四十五         四十五   白居易
行年四十五     行年こうねん 四十五
両鬢半蒼蒼     両鬢りょうびん 半ば蒼蒼そうそうたり
清痩詩成癖     清痩せいそう 詩 癖へきを成し
粗豪酒放狂     粗豪そごう 酒 狂を放ほしいままにす
老来尤委命     老来ろうらいもっとも命めいに委ゆだ
安処即為郷     安処あんしょ 即ち郷きょうと為
或擬廬山下     或いは擬す 廬山ろざんの下もと
来春結草堂     来春らいしゅん 草堂を結ばんことを
当年四十五歳
鬢の毛も 半分は白くなっている
痩せた体 詩作が癖になり
気が強く 酒を飲んでは酔っぱらう
年老いて ひたすら天命に身をまかせ
落ちついて暮らせる場所を故郷とする
ひょっとしたら 来年の春
廬山の麓に 草堂を建てるかもしれない

 「琵琶行」を作った年に、白居易の家では次女の阿羅あらが生まれ、いくらか賑やかになっていました。
 淮西の呉元済の乱は、討伐の成果が挙がらないままつづいていましたが、一介の江州司馬となった白居易とは何の関係もありません。
 白居易は、この年に四十五歳になっていましたが、年末に「四十五」という素っ気ない題の詩を書いています。
 その末尾に「来春 草堂を結ばんことを」と書いてあり、陶淵明の旧居を訪ねるなどして廬山の麓を歩くうちに、奇秀の場所をみつけ、そこに草堂を建てることを思いついたようです。


 遺愛寺         遺愛寺    白居易
弄石臨谿坐     石を弄もてあそび 谿たにに臨みて坐し
尋花遶寺行     花を尋ね 寺を遶めぐりて行く
時時聞鳥語     時時じじ 鳥語ちょうごを聞き
処処是泉声     処処しょしょ 是れ泉声せんせい
石を弄びつつ 谷川に臨んで坐し
花を尋ねて 寺の周囲を歩く
いつきても 鳥の鳴き声が聞こえ
あちらこちらで 泉の音がする

 翌元和十二年(八一七)の春になると、草堂を建てるために廬山の香鑪峰こうろほうのあたりに出かけることが多くなりました。
 題の「遺愛寺」いあいじは香鑪峰の北にあった寺で、草堂を建てようと思っている場所に近いところにありました。

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