薔薇正開春酒初熟因招劉十九・張大夫・崔二十四同飲
   薔薇正に開き春酒初めて熟す
        因って劉十九・張大夫・崔二十四を招きて同じく飲む 白居易

   甕頭竹葉経春熟  甕頭おうとうの竹葉ちくよう 春を経て熟し
   階底薔薇入夏開  階底かいていの薔薇しょうび 夏に入りて開く
   似火浅深紅圧架  火に似て浅深せんしんこうを圧し
   如餳気味緑粘台  餳あめの如き気味きみりょく 台に粘ねん
   試将詩句相招去  試みに 詩句を将もって相あい招去しょうきょせば
   儻有風情或可来  儻し風情ふぜい有らば 或いは来たる可し
   明日早花応更好  明日 早花そうかまさに更に好かるべき
   心期同酔卯時杯  心に期す 同じく卯時ぼうじの杯はいに酔わんことを
甕のなかの竹葉酒 春を越して熟し
階のしたの薔薇は 夏になって咲く
花は火のように紅 濃淡が棚を満たし
酒は飴のような緑 風味が台に粘りつく
試みに詩を作って 招待すれば
風流を解する人が 来てくれるやも知れぬ
明日の早朝は もっとよい花が咲くはずだ
一緒に酔える朝酒を 心から期待している

 白居易は草堂で酒を飲みたいので、友人に詩を送って誘いをかけます。
 頷聯の対句の薔薇と新酒の描写が濃厚で、人の心を誘います。
 劉十九・張大夫・崔二十四は地もとの友人でしょう。
 経歴は不明の人々ですが、三人とも排行で呼ぶ親しさです。「張大夫」は張大の衍字(余計な字)とされており、「大」は排行一ということです。


 小院酒醒       小院にて酒醒む  白居易
酒醒閑独歩     酒醒めて閑しずかに独歩す
小院夜深涼     小院しょういん 夜深くして涼し
一領新秋簟     一領いちりょう 新秋の簟てん
三間明月廊     三間さんげん 明月の廊ろう
未收残盞杓     未だ收めず 残盞杓ざんさんしゃく
初換熟衣裳     初めて換う 熟衣裳じゅくいしょう
好是幽眠処     好し是れ幽眠ゆうみんの処ところ
松陰六尺牀     松陰しょういん 六尺の牀しょう
酔いから醒めて ひとり閑かに散歩する
夜も深まり 涼しい風が庭に流れる
秋になって 寂しく垂れている簟すのこ一枚
明るい月が 間口三間の部屋を照らす
片づけないまま 杯や柄杓は散らかり
明日はそろそろ 秋の衣裳に着かえるころだ
今宵の熟睡によい場所は
松の木蔭 六尺の寝床

 白居易は夏から秋にかけて、新築した草堂でしばしば酒宴をひらいたようです。前の詩の「卯時の杯」というのは、卯の時(午前六時ころ)に飲む酒のことで、朝酒を誘う詩です。夜の酒宴も盛んにひらきますが、酔いがさめて夜の前庭をひとりで歩くと、言い知れぬ虚しさがこみあげてきます。
 結びの「松陰 六尺の牀」というのは、おのれひとりの孤独の場所という意味でしょう。

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