酔中対紅葉      酔中 紅葉に対す 白居易
臨風杪秋樹     風に臨む 杪秋びょうしゅうの樹
対酒長年人     酒に対す 長年ちょうねんの人
酔貌如霜葉     酔貌すいぼうは 霜葉そうようの如し
雖紅不是春     紅くれないなりと雖も 是れ春ならず
風に向かって立つ 晩秋の樹
酒に向かって座す 老年の者
酔った顔は 霜枯れの葉のようで
紅くはあるが 春ではない

 この詩も酒にまつわる歌ですが、起承の二句は白居易が自分の姿を観照するものでしょう。「杪秋」は楚辞に用例があり、晩秋の意味です。
 白居易は配所の欝屈を紛らすように酒を飲みます。
 酔って顔は赤くなりますが、そこには春の瑞々しさはなく、霜枯れの紅葉のようだと自嘲するのです。


 問劉十九       劉十九に問う  白居易
緑蟻新醅酒     緑蟻りょくぎ 新醅しんばいの酒
紅泥小火炉     紅泥こうでい 小火炉しょうかろ
晩来天欲雪     晩来ばんらい 天 雪ふらんと欲す
能飲一杯無     能く一杯を飲むや無いな
出来たての酒は ぶつぶつ泡立ち
火鉢の練炭は まっ赤に燃えている
日暮れには 雪も降り出す気配となり
さあ熱燗で 一杯やろう

 詩題の「劉十九」は酒飲み仲間のひとりです。
 冬の午後、二人は出来立ての酒を囲んでおり、「緑蟻」は醸した酒の泡立つようすを蟻の群れに例えたものです。日暮れになると雪も降り出しそうな気配となり、火鉢の練炭もまっ赤に燃えており、酒も熱くなったようです。
 即興の詩と思われますが、いい詩と思います。


  夜雪         夜雪     白居易
已訝衾枕冷     已に衾枕きんちんの冷ややかなるを訝いぶか
復見窓戸明     復た窓戸そうこの明らかなるを見る
夜深知雪重     夜深くして 雪の重きを知り
時聞折竹声     時に聞く 折竹せつちくの声
夜具がひんやりするので 不思議に思い
見まわすと 窓や戸口が明るくなっている
真夜中に 雪が降り積もったようだ
ときどき 竹の折れる音がする

 元和十二年も歳末の冬となりました。江州で迎える三度目の冬です。
 寒さで夜中にふと目覚めると、窓や戸口が雪明りで明るくなっています。
 雪の重みで竹の折れる音が聞こえ、江南では珍しい大雪のようです。
 寝床のなかで、耳を澄ませている白居易の孤独な姿が浮かんできます。

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