
 また双方の核戦力のバランスがとれ、相互に受け入れられる核戦略があれば、戦争は恐怖心によって制止される。
 これは、核兵器によって平和が維持できるとする論理の真髄である。
 したがって未来の台湾海峡の戦争において、中国が最低限度の核威嚇力しか保有せず、米国を破壊できる核戦力もなく、米国と核のバランスが取れないようであれば、米国の軍事干渉を阻止する絶対的な方法はなく、中国の戦略に従って戦争を有効にコントロールできる確実な手段はない。
 現在の条件の下、すなわち中国が米国に大規模報復できる核戦力がない状況下で、米国と軍事衝突に至ったならば、中国は戦争をコントロールすることができず、戦争は核戦争にエスカレートし、中国の願望に反して、ある段階で妥協するか或いは失敗を認めざるを得なくなるであろう。
 そのとき中華民族は、人類史上最大の核危機に直面し、その悲惨な結果は計り知れない。
 現在のグローバルな戦略の下では、中国が求める核戦力は、米国、日本及び台湾問題で中国に敵対するすべての国家に対して全面的に核威嚇ができなければならない。
 所要の能力は、把握できる全ての敵を全面的に核破壊できる能力であり、攻撃目標は、敵の全ての戦略、軍事、経済及び人口の中心を含まねばならない。
 中国の全面的核破壊能力は、敵の第一次核攻撃とミサイル防御システムに対抗できるものでなければならない。
 中国は、速やかに自己の核兵器発射能力を高め、核弾頭数量を増加するとともに、現在の核戦力を信頼性のある第二次核攻撃戦力に転換しなければならない。
 このことは、中国の現有の核戦力と核戦力にとっては、全面的な転換になる。
 中国は、現在の軍事支出を継続するほか、核戦力の全面的な転換とグレードアップのため、十分な国家資源を投入しなければならない。
 このようにすれば、既定の「ハイテク条件下の局地戦争能力」も、敵に対する全面核報復能力をも保障することができる。
 中国は、現在の国民総生産の規模と技術力をもってすれば、米国が保持する核破壊力にバランスしたグローバルな戦略核戦力を建設することができる。
 このようにすれば、中国は、台湾問題を有効に解決できるほか、国家利益を全面的に確保することができる。

新情勢下の軍事路線

 一国家が軍事戦略に成功するかどうかは、その戦略が戦略威嚇を達成できるかどうか、及び戦争時期対軍事任務に関する定説を満たしているかどうかにかかっている。
 この角度から、相手の反応を見ると、過去十年の軍事力建設戦略は、すなわち「ハイテク条件下の局地戦争に勝利する戦略」は、十分に機能していない。
 この戦略の下で、大規模な通常戦力を建設し、特に伝統的に弱体であった海空軍を増強した結果、中国は、すでに直接台湾を撃破できる軍事力、及び通常兵器により中国を威嚇し、台湾海峡、中国の内政問題に干渉する米国及びその同盟国の戦力を撃破できる戦力を保有した。
 しかし、現有の通常戦力は、米、日、台の連合した海空戦力を全面的に撃破するには未だ不足している。
 中国は、この軍事力の差を補おうとすれば、少なくとも数十年の期間が必要である。
 しかも中国は、このために大量の国家資源を投入しなければならない。
 このような全面対抗姿勢と国家資源の大幅消耗は、現在の国家戦略及び軍事戦略の二つの目標には合致しない。
 現行の「ハイテク条件下の局地戦争に勝利する戦略」の重大な欠陥は、戦争勃発後、核戦争にエスカレートした場合、有効に対応できないことである。
 この通常兵器による軍事戦略が提示する軍事目標は、非常に高い。
 しかしこの戦略をバックアップする核戦略は、手段といい、戦略意志といい不十分である。
 軍事的な意義から評価すると、中国の核戦力は、所要のレベルに達していない。
 中国は、現在、危険な戦略環境に直面している。
 領土問題は未解決であり、また最強の通常戦力と核戦力を有する米国は、終始中国の国家安全の脅威となっている。
 日本は、歴史の清算が不徹底であり、米国と同盟し核戦力を含む巨大な軍事的潜在力を保有している。
 中国は、短期間或いは中期間内に、言わば今後数十年の間に通常戦力で相手を凌駕できる軍事力を完成することは不可能であり、また必要でもない。
 なぜならば、通常戦力だけを重視することは、中国の現在の国家現代化発展戦略を動揺させかねないからである。
これらのことから、現段階において、中国が進むべき軍事路線は、「軍事における革命」を加速しつつ「核戦略」を実現するという二つの平行した路線である。
 まず最初に「軍事における革命」の最新の成果を大量に採用して軍事力の効率を高め、通常戦力の不足を補い、最終的に相手との戦力差を短縮しバランスし、凌駕する。
 中国は、核戦略と核戦力の全面修正と更新を行うことによって、相手の優れている海空戦力、情報戦力に圧力を加え中和できる能力を獲得すると同時に、相手の核優位に対してバランスし或いは威嚇することが可能になる。
 その結果、中国の敵は、中国の核攻撃を恐れ、中国との平和共存と全ての問題の平等解決を求めるようになるであろう。
 そのなかには、台湾問題への干渉、中国に対する軍事的包囲からの撤退、地球上の資源の平等分配、及び全世界の市場開放など現在の経済思想では解決できない重大な国家利益の問題が含まれる。
 米国が中国に際限のない軍備競争を仕掛け中国を倒壊させようとする問題について、我々は、旧ソ連が米国と軍備競争を行ったから崩壊したのではないと考えている。
 冷戦期間、米国も同様に経済困窮状態にあった。
 外部からの生死をかけた適当な戦略的競争圧力は、現在中国で進行中の内部機構の現代化を推進し、未来の変革を促進し有効にするであろう。
 そのときまでに中国の経済機構と政治管理は、長足の進歩を遂げるであろう。
 現在の趨勢から見ると、人類の次の段階には、宇宙領域において核威嚇を超越した軍事力の衝突が展開されるであろう。
 米国は、宇宙の軍事化によって宇宙からの威嚇を実現し、他国の核武装の解除を企図する可能性が極めて高い。
 米国のミサイル防衛計画は、現在の技術条件下において、現有の核威嚇への努力を超越しているが、中国も同様に宇宙からの戦略威嚇に対抗する安全保障のための戦力をもっている。
 中国の現在の宇宙計画は、この領域における未来の力量を表している。
 したがって現段階の核戦力が強化された時には、米国及びその他の国家に対応できる各種の対抗措置ができあがる。

戦争手段をもって平和を維持する

 現在の条件下において、中国が世界の一流国家に発展するためには、世界一流の軍事力を保有しなければならない。
 終始軍事力が相手国に劣り、出来るだけ衝突を避けようとする方式を採れば、「和平崛起 (注:平和的に台頭すること。現在中国が対外的に主張している戦略スローガン)」を含め自ら勝利を得ることはできない。
 米国は、再三再四、台湾問題に対して、この種の厳しい歴史の運動規律を展開した。
 中国は、「戦争が発生し核戦争にエスカレートした後、やっと戦略的先手を失ったことを後悔する事態」を受け入れることはできない。
 中国は、現段階において一千億元を核兵器システムに投資すれば、二十一世紀には百倍以上の恩恵を得るであろう。
 この一千億元の金額は、中国の現在の国民総生産値の百分の一に過ぎない。
 中国は、今後自己の安全のために支出しなければならない。
 その中には、核兵器、宇宙活動及び重要な戦略的先端科学研究への投資が含まれる。
 軍事支出を今すぐに国民総生産値の百分の五以上に引き上げても、現在の経済建設を中心とした国家建設には影響を与えず、かえって中国内部の公共資源の配分と財源確保と支出に関して国家の統制力を強化することができる。
 現在、中国は、内外の重大な問題に直面しているが、全世界の国家の中では最も明るい見通しを持っている。
 しかしこのことは、「時間」という人類の命運を決する最も重要な要素によって決定される。
 中国は、今直ぐに核威嚇力を掌握し、核に関する各種の努力を全面的に行うことによって、二十一世紀の国家百年の平和を勝ち取り、国土の割譲により資源を失うような事態を防止し、相手国に中国の国家利益を尊重させることができる。
 二十一世紀の中国は、きっと人類史上最も光栄ある国家となり、中国人の心は、自信に満ちた漢唐の時代を凌駕することができるであろう。
 このことは、新たな情勢に適合しない現行の核戦略を自ら改変することから開始することができる。