悲憤詩 
其一
漢魏・蔡文姫
漢季失權柄、
董卓亂天常。
志欲圖簒弑、
先害諸賢良。
逼迫遷舊邦、
擁主以自彊。
海内興義師、
欲共討不祥。
卓衆來東下、
金甲耀日光。
平土人脆弱、
來兵皆胡羌。
獵野圍城邑、
所向悉破亡。
斬截無孑遺、
尸骸相牚拒。
馬邊縣男頭、
馬後載婦女。
長驅西入關、
迥路險且阻。
還顧邈冥冥、
肝脾爲爛腐。
所略有萬計、
不得令屯聚。
或有骨肉倶、
欲言不敢語。
失意機微閒、
輒言斃降虜。
要當以亭刃、
我曹不活汝。
豈復惜性命、
不堪其詈罵。
或便加棰杖、
毒痛參并下。
旦則號泣行、
夜則悲吟坐。
欲死不能得、
欲生無一可。
彼蒼者何辜、
乃遭此戹禍!



漢季權柄を失し、
董卓天常を亂す。
志は簒弑さんしいを圖はからんと欲し、
先づ諸賢良を害す。
逼迫して舊邦をに遷うつらしめ、
主を擁して以て自ら彊つとむ。
海内に義師を興こし、
共に祥からざるを討たんと欲ほっす。
卓衆來りて東下し、
金甲日光に耀く。
平土の人脆弱にして、
來兵皆胡羌なり。
野に獵するがごとく城邑を圍み、
向ふ所悉ことごとく破り亡ほろぼす。
斬截ざんせつして孑遺げつゐ無く、
尸骸相ひ牚拒たうきょす。
馬邊に男の頭を縣け、
馬後に婦女を載す。
長驅して西のかた關に入るに、
迥路けいろは險にして且つ阻なり。
還顧くゎんこすれば邈ばく冥冥として、
肝脾かんぴために爛腐らんぷす。
略せる所萬計ばかり有りて、
屯聚せしめ得ず。
あるひは骨肉の倶ともなふ有りて、
言はんと欲すれど敢へては語れず。
意を機微の閒に失へば、
すなはち言ふに:「降虜を斃たふすに。
要當まさにやいばを亭とどめるを以ってしても、
我曹われらなんぢを活かさざるべし。」
に復た性命を惜みて、
其の詈罵りばに堪へざらんや。
或は便すなはち棰杖すゐぢゃうを加へ、
毒痛參こもごも并あはせ下る。
あしたになれば則すなはち號泣して行き、
夜になれば則すなはち悲吟して坐る。
死なんと欲すれども得る能あたはずして、
生きんと欲すれども一の可なるもの無し。
の蒼たる者何の辜つみありて、
すなはち此の戹禍やくくゎに遭はさんや!

悲憤詩 
其二
漢魏・蔡文姫
邊荒與華異、
人俗少義理。
處所多霜雪、
胡風春夏起。
翩翩吹我衣、
肅肅入我耳。
感時念父母、
哀歎無窮已。
有客從外來、
聞之常歡喜。
迎問其消息、
輒復非鄕里。
邂逅徼時願、
骨肉來迎己。
己得自解免、
當復棄兒子。
天屬綴人心、
念別無會期。
存亡永乖隔、
不忍與之辭。
兒前抱我頸、
問母欲何之。
人言母當去、
豈復有還時。
阿母常仁惻、
今何更不慈?
我尚未成人、
柰何不顧思!
見此崩五内、
恍惚生狂癡。
號泣手撫摩、
當發復回疑。
兼有同時輩、
相送告離別。
慕我獨得歸、
哀叫聲摧裂。
馬爲立踟蹰、
車爲不轉轍。
觀者皆歔欷、
行路亦嗚咽。



邊荒は華と異なり、
人俗義理を少く。
處す所霜雪多く、
胡風春夏に起る。
翩翩として我が衣を吹き、
肅肅として我が耳に入る。
時に感じて父母を念おもへば、
哀歎窮り已むこと無し。
客有り外從り來きたれば、
これを聞きて常に歡喜す。
迎へて其の消息を問ふに、
すなはち復た鄕里に非ず。
邂逅して時の願ひ徼もとむるに、
骨肉來りて己を迎ふ。
おのれ自ら解免するを得るも、
まさに復た兒子を棄つべし。
天屬人心に綴まとはり、
別れて會する期無きを念おもふ。
存亡永とこしへに乖ひらき隔へだつ、
これと辭するに忍びず。
兒前すすみて我が頸くびを抱いだき、
母に問ふに「何いづくにか之かんと欲す」と。
人は言ふ:「母當まさに去りて、
あにた還かへる時有らんや。」と
阿母は常かつて仁惻じんそくなりしに、
今何ぞ更に慈ならざる?
我尚ほ未いまだ成人せざるに、
柰何いかんぞ顧思こしせざる!」と
これに見ひて五内ごだい崩れ、
恍惚として狂癡きゃうちを生ず。
號泣して手を撫摩し、
發するに當あたりて復た回めぐりて疑まよふ。
くはへて同時の輩有りて、
相ひ送りて離別を告ぐ。
我獨ひとり歸るを得たるを慕うらやみ、
哀叫して聲摧裂さいれつす。
馬爲に立ちて踟蹰ちちうし、
車爲に轉轍てんてつせず。
る者皆みな歔欷きょきし、
行路亦また嗚咽をえつす。

悲憤詩 
其三
漢魏・蔡文姫
去去割情戀、
遄征日遐邁。
悠悠三千里、
何時復交會?
念我出腹子、
匈臆爲摧敗。
既至家人盡、
又復無中外。
城郭爲山林、
庭宇生荊艾。
白骨不知誰、
從橫莫覆蓋。
出門無人聲、
豺狼號且吠。
煢煢對孤景、
怛咤糜肝肺。
登高遠眺望、
魂神忽飛逝。
奄若壽命盡、
旁人相寬大。
爲復彊視息、
雖生何聊賴!
託命於新人、
竭心自勗厲。
流離成鄙賤、
常恐復捐廢。
人生幾何時、
懷憂終年歳!



去り去りて情戀を割き、
すみやかに征くこと日ゝに遐はるかに邁すすむ。
悠悠たり三千里、
いづれの時か復た交會せん?
我が腹より出せし子を念じ、
匈臆きょうおく爲に摧くだき敗やぶる。
既に至るも家人盡き、
又た復た中外無し。
城郭は山林と爲り、
庭宇は荊艾けいがいを生ず。
白骨誰たれなるかを知らずして、
從橫して覆蓋ふうがいし。
門を出づれども人の聲無く、
豺狼さいらうさけび且つ吠ゆ。
煢煢けいけいとして孤景に對し、
怛咤だつた肝肺を糜ただらす。
登高して遠く眺望し、
魂神忽たちまち飛び逝く。
奄若たちまち壽命盡きんとするも、
旁人相ひ寬大にす。
爲に復た彊ひて視息すれども、
生くと雖いへども何ぞ賴たのみ聊ねがはんや!
めいを新たなる人に託して、
心を竭くして自ら勗厲きょくれいす。
流離して鄙賤ひせんと成り、
常に恐る復た捐廢えんぱいせられんことを。
人生幾何いくばくの時ぞ、
憂ひを懷いだきて年歳を終へん!

悲憤詩 
其二章
漢魏・蔡文姫
嗟薄祜兮遭世患
宗族殄兮門戸單
身執略兮入西關
歴險阻兮之羌蠻
山谷眇兮路曼曼
眷東顧兮但悲歎
冥當寢兮不能安
飢當食兮不能餐
常流涕兮眥不乾
薄志節兮念死難
雖苟活兮無形顏
惟彼方兮遠陽精
陰氣凝兮雪夏零
沙漠壅兮塵冥冥
有草木兮春不榮
人似禽兮食臭腥
言兜離兮状窈停
歳聿暮兮時邁征
夜悠長兮禁門扄
不能寐兮起屏營
登胡殿兮臨廣庭
玄雲合兮翳月星
北風厲兮肅泠泠
胡笳動兮邊馬鳴
孤雁歸兮聲嚶嚶
樂人興兮彈琴箏
音相和兮悲且清
心吐思兮匈憤盈
欲舒氣兮恐彼驚
含哀咽兮涕沾頸
家既迎兮當歸寧
臨長路兮捐所生
兒呼母兮號失聲
我掩耳兮不忍聽
追持我兮走煢煢
頓復起兮毀顏形
還顧之兮破人情
心怛絶兮死復生



薄祜はくこを嗟なげきて世患に遭ひ、
宗族そうぞくほろびて門戸單ひとつ。
身執略せられて西の關に入り、
險阻けんそを歴て羌蠻きゃうばんに之く。
山谷眇べうとして路曼曼まんまんたり、
東を眷かへりみかへりみて但だ悲歎す。
冥となれば(まさ)に寢ぬべくも安らかなる(あた)はず、
飢となれば(まさ)に食すべくも餐すること(あた)はず、
常に涕なみだを流して眥まなぢりかわかず、
志節薄くして死を念おもへど難かたく、
かりそめにも活くと雖いへども形顏無し。
おもふに彼方は陽精遠く、
陰氣凝りて雪夏に零る。
沙漠壅ふさぎて塵冥冥たり、
草木有りても春榮えず。
人は禽けものに似て食臭腥なまぐさく、
兜離とうりを言ふに状さまは窈停えうていたり。
歳聿ここに暮れて時邁征し、
夜悠長にして門扄もんしゃうを禁ず。
寐ぬ能はずして屏營へいえい起こり、
胡殿に登りて廣庭に臨む。
くろき雲合あはさりて月星翳かげり、
北風厲きびしく肅しゅく 泠泠れいれいたり。
胡笳動きて邊馬鳴いななき、
孤雁歸らんとして聲嚶嚶あうあうたり。
樂人興じて琴箏を彈き、
音相ひ和して悲く且つ清し。
心思ひを吐きて匈むねいきどほりに盈つ、
氣を舒くつろげんと欲すれど彼の驚くを恐れ、
哀咽を含みて涕なみだくびを沾ぬらす。
家既に迎へて當まさに歸寧きねいすべく、
長路に臨みて生める所を捐つ。
兒は母を呼びて號して聲を失ひ、
我は耳を掩おほひて聽くに忍びず。
追ひて我を持ちて走ること煢煢けいけいとして、
つまづき復た起ちて顏形を毀こぼつ。
ほも之これを顧かへりみれば人情を破り、
心怛絶だつぜつして死して復た生まれん。

 白頭吟
漢・卓文君
皚如山上雪、
皎若雲間月。
聞君有兩意、
故來相決絶。
今日斗酒會、
明旦溝水頭。
躞蹀御溝上、
溝水東西流。
淒淒復淒淒、
嫁娶不須啼。
願得一心人、
白頭不相離。
竹竿何嫋嫋、
魚尾何簁簁。
男兒重意氣、
何用錢刀爲。



がいたること山上の雪の如く、
けうたること雲間の月の若ごとし。
聞く君兩意有りと、
ことさらに來たりて相ひ決絶す。
今日斗酒の會、
明旦溝水の頭ほとり
御溝の上に躞蹀せふてふすれば、
溝水は東西に流る。
淒淒せいせいた淒淒たるも、
嫁娶かしゅに啼くを須もちゐんや。
願はくは一心の人を得て、
白頭まで相ひ離れざらん。
竹竿何ぞ嫋嫋でうでうたる、
魚尾何ぞ簁簁ししたる。
男兒は意氣を重んず、
何ぞ錢刀を用ゐるを爲さん。

古詩 十九首之十四

去者日以疎、
來者日以親。
出郭門直視、
但見丘與墳。
古墓犁爲田、
松柏摧爲薪。
白楊多悲風、
蕭蕭愁殺人。
思還故里閭、
欲歸道無因。



去る者は日ゞに以て疎うとく、
きたる者は日ゞに以て親しむ。
郭門を出でて直視すれば、
但だ丘と墳とを見るのみ。
古墓は犁かれて田と爲り、
松柏は摧くだかれて薪と爲る。
白楊悲風多く、
蕭蕭せうせうとして人を愁殺す。
もとの里閭に還かへらんと思ひ、
歸らんと欲するも道に因し無し。

古詩 十九首之二

青青河畔草、
鬱鬱園中柳。
盈盈樓上女、
皎皎當窗牖。
娥娥紅粉妝、
纖纖出素手。
昔爲倡家女、
今爲蕩子婦。
蕩子行不歸、
空牀難獨守。



靑靑せいせいたる河畔の草、
鬱鬱うつうつたる園中の柳。
盈盈えいえいたる樓上の女、
皎皎けうけうとして窗牖さういうに當る。
娥娥ががたる紅粉の妝、
纖纖せんせんとして素手を出いだす。
昔は倡家の女爲り、
今は蕩子たうしの婦つまと爲る。
蕩子たうし行きて歸らず、
空牀獨ひとり守ること難かたし。

 企喩歌
無名氏
男兒可憐蟲、
出門懷死憂。
尸喪狹谷中、
白骨無人收。



男兒憐あはれむ可きの蟲、
門を出づれば死の憂へを懷いだく。
しかばねは狹谷の中に喪うしなひて、
白骨人の收むる無し。

 挽歌詩
繆襲
生時遊國都、
死沒棄中野。
朝發高堂上、
暮宿黄泉下。
白日入虞淵、
懸車息駟馬。
造化雖神明、
安能復存我。
形容稍歇滅、
齒髮行當墮。
自古皆有然、
誰能離此者。



生時には國都に遊び、
死沒して中野に棄てらる。
あしたに高堂の上を發し、
ゆふべに黄泉の下に宿す。
白日虞淵ぐゑんに入り、
車を懸けて駟馬しばを息いこはしむ。
造化神明なりと雖いへども、
いづくんぞ能く復た我を存せんや。
形容稍やや歇滅けつめつせば、
齒髮行ゆくゆく當まさに墮つべし。
いにしへり皆然しかる有りて、
たれか能く此者このものを離るるあらんや。

 七哀詩
曹植
明月照高樓、
流光正徘徊。
上有愁思婦、
悲歎有餘哀。
借問歎者誰、
言是客子妻。
君行踰十年、
孤妾常獨棲。
君若淸路塵、
妾若濁水泥。
浮沈各異勢、
會合何時諧。
願爲西南風、
長逝入君懷。
君懷良不開、
賤妾當何依。



明月高樓を照らし、
流光正に徘徊す。
上に愁思の婦有り、
悲歎して餘哀有り。
借問す歎ずる者は誰ぞと、
言ふ是れ客子の妻と。
君行きて十年を踰え、
孤妾こせふ常に獨ひとり棲む。
君は淸路の塵の若ごとく、
妾は濁水の泥の若ごとし。
浮沈各ゝおのおの勢を異ことにし、
會合何いづれの時にか諧かなはん。
願はくば西南の風と爲り、
長逝して君が懷ふところに入らんことを。
君が懷ふところまことに開かずんば、
賤妾せんせふまさに何いづれにか依るべき。

 白馬篇
曹植
白馬飾金羈、
連翩西北馳。
借問誰家子、
幽并遊侠兒。
少小去鄕邑、
揚聲沙漠垂。
宿昔秉良弓、
楛矢何參差。
控弦破左的、
右發摧月支。
仰手接飛猱、
俯身散馬蹄。
狡捷過猴猿、
勇剽若豹螭。
邊城多警急、
胡虜數遷移。
羽檄從北來、
厲馬登高堤。
長驅蹈匈奴、
左顧凌鮮卑。
棄身鋒刃端、
性命安可懷。
父母且不顧、
何言子與妻。
名編壯士籍、
不得中顧私。
捐躯赴國難、
視死忽如歸。



白馬金羈きんきを飾り、
連翩れんぺんとして西北に馳す。
借問す誰が家の子ぞ、
幽・并の遊侠兒。
少小にして鄕邑きゃういふを去り、
聲を沙漠の垂ほとりに揚ぐ。
宿昔良弓を秉り、
楛矢こし何ぞ參差しんしたる。
弦を控しぼりて左的を破り、
右に發して月支を摧くだく。
手を仰あふぎて飛猱ひだうを接へ、
身を俯して馬蹄を散ず。
狡捷かうせふなること猴猿こうゑんに過ぎ、
勇剽ゆうへうなること豹螭へうちの若ごとし。
邊城警急多く、
胡虜こりょしばしば遷移す。
羽檄うげき北從り來り、
馬を厲はげまして高堤に登る。
長驅して匈奴を蹈み、
左顧して鮮卑を凌しのがん。
身を鋒刃の端に棄て、
性命安いづくんぞ懷おもふ可けんや。
父母且すらかえりみざるに、
何ぞ子と妻とを言はん。
名壯士の籍に編せらるれば、
うちに私わたくしを顧みるを得ず。
を捐てて國難に赴おもむき、
死を視ること忽こつとして歸するが如し。

 生世不諧
『後漢書・儒林列傳』時人
世不諧、
作太常妻。
一歳三百六十日、
三百五十九日齋。



世に生まれて(かな)はざるは、
太常の妻と()ること。
一歳ひととし三百六十日、
三百五十九日は齋つつしむ。

 寡婦
曹丕
霜露紛兮交下、
木葉落兮淒淒。
候鴈叫兮雲中、
歸燕翩兮徘徊。
妾心感兮惆悵、
白日忽兮西頽。
守長夜兮思君、
魂一夕兮九乖。
悵延佇兮仰視、
星月隨兮天廻。
徒引領兮入房、
竊自憐兮孤栖。
願從君兮終沒、
愁何可兮久懷。



霜露紛として交〃こもごもくだり、
木葉落ちて淒淒たり。
候鴈雲中に叫び、
歸燕翩へんとして徘徊はいくゎいす。
せふが心感じて惆悵ちうちゃうとして、
白日忽こつとして西に頽くづる。
長夜を守りて君を思ひ、
魂一夕に九たび乖はなる。
ちゃうとして延佇えんちょして仰あふぎ視れば、
星月に隨ひて天に廻る。
いたづらに領りゃうを引きて房に入り、
ひそかに自ら孤栖を憐む。
願くは君に從ひて終つひに沒せん、
愁ひは何ぞ久しく懷いだくべけん。

落葉哀蝉曲
漢・武帝
羅袂兮無聲、
玉墀兮塵生。
虚房冷而寂寞、
落葉依于重扃。
望彼美之女兮、
安得感
余心之未寧。

 落葉哀蝉の曲

羅袂らべい聲無く、
玉墀ぎょくち塵生ず。
虚房冷かにして寂寞たり、
落葉重扃ちょうけいに依る。
の美なる女を望めども、
いづくんぞ感ぜしむるを得ん
余が心の未いまだ寧やすんぜざるを。

 昭君怨
王昭君
秋木萋萋、
其葉萎黄。
有鳥處山、
集于苞桑。
養育毛羽、
形容生光。
既得升雲、
上遊曲房。
離宮絶曠、
身體摧藏。
志念抑沈、
不得頡頏。
雖得委食、
心有徊徨。
我獨伊何、
來往變常。
翩翩之燕、
遠集西羌。
高山峨峨、
河水泱泱。
父兮母兮、
道里悠長。
嗚呼哀哉、
憂心惻傷。



秋木萋萋せいせいとして、
其の葉萎黄ゐくゎうす。
鳥有り山に處り、
苞桑はうさうに集むらがる。
毛羽を養育し、
形容光を生ず。
既に雲に升のぼるを得て、
上つかた曲房に遊ぶ。
離宮絶はなはだ曠ひろくして、
身體摧藏さいざうす。
志念抑沈して、
頡頏けつかうするを得ず。
委食を得と雖いへども、
心に徊徨くゎいくゎうする有り。
我獨ひとり伊れ何ぞ、
來往常を變ず。
翩翩へんぺんたる燕、
遠く西羌せいきゃうに集いたる。
高山峨峨ががたり、
河水泱泱あうあうたり。
父や母や、
道里悠長なり。
嗚呼ああかなしい哉、
憂心惻傷そくしゃうす。

古詩 十九首之十一

廻車駕言邁、
悠悠渉長道。
四顧何茫茫、
東風搖百草。
所遇無故物、
焉得不速老。
盛衰各有時、
立身苦不早。
人生非金石、
豈能長壽考。
奄忽隨物化、
榮名以爲寶。



車を廻めぐらして駕して言ここに邁き、
悠悠として長道を渉る。
四顧すれば何ぞ茫茫たる、
東風百草を搖うごかす。
ふ所故物無く、
いづくんぞ速かに老いざるを得んや。
盛衰各〃おのおの時有り、
立身早からざるを苦しむ。
人の生は金石に非ず、
あにく長く壽考せんや。
奄忽として物に隨ひて化す、
榮名以て寶と爲さん。

與蘇武詩 其二
前漢・李陵
嘉會難再遇、
三載爲千秋。
臨河濯長纓、
念子悵悠悠。
遠望悲風至、
對酒不能酬。
行人懷往路、
何以慰我愁。
獨有盈觴酒、
與子結綢繆。

 蘇武に與あたふる詩 其の二

嘉會再ふたたびは遇ひ難かたく、
三載は千秋と爲る。
河に臨のぞみて長纓ちゃうえいを濯あらひ、
を念おもひて悵ちゃうとして悠悠いういうたり。
遠望すれば悲風至り、
酒に對して酬むくゆる能あたはず。
行人往路を懷おもひ、
何を以てか我が愁うれひを慰めん。
ひとり觴しゃうに盈つるの酒有りて、
と綢繆ちうびうを結ばん。

詠懷詩 其十
阮籍
昔年十四五、
志尚好書詩。
被褐懷珠玉、
顏閔相與期。
開軒臨四野、
登高望所思。
丘墓蔽山岡、
萬代同一時。
千秋萬歳後、
榮名安所之。
乃悟羨門子、
噭噭今自嗤。



昔年十四、五、
志尚たかく『書』・『詩』を好めり。
かつを被て珠玉を懷いだき、
顏・閔がん・びんひ與ともに期す。
軒を開きて四野に臨み、
高きに登りて所思を望む。
丘墓山岡を蔽ひ、
萬代も一時に同じ。
千秋萬歳の後、
榮名安いづくにか之く所ぞ。
すなはち羨門子せんもんしに悟り、
噭噭けうけうとして今自ら嗤わらふ。

 木蘭詩
無名氏
喞喞復喞喞、
木蘭當戸織。
不聞機杼聲、
惟聞女歎息。
問女何所思、
問女何所憶。
女亦無所思、
女亦無所憶。
昨夜見軍帖、
可汗大點兵。
軍書十二卷、
卷卷有爺名。
阿爺無大兒、
木蘭無長兄。
願爲市鞍馬、
從此替爺征。

東市買駿馬、
西市買鞍韉。
南市買轡頭、
北市買長鞭。
旦辭爺孃去、
暮宿黄河邊。
不聞爺孃喚女聲、
但聞黄河流水鳴濺濺
旦辭黄河去、
暮至黑山頭。
不聞爺孃喚女聲、
但聞燕山胡騎鳴啾啾

萬里赴戎機、
關山度若飛。
朔氣傳金柝、
寒光照鐵衣。
將軍百戰死、
壯士十年歸。

歸來見天子、
天子坐明堂。
策勲十二轉、
賞賜百千彊。
可汗問所欲、
木蘭不用尚書郞。
願馳千里足、
送兒還故郷。

爺孃聞女來、
出郭相扶將。
阿姊聞妹來、
當戸理紅妝。
小弟聞姉來、
磨刀霍霍向豬羊。
開我東閣門、
坐我西閣床。
脱我戰時袍、
著我舊時裳。
當窗理雲鬢、
對鏡貼花黄。
出門看火伴、
火伴始驚惶。
同行十二年、
不知木蘭是女郞。

雄兎脚撲朔、
雌兎眼迷離。
兩兎傍地走、
安能辨我是雄雌。

 木蘭の詩

喞喞しょくしょくた喞喞しょくしょく
木蘭戸に當りて織す。
聞かず機はたの杼ちょの聲、
だ聞く女むすめの歎息を。
むすめに問ふ:何の思ふ所ぞ、
むすめに問ふ:何の憶ふ所ぞと。
むすめは亦た思ふ所無く、
むすめは亦た憶ふ所無しと。
昨夜軍帖を見るに、
可汗こくかん大いに兵を點ず。
軍書十二卷、
卷卷に爺の名有り。
阿爺に大兒無く、
木蘭に長兄無し。
願はくは爲に鞍馬を市ひ、
れ從り爺に替りて征かん。

東の市に駿馬しゅんめを買ひ、
西の市に鞍韉あんせんを買ふ。
南の市に轡頭ひとうを買ひ、
北の市に長鞭ちゃうべんを買ふ。
あしたに爺孃に辭して去り、
暮に黄河の邊ほとりに宿す。
聞こえず爺孃やぢゃうの女むすめを喚ぶ聲を、
だ聞く黄河の流水濺濺せんせんと鳴るを。
あしたに黄河を辭して去り、
暮に黑山の頭ほとりに至る。
聞こえず爺孃の女むすめを喚ぶ聲を、
但だ聞く燕山の胡騎啾啾(しうしう)と鳴くを。

萬里戎機に赴き、
關山度すこと飛ぶが若ごとし。
朔氣さくき金柝きんたくを傳へ、
寒光鐵衣を照らす。
將軍百戰して死し、
壯士十年にして歸る。

歸り來りて天子に見ゆれば、
天子明堂に坐す。
策勲十二轉、
賞賜しゃうし百千彊きゃう
可汗こくかんほっする所を問ふに、
木蘭尚書郞しゃうしょらうを用ひず。
願はくは千里の足を馳せて、
われを送りて故郷に還かへらしめんを。

爺孃やぢゃうむすめの來きたるを聞き、
郭を出で相ひ扶將す。
阿姉妹の來きたるを聞き、
戸に當りて紅妝こうしゃうを理ととのふ。
小弟姉の來きたるを聞き、
刀を磨すこと霍霍(かくかく)として豬羊(ちょやう)に向かふ。
我が東閣の門を開き、
我が西閣の牀に坐る。
我が戰時の袍を脱ぎ、
我が舊時の裳を著く。
窗に當りて雲鬢を理ととのへ、
鏡に對して花黄を貼る。
門を出で火伴くゎはんを看れば、
火伴くゎはん始めて驚惶きゃうくゎうす。
同行十二年、
知らず木蘭は是れ女郞なるを。

雄兎脚撲朔ぼくさくたりて、
雌兎眼迷離めいりたり。
兩兎地に傍ひて走らば、
(いづく)んぞ能く我は是れ雄雌なるを(べん)ぜん。

古詩 爲焦仲卿妻作 其一
無名氏
孔雀東南飛、
五里一裴徊。
十三能織素、
十四學裁衣、
十五彈箜篌、
十六誦詩書、
十七爲君婦、
心中常苦悲。

古詩 焦仲卿の妻の爲に作る 其の一

孔雀東南に飛び、
五里に一たび裴徊はいくゎいす。
十三能く素を織り、
十四衣を裁つを學び、
十五箜篌くごを彈き、
十六『詩』『書』を誦しょうし、
十七君が婦つまと爲り、心中常に苦悲す。

 常棣之華
『左傳』僖公二十四年
常棣之華、
鄂不韡韡。
凡今之人、
莫如兄弟。
兄弟鬩于牆、
外禦其侮。



常棣じゃうていの華はな
鄂不がくふ韡韡ゐゐたり。
およそ今の人、
兄弟けいていに如くは莫し。
兄弟けいていかきに鬩せめげども、
外其の侮あなどりを禦ふせぐ。

 臨刑偈
僧肇
四大元無主、
五陰本來空。
將頭臨白刃、
猶似斬春風。

 臨刑の偈

四大元と主無く、
五陰本來空。
頭を將って白刃に臨のぞめば、
ほ春風を斬るに似たり。

 
漢・李延年
北方有佳人、
絶世而獨立。
一顧傾人城、
再顧傾人國。
寧不知傾城與傾國、
佳人難再得。



北方に佳人有り、
絶世にして獨立す。
一顧いつこすれば人の城を傾け、
再顧さいこすれば人の國を傾く。
いづくんぞ傾城(けいせい)傾國(けいこく)とを知らざらんや、
佳人は再び得難えがたし。

古詩 十九首之十三

驅車上東門、
遙望郭北墓。
白楊何蕭蕭、
松柏夾廣路。
下有陳死人、
杳杳即長暮。
潛寐黄泉下、
千載永不寤。
浩浩陰陽移、
年命如朝露。
人生忽如寄、
壽無金石固。
萬歳更相送、
賢聖莫能度。
服食求神仙、
多爲藥所誤。
不如飮美酒、
被服紈與素。



車を上東門に驅り、
遙かに郭北の墓を望む。
白楊何ぞ蕭蕭せうせうたる、
松柏廣路を夾む。
下に陳死の人有りて、
杳杳えうえうとして長暮に即く。
黄泉の下に潛ひそみ寐ねて、
千載永く寤めず。
浩浩かうかうとして陰陽移り、
年命朝露てうろの如し。
人生忽こつとして寄するが如く、
壽に金石の固き無し。
萬歳更こもごも相ひ送り、
賢聖能く度る莫し。
服食して神仙を求むれど、
多くは藥の誤る所と爲る。
かず美酒を飮みて、
ぐゎんと素とを被服するに。

 君子于役
『詩經』王風
君子于役、
不知其期。
曷至哉。
鷄棲于塒、

日之夕矣、
羊牛下來。
君子于役、
如之何勿思。

君子于役、
不日不月。
曷其有佸。
鷄棲于桀、
日之夕矣、
羊牛下括。
君子于役、
苟無飢渇。



君子役えきに于きて、
其の期を知らず。
いつに至る哉
にはとりねぐらに棲み、
日の夕ゆふべになりて、
羊牛やうぎうくだり來きたる。
君子役えきに于く、
これを如何いかんぞ思ふ勿からん。

君子役えきに于きて、
日ならず月ならず。
いつに其の佸ふ有らんや。
鷄桀とまりぎに棲み、
日の夕ゆふべになりて、
羊牛下くだり括つどふ。
君子役えきに于く、
いやしくも飢渇きかつする無かれ。

 無衣
『詩經』秦風
曰無衣、
與子同袍。
王于興師、
修我戈矛、
與子同仇。

曰無衣、
與子同澤。
王于興師、
修我矛戟、
與子偕作。

曰無衣、
與子同裳。
王于興師、
修我甲兵、
與子偕行。



()に衣無しと()い、
()(ほう)を同じうせんや。
王于きて師いくさを興おここさば、
我が戈矛くゎぼうを修め、
と仇きうを同じうせん。

()に衣無しと()い、
()(たく)を同じうせんや。
王于きて師いくさを興おここさば、
我が矛戟ぼうげきを修め、
と偕ともに作さん。

()に衣無しと()い、
()(しょう)を同じうせんや。
王于きて師いくさを興おここさば、
我が甲兵かふへいを修め、
と偕ともに行かん。

 古怨歌
竇玄妻『古詩源』
煢煢白兎、
東走西顧。
衣不如新、
人不如故。



煢煢けいけいたる白兎、
東に走り西に顧かへりる。
衣は新しきに如かず、
人は故ふるきに如かず。

 翠鳥
蔡邕『古詩源』
庭陬有若榴、
綠葉含丹榮。
翠鳥時來集、
振翼修容形。
囘顧生碧色、
動搖揚縹靑。
幸脱虞人機、
得親君子庭。
馴心託君素、
雌雄保百齡。

 翠鳥すゐてう

庭陬ていすうに若榴有り、
綠葉に丹榮を含む。
翠鳥時に來り集ひ、
翼を振りて容形を修をさむ。
囘顧すれば碧色を生じ、
動搖すれば縹靑へうせいを揚ぐ。
さいはひに虞人ぐじんの機を脱して、
君子の庭ていに親しむを得たり。
心を馴らして君が素に託し、
雌雄百齡を保たん。

 隴頭歌辭
梁詩
發欣城、
暮宿隴頭。
寒不能語、
舌卷入喉。



(あした)欣城(きんじょう)を發し、
暮に隴頭(ろうとう)宿(しゅく)す。
寒くして語る能あたはず、
舌卷きて喉のどに入る。

 隴頭歌辭
梁詩
隴頭流水、
鳴聲幽咽。
遙望秦川、
心腸斷絶。



隴頭ろうとうの流水りうすゐ
鳴聲めいせい幽咽いうえつす。
遙かに秦川しんせんを望み、
心腸しんちゃう斷絶す。

代出自薊北門行
鮑照
羽檄起邊亭、
烽火入咸陽。
徴騎屯廣武、
分兵救朔方。
嚴秋筋竿勁、
虜陣精且彊。
天子按劍怒、
使者遙相望。
鴈行縁石徑、
魚貫度飛梁。
簫鼓流漢思、
旌甲被胡霜。
疾風衝塞起、
沙礫自飄揚。
馬毛縮如蝟、
角弓不可張。
時危見臣節、
世亂識忠良。
投躯報明主、
身死爲國殤。

薊の北門より出づる行に代ふ

羽檄邊亭に起こり、
烽火咸陽に入る。
騎を徴して廣武に屯あつめ、
兵を分ちて朔方を救ふ。
嚴秋筋竿勁く、
虜陣精にして且かつ彊なり。
天子劍を按じて怒り、
使者遙かに相ひ望む。
鴈行して石徑に縁り、
魚貫して飛梁を度る。
簫鼓漢思を流し、
旌甲胡霜を被かうむる。
疾風塞を衝きて起り、
沙礫自ら飄揚す。
馬毛縮みて蝟ゐ=はりねずみの如く、
角弓張る可からず。
時危くして臣節を見あらはし、
世亂れて忠良を識る。
躯を投じて明主に報へ、
身死して國殤と爲る。

 寄王琳
庾信
關道路遠、
金陵信使疏。
下千行涙、
開君萬里書。

 王琳に寄す

關道路遠く、
金陵信使しんしまれなり。
ひとくだ千行せんかうの涙、
( )君が萬里の書。

 歩出夏門行
曹操
龜雖壽、猶有竟時。
騰蛇乘霧、終爲土灰。
老驥伏櫪、志在千里。
烈士暮年、壯心不已。
盈縮之期、不但在天。
養怡之福、可得永年。
幸甚至哉、歌以詠志。



神龜はじゅなりといへども、猶ほをはるの時有り。
騰蛇とうだは霧に乘ぜども、つひ土灰どくゎいと爲る。
老驥らうきれきに伏せども、志は千里にり。
烈士暮年ぼねんに、壯心まず。
盈縮えいしゅくの期は、ただに天のみに在らず。
養怡やういの福は、永年えいねんべし。
かう はなはだ至れる哉、歌ひて以て志をえいず。

 遊東田
謝脁
戚苦無悰、
攜手共行樂。
尋雲陟累榭、
隨山望菌閣。
遠樹曖仟仟、
生煙紛漠漠。
魚戲新荷動、
鳥散餘花落。
不對芳春酒、
還望靑山郭。

 東田に遊ぶ

戚戚せきせきとしてたのしみ無きに苦しみ、
手をたづさへて共に行樂かうらくす。
雲をたづねて累榭るいしゃのぼり、
山にしたがひて菌閣きんかくを望む。
遠樹ゑんじゅあいとして 仟仟せんせんたり、
生煙せいえんふんとして 漠漠ばくばくたり。
うをたはむれて新荷しんか動き、
鳥散じて餘花よくゎ落つ。
むかはず芳春はうしゅんの酒、
かへって望む靑山の郭せいざんくゎく

 采葛
『詩經』王風
采葛兮。
一日不見、如三月兮。

彼采蕭兮。
一日不見、如三秋兮。

彼采艾兮。
一日不見、如三歳兮。

 くず

くずる。
一日見ざれば、三月さんげつの如し。

よもぎる。
一日見ざれば、三秋さんしうの如し。

よもぎる。
一日見ざれば、三歳さんさいの如し。

 鵲巣
『詩經』召南
鵲有巣、維鳩居之。
之子于歸、百兩御之。

維鵲有巣、維鳩方之。
之子于歸、百兩將之。

維鵲有巣、維鳩盈之。
之子于歸、百兩成之。

 かささぎ

かささぎりて、はとこれる。
こことつぎ、百兩もてこれむかふ。

かささぎりて、はとこれたもつ。
こことつぎ、百兩もてこれおくる。

かささぎりて、はとこれつ。
こことつぎ、百兩もてこれす。

 擬行路難
南朝・宋・鮑照
水置平地、
各自東西南北流
人生亦有命、
安能行歎復坐愁
酌酒以自寬、
舉杯斷絶歌路難
心非木石豈無感
呑聲躑躅不敢言

 擬行路難ぎかうろなん

水をそそぎて平地へいちかば、
各自かくじ東西南北に流る。
人生もまためい有りて、
いづくんぞきてはたんしてはうれへんや。
酒をみて以て自らみづかひろうし、
杯をげ斷絶して『路難ろなん』を歌はん。
木石ぼくせきあらざればかん無からんや、
聲を躑躅てきちょくしてへては言はざるのみ。

 挽舟者歌
北朝・民歌
兄征遼東、
餓死靑山下。
今我挽龍舟、
又困隋堤道。
方今天下饑、
路糧無些少。
前去三十程、
此身安可保。
寒骨枕荒沙、
幽魂泣煙草。
悲損閨内妻、
望斷吾家老。
安得義男兒、
憫此無主屍。
引其孤魂回、
負其白骨歸。

 舟をく者の歌

我が兄遼東れうとうき、
餓死す青山の下。
今我龍舟りょうしうき、
くるしむ隋堤ずゐていの道。
方今はうこん天下ゑ、
路糧ろりゃう些少させうも無し。
前去ぜんきょ三十のてい
の身いづくんぞ保つけんや。
寒骨かんこつ荒沙くゎうさまくらし、
幽魂いうこん煙草えんさうに泣く。
悲しみつかるるけい内の妻、
望みはたる吾が家の老。
いづくんぞ得んや義男兒ぎだんじの、
の無主のかばねあはれみて、
孤魂ここんを引きてかへり、
の白骨をひて歸るを。

 雜詩
後漢末・孔融
送新行客、
歳暮乃來歸。
入門望愛子、
妻妾向人悲。
聞子不可見、
日已潛光輝。
孤墳在西北、
常念君來遲。
褰裳上墟丘、
但見蒿與薇。
白骨歸黄泉、
肌體乘塵飛。
生時不識父、
死後知我誰。
孤魂遊窮暮、
飄颻安所依。
人生圖孠息、
爾死我念追。
俛仰内傷心、
不覺涙霑衣。
人生自有命、
但恨生日希。



遠く新行しんかうかくを送り、
歳暮さいぼすなはきたり歸る。
門にりて愛子あいしを望むに、
妻妾さいせふ人に向かひて悲しむ。
聞くまみゆるからざるを、
すで光輝くゎうきひそむ。
孤墳こふん西北にり、
常に君のきたること遲きをおもふ。
もすそからげて墟丘きょきうのぼるに、
かうとを見るのみ。
白骨は黄泉くゎうせんに歸し、
肌體きたいちりに乘じて飛ぶ。
生時父をらず、
死後にわれたれなるを知らんや。
孤魂ここん窮暮きゅうぼあそび、
飄颻へうえうとしていづくにかる所なる。
人生孠息しそくはかるに、
なんぢ死してわれおもふ。
俛仰ふぎゃうしてうちこころいたましめ、
おぼえず涙はころもうるほす。
人生おのづからめい有り、
生日せいじつまれなるをうらむ。

 相送
梁・何遜
心已百念、
孤遊重千里。
江暗雨欲來、
浪白風初起。

 相ひ送る

客心(かくしん)(すで)に百念、
孤遊(こいう)(かさ)ねて千里。
(かう)暗くして雨(きた)らんと(ほっ)し、
(なみ)白くして風初めて()つ。

 別范安成
宋 斉 梁・沈約
平少年日、
分手易前期。
及爾同衰暮、
非復別離時。
勿言一樽酒、
明日難重持。
夢中不識路、
何以慰相思。

 范安成(はんあんせい)と別る

生平(せいへい)少年の日、
手を分かつも(あらかじ)め期し(やす)かりき。
(なんぢ)衰暮(すゐぼ)を同じうす、
()た別離の時には非ず。
言ふ(なか)一樽(いっそん)の酒と、
明日(みゃうにち)(かさ)ねて持つこと(かた)し。
夢中路を()らざれば、
何を(もっ)てか相思(さうし)(なぐさ)めん。

 子夜歌
南朝・無名氏
日出前門、
瞻矚見子度。
冶容多姿鬢、
芳香已盈路。



落日前門に()でて、
瞻矚(せんしょく)するに(し:あなた)(わた)るを見る。
冶容(やよう)姿鬢(しひん)多く、
芳香(すで)に路に()つ。

 子夜歌
南朝・無名氏
芳是香所爲、
冶容不敢當。
天不奪人願、
故使儂見郎。



「芳」は是れ香の爲す所、
「冶容」は敢えて當たらず。
天は人の願ひを奪はず、
故に儂をして郎に見え使む。