白鷺          白鷺    白居易
人生四十未全衰   人生四十 未だ全くは衰えず
我為愁多白髪垂   我は愁い多きが為に 白髪はくはつ垂る
何故水辺双白鷺   何故に 水辺すいへんの双白鷺そうはくろ
無愁頭上亦垂糸   愁い無きも 頭上に亦た糸を垂る
人生の四十年は 衰え切ったほどではないが
愁いが多いために 私は白髪を垂れている
水辺の二羽の白鷺は 愁いごともないはずだ
なのにどうして 頭に糸毛を垂れているのか

 貶謫の処分を受けた者は、すぐに都を出なけれなりません。
 白居易は家族よりも先に都を発ち、藍田(陝西省藍田県)の谷に入って商山を越えました。商州(陝西省商県)で妻や召使い・使用人らの到着を待ち、いっしょに武関を通りました。武関から襄陽までは陸路を取り、襄陽では父の死後、一時滞在した家を見に行きましたが、家はひどく荒れていました。襄陽から船に乗り、漢水を下ります。
 岸辺につがいの白鷺が佇んでいるのを見たのはこのときのことでしょう。白鷺は頭に白い糸毛を垂らしています。
 白居易はこのとき四十四歳でしたが、年齢の割には老けてしまった自分の白髪頭を思い浮かべ、苦労の多かった人生に思いを馳せるのです。


舟行江州路上作   舟行 江州路上の作 白居易
帆影日漸高     帆影はんえい 日漸ようやく高く
閑眠猶未起     閑眠かんみんお未だ起きず
起問鼓竦l     起きてかじを鼓する人に問えば
已行三十里     已すでに行くこと三十里
船頭有行竈     船頭せんとうに行竈こうそう有り
炊稲烹紅鯉     稲を炊かしぎて紅鯉こうりを烹
飽食起婆娑     飽食ほうしょく 起って婆娑ばさたり
盥漱秋江水     盥漱かんそうす秋江しゅうこうの水
平生滄浪意     平生へいぜい 滄浪そうろうの意
一旦来遊此     一旦来たりて此ここに遊ぶ
何況不失家     何ぞ況いわんや 家を失わず
舟中載妻子     舟中しゅうちゅう 妻子を載するをや
帆の影で 日が昇ったのを知るが
のどかな眠り まだ起きずにいる
起きて 船頭に尋ねると
もう三十里も走ったという
船の舳先に こんろがあり
飯を炊き 赤い鯉を煮る
満腹して起てば よろけるほどだ
秋の江水で顔を洗い 口をすすぐ
これまで清らかな水辺を夢みてきたが
いまここにきて 夢がかなう
まして言うことはない 家を失わず
舟中に 妻子とともにいるのだから

 船中での第一夜を過ごしたあと、白居易は遅くに起きて詩を書きました。詩中にある「滄浪の意」というのは屈原の作と伝えられる楚辞「漁父(ぎょほ)の句を踏まえており、自分はかねてから「漁父」のように清らかな境地で生活をしたいと思っていたが、図らずもその夢がかなえられたと、貶謫の不運を肯定するような口吻で詠っています。
 本心でしょうか。

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