村居苦寒       村居 寒に苦しむ  白居易
八年十二月     八年 十二月
五日雪紛紛     五日 雪紛紛ふんぷんたり
竹柏皆凍死     竹柏ちくはくな凍死す
況彼無衣民     況いわんや彼の無衣むいの民をや
廻観村閭間     村閭そんりょの間を廻観かいらんすれば
十室八九貧     十室 八九は貧し
北風利如剣     北風ほくふうきこと剣の如く
布絮不蔽身     布絮ふじょ 身を蔽おおわず
唯焼蒿棘火     唯だ蒿棘こうきょくの火を焼
愁坐夜待晨     愁坐しゅうざして 夜 晨しんを待つ
元和八年十二月
雪が五日も降りつづく
竹や柏も寒さで枯れ
冬着のない人はどうしているだろう
村里を見わたすと
十軒に八九は貧しい家だ
北風は剣のように鋭く吹くが
綿入れを着ることもできない
ただ蒿や茨で火を燃やし
悲しげに坐して 夜明けを待つ

 この年は異常気象であったらしく、長雨につづいて十二月には大雪が降りました。雪は五日も降りつづき、白居易は貧しい農民の生活に思いを馳せます。

乃知大寒歳     乃すなわち知る 大寒だいかんの歳
農者尤苦辛     農者 尤はなはだ苦辛くしんするを
顧我当此日     顧う 我れ此の日に当たり
草堂深掩門     草堂深く門を掩おお
褐裘覆絁被     褐裘かつきゅう 絁被しひを覆おお
坐臥有余温     坐臥ざが 余温よおん有り
幸免飢凍苦     幸いに飢凍きとうの苦しみを免まぬが
又無壠畝勤     又た壠畝ろうほの勤め無し
念彼深可愧     彼れを念おもいて深く愧ず可
自問是何人     自ら問う 是れ何人なにひと
いまこそ大寒の時 農民たちが
どんなに苦しむかをこの目で見た
思えば私は この大雪の日にも
草堂の奥で 入口を固く閉ざしている
毛織の毛布にくるまって
坐しても寝ても 充分にあたたかい
飢えと寒さの苦しみをまぬがれ
畑仕事のつらさもない
かれらのことを思えば 深く恥じ入り
みずからに問う お前はこれでいいのかと

 貧しい農民の雪の夜のつらさに思いを馳せた白居易は、わが身の安穏な生活に恥じ入るのでした。
 「自ら問う 是れ何人ぞ」と反省しますが、官から離れ、除服(喪が明けること)しても呼び出しもない身では、どうすることもできません。

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