送劉司直赴安西 劉司直の安西に赴くを送る 王 維
絶域陽関道   絶域ぜついき 陽関ようかんの道
胡沙与塞塵   胡沙こさと塞塵さいじん
三春時有雁   三春さんしゅん 時に雁がん有り
万里少行人   万里 行人こうじん少なし
苜蓿随天馬   苜蓿もくしゅくは天馬てんばに随い
葡萄逐漢臣   葡萄ぶどうは漢臣かんしんを逐
当令外国懼   当まさに外国をして懼おそれしむべし
不敢覓和親   敢あえて和親を覓もとめざれ
地の果て 陽関への道は
胡地の砂塵と辺塞の塵に満つ
春というのに 季節はずれの雁が飛び
果てしない道を 旅する人はまれである
だが 苜蓿うまごやしは天馬と共にもたらされ
葡萄は 漢の使者といっしょに入ってきた
異国には国の威力を示すべし
みだりに和睦を求めてはならぬ

 天宝のはじめ、王維は安定した生活を送っています。「元二の安西に使いするを送る」(渭城の朝雨…)の詩も、このころの作品でしょう。
 王維は生涯に多くの送別の詩を作っていますが、ほとんどの作品が制作年次不明です。詩題にある「劉司直」は経歴不明の人ですが、元二と同じく「安西」に使者となって赴いたのです。
 このころの安西都護府は現在の新疆ウイグル自治区庫車クチャにありましたので、ずいぶん遠くへ旅することになります。
 王維は先輩官吏として訓戒を垂れているようです。


  送韋評事       韋評事を送る     王 維
 欲逐将軍取右賢  将軍を()うて右賢(ゆうけん)を取らんと欲し
 沙場走馬向居延  沙場さじょうに馬を走らせて居延に向かう
 遥知漢使蕭関外  遥かに知る 漢使 蕭関しょうかんの外
 愁見孤城落日辺  愁えて見ん 孤城 落日の辺へん
将軍に従って 右賢王を捕らえようと
砂漠に馬を走らせ 居延関に向かう
遠くにいてもよく分かる 任務を帯びて蕭関の外
君は孤城の落日を 愁いの眼まなこで見るだろう

 この詩の「韋評事」も経歴不明の人で、王維の友人でしょう。
 詩は辺塞詩の形式を踏んで時代を漢に借りています。
 「右賢」ゆうけんは匈奴の右賢王のことで、北から南をみて右翼を掌握している部将です。「居延」きょえんは現在の甘粛省酒泉の北にあった居延関で、右賢王に対峙する漢代の城塞です。「漢使」は公務で地方に出る者をいい、必ずしも使者とは限りません。

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