歩東坡         東坡に歩す   白居易
朝上東坡歩     朝あしたに東坡とうばに上って歩み
夕上東坡歩     夕べに東坡に上って歩む
東坡何所愛     東坡 何の愛する所ぞ
愛此新成樹     此の新成しんせいの樹を愛するなり
種植当歳初     種植しゅしょく 歳初さいしょに当たり
滋栄及春暮     滋栄じえい 春暮しゅんぼに及ぶ
信意取次栽     意に信まかせて取次しゅじに栽
無行亦無数     行こう無く亦た数かず無し
朝から東坡に上って散策し
夕べにも東坡に上って歩きまわる
東坡の何処が気に入ったのか
成長したばかりの木が好ましいからだ
木を植えたのは 年の初めのころ
春遅くには花が咲いた
気の向くままにつぎつぎと植え
列もなく 数もわからない

 「東坡」とうばというのは東向きの斜面といった程度の意味で、特別の地名ではありません。蘇軾が号に用いたことから有名になりました。
 白居易は「意に信まかせて取次に栽え」といっているように果樹園を作ろうとしていたのではなく、堤防の斜面を補強するために樹を植えさせたという説もあります。

緑陰斜景転     緑陰りょくいんに斜景しゃけい転じ
芳気微風度     芳気ほうき 微風びふうに度わた
新葉鳥上来     新葉しんように鳥上のぼり来たり
萎花蝶飛去     萎花いかに蝶飛び去る
間携斑竹杖     間しずかに斑竹はんちくの杖を携え
徐曳黄麻屨     徐おもむろに黄麻こうまの屨くつを曳く
欲識往来頻     往来の頻しきりなるを識らんと欲せば
青蕪成白路     青蕪せいぶは白路はくろと成る
いまや 緑の木蔭に夕日がさしこみ
かぐわしい香りが 風に乗って渡ってくる
新しい葉に 鳥が来てとまり
しおれた花から 蝶が飛び去る
のんびりと斑竹の杖を手にして
ゆっくりと黄麻の屨で散歩する
私が頻繁に往来していることは
青い草はらの白い路でわかるであろう

 忠州の刺史といっても、白居易には仕事らしい仕事はありません。
 東坡に木を植えるのも自分で作業をするのではなく、農夫に命じて植えさせるのです。気の向くままに植えた木も、季節とともに花が咲き、鳥や蝶が飛んできます。
 それを毎日、杖を手に見に行くのが日課でした。

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