欒家瀬      欒家瀬らんからい    王 維
颯颯秋雨中   颯颯さつさつたる秋雨しゅううの中うち
浅浅石溜瀉   浅浅せんせんとして石溜せきりゅうに瀉ぐ
波跳自相濺   波は跳おどって自おのずから相い濺そそ
白鷺驚復下   白鷺はくろは驚きて復た下くだれり
さっと降る秋雨のなか
音を立て 川が岩瀬を抜けてゆく
波は跳ね しぶきは無心に散るが
驚いて飛び立つ白鷺は また降りてくる
  同 前       前に同じ    [裴 迪]
瀬声喧極浦   瀬声らいせい 極浦に喧かまびすしく
沿渉向南津   沿渉えんしょうして南津なんしんに向かう
汎汎鳬鴎渡   汎汎はんはんとして鳬鴎ふおう渡り
時時欲近人   時時じじに人に近づかんと欲す
波の瀬音を 遠くの入江で聞きながら
汀を歩いて 南の渡し場に向かう
鴨や鴎は浮いてただよい
ときどき人に近づこうとする

 「欒家瀬」は早瀬の名で、臨湖亭の奥、「柳浪」の柳の近くにありました。王維の詩は水しぶきに驚いて白鷺が飛び立つが、また降りてくると観察の鋭さを示しています。
 役人生活への比喩を含んでいるのかも知れません。裴迪の詩は、波の瀬音や湖の渡り鳥の姿など、周囲の自然を素直に詠っています。


  金屑泉      金屑泉きんせつせん   王 維
日飲金屑泉   日々ひびに金屑泉を飲めば
少当千余歳   少なくとも当まさに千余歳ならん
翠鳳翔文螭   翠鳳すいほう 文螭ぶんちを翔はしらせ
羽節朝玉帝   羽節うせつもて玉帝に朝ちょうせん
日々に飲む金屑泉
寿命は千年以上になるだろう
翠鳳の車に乗って 龍を走らせ
羽節を飾って天帝にまみえよう
  同 前       前に同じ    [裴 迪]
瀠渟澹不流   瀠渟えいていたんとして流れず
金碧如可拾   金碧こんぺき 拾う可きが如し
迎晨含素華   晨あしたを迎えて素華そかを含み
独往事朝汲   独往どくおうして朝に汲むを事こととす
泉の水は 澄んで流れず
金碧の色は拾いたいほどに美しい
朝には 白い花びらを浮かべ
朝水を汲みにゆくのが私の仕事だ

 金屑泉は欒家瀬の近くにあった泉で、「金屑」は金の細片、仙薬のひとつとされていました。
 薬効のある湧き水として、この名をつけたもののようです。
 王維の詩は泉の水を飲んで長生きをし、仙人になって天帝にお目通りしようと、金屑泉の水の良質なことをほめています。
 裴迪の詩は難しい語句を使っていますが、美しい澄んだ泉の水の上に白い花びらが浮かんでいる情景です。
 毎朝、泉の水を汲みにゆくのが若い裴迪のつとめであったようです。

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