前赤壁賦
北宋・蘇軾
壬戌之秋、
七月既望、
蘇子與客泛舟
遊於赤壁之下。
清風徐來、
水波不興。
擧酒屬客、
誦『明月』之詩、
歌『窈窕』之章。
少焉、
月出於東山之上、
徘徊於斗牛之間。
白露橫江、
水光接天。
縱一葦之所如、
凌萬頃之茫然。
浩浩乎如馮虚御風、
而不知其所止;
飄飄乎如遺世獨立、
羽化而登仙。

於是飮酒樂甚、
扣舷而歌之。
歌曰:
「桂櫂兮蘭槳、
撃空明兮泝流光。
渺渺兮予懷、
望美人兮天一方。」
客有吹洞簫者、
倚歌而和之。
其聲鳴鳴然、
如怨如慕、
如泣如訴、
餘音嫋嫋、
不絶如縷、
舞幽壑之潛蛟、
泣孤舟之嫠婦。

蘇子愀然、
正襟危坐而問客曰
「何爲其然也?」
客曰:
「月明星稀烏鵲南飛
此非曹孟德之詩乎?
西望夏口、
東望武昌、
山川相繆、
鬱乎蒼蒼、
此非孟德之
困於周郞者乎?
方其破荊州、
下江陵、
順流而東也、
舳艫千里、
旌旗蔽空、
釃酒臨江、
橫槊賦詩、
固一世之雄也、
而今安在哉?
況吾與子
漁樵於江渚之上、
侶魚蝦而友麋鹿、
駕一葉之輕舟、
擧匏樽以相属;
寄蜉蝣於天地、
渺滄海之一粟。
哀吾生之須臾、
羨長江之無窮。
挾飛仙以遨遊、
抱明月而長終。
知不可乎驟得、
託遺響於悲風。」

蘇子曰:
「客亦知夫水與月乎
逝者如斯、
而未嘗往也;
盈虚者如彼、
而卒莫消長也。
蓋將自其變者而觀之
則天地曾不能以一瞬
自其不變者而觀之、
則物與我皆無盡也。
而又何羨乎!
且夫天地之間、
物各有主、
苟非吾之所有、
雖一毫而莫取。
惟江上之淸風與
山間之明月、
耳得之而爲聲、
目遇之而成色。
取之無禁、
用之不竭、
是造物者之無盡藏也
而吾與子之所共適。」

客喜而笑、
洗盞更酌。
肴核既盡、
杯盤狼藉。
相與枕藉乎舟中、
不知東方之既白。

 前・赤壁の賦

壬戌じんじゅつの秋、
七月既望きばう
蘇子客かくと舟を泛かべて
赤壁せきへきの下もとに遊ぶ。
淸風徐おもむろに來きたりて、
水波興おこらず。
酒を擧げ客に屬しょくして、
『明月』の詩を誦しょうし、
『窈窕えうてう』の章を歌ふ。
少焉しばらくして、
月東山とうざんの上に出で、
斗牛とぎうの間かんに徘徊はいくゎいす。
白露はくろかうに横よこたはりて、
水光すゐくゎう天に接す。
一葦の如く所に縱したがひて、
萬頃ばんけいの茫然ばうぜんたるを凌しのぐ。
浩浩乎(かうかうこ)かうかうことして(そら)()りて(かぜ)()り、
の止とどまる所を知らざるが如く;
飄飄乎へうへうことして世を遺わすれて獨立し、
羽化うくゎして登仙とうせんするが如し。

ここに於て酒を飮みて樂しむこと甚はなはだしく、
げんを扣たたきて之これを歌ふ。
歌に曰いはく:
「桂櫂けいたう蘭槳らんさう
空明くうめいを撃ちて流光りうくゎうに泝さかのぼる。
渺渺べうべうたる予が懷おもひ、
美人を天の一方いっぱうに望む」と。
客に洞簫どうせうを吹く者有り、
歌に倚りて之これに和す。
の聲鳴鳴然めいめいぜんとして、
うらむが如く慕ふが如く
泣くが如く訴うったふるが如し
餘音よいん嫋嫋でうでうとして、
絶えざること縷いとの如く、
幽壑いうがくの潛蛟せんかうを舞はしめ、
孤舟の嫠婦りふを泣かしむ。

蘇子愀然せうぜんとして、
えりを正し危坐きざして客に問ひて曰いはく:
「何爲なんすれぞ其れ然しかるや?」と。
客曰く:
「月明らかに星稀まれに、烏鵲うじゃく南飛す
れ曹孟德さうもうとくの詩に非ずや?
西のかた夏口かこうを望み、
東のかた武昌ぶしゃうを望めば、
山川相ひ繆まとひて、
鬱乎うつことして蒼蒼さうさうたり、
れ孟德もうとく
周郞しうらうに困くるしめられし者ところに非ずや?
の荊州けいしうを破り、
江陵かうりょうを下くだして、
流れに順したがひて東するに方あたりてや、
舳艫ぢくろ千里、
旌旗せいき空を蔽おほひ、
酒を釃みて江に臨み、
ほこを横たへて詩を賦す、
まことに一世の雄ゆうなれども、
而今じこんいづくに在りや?
いはんや吾われと子
江渚こうしょの上ほとりに漁樵ぎょせうして、
魚蝦(ぎょか)(とも)として麋鹿(びろく)を友とするをや、
一葉いちえふの輕舟に駕り、
匏樽はうそんを擧げて以もって相ひ屬しょくし;
蜉蝣ふいうを天地に寄す、
べうたる滄海さうかいの一粟いちぞくなり。
吾が生の須臾しゅゆたるを哀しみ、
長江の窮きはまり無きを羨うらやむ。
飛仙を挾わきばさみて以て遨遊がういうし、
明月を抱いだきて長終ちゃうしゅうせんことを。
にはかには得べからざるを知れば、
遺響ゐきゃうを悲風に託たくせり」と。

蘇子曰く:
「客も亦夫の水と月とを知るか?
く者は斯くの如くなれども、
未だ嘗かつて往かざるなり;
盈虚えいきょする者は彼かくの如くなれども、
つひに消長する莫きなり。
(けだ)し其の變ずる者より()って(これ)(くゎん)を觀ずれば、
(すなは)ち天地も(かっ)て以て一瞬なること(あた)はず;
の變ぜざる者より之これを觀くゎんずれば、
すなはち物と我と皆みなくる無きなり。
しかるを又何をか羨うらやまんや!
かつつ夫れ天地の間、
物各おのおのしゅ有り、
いやしくも吾われの有する所に非あらずんば、
一毫いちがうと雖いへども取ること莫し。
だ江上かうじゃうの淸風と
山間さんかんの明月とのみは、
耳之これを得て聲を爲し、
目之これに遇ひて色を成す、
之を取れども禁ずる無く
これを用ゐれども竭きず
れ造物者ざうぶつしゃの無盡藏むじんざうなり、
しかして吾われと子との共に適する所なり」と。

客喜びて笑ひ、
さかづきを洗ひて更に酌む。
肴核かうかくすでに盡きて、
杯盤はいばん狼藉らうぜきたり。
相ひ與ともに舟中に枕藉ちんしゃして、
東方の既すでに白しらむを知らず。

初挈家還讀書山
雜詩 金・元好問
并州一別三千里、
滄海橫流二十年。
休道不蒙稽古力、
幾家兒女得安全。

初めて家を挈たづさへて讀書山に還かへる 雜詩

并州へいしう一別いちべつ三千里、
滄海さうかい橫流わうりう二十年。
ふを休めよ稽古の力を蒙らずと、
幾家いくかの兒女じぢょか安全を得たる。

 初入淮河
楊萬里
中原父老莫空談、
逢着王人訴不堪。
卻是歸鴻不能語、
一年一度到江南。


 初めて淮河に入る

中原の父老空むなしく談ずる莫れ、
王人に逢着ほうちゃくして堪へざるを訴うったふ。
かへって是れ歸鴻きこう語る能あたはざるも、
一年に一度江南かうなんに到いたる。


書李世南所畫秋景
蘇軾
野水參差落漲痕、
疎林欹倒出霜根。
扁舟一棹歸何處、
家在江南黄葉村。

 李世南の畫く所の『秋景』に書す

野水參差しんしとして漲痕ちゃうこん落ち、
疎林欹倒きたうして霜根さうこんを出だす。
扁舟へんしう一棹いったういづれの處にか歸る、
家は江南黄葉くゎうえふの村に在り。

 淮中晩泊犢頭
蘇舜欽
春陰垂野草靑靑、
時有幽花一樹明。
晩泊孤舟古祠下、
滿川風雨看潮生。

 淮中にて晩に犢頭に泊す

春陰野に垂れて草青青たり、
時に幽花の一樹に明らかなる有り。
晩に孤舟を泊す古祠の下、
滿川の風雨潮の生ずるを看る。

雨中登岳陽樓 望君山 黄庭堅
 雨中岳陽樓に登りて君山を望む
投荒萬死鬢毛斑、
生出瞿塘灧澦關。
未到江南先一笑、
岳陽樓上對君山。
くゎうに投じ萬死鬢毛びんまうまだらなり、
生きて瞿塘くたうの灧澦えんよくゎんを出づ。
いまだ江南に到らざるに先づ一笑し、
岳陽樓がくやうらう上君山くんざんに對す。

讀張魏公傳有感曲端 明・江盈科
 張ちゃう魏公ぎこう傳を讀みて曲端きょくたんに感有り
子聖焉能蓋父凶、
曲端冤與岳飛同。
何人爲立將軍廟、
也把烏金鑄魏公。
()聖なれども(いづく)んぞ能く父の凶なるを(おほ)はん、
曲端きょくたんの冤ゑんは岳飛がくひと同じ。
何人なんぴとか將軍の廟べうを立て、
()烏金(うきん)()ちて魏公(ぎこう)()るを()さん。

 送呂卿
明・高啓
遠汀斜日思悠悠、
花拂離觴柳拂舟。
江北江南芳草徧、
送君併得送春愁。


 呂卿を送る

遠汀ゑんてい斜日しゃじつ思ひ悠悠いういう
花は離觴りしゃうを拂ひ柳は舟を拂ふ。
江北江南芳草はうさうあまねく、
君を送りて併あはせて得たり春愁を送るを。


 廬山煙雨
北宋・蘇軾
廬山煙雨浙江潮、
未到千般恨不消。
到得還來無別事、
廬山煙雨浙江潮。


 廬山の煙雨

廬山の煙雨浙江の潮、
未だ到らざれば千般恨消えず。
到り得還り來れば別事無し、
廬山の煙雨浙江の潮。


 征夫詞
明・劉績
征夫語征婦、
死生不可知。
欲慰泉下魂、
但視褓中兒。


 征夫の詞ことば

征夫征婦に語かたる:
「死生ししゃう知る可からず。
泉下せんかの魂こんを慰めんと欲ほっすれば、
だ視よ褓はう中の児を」と。


 征婦詞
明・劉績
征婦語征夫、
有身當殉國。
君爲塞下土、
妾作山頭石。


 征婦の詞ことば

征婦征夫に語かたる:
「身有れば當まさに國に殉じゅんずべし。
君塞下さいかの土と爲らば、
せふ山頭の石と作らん。」と


 春雁
明・王恭
春風一夜到衡陽、
楚水燕山萬里長。
莫怪春來便歸去、
江南雖好是他鄕。




春風しゅんぷう一夜いちや衡陽かうやうに到る、
楚水そすゐ燕山えんざん萬里ばんり長し。
怪しむ(なか)れ春(きた)れば便(すなは)歸去(ききょ)するを、
江南は好しと雖いへども是れ他鄕。


 送周判官
明・李夢陽
明燈綠酒五花裘、
客舎新秋螢火流。
問君不飮眞何事、
明日出城風葉愁。


 周判官を送る

明燈めいとう綠酒りょくしゅ五花ごくゎの裘きう
客舎かくしゃ新秋螢火けいくゎ流る。
君に問ふ:「飮まざるは眞まことにぞ、
明日城じゃうを出でなば風葉ふうえふうれへん。


 巴陽夜泊
明・施敬
獨棹三巴夜、
天高片月孤。
淮聲將客夢、
萬里下東呉。




獨棹どくたう三巴さんばの夜、
天高くして片月へんげつ孤なり。
淮聲わいせい客夢かくむに將び、
萬里ばんり東呉に下くだる。


 題宮女圖
明・高啓
女奴扶醉踏蒼苔、
名月西園侍宴廻。
小犬隔花空吠影、
夜深宮禁有誰來。


 宮女の圖に題す

女奴ぢょどすゐを扶たすけて蒼苔さうたいを踏み、
名月西園せいゑんに宴に侍して廻めぐる。
小犬花を隔へだてて空むなしく影に吠え、
夜深くして宮禁きゅうきんに誰たれか来きたる有り。


 除夕
明・金鑾
還憶去年辭白下、
卻憐今夕在黄州。
空江積雪添雙鬢、
細雨疏燈共一樓。
世難久拚魚雁絶、
家貧常爲稻梁謀。
歸來故舊多凋喪、
愁對東風感舊遊。



ほ憶おもふ去年白下はくかを辭して、
かへって憐む今夕こんせき黄州に在るを。
空江くうかう積雪雙鬢さうびんに添へ、
細雨疏燈そとう一樓を共ともにす。
なんにして久しく拚てて魚雁ぎょがん絶え、
いへひんにして常に為す稻梁たうりゃうの謀はかりごとを。
歸り來きたれば故舊こきう凋喪てうさう多く、
うれひて東風とうふうに對し舊遊きういうに感ず。

 題畫犬
明・高啓
猧兒初長尾茸茸、
行響金鈴細草中。
莫向瑤階吠人影、
羊車半夜出深宮。

 畫の犬に題す

猧兒わじ初めて長ちゃうじ尾茸茸じょうじょうとして、
きて金鈴きんれいを響かす細草さいさうの中。
瑤階えうかいの人影に向かひて吠ゆる莫なかれ、
羊車やうしゃ半夜に深宮しんきゅうを出づ。

 題秋江圖
元・倪瓉
長江秋色渺無邊、
鴻雁來時水拍天。
七十二灣明月夜、
荻花楓葉覆漁船。

 秋江の圖に題す

長江の秋色渺べうとして邊へん無く、
鴻雁こうがんきたる時水みづ天を拍つ。
七十二灣明月の夜よる
荻花てきくゎ楓葉ふうえふ漁船を覆おほふ。

 杭州雨中
~元・趙孟頫
江南十日九陰雨、
花柳欲開無好春。
卻憶京城二三月、
秋千風暖漲香塵。




江南かうなんは十日に九の陰雨いんう
花柳(くゎりう)(ひら)かんと(ほっ)すれども好春(かうしゅん)無し。
かへって憶おもふ京城けいじゃうの二三月、
秋千しうせん風暖かにして香塵かうぢんみなぎるを。


逢呉秀才復歸江上
明・高啓
江上停舟問客蹤、
亂前相別亂餘逢。
暫時握手還分手、
暮雨南陵水寺鐘。


 呉秀才しうさいに逢ひ復た江上かうじゃうに歸る

江上かうじゃう舟を停とどめて客蹤かくしょうを問ふ、
亂前相ひ別れて亂餘らんよに逢ふ。
暫時ざんじ手を握にぎりて還た手を分かつ、
暮雨ぼうの南陵なんりょう水寺すゐじの鐘。


守居園池雜題
望雲樓 北宋 文同
巴山樓之東、
秦嶺樓之北。
樓上卷簾時、
滿樓雲一色。


 園池に守居しての雜題
 望雲樓
巴山はざんは樓の東、
秦嶺しんれいは樓の北。
樓上ろうじゃうれんを卷くの時、
樓に滿つ雲一色。


月子彎彎照九州
南宋民歌
月子彎彎照九州、
幾家歡樂幾家愁。
幾家夫婦同羅帳、
幾家飄零在外頭。


 月子げつし彎彎わんわんとして九州きうしうを照らす

月子げつし彎彎わんわんとして九州きうしうを照らし、
幾家いくかか歡樂して幾家か愁うれふる。
幾家の夫婦か羅帳らちゃうを同じうし、
幾家か飄零へうれいして外頭に在らん。


 柳絮
南宋・居簡
輕輕漠漠又斜斜、
去作靑萍漾水涯。
院落晩風閑意緒、
合分一半與梨花。

 柳絮りうじょ

輕輕けいけい漠漠ばくばくた 斜斜しゃしゃ
去りて青萍せいへいと作りて水涯すゐがいに漾ただよふ。
院落ゐんらく晩風ばんぷう意緒いしょかんに、
(まさ)一半(いっぱん)()かちて梨花(りくゎ)(あた)ふべし。

 在北題壁
北宋・徽宗
徹夜西風撼破扉、
蕭條孤館一燈微。
家山回首三千里、
目斷天南無雁飛。


 北に在りて壁に題す

を徹して西風せいふう破扉はひを撼うごかし、
蕭條せうでうたる 孤館こくゎん一燈いっとうかすかなり。
家山かざんかうべを回めぐらすこと三千里、
天南てんなんを目斷もくだんすれば雁がんの飛ぶ無し。


 豐樂亭遊春
北宋・歐陽脩
紅樹靑山日欲斜、
長郊草色綠無涯。
遊人不管春將老、
來往亭前踏落花。


 豐樂亭にて春を遊ぶ

紅樹こうじゅ青山せいざん斜めならんと欲ほっし、
長郊ちゃうかうの草色さうしょくみどりはて無し。
遊人いうじんくゎんせず春はるまさに老いんとするを、
亭前を來往らいわうして落花らっくゎを踏む。


 題畫
元・薩都剌
綠樹陰藏野寺、
白雲影落溪船。
遮卻靑山一半、
只疑僧舍茶煙。


 畫に題す

綠樹陰かげに野寺やじを藏ざうし、
白雲影かげは溪船けいせんに落とす。
青山の一半を遮卻しゃきゃくするは、
だ僧舍の茶煙さえんかと疑ふ。


 塞上
北宋・柳開
鳴骹直上一千尺、
天靜無風聲更乾。
碧眼胡兒三百騎、
盡提金勒向雲看。




鳴骹めいかう直ちに上る一千尺、
天靜かに風無く聲更に乾かはく。
碧眼へきがんの胡兒こじ三百騎、
(ことごと)金勒(きんろく)(ひきし)めて雲に向かひて看る。


 暑夜
明・釈宗泐
此夜炎蒸不可當、
開門高樹月蒼蒼。
天河只在南樓上、
不借人閒一滴涼。



の夜炎蒸えんじょうたる可からず、
門を開けば高樹かうじゅつき蒼蒼さうさう
天河てんがは只だ南樓の上に在りて、
人閒じんかんに借さず一滴の涼りゃうをも。

 亂後
明・辛愿
兵去人歸日、
花開雪霽天。
川原荒宿草、
墟落動新煙。
困鼠鳴虚壁、
飢烏啄廢田。
似聞人語亂、
縣吏已催錢。




兵去り人歸りし日、
花開き雪霽るるの天。
川原宿草荒れ、
墟落新煙動く。
困鼠虚壁に鳴き、
飢烏廢田に啄む。
人語の亂るるを聞くに似たるは、
縣吏已に錢を催す。


 商鞅
北宋・王安石
自古驅民在信誠、
一言爲重百金輕。
今人未可非商鞅、
商鞅能令政必行。


 商鞅しゃうあう

いにしへより民たみを驅るは信誠しんせいに在り、
一言重きと爲して百金輕かろし。
今人(きんじん)(いま)商鞅(しゃうあう)()とす()からざるは、
商鞅しゃうあうく政をして必ず行はれ令めたり。


 病中雜詠
元・薩都剌
爲客家千里、
思歸月滿樓。
木犀開欲盡、
病裏過中秋。



かくと爲る家千里、
かへるを思へば月つき樓に滿つ。
木犀もくせい開きて盡きんと欲し、
病裏に中秋ちゅうしうを過ぐ。

 築城詞
明・高啓
去年築城卒、
霜壓城下骨;
今年築城人、
汗灑城下塵。
大家舉杵莫住手、
城高不用官軍守。



去年築城の卒そつ
霜は壓あっす城下じゃうかの骨を;
今年こんねん築城の人、
汗は灑そそぐ城下の塵に。
大家たいか杵を舉げて手を住とどむる莫なかれ、
しろ高ければ官軍の守るを用もちゐず。

 遠別曲
明・謝榛
郎君幾載客三秦、
好憶儂家漢水浜。
門前両株烏桕樹、
叮嚀説向寄書人。


 遠別の曲

郎君らうくん幾載いくとしか三秦さんしんに客かくし、
く憶おもふ儂家のうか漢水かんすゐの濱ひん
門前兩株の烏桕うきうの樹
叮嚀ていねいに書しょを寄する人に向かひて説く。


 池上納涼
明・高啓
畫欄斜度水螢光、
荷葉荷花各有香。
團扇不搖風露下、
秋應先借一宵涼。


 池上の納涼

畫欄ぐゎらん斜めに度わたる水螢すゐけいの光、
荷葉かえふ荷花かくゎ各ゝおのおの香有り。
團扇搖あふがず風露の下、
秋は應まさに先づ借したるべし一宵の涼を。


 遊園不値
南宋・葉紹翁
應憐屐齒印蒼苔、
小扣柴扉久不開。
春色滿園關不住、
一枝紅杏出牆來。

 遊園せんとして値へず

まさに憐むべし屐齒げきしの蒼苔に印するを、
柴扉さいひを小扣せうこうすれども久しく開かず。
春色園に滿ちて關すれども住せず、
一枝の紅杏こうきゃうしゃうより出で來きたる。

 題李陵泣別圖
明・袁凱
上林木落雁南飛、
萬里蕭條使節歸。
猶有交情兩行涙、
西風吹上漢臣衣。


 李陵の泣別の圖に題す

上林じゃうりん落ちて雁がん南飛し、
萬里蕭條せうでうとして使節歸る。
ほ交情兩行の涙有り、
西風せいふう吹き上のぼる漢臣の衣ころもに。


 過臨平蓮蕩
南宋・楊萬里
人家星散水中央、
十里芹羹菰飯香。
想得薰風端午後、
荷花世界柳絲鄕。


 臨平りんぺいの蓮蕩れんたうを過

人家星散せいさんす水の中央、
十里の芹羹きんかう菰飯こはんかんばし。
想ひ得たり薰風くんぷう端午たんごの後のち
荷花の世界柳絲りうしの鄕。


 金陵驛
南宋・文天祥
草合離宮轉夕暉、
孤雲飄泊復何依。
山河風景元無異、
城郭人民半已非。
滿地蘆花和我老、
舊家燕子傍誰飛。
從今別卻江南路、
化作啼鵑帶血歸。




草は離宮を合とざして夕暉せききを轉じ、
孤雲飄泊へうはくして復た何いづこにか依らん。
山河風景元もと異なる無きも、
城郭人民半ば已すでに非なり。
滿地の蘆花ろくゎは我と和ともに老い、
舊家の燕子えんしは誰たれに傍ひてか飛ぶ。
今より別れ卻る江南の路、
化して啼鵑ていけんと作りて血を帶びて歸らん。



 陶者
北宋・梅堯臣
陶盡門前土、
屋上無片瓦。
十指不霑泥、
鱗鱗居大廈。






き盡くす門前の土、
屋上片へんぐゎ無し。
十指泥に霑らさずして、
鱗鱗りんりん大廈たいかに居きょす。

 蠶婦
北宋・張俞
昨日入城市、
歸來涙滿巾。
遍身羅綺者、
不是養蠶人。



昨日さくじつじゃうの市いちに入り、
歸り來きたりて涙巾きんに滿たす。
遍身へんしん羅綺らきの者は、
れ養蠶やうさんの人ならず。

 和題烏江亭
北宋・王安石
百戰疲勞壯士衰、
中原一敗勢難廻。
江東子弟今雖在、
肯與君王卷土來。



百戰疲勞して壯士衰おとろへ、
中原ちゅうげんの一敗勢いきほひめぐらし難がたし。
江東子弟今在りと雖いへども、
へて君王の與ために卷土し來らんや。

 秋日東村偶題
明・李攀龍
五柳靑靑醉裏春、
那能長作折腰人。
情知縱酒非生事、
昨日罷官今日貧。




五柳靑靑せいせいたり醉裏すゐりの春、
なんぞ能く長とこしへに折腰せつえうの人と作らん。
まことに知る縱酒しょうしゅは生事に非ずと、
昨日官を罷めて今日貧す。


 懊憹歌
明・劉基
白鵶養雛時、
夜夜啼達曙。
如何羽翼成、
各自東西去。


 懊憹あうなうの歌

白鵶はくあひなを養ふ時、
夜夜ややきて曙あけぼのに達す。
如何いかんぞ羽翼うよく成りて、
各自東西に去る。


 病中雜詠
元・薩都剌
風葉高下落、
秋砧遠近聞。
天涯多病客、
倚杖看孤雲。




風葉ふうえふ高下かうげして落ち、
秋砧しうちん遠近ゑんきんに聞こゆ。
天涯てんがい多病たびゃうの客かく
杖に倚りて孤雲を看る。


於郡城 送明卿之江西 明・李攀龍
 郡城に於いて明卿めいけいの江西かうせいに之くを送る
青楓颯颯雨凄凄、
秋色遙看入楚迷。
誰向孤舟憐逐客、
白雲相送大江西。
青楓せいふう颯颯さつさつとして雨凄凄せいせいたり、
秋色しうしょくはるかに看る楚に入りて迷ふ。
たれか孤舟こしうに向かひて逐客ちくかくを憐あはれむ、
白雲相ひ送る大江たいかうの西に。

 橫塘
南宋・范成大
南浦春來綠一川、
石橋朱塔兩依然。
年年送客橫塘路、
細雨垂楊繫畫船。




南浦なんぽ春來しゅんらいりょく一川いっせん
石橋せきけう朱塔しゅたふふたつながら依然たり。
年年客かくを送る橫塘わうたうの路、
細雨さいう垂楊すゐやう畫船ぐゎせんを繫つなぐ。


 秋日雜興
明・何景明
柏林楓岸迥宜看、
楊柳芙蓉不禁寒。
最愛高樓好明月、
莫敎長笛倚闌干。




柏林はくりん楓岸ふうがんはるかにして看るに宜よろし、
楊柳やうりう芙蓉ふようかんに禁へず。
最も愛す高樓かうろうの好かう明月、
長笛(ちゃうてき)をして闌干(らんかん)()()むる(なか)れ。


 探春
北宋・戴益
盡日尋春不見春、
杖藜踏破幾重雲。
歸來試把梅梢看、
春在枝頭已十分。


 春を探さぐ

盡日じんじつ春を尋たづねて春を見ず、
杖藜ぢゃうれい踏破たふはす幾いくちょうの雲。
歸來きらい試みに梅梢ばいせうを把って看れば、
春は枝頭しとうに在りて已すでに十分。


夜宿天池月下聞雷
明・王陽明
昨夜月明峰頂宿、
隱隱雷聲在山麓。
曉來却問山下人、
風雨三更捲茅屋。


 夜天池に宿し月下に雷を聞く

昨夜月明げつめい峰頂ほうちょうに宿しゅくし、
隱隱いんいんたる雷聲らいせい山麓さんろくに在り。
曉來げうらいかへって問ふ山下さんかの人:
「風雨ふうう三更さんかう茅屋ばうをくを捲けり」と。


 一溪
金・段繼昌
一溪流水走靑蛇、
春在江邊漁父家。
竹外寒梅看欲盡、
淸香移入小桃花。



一溪いっけいの流水りうすゐ青蛇せいだを走らせ、
春は江邊かうへん漁父ぎょほの家に在り。
竹外ちくがいの寒梅かんばいれば盡きんと欲ほっし、
淸香せいかう移り入る小せう桃花に。