過零丁洋
南宋・文天祥
辛苦遭逢起一經、
干戈寥落四周星。
山河破碎風飄絮、
身世浮沈雨打萍。
惶恐灘頭説惶恐、
零丁洋裏歎零丁。
人生自古誰無死、
留取丹心照汗青。

 零丁洋を過ぐ

辛苦の遭逢は一經より起こり、
干戈寥落たり四周星。
山河破碎し風絮を飄ばし、
身世浮沈し雨萍を打つ。
惶恐灘頭に惶恐を説き、
零丁洋裏に零丁を歎く。
人生古いにしへより誰か死無からん、
丹心を留取して汗靑を照らさん。

 正氣歌
南宋・文天祥
天地有正氣、
雜然賦流形。
下則爲河嶽、
上則爲日星。
於人曰浩然、
沛乎塞蒼冥。
皇路當淸夷、
含和吐明庭。
時窮節乃見、
一一垂丹靑。
在齊太史簡、
在晉董狐筆。
在秦張良椎、
在漢蘇武節。
爲嚴將軍頭、
爲嵇侍中血。
爲張睢陽齒、
爲顏常山舌。
或爲遼東帽、
淸操厲冰雪。
或爲出師表、
鬼神泣壯烈。
或爲渡江楫、
慷慨呑胡羯。
或爲撃賊笏、
逆豎頭破裂。
是氣所磅礴、
凜烈萬古存。
當其貫日月、
生死安足論。
地維賴以立、
天柱賴以尊。
三綱實繋命、
道義爲之根。
嗟予遘陽九、
隸也實不力。
楚囚纓其冠、
傳車送窮北。
鼎鑊甘如飴、
求之不可得。
陰房闃鬼火、
春院閟天黑。
牛驥同一皂、
鷄棲鳳凰食。
一朝蒙霧露、
分作溝中瘠。
如此再寒暑、
百沴自闢易。
哀哉沮洳場、
爲我安樂國。
豈有他繆巧、
陰陽不能賊。
顧此耿耿在、
仰視浮雲白。
悠悠我心悲、
蒼天曷有極。
哲人日已遠、
典型在夙昔。
風檐展書讀、
古道照顏色。

 正氣の歌

天地正氣有り、
雜然として流形に賦す。
下れば則すなはち河嶽と爲り、
上れば則ち日星と爲る。
人に於いては浩然と曰ひ、
沛乎として蒼冥に塞つ。
皇路淸夷に當れば、
和を含み明庭に吐く。
時窮らば節乃ち見あらはれ、
一一丹靑に垂る。
齊に在りては太史の簡、
晉に在りては董狐の筆。
秦に在りては張良の椎、
漢に在りては蘇武の節。
嚴將軍の頭と爲り、
嵇侍中の血と爲る。
張睢陽すゐやうの齒と爲り、
顏常山の舌と爲る。
或は遼東の帽と爲り、
淸操は冰雪よりも厲し。
或は出師の表と爲り、
鬼神壯烈たるに泣く。
或は渡江の楫と爲り、
慷慨胡羯を呑む。
或は賊を撃つ笏と爲り、
逆豎頭は破裂す。
是れ氣の磅礴たる所、
凜烈として萬古に存す。
其の日月を貫くに當りては、
生死安んぞ論ずるに足らん。
地維賴りて以て立ち、
天柱賴りて以て尊ぶ。
三綱實まことに命を繋ぎ、
道義之の根と爲る。
ああ予陽九に遘ひ、
われなる也まことに力つとめず。
楚囚其の冠を纓むすび、
傳車にて窮北に送らる。
鼎鑊甘きこと飴の如く、
之を求むれど得からず。
陰房闃しづかにして鬼火ありて、
春院閟とざして天黑くらし。
牛驥同ともに一つの皂をけ
鷄棲に鳳凰食す
一朝霧露を蒙むらば、
分かる溝中の瘠むくろと作るを。
かくの如く再びの寒暑、
百沴自ら闢け易やすし。
哀しい哉沮洳の場は、
我が爲に安樂の國たらん。
豈に他の繆巧の有りても、
陰陽賊そこなふ能あたはず。
此の耿耿たるの在るを顧みて、
浮雲の白きを仰ぎ視る。
悠悠たる我が心の悲いたみ、
蒼天曷なんぞ極り有らんや。
哲人の日已すでに遠のけど、
典型は夙昔に在り。
風檐ふうえんに書を展ひらきて讀めば、
古道顏色を照らす。

 出塞
唐・王昌齡
秦時明月漢時關、
萬里長征人未還。
但使龍城飛將在、
不敎胡馬渡陰山。



秦時の明月漢時の關、
萬里長征人未だ還らず。
但だ龍城に飛將をして在ら使めば、
胡馬をして陰山を渡ら敎めず。

書端州郡齋壁
宋・包拯
淸心爲治本、
直道是身謀。
秀木終成棟、
精鋼不作鈎。
倉充鼠雀喜、
草盡兎狐愁。
史册有遺訓、
毋貽來者羞。

 端州郡齋の壁に書す

淸心は治本爲り、
直道は是れ身謀なり。
秀木は終ひに棟と成り、
精鋼は鈎を作らず。
倉充たば鼠雀喜び、
草盡きなば兎狐愁ふ。
史册に遺訓有り、
來者に羞を貽のこす毋なかれと。

 拒壽禮
宋・包拯
鐵面無私丹心忠、
做官不可念叨功。
操勞本是份内事、
拒禮爲開廉潔風。


 壽禮を拒む

鐵面無私は丹心の忠、
官に做らば功を念叨す可からず。
操勞は本是れ份内事にて、
禮を拒むは廉潔の風を開はじめんが爲なり。


 題臨安邸
宋・林升
山 外靑山樓外樓、
西湖歌舞幾時休。
暖風薫得遊人醉、
直把杭州作汴州。


 臨安の邸やどに題す

山外さんぐゎいの靑山せいざん樓外ろうぐゎいの樓ろう
西湖せいこの歌舞かぶ幾時いくときか休まん。
暖風だんぷうかをり得て遊人いうじんひ、
ひたすら杭州かうしゅうを把って汴州べんしうと作す。


左遷至藍關 示姪孫湘 唐・韓愈
 左遷せられて藍關に至りて姪孫・湘に示す
一封朝奏九重天、
夕貶潮州路八千。
欲爲聖明除弊事、
肯將衰朽惜殘年。
雲横秦嶺家何在、
雪擁藍關馬不前。
知汝遠來應有意、
好收吾骨瘴江邊。
一封朝に奏す九重の天、
夕に貶せらる潮州路八千。
聖明の爲に弊事を除かんと欲し、
あへて衰朽を將もって殘年を惜まんや。
雲は秦嶺に横たはりて家何いづくにか在る、
雪は藍關を擁して馬は前すすまず。
知る汝なんぢの遠來するは應まさに意有るべしと、
好し吾が骨を收めよ瘴江しゃうかうの邊に。

 明日歌
明・文嘉
明日復明日、
明日何其多。
日日待明日、
萬世成蹉跎。
世人皆被明日累、
明日無窮老將至。
晨昏滾滾水流東、
今古悠悠日西堕。
百年明日能幾何、
請君聽我明日歌。

 明日の歌

明日復た明日、
明日何ぞ其の多き。
日日明日を待てば、
萬世蹉跎を成す。
世人皆明日の累わづらひを被け、
明日は窮り無く老い將まさに至らんとす。
あさゆふ滾滾として水は東に流れ、
今古悠悠として日は西に堕つ。
百年明日能く幾何いくばくぞ、
君に請ふ聽け我が「明日の歌」を。

 馬上作
明・戚繼光
南北驅馳報主情、
江花邊草笑平生。
一年三百六十日、
都是橫戈馬上行。




南北驅馳して主情に報いん、
江花邊草平生に笑ふ。
一年三百六十日、
すべて是れ戈を橫かまふ馬上の行。


 金縷曲
唐・杜秋娘
勸君莫惜金縷衣、
勸君惜取少年時。
花開堪折直須折、
莫待無花空折枝。




君に勸む惜しむ莫なかれ金縷の衣、
君に勸む惜しみ取れ少年の時。
花開き折るに堪へなば直ちに須すべからく折るべく、
花無きを待ちて空しく枝を折ること莫なかれ。


 偶成詩
宋・朱熹
少年易老學難成、
一寸光陰不可輕。
未覺池塘春草夢、
階前梧葉已秋聲。



少年老い易やすく學成り難がたし、
一寸の光陰輕んず可からず。
未だ覺めず池塘春草の夢、
階前の梧葉は已すでに秋聲。

 勸學文
宋・朱熹
勿謂
今日不學而有來日、
勿謂
今年不學而有來年。
日月逝矣歳不我延、
嗚呼老矣是誰之愆。




謂ふ勿なか
今日學ばず而て來日有りと、
謂ふ勿なか
今年學ばず而て來年有りと。
日月逝き矣たり歳我と延びず、
嗚呼ああ老いたる矣かなれ誰たれあやまちぞや。


 題菊花
唐・黄巣
颯颯西風滿院栽、
蕊寒香冷蝶難來。
他年我若爲靑帝、
報與桃花一處開。





 

 菊花に題す

颯颯たる西風滿院栽ゑ、
蕊寒く香冷え蝶來きたり難し。
他年我若し靑帝爲りせば、
報ゆるに桃花與一處に開かしめん。

 州橋
宋・范成大
州橋南北是天街、
父老年年等駕迴。
忍涙失聲詢使者、
幾時眞有六軍來。



州橋の南北は是れ天街、
父老年年駕の迴めぐるを等つ。
涙を忍び聲を失ひ使者に詢
「幾時眞まことに六軍りくぐんの來ること有らん」と。

 易水送別
駱賓王
此地別燕丹、
壯士髮衝冠。
昔時人已沒、
今日水猶寒。

 易水にて送別す

此の地燕丹と別れんとして、
壯士髮冠を衝く。
昔時人已すでに沒すれど、
今日水猶ほ寒し。

 塞下曲
王昌齡
飮馬渡秋水、
水寒風似刀。
平沙日未沒、
黯黯見臨洮。
昔日長城戰、
咸言意氣高。
黄塵足今古、
白骨亂蓬蒿。


 塞下の曲

馬に飮みづかはんとして秋水を渡り、
水寒くして風刀に似る。
平沙日未だ沒せずして、
黯黯あんあんとして臨洮りんたうを見のぞむ。
昔日長城の戰、
な言ふ意氣高しと。
黄塵今古に足ち、
白骨蓬蒿に亂る。

 述懷
唐・魏徴
中原初逐鹿、
投筆事戎軒。
縱橫計不就、
慷慨志猶存。
杖策謁天子、
驅馬出關門。
請纓繋南越、
憑軾下東藩。
鬱紆陟高岫、
出沒望平原。
古木鳴寒鳥、
空山啼夜猿。
既傷千里目、
還驚九折魂。
豈不憚艱險、
深懷國士恩。
季布無二諾、
侯嬴重一言。
人生感意氣、
功名誰復論。



中原初めて鹿を逐ひ、
筆を投じて戎軒じゅうけんを事とす。
縱橫の計就らざるも、
慷慨の志猶ほ存す。
策を杖つきて天子に謁ゑつし、
馬を驅りて關門を出づ。
えいを請ひて南越を繋ぎ、
しょくに憑りて東藩を下くださん。
鬱紆として高岫かうしうに陟のぼり、
出沒して平原を望む。
古木寒鳥鳴き、
空山夜猿啼く。
既に千里の目を傷ましめ、
た九折の魂を驚かす。
に艱險を憚はばからざらんや、
深く國士の恩を懷おもふ。
季布に二諾無く、
侯嬴こうえいは一言を重んず。
人生意氣に感ず、
功名誰たれか復た論ぜん。

廣州西樵山蒼頡祠
明・海瑞
幹國家事、讀聖賢書。

 廣州西樵山蒼頡の祠

國家の事を幹し、聖賢の書を讀む。

 官倉鼠
曹鄴
官倉老鼠大如牛、
見人開倉亦不走。
健兒無糧百姓飢、
誰遣朝朝入君口。


 官倉の鼠

官倉の老鼠大なること牛の如く,
人に倉を開かるるも亦走げず。
健兒糧かて無く百姓ひゃくせい飢ゑ、
誰をして朝朝君が口に入らしむる。

登金陵雨花臺 望大江
明・高啓
大江來從萬山中、
山勢盡與江流東。
鍾山如龍獨西上、
欲破巨浪乘長風。
江山相雄不相讓、
形勝爭誇天下壯。
秦皇空此瘞黄金、
佳氣葱葱至今王。
我懷鬱塞何由開、
酒酣走上城南臺。
坐覺蒼茫萬古意、
遠自荒煙
落日之中來。
石頭城下濤聲怒、
武騎千群誰敢渡。
黄旗入洛竟何祥、
鐵鎖橫江未爲固。
前三國、後六朝、
草生宮闕何蕭蕭。
英雄乘時務割據、
幾度戰血流寒潮。
我生
幸逢聖人起南國、
禍亂初平事休息。
從今四海永爲家、
不用長江限南北。
大江萬山の中從り來たり、
山勢盡ことごとく江流と與ともに東す。
鍾山龍の如く獨り西上し、
巨浪を破って長風に乘んと欲す。
江山相ひ雄として相ひ讓らず、
形勝爭ひて天下の壯を誇る。
秦皇空しく此こに黄金を瘞うづめしも、
佳氣葱葱として今に至るも王さかんなり。
我が懷おもひ鬱塞して何に由りてか開かんとして、
酒酣たけなはにして走りて城南の臺に上る。
そぞろろに覺ゆ蒼茫たる萬古の意、
遠く荒煙
落日の中自り來たるを。
石頭城下濤聲怒り、
武騎千群誰たれか敢あへて渡らん。
黄旗洛に入るは竟つひに何の祥きざしぞ、
鐵鎖江に橫ふるは未だ固しと爲さず。
前には三國、後には六朝、
草宮闕に生じて何ぞ蕭蕭たる。
英雄時に乘じて割據に務め、
幾度か戰血寒潮に流るる。
我が生
幸ひに聖人の南國に起こるに逢ひて、
禍亂初めて平たひらぎ休息を事とす。
今從り四海永とこしなへに家と爲し、
長江の南北を限るを用ゐず。

 題新淦蕭寺壁
  題青泥市寺壁
 南宋・岳飛
雄氣堂堂貫斗牛、
誓將直節報君讐。
斬除頑惡還車駕、
不問登壇萬戸侯。


 新淦の蕭寺壁に題す


雄氣堂堂斗牛を貫き、
誓って直節を將って君讐を報ぜん。
頑惡を斬除して車駕を還さば、
問はず登壇萬戸侯を。


 閑居感懷
明・方孝孺
我非今世人、
空懷今世憂。
所憂諒無他、
慨想禹九州。
商君以爲秦、
周公以爲周。
哀哉萬年後、
誰爲斯民謀。



我は今世の人に非ず、
空しく懷いだく今世の憂。
憂ふる所は諒まことに他無く、
慨想す禹の九州。
商君以て秦に爲し、
周公以て周に爲す。
哀しい哉萬年の後、
たれか斯の民の爲ために謀らん。

 池洲翠微亭
宋・岳飛
經年塵土滿征衣、
特特尋芳上翠微。
好水好山看不足、
馬蹄催趁月明歸。

 池洲の翠微亭

經年の塵土征衣に滿ち、
特特芳はなを尋ねて翠微に上のぼる。
好水好山看れども足らず、
馬蹄月明に趁のりて歸るを催す。

送紫岩張先生北伐 宋・岳飛
 紫岩張先生の北伐を送る
號令風霆訊、
天聲動北陬。
長驅渡河洛、
直搗向燕幽。
馬蹀閼氏血、
旗梟可汗頭。
歸來報明主、
恢復舊神州。

號令は風霆の訊すみやかなるがごとく、
天聲北陬ほくすうを動どよもす。
長驅して河洛を渡り、
直ちに燕幽に向ひて搗け。
馬は閼氏えんしの血を蹀み、
旗は可汗の頭を梟さらす。
歸り來たりて明主に報ぜよ
「舊神州を恢復せり」と。


 從軍行
唐・王昌齡
青海長雲暗雪山、
孤城遙望玉門關。
黄沙百戰穿金甲、
不破樓蘭終不還。



青海の長雲雪山暗し、
孤城遙かに望む玉門關。
黄沙百戰金甲を穿つ、
樓蘭を破らずんば終つひに還かへらじ。

 初到建寧賦詩
南宋・謝枋得
雪中松柏愈青青、
扶植綱常在此行。
天下久無龔勝潔、
人間何獨伯夷清。
義高便覺生堪捨、
禮重方知死甚輕。
南八男兒終不屈、
皇天上帝眼分明。


 初めて建寧に到りて詩を賦す

雪中の松柏愈いよいよ青青として、
綱常を扶植するは此の行に在り。
天下久しく龔勝の潔き無く、
人間何ぞ獨ひとり伯夷のみ清からん。
義高くして便すなはち覺る生の捨つるに堪ふるを、
禮重くして方まさに知る死の甚はなはだ輕きを。
南八男兒終つひに屈せず、
皇天上帝眼分明なり。


 閨怨
王昌齡
閨中少婦不知愁、
春日凝妝上翠樓。
忽見陌頭楊柳色、
悔敎夫壻覓封侯。



閨中の少婦愁ひを知らず、
春日妝よそほひを凝らして翠樓に上のぼる。
忽ち見る陌頭楊柳の色、
悔ゆらくは夫壻に封侯を覓め敎めしを。

 過河
宗澤
「出師未捷身先死
長使英雄涙滿襟」
澤無一語及家事、
但連呼「過河」
者三而薨。
「過河 過河 過河」

 河を過わた

「出師未だ捷たざるに身先に死し、
とこしへに英雄をして涙を襟に滿たしむ。」
澤一語も家事に及ぶこと無く、
但だ「過河」を連呼すること
三たびにして薨ず。
「河を過わたれ!河を過わたれ!河を過わたれ!」

 詠菊
黄巣
待到秋來九月八、
我花開後百花殺。
衝天香陣透長安、
滿城盡帶黄金甲。

 菊を詠ず

待ち到る秋來九月八、
我が花開きし後百花殺おとろふ。
衝天の香陣長安に透とほり、
滿城盡ことごとく帶ぶ黄金の甲を。

 汨羅
李德裕
遠謫南荒一病身、
停舟暫弔汨羅人。
都縁靳尚圖專國、
豈是懷王厭直臣。
萬里碧潭秋景靜、
四時愁色野花新。
不勞漁父重相問、
自有招魂拭涙巾。



遠く南荒に謫たくせらる一病身、
舟を停めて暫し弔ふ汨羅べきらの人。
(すべ)靳尚(きんしょう)の國を(もっぱ)らにせんと圖るに()り、
に是れ懷王の直臣を厭いとふにあらんや。
萬里の碧潭秋景靜かに、
四時しいじの愁色野花新たなり。
勞せず漁父ぎょほの重かさねて相ひ問ふを、
自ら有り招魂涙を拭ぬぐふ巾。

 萬空歌
明・悟空
天也空、地也空、
人生渺渺在其中。
日也空、月也空、
東昇西墜爲誰功。
金也空、銀也空、
死後何曾在手中。
妻也空、子也空、
黄泉路上不相逢。
權也空、名也空、
轉眼荒郊土一封。



天も也た空、地も也た空、
人生渺渺べうべうとして其の中に在り。
日も也た空、月も也た空、
東昇西墜誰が爲ための功。
金も也た空、銀も也た空、
死後何ぞ曾かつて手中に在りし。
妻も也た空、子も也た空、
黄泉の路上に相ひ逢はず。
權も也た空、名も也た空、
眼を轉ずれば荒郊に土に一封せらる。

 軍中夜感
明・張家玉
裹屍馬革英雄事
縱死終令汗竹香。



かばねを馬革に裹つつむは英雄の事
たとひ死すとも終つひには汗竹をして香らしめん。

送杜少府 之任蜀州 唐・王勃
 杜少府 任に蜀州に之くを送る
城闕輔三秦、
風烟望五津。
與君離別意、
同是宦遊人。
海内存知己、
天涯若比鄰。
無爲在岐路、
兒女共沾巾。
城闕三秦に輔たり、
風烟五津を望む。
君と離別の意、
ともに是れ宦遊くゎんいうの人。
海内かいだいに知己ちき存すれば、
天涯も比鄰の若ごとし。
す無かれ岐路に在りて、
兒女と共に巾きんを沾うるほすを。

 絶句
明・劉基
人生無百歳、
百歳復如何。
古來英雄士、
各已歸山阿。



人生百歳無く、
百歳復た如何いかん
古來英雄の士、
各ゝおのおのすでに山阿に歸る。

京師得家書
明・袁凱
江水三千里、
家書十五行。
行行無別語、
只道早還鄕。

 京師に家書を得

江水三千里、
家書十五行ぎゃう
行行ぎゃうぎゃう別語無く、
だ道ふ 早く鄕くにに還かへれと。

 無題
明・太祖・朱元璋
殺盡江南百萬兵、
腰間寶劍血猶腥。
山僧不識英雄漢、
只顧嘵嘵問姓名。



殺し盡くす江南百萬の兵、
腰間の寶劍血猶ほ腥なまぐさし。
山僧らず英雄漢を、
だ顧ひたすらに嘵嘵けうけうとして姓名を問ふ。

 憫農二首
唐・李紳
春種一粒粟、
秋成萬顆子。
四海無閒田、
農夫猶餓死。

鋤禾日當午、
汗滴禾下土。
誰知盤中餐、
粒粒皆辛苦。

 農を憫あはれ

春に種く一粒の粟、
秋に成る萬顆の子
四海閒田無けれど、
農夫猶ほ餓死するがごとし。

を鋤きて日午に當たり、
汗は禾下の土に滴したたる。
たれか知らん盤中の餐、
粒粒りうりう皆な辛苦。

 題王導像
南宋末・汪元量
秦淮浪白蒋山靑、
西望神州草木腥。
江左夷吾甘半壁、
只縁無涙灑新亭。

 王導の像に題す

秦淮浪白くして蒋山靑く、
西のかた神州を望めば草木腥なまぐさし。
江左の夷吾半壁に甘んずるは、
只だ新亭に涙を灑ぐものの無かることに縁る。

 天道
五代・馮道
窮達皆由命、
何勞發嘆聲。
但知行好事、
莫要問前程。
冬去氷須拌、
春來草自生。
請君觀此理、
天道甚分明。



窮達皆みな命に由り、
何ぞ嘆聲を發するを勞せん。
だ知る好き事を行おこなひ、
前程を問ふを要する莫なかれ。
冬去れば氷は須すべからく拌るべく、
春來らば草は自ら生ぜん。
君に請ふ觀よ此の理ことわりを、
天道甚はなはだ分明なり。

 出塞行
唐・王昌齡
烽火城西百尺樓、
黄昏獨上海風秋。
更吹羌笛關山月、
無那金閨萬里愁。



烽火城西百尺ひゃくせきの樓、
黄昏獨ひとり上る海風の秋。
更に羌笛きゃうてきを吹く關山月、
いかんともする無し金閨萬里の愁。

 滕王閣
唐・王勃
滕王高閣臨江渚、
珮玉鳴鸞罷歌舞。
畫棟朝飛南浦雲、
珠簾暮捲西山雨。
閒雲潭影日悠悠、
物換星移幾度秋。
閣中帝子今何在、
檻外長江空自流。



滕王とうわうの高閣かうかく江渚かうしょに臨めり、
珮玉はいぎょく鳴鸞めいらん歌舞罷んぬ。
畫棟ぐゎとうあしたに飛ぶ南浦の雲、
珠簾しゅれんくれに捲く西山の雨。
閒雲潭たんに影うつりて日に悠悠いういう
物換かはり星移りて幾度いくたびの秋ぞ。
閣中の帝子今何いづくにか在る、
檻外かんぐゎいの長江空むなしく自おのづから流る。

 詠鵞
唐・駱賓王
鵝鵝鵝、
曲項向天歌。
白毛浮綠水、
紅掌撥淸波。

 鵞を詠む

鵝鵝鵝、
曲項天に向ひて歌ふ。
白毛綠水に浮き、
紅掌淸波を撥く。

贈別崔純亮
唐・孟郊
鏡破不改光、
蘭死不改香。
始知君子心、
交久道益彰。


 崔純亮に贈別す

鏡破れて光改まらず、
蘭死して香改まらず。
始めて知る君子の心、
交わり久しくして道益ますます彰あきらかなるを。


 從軍行
唐・王昌齡
琵琶起舞換新聲、
總是關山離別情。
繚亂邊愁聽不盡、
高高秋月照長城。



琵琶起舞して新聲に換へしむ、
總じて是れ關山離別の情。
繚亂せる邊愁聽きて盡きず、
高高たる秋月長城を照らす。

 己亥歳
唐・曹松
澤國江山入戰圖、
生民何計樂樵蘇。
憑君莫話封侯事、
一將功成萬骨枯。



澤國の江山戰圖せんとに入り、
生民何ぞ計はからん樵蘇せうそに樂やすらぐを。
君に憑たのむ話かたる莫なかれ封侯の事を、
一將功成って萬骨枯る。

 陶淵明
南宋・劉克莊
卜筑堪容膝、
休官免折腰。
寧書處士卒、
不踐寄奴朝。




膝を容るるに堪ふるを卜筑し、
官を休めて腰を折るを免ぜらる。
むしろ處士卒と書かるるとも、
寄奴の朝に踐したがはじ。


 出塞行
唐・王昌齡
白草原頭望京師、
黄河水流無盡時。
秋天曠野行人絶、
馬首東來知是誰。



白草原頭京師けいしを望めば、
黄河水流れて盡くる時無し。
秋天曠野くゎうや行人かうじん絶ゆ、
馬首東來するは知んぬ是れ誰ぞ。

 醉太平
元・無名氏
堂堂大元、
奸佞專權、
開河變鈔禍根原、
惹紅巾萬千。
官法濫、刑法重、
黎民怨
人喫人、鈔買鈔、
何曾見
賊做官、官做賊、
混賢愚
哀哉可憐。



堂堂たる大元、
奸佞かんねい權を專もっぱらにし、
河を開き鈔せうを變ずるは禍わざはひの根原、
紅巾を惹くこと萬千。
官法濫みだりに、刑法重く、
黎民れいみん怨む
人人を喫くらひ、鈔せうせうを買ふ、
何ぞ曾かつて見ん
賊官と做り、官賊と做り、
賢愚を混ず
哀れなる哉かな憐む可し。

 萬歳樓
唐・王昌齡
江上巍巍萬歳樓、
不知經歴幾千秋。
年年喜見山長在、
日日悲看水獨流。
猿狖何曾離暮嶺、
鸕鶿空自泛寒洲。



江上くゎうじゃう巍巍ぎぎたり萬歳樓、
知らず幾千秋を經歴きょうりゃくせしかを。
年年喜び見る山の長とこしなへに在るを、
日日悲しみ看る水の獨ひとり流るるを。
猿狖ゑんいう何ぞ曾かつて暮嶺を離れんや、
鸕鶿ろじむなしく自おのづから寒洲に泛かぶ。

 梁苑
唐・王昌齡
梁園秋竹古時煙、
城外風悲欲暮天。
萬乘旌旗何處在、
平臺賓客有誰憐。



梁園の秋竹古時の煙、
城外風は悲し暮れんと欲するの天。
萬乘の旌旗何いづれの處にか在る、
平臺の賓客誰有りてか憐あはれまん。

 雜興
唐・王昌齡
握中銅匕首、
粉銼楚山鐵。
義士頻報讎、
殺人不曾缺。
可悲燕丹事、
終被狼虎滅。
一舉無兩全、
荊軻遂爲血。
誠知匹夫勇、
何取萬人傑。
無道呑諸侯、
坐見九州裂。



銅の匕首を握中にぎりしめ、
楚山の鐵を粉と銼くだく。
義士頻しきりに讎あだに報むくい、
殺人曾かつて缺かさず。
悲しむ可し燕・丹の事、
つひに狼虎らうこに滅せらる。
一舉に兩全無く、
荊軻遂つひに血を爲す。
誠に匹夫ひっぷの勇を知るも、
何ぞ萬人の傑に取らん。
無道にも諸侯を呑み、
坐して九州の裂かるるを見る。

 嘲荊卿
劉叉
白虹千里氣、
血頸一劍義。
報恩不到頭、
徒作輕生士。

 荊卿を嘲ふ

白虹は千里の氣、
血頸は一劍の義。
報恩頭をはりに到らざれば、
いたづらに生を輕んずる士を作らん。

 結客少年場行
唐・沈彬
重義輕生一劍知、
白虹貫日報讎歸。
片心惆悵清平世、
酒市無人問布衣。



義を重んじ生を輕んずるは一劍のみ知り、
白虹日を貫きて讎あだに報じて歸る。
片心惆悵ちうちゃうす清平の世を、
酒市人無く布衣ほいに問ふ。

 睡起偶成
明・王陽明
四十餘年睡夢中、
而今醒眼始朦朧。
不知日已過卓午、
起向高樓撞曉鐘。




四十餘年睡夢の中、
而今じこん眼を醒まし始め朦朧もうろうたり。
知らず日已すでに卓午たくごを過ぎたるを、
起きて高樓に向おいて曉鐘げうしょうを撞く。

 離別
唐・陸龜蒙
丈夫非無涙、
不灑離別間。
杖劍對尊酒、
恥爲游子顏。
蝮蛇一螫手、
壯士即解腕。
所思在功名、
離別何足歎。



丈夫じゃうふ涙無きに非ず、
そそがず離別の間に。
劍を杖つきて尊酒に對し、
游子いうしの顏がんを爲すを恥づ。
蝮蛇ふくだ一たび手を螫せば、
壯士即すなはち腕を解く。
思ふ所は功名に在り、
離別何ぞ歎くに足らん。

 石灰吟
于謙
千錘萬鑿出深山、
烈火焚燒若等閒。
粉身碎骨渾不怕、
要留清白在人間。



 


 石灰の吟

千錘せんすゐ萬鑿ばんさく深山に出で、
烈火に焚燒ふんせうせるも等閒とうかんの若ごとし。
粉身碎骨ふんしんさいこつすべて怕おそれず、
留むるを要す清白人間じんかんに在るを。


 胡笳曲
無名氏
月明星稀霜滿野、
氈車夜宿陰山下。
漢家自失李將軍、
單于公然來牧馬。


 胡笳の曲

月明あきらかに星稀まれに霜野に滿つ、
氈車せんしゃ夜宿しゅくす陰山の下もと
漢家李將軍を失ひしより、
單于ぜんう公然と來りて馬を牧す。


 尋胡隱君
明・高啓
渡 水復渡水、
看花還看花。
春風江上路、
不覺到君家。

 胡隱君を尋ぬ

水を渡り復た水を渡る、
花を看還た花を看る。
春風江上の路、
覺へず君が家に到る。

 塞下曲
張仲素
朔雪飄飄開雁門、
平沙歴亂捲蓬根。
功名恥計擒生數、
直斬樓蘭報國恩。

 塞下の曲

朔雪さくせつ飄飄へうへうとして雁門がんもんを開き、
平沙歴亂れきらんとして蓬根ほうこんを捲く。
功名擒生きんせいの數を計かぞふるを恥ぢ、
直ちに樓蘭ろうらんを斬りて國恩に報ぜん。

 春夜
宋・蘇軾
春宵一刻値千金、
花有淸香月有陰。
歌管樓臺聲細細、
鞦韆院落夜沈沈。




春宵しゅんせう一刻値あたひ千金、
花に淸香有り月に陰かげ有り。
歌管かくゎん樓臺ろうだいこゑ細細さいさい
鞦韆しうせん院落ゐんらくよる沈沈ちんちん


飮湖上初晴後雨
宋・蘇軾
水光瀲灧晴方好、
山色空濛雨亦奇。
欲把西湖比西子、
淡粧濃抹總相宜。

 湖上に飮み初め晴れるも後に雨ふる

水光瀲灧れんえんとして晴れて方まさに好く、
山色空濛くうもうとして雨も亦た奇なり。
西湖を把って西子と比せんと欲せば、
淡粧濃抹總すべて相ひ宜よろし。

澄邁驛通潮閣二首
其二 蘇軾
餘生欲老海南村、
帝遣巫陽招我魂。
杳杳天低鶻沒處、
青山一髮是中原。

 澄邁驛の通潮閣

餘生老いんと欲す海南の村、
帝巫陽をして我が魂を招か遣む。
杳杳たる天低れて鶻沒するの處、
青山一髮是れ中原。

 江南春
寇準
杳杳煙波隔千里、
白蘋香散東風起。
日落汀洲一望時、
柔情不斷如春水。



杳杳えうえうたる煙波千里を隔へだて、
白蘋はくひん香散じて東風起おこる。
日は汀洲ていしうに落ちて一望するの時、
柔情じゅうじゃう斷えざること春水の如し。

 山中月
眞山民
我愛山中月、
烱然掛疎林。
爲憐幽獨人、
流光散衣襟。
我心本如月、
月亦如我心。
心月兩相照、
淸夜長相尋。

 山中の月

我は愛す山中の月、
烱然けいぜんとして疎林に掛かる。
幽獨いうどくの人を憐れむが爲に、
流光りうくゎう衣襟いきんに散ず。
我が心本もと月の如く、
月も亦た我が心の如し。
心と月と両ふたつながら相ひ照らして、
清夜長とこしなへに相ひ尋たづぬ。

十牛圖第九 返本還源
廓庵
頌曰
返本還源已費功、
爭如直下若盲聾。
庵中不見庵前物、
水自茫茫花自紅。

うたひて曰く
本に返かへり源に還かへりて已すでに功を費つひやす、
(いかでか)()かん直下(ぢきげ)に盲聾の(ごと)くならんには。
庵中には庵前の物を見ず、
水は自おのづから茫茫ばうばう花は自ら紅くれなゐなり。


 山園小梅
林逋
衆芳搖落獨暄妍、
占盡風情向小園。
疎影橫斜水淸淺、
暗香浮動月黄昏。
霜禽欲下先偸眼、
粉蝶如知合斷魂。
幸有微吟可相狎、
不須檀板共金尊。

 山園の小梅

衆芳搖落えうらくして獨り暄妍けんけんとして、
小園にて風情を占め盡くす。
疎影そえい橫斜わうしゃみづ淸淺せいせん
暗香あんかう浮動ふどうつき黄昏くゎうこん
霜禽さうきんくだらんと欲して先づ眼を偸ぬすむ、
粉蝶ふんてふし知らば合まさに魂を斷つべし。
さいはひに微吟の相ひ狎るべき有り、
もちゐず檀板だんばんの金尊と共にするを。

六月二十七日 望湖樓醉書 蘇軾
 六月二十七日 望湖樓に醉ひて書す
黑雲翻墨未遮山、
白雨跳珠亂入船。
卷地風來忽吹散、
望湖樓下水如天。
黑雲墨すみを翻ひるがへして未だ山を遮さへぎらず、
白雨珠たまを跳らせて亂れて船に入る。
地を卷き風來きたって忽たちまち吹き散じ、
望湖樓ばうころう下水天の如し。

 居洛初夏作
司馬光
四月淸和雨乍晴、
南山當戸轉分明。
更無柳絮因風起、
惟有葵花向日傾。


 洛に居しての初夏の作

四月清和雨乍たちまち晴れ、
南山戸に當たりて轉うたた分明。
更に柳絮の風に因りて起こる無く、
ただ葵花の日に向かひて傾く有り。


 宋中
高適
梁王昔全盛、
賓客復多才。
悠悠一千年、
陳迹惟高臺。
寂寞向秋草、
悲風千里來。




梁王りゃうわうむかし全盛、
賓客復また多才。
悠悠いういうたり一千年、
陳迹ちんせきただ高臺かうだいのみ。
寂寞せきばく秋草しうさうに向かへば、
悲風千里より來きたる。


 除夜作
高適
旅館寒燈獨不眠、
客心何事轉悽然。
故鄕今夜思千里、
霜鬢明朝又一年。

 除夜の作

旅館の寒燈獨ひとり眠らず、
客心かくしん何事ぞ轉うたた悽然せいぜん
故鄕今夜千里を思はん、
霜鬢さうびん明朝みゃうてう又一年。

 泊船瓜洲
王安石
京口瓜洲一水間、
鍾山只隔數重山。
春風又綠江南岸、
明月何時照我還。

 船を瓜洲くゎしうに泊す

京口けいこう瓜洲くゎしう一水いっすゐの間、
鍾山しょうざんだ隔へだつ數重すうちょうの山。
春風又た綠にす江南の岸、
明月何いづれの時か我の還かへるを照らさん。

 鍾山即事
王安石
澗水無聲繞竹流、
竹西花草弄春柔。
茅檐相對坐終日、
一鳥不鳴山更幽。



澗水かんすゐ聲無く竹を繞めぐりて流れ、
竹西の花草は春に弄たはむれて柔かなり。
茅檐ばうえんに相ひ対して坐すること終日、
一鳥鳴かず山更に幽なり。

 書河上亭壁
寇準
岸闊檣稀波渺茫、
獨憑危檻思何長。
蕭蕭遠樹疏林外、
一半秋山帶夕陽。

 河上亭の壁に書く

岸闊ひろく檣しゃうまれにして波渺茫べうばうたり、
獨り危檻きかんに憑りて思ひ何ぞ長き。
蕭蕭せうせうたる遠樹ゑんじゅ疏林そりんの外、
一半の秋山夕陽を帶ぶ。

 江上漁者
范仲淹
江上往來人、
但愛鱸魚美。
君看一葉舟、
出沒風波裡。

 江上の漁者

江上往來の人、
だ愛す鱸魚ろぎょの美を。
君看よ一葉の舟の、
風波の裡うちに出沒するを。

 岐陽
元好問
百二關河草不橫、
十年戎馬暗秦京。
岐陽西望無來信、
隴水東流聞哭聲。
野蔓有情縈戰骨、
殘陽何意照空城。
從誰細向蒼蒼問、
爭遣蚩尤作五兵。



百二關河くゎんが草橫たはらず、
十年戎馬じゅうば秦京暗し。
岐陽きやう西を望むも來信無く、
隴水ろうすゐ東に流れて哭聲こくせいを聞く。
野蔓情有りて戰骨に縈まつはり、
殘陽何の意ありてか空城を照らす。
誰に從ひて細つまびらかに蒼蒼さうさうに向かひて問はん
「爭いかでか蚩尤しいうをして五兵を作らしめし」かと。

 虞美人草
曾鞏
鴻門玉斗紛如雪、
十萬降兵夜流血。
咸陽宮殿三月紅、
覇業已隨煙燼滅。
剛強必死仁義王、
陰陵失道非天亡。
英雄本學萬人敵、
何用屑屑悲紅粧。
三軍散盡旌旗倒、
玉帳佳人坐中老。
香魂夜逐劍光飛、
靑血化爲原上草。
芳心寂莫寄寒枝、
舊曲聞來似斂眉。
哀怨徘徊愁不語、
恰如初聽楚歌時。
滔滔逝水流今古、
漢楚興亡兩丘土。
當年遺事久成空、
慷慨樽前爲誰舞。




鴻門こうもんの玉斗ぎょくとふんとして雪の如く、
十萬の降兵かうへい夜血を流す。
咸陽かんやうの宮殿三月さんげつくれなゐに、
覇業はげふすでに煙燼えんじんに隨したがひて滅ぶ。
剛強がうきゃうなるは必ず死して仁義なるは王たり、
陰陵に道を失ふは天の亡ほろぼすに非ず。
英雄本學ぶ萬人の敵、
何ぞ用ゐん屑屑せつせつとして紅粧を悲しむ。
三軍散じ盡くして旌旗せいき倒れ、
玉帳ぎょくちゃうの佳人かじん坐中に老ゆ。
香魂かうこん夜劍光を逐ひて飛び、
靑血せいけつ化して原上の草と爲る。
芳心はうしん寂莫せきばくとして寒枝に寄り、
舊曲聞き來りて眉を斂をさむるに似たり。
哀怨あいゑん徘徊はいくゎい愁へど語らず、
あたかも初めて楚歌そかを聽ききし時の如し。
滔滔たうたうたる逝水せいすゐ今古に流れ、
漢楚の興亡兩ふたつながら丘土きうど
當年たうねんの遺事ゐじ久しく空と成り、
樽前に慷慨かうがいして誰が爲にか舞はん。