寒食夜         寒食の夜    白居易
   四十九年身老日   四十九年 身老ゆる日
   一百五夜月明天   一百五夜 月明らかなる天
   抱膝思量何事在   膝を抱きて思量しりょうするも何事なにごとか在る
   癡男騃女喚鞦韆   癡男騃女ちだんがいじょ 鞦韆しゅうせんを喚
老いてはや 歳は四十九
天には明るい一百五夜の月
膝を抱いて考えるが どうしようもなく
息子や娘は ぶらんこ遊びに夢中である

 白居易はこの詩で「四十九」歳といっていますので、元和十五年の寒食節かんしょくせつの夜に作った詩でしょう。この年は正月に憲宗が急死していますので、冬至から数えて「一百五」いっぴゃくご日目のこのころは大喪中になります。
 大喪中にもかかわらず「癡男騃女」、つまり一家の子供たちは大喪を気にすることもなく、ぶらんこ遊びに夢中であると、白居易は子供たちの屈託のなさがうらやましそうです。
 膝をかかえて考え込んでいるのは、都の情勢かもしれません。


  春 江           春 江     白居易
  炎涼昏暁苦推遷  炎涼 昏暁こんぎょうはなはだ推遷すいせん
  不覚忠州已二年  覚おぼえず 忠州 已に二年なり
  閉閤只聴朝暮鼓  閤こうを閉じて只だ聴く 朝暮ちょうぼの鼓つづみ
  上楼空望往来船  楼に上りて空しく望む 往来の船
  鶯声誘引来花下  鶯声おうせいに誘引せられて 花下かかに来たり
  草色匂留坐水辺  草色そうしょくに匂留せられて 水辺すいへんに坐す
  唯有春江看未厭  唯だ春江しゅんこうの看れども 未だ厭かざる有り
  縈砂遶石緑潺湲  砂を縈めぐり 石を遶めぐりて 緑潺湲せんかんたり
夏冬の寒暑 昼夜が激しく移りゆき
忠州にきてから はや二年になる
小部屋を閉じて 朝夕の太鼓に耳を傾け
楼に上って ゆきかう船をぼんやり眺める
鶯の声に誘われて 花の下に来てみたり
草の色に魅せられて 水辺に腰をおろす
春の長江は 見飽きることがなく
砂をめぐり 石をめぐって 清らかに水は流れる

 同じ年の春のさなか、白居易は長江の岸辺の草むらに腰をおろして、ぼんやりと流れを見詰めながら一日を過ごしました。
 忠州に着任してからまだ一年しか経っていないのに、白居易は「忠州 已に二年なり」と退屈し切っています。
 その白居易のもとに、夏になると都からの召喚命令が届きました。
 待っていたものがやっと届いたのです。白居易は東坡に植えた野桃やとう、山杏さんきょう、水林檎すいりんきんの樹に別れを告げ、忠州を去ってゆきました。

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