題壁
無名氏
白塔橋邊賣地經、
長亭短驛甚分明。
如何只説臨安路、
不較中原有幾程。

 壁に題す

白塔橋邊地經を賣り、
長亭短驛甚はなはだだ分明なり。
如何いかんぞ只だ説く臨安の路、
中原まで幾いくばくの程有るかを較あきらかにせず。

 江陰浮遠堂
戴復古
橫岡下瞰大江流、
浮雲堂前萬里愁。
最苦無山遮望眼、
淮南極目盡神州。


 江陰の浮遠堂

橫岡より下瞰すれば大江は流れ、
浮雲堂前萬里愁ふ。
最も苦しむは山の望眼を遮る無く、
淮南極目すれば盡ことごとく神州。


 鄕思
李覯
人言落日是天涯、
望極天涯不見家。
已恨碧山相阻隔、
碧山還被暮雲遮。




人は言ふ日の落つるは是れ天涯と、
天涯を望極すれば家を見ず。
すでに碧山の相ひ阻隔するを恨むに、
碧山還ほまた暮雲に遮らる。


 在金日作
宇文虚中
遙夜沈沈滿幕霜、
有時歸夢到家鄕。
傳聞已築西河館、
自許能肥北海羊。
回首兩朝倶草莽、
馳心萬里絶農桑。
人生一死渾閒事、
裂眥穿胸不汝忘。

 在金の日の作

遙けき夜沈沈として幕に滿つる霜、
時有りて歸夢家鄕かきゃうに到る。
傳へ聞く已すでに西河館を築かれしを、
みづから許す能く北海の羊を肥やすを。
かうべを回らせば兩朝倶ともに草莽さうまう
心を馳す萬里農桑を絶てるを。
人生一死渾すべて閒事、
(まなじり)を裂かれ胸を穿(うが)たるるも(なんぢ)を忘れず。

 淮村兵後
戴復古
小桃無主自花開、
煙草茫茫帶晩鴉。
幾處敗垣圍故井、
向來一一是人家。



小桃主あるじ無くして自ら花開き、
煙草茫茫ばうばうとして晩鴉を帶ぶ。
幾處かの敗垣はいゑん故井こせゐを圍かこみ、
向來一一是れ人家。

寄江南故人
家鉉翁
曾向錢塘住、
聞鵑憶蜀鄕。
不知今夕夢、
到蜀到錢塘。

 江南の故人に寄す

かつて錢塘せんたうに向おいて住みしとき、
けん・ほととぎすを聞かば蜀鄕しょくきゃうを憶おもへり。
知らず今夕こんせきの夢、
しょくに到るか錢塘せんたうに到るかを。

 秋日即事
周密
絡緯聲聲織夜愁、
酸風吹雨水邊樓。
堤楊脆盡黄金縷、
城裏人家未覺秋。



絡緯らくゐ聲聲せいせい夜に愁うれひを織り、
酸風雨を吹く水邊の樓。
堤楊ていやうもろくも盡きたり黄金の縷いと
城裏じゃうりの人家は未だ秋を覺おぼえず。

 錢塘懷古
眞山民
嗚咽江流帶恨聲、
不堪重上浙江亭。
東風吹起繁華跡、
惟有呉山似舊靑。



嗚咽せる江流恨を帶ぶ聲、
重ねて浙江亭に上るに堪へず。
東風吹き起す繁華の跡、
惟だ呉山の舊に似て靑に有り。

 田家行
高啓
草茫茫、水汨汨。
上田蕪、下田沒。
中田有禾穗不長、
狼藉只供鳬雁糧。
雨中摘歸半生濕、
新婦舂炊兒夜泣。



草茫茫ばうばうとして、水汨汨こつこつたり。
上田蕪れ、下田沒す。
中田禾いね有るも穗長ぜず、
狼藉らうぜき只だ鳬雁ふがんの糧かてに供すのみ。
雨中摘みて歸り半生濕り、
新婦舂炊しょうすゐせんとして兒夜に泣く。

 題桂花美人
高啓
桂花庭院月紛紛、
按罷霓裳酒半醺。
折得一枝攜滿袖、
羅衣今夜不須熏。

 桂花美人に題す

桂花けいくゎの庭院月紛紛ふんぷん
霓裳げいしゃうを按あんじ罷みて酒半ば醺くんず。
一枝を折り得て携たづさへれば袖に満ち、
羅衣らい今夜熏くんずるを須もちゐず。

 塞下曲
高啓
日落五原塞、
蕭條亭堠空。
漢家討狂虜、
籍役滿山東。
去年出飛狐、
今年出雲中。
得地不足耕、
殺人以爲功。
登高望衰草、
感歎意何窮。


 塞下の曲

日は落つ五原の塞、
蕭條せうでうたり亭堠ていこうの空。
漢家狂虜きゃうりょを討ち、
籍役せきえき山東に滿つ。
去年飛狐ひこを出で、
今年雲中うんちゅうを出づ。
地を得るも耕すに足らず、
人を殺し以て功と爲す。
高きに登り衰草すゐさうを望まば、
感歎意何ぞ窮きはまらん。


 和陶飮酒
蘇軾
我不如陶生、
世事纏綿之。
云何得一適、
亦有如生時。
寸田無荊棘、
佳處正在茲。
縱心與事往、
所遇無復疑。
偶得酒中趣、
空杯亦常持。

 陶の『飮酒』に和す

我は陶生に如かず
世事之これに纏綿す。
云何いかんぞ一適を得るに、
亦た生の時の如有らん。
寸田荊棘無く、
佳處正に茲ここに在り。
心を縱ほしいままに事と往かしめ、
ふ所復た疑ふこと無からん。
たまたま酒中の趣おもむきを得たれば、
空杯亦た常に持す。

 題西林壁
蘇軾
橫看成嶺側成峰、
遠近高低各不同。
不識廬山真面目、
只縁身在此山中。

 西林の壁に題す

橫ざまに看れば(れい)と成り(かたは)らよりは (ほう)と成る、
遠近高低各おのおの同じからず。
廬山ろざんの真面目を 識らざるは、
ただ身の此の山中に在るに縁る。

 客意
元好問
雪屋灯靑客枕孤、
眼中了了見歸途。
山間兒女應相問、
十月初旬得到無?



雪屋灯靑くして客枕かくちん孤なり、
眼中了了れうれうとして歸途を見る。
山間兒女應まさに相ひ問ふべし、
十月初旬到るを得んこと無からんや

 牡丹
陳與義
一自胡塵入漢關、
十年伊洛路漫漫。
靑墩溪畔龍鐘客、
獨立東風看牡丹。



一たび胡塵こぢん漢關に入りて自り、
十年伊洛いらく路漫漫たり。
靑墩せいとん溪畔龍鐘りょうしょうの客、
ひとり東風に立ちて牡丹ぼたんを看る。

 初入淮河
楊萬里
船離洪澤岸頭沙、
人到淮河意不佳。
何必桑乾方是遠、
中流以北即天涯。

 初めて淮河に入る

船は離る洪澤こうたく岸頭の沙、
人淮河わいがに到りて意佳ならず。
何ぞ必ずしも桑乾さうかんまさに是れ遠しとせん、
中流以北は即すなはち天涯。

 三衢道中
南宋・曾幾
梅子黄時日日晴、
小溪泛盡却山行。
綠陰不減來時路、
添得黄鸝四五聲。



梅子黄ばむ時日日晴れ、
小溪泛うかべ盡くして却かへって山行す。
綠陰減げんぜず來時の路、
添へ得たり黄鸝くゎうりの四五聲。

 登岳陽樓
南宋・陳與義
洞庭之東江水西、
簾旌不動夕陽遲。
登臨呉蜀橫分地、
徙倚湖山欲暮時。
萬里來遊還望遠、
三年多難更憑危。
白頭弔古風霜裏、
老木蒼波無限悲。

 岳陽樓に登る

洞庭の東江水かうすゐの西、
簾旌れんせい動かず夕陽せきやう遲し。
登臨す呉蜀ごしょく橫分の地、
徙倚しいす湖山暮れんと欲する時。
萬里來遊して還かへって遠くを望み、
三年難多く更に危たかきに 憑る。
白頭古を弔ふ風霜の裏うち
老木蒼波さうは無限の悲しみ。

初挈家還讀書山 雜詩 金・元好問
 初めて家を挈ひっさげて讀書山に還かへる 雜詩
眼中華屋記生存、
舊時無人可共論。
老樹婆娑三百尺、
靑衫還見讀書孫。
眼中の華屋くゎをく生存を記するも、
舊時人の共に論ず可き無し。
老樹婆娑ばさたり三百尺、
靑衫せいさんた書を讀む孫を見ん。

   千里爲重
堯山堂外紀 明太祖・監生
千里爲重、
重山重水重慶府
一人是大、
大邦大國大明君。












千里は重おもしと 爲す、
ちょう山重ちょう水重ぢゅう慶府けいふ
いちじんは是れ大なり、
大邦大國大明君。

 歎老
沈存中(沈括)
唯覓少年心不得、
當時感舊已潸然。
情懷此日君休問、
又老當時二十年。

 老いを歎く

だ少年を覓もとむるも心に得ず、
當時舊きうに感じて已すでに 潸然さんぜん
情懷じゃうくゎいの日君きみ問ふことを休めよ、
また當時より老いたること二十年。

 再到洛陽
康節(邵康節)
當年曾是青春客、
今日重來白髮翁。
今日當年成一世、
幾多興替在其中。

 再び洛陽に到る

當年たうねんかつて是れ靑春の客かく
今日こんにちかさねて來きたる白髮の翁をう
今日當年一世いっせいを成し、
幾多の興替こうたい其中そのなかに在り。

 秋江寫望
林逋
蒼茫沙觜鷺鶿眠、
片水無痕浸碧天。
最愛蘆花經雨後、
一篷煙火飯漁船。


 秋江望を寫す

蒼茫さうばうたる沙觜さしに鷺鶿ろじ眠り、
片水へんすゐあと無く碧天へきてんを浸ひたす。
最も愛す蘆花ろくゎ雨を經たる後のち
一篷いっぽうの煙火漁船に飯はんするを。


 呉山
完顏亮
萬里車書盡混同、
江南豈有別疆封。
提兵百萬西湖上、
立馬呉山第一峰。



萬里の車書しゃしょことごとく混同し、
江南豈あに疆封きゃうほうの別べつ有らんや。
兵百萬を提ぶ西湖の上ほとり
馬を立てん呉山ござんの第一峰。

 夏日
寇準
離心杳杳思遲遲、
深院無人柳自埀。
日暮長廊聞燕語、
輕寒微雨麥秋時。



離心りしん杳杳えうえうおもひ遲遲ちちたり、
深院しんゐん人無く柳自らおのづかる。
日暮にちぼ長廊ちゃうらう燕語えんごを聞く、
輕寒けいかん微雨びう麥秋ばくしうの時。

 西樓
曾鞏
海浪如雲去卻囘、
北風吹起數聲雷。
朱樓四面鉤疏箔、
臥看千山急雨來。




海浪かいらう雲の如く去りて卻またかへる、
北風ほくふう吹き起おこす數聲の雷らい
朱樓の四面に疏箔そはくを鉤こうし、
ぐゎして看る千山に急雨の來きたるを。


 梅花
王安石
牆角數枝梅、
凌寒獨自開。
遙知不是雪、
爲有暗香來。




牆角しゃうかく數枝の梅、
寒を凌しのぎて獨り自ひとみづから開く。
遙かに知る是れ雪ならず、
暗香あんかうの來きたる有るが爲ためなり。


 戊辰即事
劉克莊
詩人安得有靑衫、
今歳和戎百萬縑。
從此西湖休插柳、
剩栽桑樹養呉蠶。


 戊辰ぼしん即事

詩人安いづくんぞ靑衫せいさん有るを得ん、
今歳戎じゅうに和するに百萬の縑けん
此從これより西湖柳を插すを休め、
剩へあまつさ桑樹さうじゅを栽ゑて呉蠶ごさんを養はん。


 琵琶亭
戴復古
潯陽江頭秋月明、
黄蘆葉底秋風聲。
銀龍行酒送歸客、
丈夫不爲兒女情。
隔船琵琶自愁思、
何預江州司馬事。
爲渠感激作歌行、
一寫六百六十字。
白樂天、白樂天。
平生多爲達者語、
到此胡爲不釋然。
弗堪謫宦便歸去、
廬山政接柴桑路。
不尋黄菊伴淵明、
忍泣靑衫對商婦。




潯陽じんやう江頭かうとう秋月しうげつ明かに、
黄蘆葉底くゎうろえふてい秋風の聲。
銀龍ぎんりょう酒を行めぐらして歸客を送るも、
丈夫じゃうふは兒女じぢょの情を爲さず。
隔船かくせんの琵琶びはみづから愁思するも、
何ぞ預あづからん江州がうしう司馬しばの事に。
かれが爲ために感激して歌行かかうを作ること、
一寫いっしゃす六百六十字。
白樂天はくらくてん、白樂天はくらくてん
平生へいぜい多く達者たっしゃの語を爲すも、
ここに到りて胡爲なんすれぞ釋然しゃくぜんたらざる。
謫宦たくくゎんに堪へざれば便すなはち歸去ききょせよ、
廬山ろざんは政まさに接す柴桑さいさうの路に。
たづねず黄菊くゎうぎくの淵明えんめいに伴ともなふを、
忍び泣きて靑衫せいさん商婦に對すとは。


癸巳五月三日
北渡三首其一 元好問
道傍僵臥滿纍囚、
過去旃車似水流。
紅粉哭隨回鶻馬、
爲誰一歩一廻頭。

 癸巳きし五月三日
 北渡 三首其の一
道傍だうばうに僵臥きゃうぐゎせる纍囚るゐしう滿ち、
過ぎ去る旃車せんしゃは水の流るるに似たり。
紅粉こうふんこくして隨したがふ回鶻くゎいこつの馬、
が爲にか一歩に一廻頭くゎいとうす。

癸巳五月三日
北渡三首其三 元好問
白骨縱橫似亂麻、
幾年桑梓變龍沙。
只知河朔生靈盡、
破屋疎煙却數家。


 癸巳きし五月三日
 北渡 三首其の三
白骨縱横じゅうわう亂麻らんまに似て、
幾年ぞ桑梓さうし龍沙りょうさに變じたる。
だ知る河朔かさく生靈せいれいくと、
破屋はをく疎煙そえんかへって數家。


 夏夜追涼
楊萬里
夜熱依然午熱同、
開門小立月明中。
竹深樹密蟲鳴處、
時有微涼不是風。

 夏夜かや涼を追ふ

夜熱やねつ依然として午熱ごねつに同じ、
門を開け小しばらく立つ月明げつめいの中。
竹深く樹みつにして蟲鳴く處ところ
時に微涼びりゃう有るも是れ風ならず。

 和孔密州五絶
東欄梨花 蘇軾
梨花淡白柳深靑、
柳絮飛時花滿城。
惆悵東欄一株雪、
人生看得幾淸明。

 孔密州こうみっしうの五絶に和す 東欄の梨花

梨花りかは淡白たんぱく柳は深靑しんせい
柳絮りうじょ飛ぶ時花城じゃうに滿つ。
惆悵ちうちゃうす東欄一株いっしゅの雪、
人生看得みうるは幾いく淸明せいめい

 呈寇公
蒨桃
一曲淸歌一束綾、
美人猶自意嫌輕。
不知織女螢窗下、
幾度抛梭織得成。

 寇公に呈す

一曲の淸歌一束の綾、
美人は猶ほ自づから意は輕きを嫌ふ。
知らずや織女螢窗の下に、
幾度梭を抛りて織りて成すを得たるを。

 白雁行
元・劉因
北風初起易水寒、
北風再起吹江干。
北風三吹白雁來、
寒氣直薄朱崖山。
乾坤噫氣三百年、
一風掃地無留殘。
萬里江湖想瀟灑、
佇看春水雁來還。




北風初めて起こりて易水えきすゐ寒く、
北風再び起こりて江干かうかんに吹く。
北風三たび吹きて白雁來きたり、
寒氣直ちに薄せまる朱崖山しゅがいざん
乾坤の噫氣あいき三百年、
一風地を掃はらへば留殘無し。
萬里の江湖瀟灑せうしゃを想ひ、
たたずみて看る春水雁の來り還るを。


 偶題
明・于謙
薰風何處來、
吹我庭前樹。
啼鳥愛繁陰、
飛來不飛去。




薰風くんぷう何處いづこよりか來きたり、
我が 庭前ていぜんの樹を吹く。
啼鳥ていてう繁陰はんいんを愛し、
飛び來きたりて飛び去らず。


 老態
元・趙孟頫
老態年來日日添、
黑花飛眼雪生髯。
扶衰毎藉過眉杖、
食肉先尋剔齒籤。
右臂拘攣巾不裹、
中腸慘慼涙常淹。
移床獨就南榮坐、
畏冷思親愛日簷。



老態年來日日に添くははり、
黑花眼に飛び雪髯ひげに生ず。
扶衰ふすゐつねに藉る眉を過ゆる杖つゑ
肉を食くらひては先づ尋たづぬ齒を剔えぐる籤せん
右臂いうひ拘攣こうれんして巾おほひ裹つつめず、
中腸ちゅうちゃう慘慼さんせきとして涙常に淹ひたす。
しゃうを移して獨ひとり就く南榮なんえいの坐、
れいを畏おそれ親しまんと思ふ愛日あいじつの簷えん

 城南
北宋・曾鞏
雨過橫塘水滿堤、
亂山高下路東西。
一番桃李花開盡、
惟有青青草色齊。



雨は橫塘わうたうを過ぎて水は堤つつみに滿ち、
亂山高下かうげして路みち東西とうざいす。
一番の桃李たうり花開ひらき盡くして、
だ青青せいせいたる草色さうしょくの齊ひとしき有り。

 御製賜和
明・朱元璋
熊野峰高血食祠、
松根琥珀也應肥。
當年徐福求僊藥、
直到如今更不歸。


 御製和を賜ふ
 (大明太祖高皇帝)
熊野峰は高し血食けっしょくの祠
松根しょうこんの琥珀こはくも也またまさに肥ゆべし。
當年たうねんの徐福じょふく僊藥せんやくを求め、
ただちに如今じょこんに到るも更に歸らず。


淸明上河圖畫讃
其一 張公藥
通衢車馬正喧闐、
祗是宣和第幾年。
當日翰林呈畫本、
昇平風物正堪傳。




通衢つうくの車馬正に喧闐けんてんたり、
まさに是これ宣和せんな第幾年だいいくねんならん。
當日翰林かんりん畫本ぐゎほんを呈す、
昇平しょうへいの風物正に傳つたふるに堪へん。


 其二
張公藥
水門東去接陰井、
是魚鱗所不如。
老氏從來戒盈滿、
故知今日變丘墟。




水門東に去れば陰井に接し、
是魚鱗如かざる所。
老氏從來盈滿えいまんを戒め、
故に知る今日丘墟きうきょに變ぜしを。


 其三
張公藥
楚施呉檣萬里船、
橋南橋北好風烟。
復廻一餉繁華夢、
簫鼓樓臺若箇邊。




楚施そし呉檣ごしゃう萬里ばんりの船、
橋南けうなん橋北けうほく風烟ふうえんし。
た一餉いっしゃう繁華の夢を廻めぐらせば、
簫鼓せうこの樓臺ろうたいの邊あたりなれるが若ごとし。


 其四
魏秋颿
峩峩城聯舊梁都、
二十通門五漕渠。
何事東南窮闐溢、
江淮財利走舟車。




峩峩ががたる城は 聯つらなる舊きうの梁都りゃうと
二十の通門五漕渠さうきょ
何事ぞ東南に闐溢てんいつを窮とどめ、
江淮かうわいの財利に舟車しうしゃを走らすとは。


 其五
魏秋颿
車轂人肩困撃磨、
珠簾十里湧笙歌。
而今遺老空垂涕、
猶恨宣和與政和。



車轂しゃこく人肩じんけん撃磨げきまするに 困こうじ、
珠簾しゅれん十里笙歌しゃうかけり。
而今じこん遺老ゐらう空しく涕なみだを垂らし、
ほも恨む宣和せんなと政和せいわとを。

 其六
魏秋颿
京師得復此豐沛、
根本之謀度漢高。
不念遠方民力病、
都門花石日千艘。




京師けいしの豐沛ほうはいに復するを得たるは、
根本の謀はかりごと漢高かんかうを度するにありけん。
遠方にして民力病むを念おもはず、
都門に花石くゎせき日に千艘せんさう


 其七
陸莞
畫橋虹臥浚儀渠、
兩岸風煙天下無。
而今滿眼皆瓦礫、
人猶時復將璣珠。




畫橋ぐゎけうにじのごとく浚儀しゅんぎきょに臥し、
兩岸の風煙ふうえん天下に無し。
而今じこん滿眼まんがんみな瓦礫ぐゎれき
人猶ほ時に璣珠きしゅを將って復せんや。


 其八
陸莞
繁華夢断兩橋空、
唯有悠悠汴水東。
誰識當年圖畫日、
万家簾幕翠烟中。




繁華の夢は断たれて兩橋空しく、
唯だ悠悠たる汴水の東する有り。
誰か識らん當年圖を畫きし日を、
万家の簾幕翠烟の中。


淸明上河圖畫讃
其九 如壽
汴梁自古帝王都、
興廢相尋何代無。
獨惜徽欽從北去、
至今荒草徧長衢。

 淸明上河圖せいめいじゃうがづ畫讃 其の九

汴梁べんりゃうは古いにしへより帝王ていわうの都、
興廢こうはいこもごもたづねて何いづれの代にか無けん。
ひとり惜しむ徽・欽き・きん北へ去りてより、
今に至るも荒草くゎうさう長衢ちゃうくに徧あまねし。

淸明上河圖畫讃
其十 如壽
妙筆圖成意自深、
當年景物對沈吟。
珍藏易主知多少、
聚散春風何處尋。


 淸明上河圖せいめいじゃうがづ畫讃 其の十

妙筆めうひつの圖成りて意自おのづから深く、
當年たうねんの景物けいぶつに對して沈吟ちんぎんす。
珍藏ちんざう主を易へたること多少なるを知り、
春風(しゅんぷう)聚散(しゅうさん)して何處(いづこ)にか(たづ)ねん。


 夜直
王安石
金爐香盡漏聲殘、
翦翦輕風陣陣寒。
春色惱人眠不得、
月移花影上欄干。



金爐きんろかうきて漏聲ろうせいすたれ、
剪剪せんせんたる輕風けいふう陣陣ぢんぢんとして寒し。
春色人を惱まして眠り得ず、
つき移りて花影くゎえい欄干らんかんに上のぼる。

 新花
王安石
老年少忻豫、
況復病在牀。
汲水置新花、
取慰此流芳。
流芳祗須臾、
我亦豈久長。
新花與故吾、
已矣兩可忘。




老年らうねん忻豫きんよ少なし、
いはんや復た病みて牀しゃうに在るをや。
水を汲みて新花しんくゎを置き、
なぐさめを此の流芳りうはうに取る。
流芳りうはうだ須臾しゅゆにして、
我も亦またに久長きうちゃうならんや。
新しき花と故ふるき吾われと、
已矣やんぬるかなふたつながら忘る可し。


 別滁
歐陽脩
花光濃爛柳輕明、
酌酒花前送我行。
我亦且如常日醉、
莫敎弦管作離聲。


 滁ぢょに別る

花光くゎかうは濃爛のうらんにして柳は輕明けいめいに、
酒を花前くゎぜんに酌みて我が行かうを送る。
我も亦た且しばらく常日じゃうじつの如く 醉はん、
弦管(げんくゎん)をして離聲(りせい)()さしむること(なか)れ。


 過楓橋寺
孫覿てき
白首重來一夢中、
靑山不改舊時容。
烏啼月落橋邊寺、
欹枕猶聞半夜鐘。




 楓橋ふうけうの寺に過ぎる

白首はくしゅかさねて來きたる一夢の中うち
靑山改まらず舊時の容すがた
からすき月落つ橋邊けうへんの寺、
枕を欹そばだて猶ほ聞く半夜の鐘。

 岳鄂王墓
趙孟頫
鄂王墓上草離離、
秋日荒涼石獸危。
南渡君臣輕社稷、
中原父老望旌旗。
英雄已死嗟何及、
天下中分遂不支。
莫向西湖歌此曲、
水光山色不勝悲。

 岳鄂王がくがくわうの墓

鄂王がくわうの墓上ぼじゃう草離離りりとして、
秋日しうじつ荒涼くゎうりゃう石獸せきじうあやふし。
南渡なんとの君臣社稷しゃしょくを輕んずるも、
中原ちゅうげんの父老ふらう旌旗せいきを望む。
英雄已すでに死して嗟なげくも何ぞ及ばん、
天下中分ちゅうぶんして遂つひに支へず。
西湖に向いて此の曲を歌ふこと莫なかれ、
水光すゐくゎう山色悲しみに勝へず。

 漫成
楊維楨
西鄰昨夜哭暴卒、
東家今日悲免官。
今日不知來日事、
人生可放杯酒乾。



西鄰せいりん昨夜暴卒ばうそつを哭こくし、
東家とうか今日こんにち免官を悲しむ。
今日こんにち知らず來日らいじつの事、
人生杯酒はいしゅの乾かわくに放まかす可し。

 西湖竹枝歌
楊維楨
蘇小門前花滿株、
蘇公堤上女當壚。
南官北使須到此、
江南西湖天下無。







蘇小そせうの門前花株かぶに滿ち、
蘇公そこうの堤上ていじゃう女壚に當たる。
南官北使なんくゎんほくしすべからく此ここに到るべし、
江南の西湖せいこ天下に無し。

 西湖竹枝歌
楊維楨
勸郞莫上南高峯、
勸儂莫上北高峯。
南高峯雲北高雨、
雲雨相催愁殺儂。




らうに勸すすむ上のぼる莫なかれ南高峯なんかうほう
われに勸すすむ上のぼる莫なかれ北高峯ほくかうほう
南高峯なんかうほうは雲北高ほくかうは雨、
雲雨うんうひ催うながして儂われを愁殺しうさつす。


 別武昌
揭傒斯
欲歸常恨遲、
將行反愁遽。
殘年念骨肉、
久客多親故。
佇立望江波、
江波正東注。


 武昌ぶしゃうに別わか

かへらんと欲ほっして常つねに遲おそきを恨うらみ、
(まさ)()かんとすれば(かへ)って(うれ)(には)かなり。
殘年ざんねん骨肉こつにくを念おもへば、
久客きうかく親故しんこおほし。
佇立ちょりつして江波かうはを望のぞめば、
江波かうはまさに東に注そそぐ。


 食茘枝
蘇軾
羅浮山下四時春、
盧橘楊梅次第新。
日噉茘枝三百顆、
不辭長作嶺南人。


 茘枝れいしを食しょく

羅浮らふ山下さんかは四時しいじはる
盧橘ろきつ楊梅やうばい次第しだいに新あらたなり。
日に噉らふ茘枝れいし三百顆くゎ
せず長とこしへに嶺南人れいなんじんと作るを。


 春日
秦觀
一夕輕雷落萬絲、
霽光浮瓦碧參差。
有情芍藥含春涙、
無力薔薇臥曉枝。



一夕いっせき輕雷けいらい萬絲ばんし落つ、
霽光せいくゎうかはらに浮かび碧みどり參差しんしたり。
こころ有る芍藥しゃくやくは春の涙を含み、
ちから無き薔薇しゃうびは曉あかつきの枝に臥す。

 四時田園雜興
范成大
胡蝶雙雙入菜花、
日長無客到田家。
鷄飛過籬犬吠竇、
知有行商來賣茶。




胡蝶こてふ雙雙さうさう菜花さいくゎに入り、
日長くして客かくの田家でんかに到る無し。
鷄は飛びて籬まがきを過ぎ犬は竇とうに吠ゆ、
知る行商ぎゃうしゃうの來きたりて茶を賣る有るを。


 四時田園雜興
春日 南宋・范成大
土膏欲動雨頻催、
萬草千花一餉開。
舍後荒畦猶綠秀、
鄰家鞭筍過墻來。


 四時しいじ田園雜興
 春日しゅんじつ
土膏どかう動かんと欲ほっして雨頻しきりに催もよほし、
萬草ばんさう千花せんくゎ一餉いっしゃうに開く。
舍後の荒畦くゎうけいほ綠秀ひいで、
鄰家りんかの鞭筍べんしゅんしゃうを過ぎて來きたる。


 四時田園雑興
春日 南宋・范成大
柳花深巷午雞聲、
桑葉尖新綠未成。
坐睡覺來無一事、
滿窗晴日看蠶生。


 四時しいじ田園でんゑん雑興ざっきゃう
 春日しゅんじつ
柳花りうくゎ深巷しんかう午雞ごけいの聲、
桑葉さうえふは尖さきあらたにして綠みどり未だ成らず
坐睡ざすゐより覺め來きたりて一事いちじ無く、
滿窗まんさうの晴日せいじつかひこの生まるるを看る。


 旭日
宋・太祖 趙匡胤
太陽初出光赫赫、
千山萬山如火發。
一輪頃刻上天衢、
逐退羣星與殘月。



太陽初めて出でて光ひかり赫赫かくかく
千山萬山ばんざんの發はっするが如し。
一輪頃刻けいこく天衢てんくに上のぼり、
羣星ぐんせいと殘月ざんげつとを逐退ちくたいす。

 雨過
南宋・陳與義
水堂長日淨鷗沙、
便覺京塵隔鬢華。
夢裏不知涼是水、
卷簾微濕在荷花。




水堂すゐだうの長日ちゃうじつ鷗沙おうさきよく、
便(すなは)(おぼ)京塵(けいぢん)鬢華(びんくゎ)(へだ)つるを。
夢裏むり知らず涼りゃうは是れ水なるを、
れんを卷けば微濕びしふ荷花かくゎに在り。


 山居雜詩
金・元好問
鷺影兼秋靜、
蟬聲帶晩涼。
陂長留積水、
川闊盡斜陽。




鷺影ろえい秋靜しうせいに兼くはへ、
蟬聲せんせい晩涼ばんりゃうを帶ぶ。
長くして積水せきすゐを留とどめ、
川 闊ひろくして斜陽盡く。


 凱歌
明・沈明臣
銜枚夜度五千兵、
密領軍符號令明。
狹巷短兵相接處、
殺人如草不聞聲。


 凱歌がいか

ばいを銜ふくみ夜を度すごす五千の兵、
ひそかに軍符ぐんぷを領りゃうして號令明あきらかなり。
狹巷けふかうに短兵相ひ接する處、
人を殺すこと草くさかるが如く聲せいを聞かず。


 芙蓉洞
明・王陽明
巖下雲萬重、
洞口桃千樹。
終歳無人來、
惟許山僧住。

 芙蓉洞ふようどう

巖下がんか雲萬重ばんちょう
洞口どうこう桃千樹せんじゅ
終歳しゅうさい人の來きたる無し、
だ許す山僧の住ぢゅうするを。

 採蓮
無名氏
忽然湖上片雲飛、
不覺舟中雨濕衣。
折得蓮花渾忘却、
空將荷葉葢頭歸。




忽然こつぜんとして湖上片雲へんうん飛び、
おぼえず舟中しうちゅう雨衣ころもを濕うるほす。
り得たる蓮花れんくゎすべて忘却ばうきゃくし、
空しく荷葉かえふを將って頭を葢おほひて歸る。