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生涯如逝川、
不慮忽昇仙。 哀挽辭京路、 客車向墓田。 聲傳女侍簡、 別怨艷陽年。 唯有弧墳外、 悲風吹松煙。 |
生涯逝川の如く、 |
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蒙古來 頼山陽
筑海颶氣連天黑、蔽海而來者何賊。 蒙古來來自北、 東西次第期呑食。 嚇得趙家老寡婦、 持此來擬男兒國。 相模太郞膽如甕、 防海將士人各力。 蒙古來吾不怖、 吾怖關東令如山。 直前斫賊不許顧、 倒吾檣登虜艦。 擒虜將吾軍喊。 可恨 東風一驅附大濤 不使羶血 盡膏日本刀 |
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焦心録後に題す 内憂外患吾が州に迫る、 正に是れ危急存亡の秋。 唯だ邦君の爲邦國の爲、 降彈名姓又何ぞ愁へん。 |
生田に宿す 千歳恩讐兩ふたつながら存せず、 風雲長とこしへに爲に忠魂を弔とむらふ。 客窗一夜松籟しょうらいを聽く、 月は暗し楠公墓畔の村。 |
騎馬撃賊下馬檄、
三郞奇才世無敵。 夜穿虎豹達行在、 衛騎眠熟柝聲寂。 慨然白樹寫幽憤、 行雲不動天亦忿。 中興誰旌首事功、 一門猶懷貫日忠。 金輿再南乾坤變、 五字櫻花千古恨。 |
馬に騎りては賊を撃ち馬を下りては檄、
三郞の奇才世に敵無し。 夜虎豹を穿ちて行在に達し、 衛騎眠り熟して柝聲寂たり。 慨然樹を白しらげて幽憤を寫せば、 行雲動かず天も亦た忿いかる。 中興誰たれか旌あらはす首事の功を、 一門猶なほ懷いだく貫日の忠。 金輿再び南して乾坤變じ、 五字の櫻花千古の恨。 |
白櫻十字の詩 天勾踐を空しうする莫れ、 時に范蠡無きにしも非ず。 |
陰陽日月を生じ、 赫然かくぜんとして六合明あきらかなり。 天神造化の功、 蕩蕩豈あに名なづくるを得んや。 劍鏡萬古に輝き、 皇統綿緜として榮ゆ。 茫茫普天の下、 孰たれか神京を仰がざらん。 |
天地正大氣、
粹然鍾神州。 秀爲不二嶽、 巍巍聳千秋。 注爲大瀛水、 洋洋環八洲。 發爲萬朶櫻、 衆芳難與儔。 凝爲百錬鐵、 鋭利可割鍪。 藎臣皆熊羆、 武夫盡好仇。 神州孰君臨、 萬古仰天皇。 皇風洽六合、 明德侔大陽。 不世無汚隆、 正氣時放光。 乃參大連議、 侃侃排瞿曇。 乃助明主斷、 燄燄焚伽藍。 中郞嘗用之、 宗社磐石安。 淸丸嘗用之、 妖僧肝膽寒。 忽揮龍口劍、 虜使頭足分。 忽起西海颶、 怒濤殱胡氛。 志賀月明夜、 陽爲鳳輦巡。 芳野戰酣日、 又代帝子屯。 或投鎌倉窟、 憂憤正愪愪。 或伴櫻井驛、 遺訓何殷勤。 或守伏見城、 一身當萬軍。 或殉天目山、 幽囚不忘君。 承平二百歳、 斯氣常獲伸。 然當其鬱屈、 生四十七人。 乃知人雖亡、 英靈未嘗泯。 長在天地間、 凛然敍彜倫。 孰能扶持之、 卓立東海濱。 忠誠尊皇室、 孝敬事天神。 修文兼奮武、 誓欲淸胡塵。 一朝天歩艱、 邦君身先淪。 頑鈍不知機、 罪戻及孤臣。 孤臣困葛藟、 君冤向誰陳。 孤子遠墳墓、 何以報先親。 荏苒二周星、 獨有斯氣隨。 嗟予雖萬死、 豈忍與汝離。 屈伸付天地、 生死又何疑。 生當雪君冤、 復見張四維。 死爲忠義鬼、 極天護皇基。 |
天地正大の氣、
粹然として神州に鍾あつまる。 秀でては不二ふじの嶽となり、 巍巍ぎぎとして千秋に聳そびゆ。 注ぎては大瀛だいえいの水となり、 洋洋として八洲を環めぐる。 發しては萬朶ばんだの櫻となり、 衆芳與ともに儔たぐひし難し。 凝こりては百錬の鐵となり、 鋭利鍪かぶとを割く可べし。 藎臣じんしん皆な熊羆ゆうひ、 武夫盡ことごとく好仇かうきう。 神州孰たれか君臨する、 萬古天皇を仰ぐ。 皇風六合りくがふに洽あまねく、 明徳大陽に侔ひとし。 世に汚隆をりゅう無らざれば、 正氣時に光を放つ。 乃すなはち大連の議に參し、 侃侃かんかん瞿曇くどんを排す。 乃すなはち明主の斷を助け、 燄燄として伽藍を焚やく。 中郞嘗かつて之これを用ひ、 宗社磐石ばんじゃく安し。 淸丸嘗かつて之これを用ひ、 妖僧肝膽寒し。 忽たちまち龍口の劍を揮ふるひて、 虜使頭足分わかたる。 忽ち西海の颶を起して、 怒濤胡氛を殱ころしつくす。 志賀月明なる夜、 陽いつはりて鳳輦ほうれんと爲なりて巡めぐる。 芳野戰酣たけなはなるの日、 又帝子に代って屯す。 或は鎌倉の窟に投じ、 憂憤正に愪愪うんうん。 或は櫻井の驛に伴ひ、 遺訓何ぞ殷勤なる。 或は伏見城を守り、 一身萬軍に當る。 或は天目山に殉したがひ、 幽囚君を忘れず。 承平二百歳、 斯氣常に伸を獲る。 然しかれども其の鬱屈するに當あたりては、 四十七人を生ず。 乃すなはち知る人亡すと雖いへども、 英靈未いまだ嘗かつて泯ほろびず。 長く天地の間に在りて、 隱然彜倫いりんを敍ついづ。 孰たれか能よく之これを扶持ふぢす、 卓立す東海の濱ひん。 忠誠皇室を尊び、 孝敬天神に事つかふ。 文を修むるは武を奮ふを兼ね、 誓つて胡塵を淸めんと欲す。 一朝天歩艱なやみ、 邦君身先まづ淪しづむ。 頑鈍機を知らず、 罪戻孤臣に及ぶ。 孤臣葛藟かつるゐに困しむ、 君冤誰に向てか陳せん。 孤子墳墓に遠とほざかる、 何を以てか先親に報むくひん。 荏苒じんぜんたり二周星、 獨ひとり斯この氣の隨ふにあり。 嗟あゝ予萬死すと雖いへども、 豈あに汝なんぢと離るるに忍びんや。 屈伸天地に付し、 生死又た何ぞ疑はん。 生きては當まさに君の冤を雪すすぎ、 復また綱維を張らるるを見るべし。 死しては忠義の鬼と爲り、 極天皇基を護せん。 |
巖城に松を結ぶ 別離は惜むと雖いへども事皆空しく、 綰柳わんりう結松情自おのづら同じ。 馬上詩を哦うたひて猶なほ古いにしへを弔せば、 寥寥たる一樹秋風に立つ。 |
雪灑笠檐風卷袂、
呱呱索乳若爲情。 他年銕枴峰頭嶮、 叱咤三軍是此聲。 |
雪は笠檐りふえんに灑そそぎ風は袂たもとを卷き、
呱呱ここ乳を索むるは若爲いかんの情。 他年銕枴てつくゎい峰頭の嶮に、 三軍を叱咤するは是れ此の聲。 |
關山の月 秦嶺西に去りて關塞深く、 秦雲遙かに隔つ望鄕の心を。 長安を見ずして惟ただ月を見る、 鳳城の何處か鳴砧を照らさん。 |
珠簾白露玉階の光、 添へ得て秋螢夜正に涼し。 點點として風に隨ひて流れて定まらずして、 亦た高樹を追ひて昭陽に入る。 |
出鄕の作 決然國を去りて天涯に向かふ、 生別又た兼ぬ死別の時。 弟妹は知らず阿兄の志、 慇懃に袖を牽ひきて歸期を問ふ。 |
白雲山に登る 白雲山上白雲飛び、 幾戸の人家か翠微に倚よる。 行き盡す白雲雲裡の路、 滿身還また白雲を帶びて歸る。 |
芳野に遊ぶ 萬人醉を買ひて芳叢を攪みだし、 感慨誰たれか能よく我と同じき。 恨殺す殘紅の飛びて北に向ふを、 延元陵上落花の風。 |
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松蘿しょうら本と要す綢繆ちうびうを結ぶを、 豈に謂おもはんや王孫遠游を愛すと。 芳草萋萋として春又た去り、 傷心復た高樓に上らず。 |
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終に臨みて妹姪に訣す 身殲ほろびて固もとより信ず百すべて知る無きを、 那なんぞ浮生一念の遺のこる有らんや。 目下ただ妹姪の存するを除きては、 奈何いかんせん歡笑永とこしなへに參差しんしたるを。 |
狂と呼び賊と呼ぶも他の評に任まかす、 幾歳の妖雲一旦に晴る。 正まさに是れ櫻花の好時節、 櫻田門外血櫻の如し。 |
總角家を辭して洛陽に客たり、 秋風に一望すれば白雲長し。 歸心蓴鱸じゅんろの美なるが爲ためならず、 衰白の慈親故鄕に在り。 |
將まさに東遊せんとして壁に題す 男兒志を立てて郷關を出づ、 學若もし成る無くんば復また還かへらず。 骨を埋うづむるに何ぞ期せん墳墓の地を、 人間到る處に靑山有り。 |
山中仙室有り 桃李言ものいはず春幾いくばくか暮れぬる、 煙霞跡無し昔誰たれか栖すみし。 |
伯夷叔齊を詠ず 商を剪きる計就なりて竟つひに戎衣、 宇宙茫茫として孰いづれか非を識しらん。 君中原を去りてより幾いくばくの周武、 春風吹き老ゆる首陽の薇。 |
人生五十功無きを愧はづ, 花木春過ぎて夏已すでに中ばなり。 滿室の蒼蠅さうよう掃へども去り難く、 起って禪榻ぜんたふを尋たづねて淸風に臥せん。 |
亂を避け舟を江州の湖上に泛うかぶ 江湖に落魄して暗に愁うれひを結び、 孤舟一夜思おもひ悠悠たり。 天公も亦吾が生を怜あはれむや否や、 月は白し蘆花淺水の秋。 |
老娼としま 誓ちかって老娼としまを買ふ莫なかれ、 人を慰たらして油泉の如し。 身代棒に振ふりて後、 初めて覺おもふ多露に懸かかりしことを。 |
獨り先斗ぽんと町に宿す 蕎屋そばや去いぬる時正に半宵よなか、 川原霜白くして往來寥さびし。 花兒こじきの火の影は冷さびしく薦こもを燒き、 按摩の笛の聲は夜橋を過ぐ。 藝子仲居客を送て返り、 鵆禽ちどり鴎鴨かもめ沙に依て喓なく。 酒醒め喉渇かはいて未だ睡ることを須ひず、 處處寒彈かんびき曉に向て悄かなしむ。 |
誰たれか中興をして亂麻と爲なら使しむ、 雲林豈あに肯あへて天家を忘れんや。 君王若もし臣の踪跡そうせきを問はば、 爲ために奏せ松陰露華に泣くと。 |
辭世に擬す 多少の波瀾、 六十八年。 聊いささか信ずる所に縱ひ、 流に逆ひ船に棹さす。 浮沈得失は、 衆目の憐あはれむに任まかす。 俯して地に恥ぢず、 仰あふぎて天に愧はづる無し。 病臥已すでに久しきに及び、 氣力衰へて煙の如し。 此この夕ゆふ風特に靜かにして、 願はくは枕を高うして永眠せん。 |
何いつの時代にか大夫の官を許されし、 位高きを聞きて凡人肝きもを潰つぶす。 寶を阿房宮あはうきゅうに費つひやす抜作ぬけさく、 松の御蔭おかげに依よって涙の雨潘しげし。 |
元と是れ太平の子、 寧居亂離を忘る。 忽然として兵燹へいせん起り、 一死始めて飢ゑを醫いやす。 |
我は慕ふ楠夫子、 雄略古今に無し。 誓て回天の業を建て、 感激其の躯を忘る。 廟堂遂つひに算無く、 乾坤忠義孤なり。 空しく一片の氣を留めて、 凛凛誣そしる可べからず。 |
南朝の古木寒霏を鎖し、 六百の春秋一夢非なり。 幾度か天に問へども天は答へず、 金剛山下暮雲歸る。 |
日出づる處 日出づる處、日沒する處、 兩頭の天子皆みな天署す。 扶桑鷄號きて朝已すでに盈みち、 長安洛陽天未だ曙けず。 贏は顛ころび劉は蹶つまづき日を趁おひて沒するも、 東海の一輪舊に依りて出づ。 |
偉なる哉倭建やまとたけるの命みこと、 報國難を辭せず。 手に八尋やひろの矛ほこを提さげて、 撻伐たつばつ其の殘を取る。 熊蝦敢あへて抗せず、 宸襟しんきん頼よりて以て寛ひろし。 請こふ看よ草薙くさなぎの劍、 神光萬古に寒し。 |
弘道館に梅花を賞す 弘道館中千樹の梅、 淸香馥郁ふくいくとして十分に開く。 好文豈あに謂いふ威武無からんと、 雪裡に春を占む天下の魁さきがけ。 |
吾今國の爲に死す、 死して君親に背そむかず。 悠悠たり天地の事、 鑑照明神に在り。 |
應天正氣歌 久坂玄瑞
春雪壓城鴟尾高、白旗驄馬振棨戟。 忽見暴風捲雪暗、 雷霆落地聲霹靂。 青龍出沒紫丹迸、 高呼雲際賊首攫。 嗚呼 十四夜雪上巳雪、 上帝暗助大義成。 千歳芳名何湣滅、 男兒顏與櫻花明。 四十七士既已邈、 海内艷説十七名。 君不見 博浪鐵椎尚方劍、 蹉跌終難抑賊焔。 又不見 翟義敬業徒切齒、 胡詮椒山空憤死。 九天九地渺茫際、 日出處生此烈士。 |
應天正氣の歌 春雪城を壓して鴟尾しび高く、 白旗驄馬そうば棨戟けいげきを振ふるふ。 忽たちまち見る暴風雪を捲きて暗く、 雷霆らいてい地に落ちて聲霹靂へきれきたり。 青龍出沒して紫丹迸ほとばしり、 高く雲際に呼びて賊首を攫とる。 嗚呼ああ 十四夜の雪上巳じゃうしの雪、 上帝暗ひそかに助く大義の成すを。 千歳芳名何ぞ湣滅びんめつせんや、 男兒の顏は櫻花より明るし。 四十七士既に已すでに邈はるかなるも、 海内艷説す十七名。 君見ずや 博浪鐵椎尚方しゃうはうの劍、 蹉跌さてつし終つひに賊焔を抑おさへ難かりしを。 又た見ずや 翟義てきぎ敬業徒いたづらに切齒し、 胡詮椒山空しく憤死せしを。 九天九地渺茫べうばうの際、 日出づる處此この烈士を生む。 |
大底は他の肌骨の好きに還す、 紅粉を塗らずして自ら風流。 |
風味は遙か楚客從より傳はり、 摘み來り把に滿ちて芳鮮を愛をしむ。 脆もろきことは碎雪の如く嚼かむに勞無く、 香は團茶に似て煎ずるを用ひず。 只だ覺ゆ枯膓に錦繍充つも、 豈あに知らんや風骨神仙と化すを。 君に戒む物に潔くして貪賞を休やめよ、 世俗の珍羞は羶なまぐさきに耐へず。 |
兵禍何れの時にか止まん 薄粥猶ほ飽嘗を得ること難く、 茶を煮て聊いささか我が飢腸を慰む。 知らず兵禍何いづれの時にか止まん、 破屋の頽欄に夕陽に倚よる。 |
幾度か辛酸を歴て志始めて堅く、 丈夫は玉碎するも甎全を恥づ。 一家の遺事人知るや否や: 兒孫の爲に美田を買はず。 |
死して死を畏おそれず、 生きて生を偸ぬすまず。 男兒の大節は、 光かがやき日と爭ふ。 道之苟いやしくも直なおくんば、 鼎烹ていほうを憚はばからず。 眇然べうぜんたる一身なれど、 萬里の長城たらん。 |
山に遊ぶ 落落たる長松の下、 琴を抱へて晩暉に坐る。 清風無限に好く、 吹きて薜蘿へいらの衣に入る。 |
會津に秋琴老居士を訪ふ 舊誼誰たれか知らん三世の深きを、 天涯今更に君が琴を聽く。 在談道いふを休やめよ:交情淺しと、 亦た似たり峨洋たる千古の心に。 |
山勢自東來、
如鳥開雙翼。 遙夾大江流、 相望列黛色。 南者金剛山、 插天最岐嶷。 拖尾抵海垠、 蜿蜒劃南域。 隱與城郭似、 擁護天王國。 想見豫章公、 孤壘扞群賊。 合圍百萬兵、 陣雲繞麓黑。 臣豈不自惜、 受託由面敕。 灑泣誓吾旅、 爲君鏖鬼蜮。 果然七尺躯、 自有回天力。 宕叡連武庫、 隔江對正北。 公死實在彼、 在公盡臣職。 所惜壞長城、 寧支大厦仄。 吾行歴泉紀、 往反縁大麓。 顧瞻山海間、 慷慨三大息。 丈夫有大節、 天地頼扶植。 悠悠六百載、 姦雄迭起踣。 一時塗人眼、 難洗史書墨。 仰見山色蒼、 萬古淨如拭。 |
山勢東自り來り、
鳥の如く雙翼を開く。 遙かに大江の流れを夾み、 相ひ望む黛色を列ぬるを。 南者は金剛山、 插天最も岐嶷たり。 尾を拖ひき海垠かいぎんに抵いたり、 蜿蜒として南域を畫くゎくす。 隱として城郭と似、 擁護す天王の國を。 想見す豫章公、 孤壘に群賊を扞ふせぎしを。 合圍す百萬の兵、 陣雲麓を繞めぐりて黑し。 臣豈に自ら惜まざらんや、 受託は面敕に由る。 泣を灑ぎて吾が旅に誓ふ: 君が爲に鬼蜮きよくを鏖みなごろしにせんと。 果然七尺の躯、 自ら回天の力有り。 宕叡たうえいは武庫に連なり、 江を隔てて正北に對す。 公の死は實に彼かに在り、 公に在りては臣職を盡くせるのみ。 惜しむ所は長城を壞ちて、 寧いづくんぞぞ大厦の仄かたむくを支へんや。 吾が行泉紀を歴へ、 往反大麓に縁る。 顧瞻こせんす山海の間、 慷慨して三たび大息す。 丈夫大節有れば、 天地頼って扶植す。 悠悠たる六百載、 姦雄迭たがひに起踣きぼくす。 一時人眼を塗るも、 史書の墨を洗ぐこと難かたし。 仰見す山色の蒼あをきを、 萬古淨きよきこと拭ぬぐふが如し。 |
四十九年しじふくねん一睡いっすゐの夢、 一期いちごの榮華えいぐゎ一盃いっぱいの酒。 |
野馬臺詩 寶誌
東海姫氏國、百世代天工。 右司爲輔翼、 衡主建元功。 初興治法事、 終成祭祖宗。 本枝周天壤、 君臣定始終。 谷填田孫走、 魚膾生羽翔。 葛後干戈動、 中微子孫昌。 白龍游失水、 窘急寄故城。 黄鷄代人食、 黑鼠喰牛腸。 丹水流盡後、 天命在三公。 百王流畢竭、 猿犬稱英雄。 星流飛野外、 鐘鼓喧國中。 靑丘與赤土、 茫茫遂爲空。 |
東海姫氏の國、 百世天工に代る。 右司輔翼と爲り、 衡主元功を建つ。 初めに治法の事を興おこし、 終つひに祖宗を祭るを成す。 本枝天壤てんじゃうに周あまねく、 君臣始終を定む。 谷填うづまりて田孫走り、 魚膾羽を生じて翔とぶ。 葛後干戈かんか動はたらき、 中微子孫昌さかんなり。 白龍游びて水を失ひ、 窘急きんきふ故城に寄る。 黄鷄人に代りて食はみ、 黑鼠牛腸を喰くらふ。 丹水流れ盡つきて後、 天命三公に在り。 百王の流畢をはり竭つき、 猿犬英雄を稱す。 星流野外に飛び、 鐘鼓國中に喧かまびすし。 靑丘と赤土と、 茫茫として遂つひに空くうと爲ならん。 |
山居を夢む 半世の功名一芥輕く、 衣を振り只だ歸耕に赴くを要す。 靑山は負かず舊時の約、 竹雨松風夢に入りて淸し。 |
野雪隱せっちんに至る 低たれんと欲して雪隱に臨めば、 雪隱の中に人有り。 咳拂せきばらひすれど尚なほ未いまだ出いでざりければ、 幾度いくたびか吾われ身振みぶるいす。 |
囚中作 高杉晉作
君不見死爲忠魂菅相公、 靈魂尚存天拜峰。 又不見 懷石投流楚屈平、 至今人悲汨羅江。 自古讒間害忠節、 忠臣思君不懷躬。 我亦貶謫幽囚士、 思起二公涙沾胸。 休恨空爲讒間死、 自有後世議論公。 |
囚中の作 君見ずや 死して忠魂と爲なる菅相公かんしゃうこう、 靈魂尚なほ存す天拜峰。 又た見ずや 石を懷いだきて流れに投ず楚の屈平くっぺい、 今に至るも人は悲しむ汨羅江べきらかう。 古いにしへ自より讒間ざんかん忠節を害そこなふも、 忠臣君を思ひて躬みを懷おもはず。 我も亦また貶謫へんたく幽囚いうしうの士、 二公を思ひ起こして涙胸を沾うるほす。 恨むを 自おのづから後世議論の公なる有らん。 |
田能村竹田墓碑の頌 摩詰まきつの再誕、 樂天の化身。 胸に邱壑きうがくを儲たくはへ、 腹に經綸けいりんを藏す。 偉なる哉かな大聖たいせい、 詩畫しぐゎ神しんに入る。 古往今來こわうこんらい、 天下一人いちじん。 |
獄中の作 二十六年夢裡に過ぎ、 顧かへりみて平昔を思へば感滋ますます多し。 天祥の大節嘗かつて心折し、 土室猶なほも吟ず正氣の歌。 |
示塾生 尾藤二洲
君曹欲爲士、須先成男子。 男子貴剛正、 陽道斯爲爾。 何乃近世人、 一與兒女似。 孳孳務言貌、 不務却爲恥。 男兒有當行、 可恥豈在此。 須去妾婦態、 速會剛正字。 良馬不在毛、 爲士在其志。 |
塾生に示す 君曹士爲たらんと欲ほっせば、 須すべからく先まづ男子と成るべし。 男子は剛正を貴び、 陽道斯これ爾しかと爲す。 何ぞ乃すなはち近世の人、 一もっぱら兒女與と似る。 孳孳じじとして言貌に務め、 務めざるを却かへって恥と爲す。 男兒は當まさに行ふこと有るべく、 恥づ可べきは豈あに此ここに在あらんや。 須すべからく妾婦の態を去り、 速すみやかに剛正の字を會すべし。 良馬は毛に在らず、 士爲たるは其の志に在り。 |
山嶽崩くづす可べく海飜ひるがへす可べくも、 消せず四十七臣の魂。 墳前滿地草苔濕ふは、 盡ことごとく是これ後人流涕の痕。 |
月を望みて鄕を望む 翹首げうしゅして東天を望み、 神しんは馳はす奈良の邊。 三笠山頂の上に、 想ふ又もや皓月かうげつ圓まどかならんと。 |
千古の屈平情豈に休せんや、 衆人此この日醉ゑひて悠悠いういうたり。 忠言耳に逆さからへど誰たれか能よく會くゎいせんや、 只だ湘江の順流を解する有るのみ。 |
謁楠河州墳有作 頼山陽
東海大魚奮鬛尾、蹴起黑波汚黼扆。 隱島風雲重慘毒、 六十餘州總鬼虺。 誰將隻手排妖氛、 身當百萬哮闞群。 揮戈擬回虞淵日、 執臿同劚即墨雲。 關西自有男子在、 東向寧爲降將軍。 旋乾轉坤答値遇、 洒掃輦道迎鑾輅。 論功睢陽最有力、 謾稱李郭安天歩。 出將入相位未班、 前狼後虎事復艱。 獻策帝閽不得達、 決志軍務豈生還。 且餘兒輩繼微志、 全家血肉殲王事。 非有南柯存舊根、 偏安北闕向何地。 攝山逶迤海水碧、 吾來下馬兵庫驛。 想見 訣兒呼弟來戰此 刀折矢盡臣事畢。 北向再拜天日陰、 七生人間滅此賊。 碧血痕化五百歳、 茫茫春蕪長大麥。 君不見君臣相圖 骨肉相呑、 九葉十三世 何所存。 何如忠臣孝子 萃一門 萬世之下一片石留無數英雄之涙痕。 |
楠河州の墳に謁して作有り 東海の大魚鬛尾れふびを奮ひ、 黑波を蹴起して黼扆ふいを汚けがす。 隱島の風雲重ねて慘毒、 六十餘州總じて鬼虺きき。 誰たれか隻手を將もって妖氛を排し、 身は當たる百萬哮闞かうかんの群。 戈ほこを揮ふつて回かへさんと擬す虞淵ぐゑんの日、 臿すきを執つて同じく劚ほる即墨そくぼくの雲。 關西自おのづから男子の在る有り、 東向寧あに降將軍と爲ならんや。 乾けんを旋めぐらし坤こんを轉じて値遇に答へ、 輦道れんだうを洒掃さいさうして鑾輅らんろを迎ふ。 功を論ずれば睢陽すゐやう最も力ありて、 謾みだりに稱す李郭天歩を安んずと。 出でては將入つては相位末だ班せず、 前狼後虎事復また艱なやむ。 策を帝閽ていこんに獻じて達するを得ず、 志を軍務に決す豈あに生還せんや。 且つ兒輩を餘して微志を繼がしめ、 全家の血肉王事に殲つくす。 南柯舊根を存する有るに非ずんば、 偏安の北闕何いづれの地にか向かはん。 攝山逶迤ゐいとして海水碧みどりなり、 吾來つて馬を下る兵庫の驛。 想見す 兒に訣わかれ弟を呼び來って此ここに戰ふを、 刀折れ矢盡きて臣が事畢をはる。 北向再拜すれば天日陰かげり、 七たび人間に生まれて此の賊を滅ぼさん。 碧血痕は化す五百歳、 茫茫ばうばうたる春蕪大麥を長ず。 君見ずや君臣相ひ圖り 骨肉相ひ呑むを、 九葉十三世 何の存する所ぞ。 何ぞ如しかんや忠臣孝子 一門に萃あつまり、 萬世の下一片の石に無數の英雄の涙痕を留むるに。 |
詠懷 高野蘭亭
寒暑互代謝、奄忽歳云除。 凝霜被庭樹、 百卉咸凋枯。 慄冽北風厲、 吹我蓬蓽居。 短褐不掩骭、 攬帶起踟蹰。 浮雲逝不返、 頽陽逼桑楡。 人生天地間、 少壯在斯須。 朱顏忽已改、 玄髮一何疎。 願借黄鵠翅、 高飛翔太虚。 |
懷を詠む 寒暑互ひに代謝し、 奄忽えんこつとして歳云ここに除す。 凝霜ぎょうさう庭樹を被おほひ、 百卉咸ことごとく凋枯てうこす。 慄冽りつれつとして北風厲はげしく、 我が蓬蓽ほうひつの居を吹く。 短褐骭すねを掩おほはず、 帶を攬とりて起ちて踟蹰ちちうす。 浮雲逝ゆきて返らず、 頽陽桑楡さうゆに逼せまる。 人天地に間かんに生まれて、 少壯斯須ししゅに在り。 朱顏忽たちまち已すでに改まり、 玄髮げんぱつ一いつに何ぞ疎なる。 願くは黄鵠くゎうこくの翅つばさを借りて、 高飛して太虚を翔あまがけん。 |