效陶潜体詩 其二  陶潜の体に效う詩 其の二 白居易
翳翳踰月陰     翳翳えいえいとして月を踰えて陰くも
沈沈連日雨     沈沈しんしんとして日を連つらねて雨ふる
開簾望天色     簾れんを開いて天色てんしょくを望めば
黄雲暗如土     黄雲こううん 暗くして土つちの如し
行潦毀我墉     行潦こうろう 我が墉かきを毀こぼ
疾風壊我宇     疾風しっぷう 我が宇いえを壊やぶ
蓬莠生庭院     蓬莠ほうゆう 庭院ていいんに生じ
泥塗失場圃     泥塗でいと 場圃じょうほを失う
薄暗い曇りの日が ひと月を越えてつづき
しとしとと 毎日のように雨が降る
簾を巻き上げ 空の模様を眺めると
黄雲が立ちこめ 土のように暗い
あふれた水が わが家の垣をこわし
疾風が わが家の屋根を痛めつける
雑草が 庭一面に生い茂り
泥土で 畑も埋めつくされる

 翌元和八年(八一三)は五月を過ぎると、通常足かけ三年(二十五か月)とされている喪が明けます。
 しかし、喪が明けても都からは何の沙汰もありませんでした。
 白居易は陶淵明に效ならった詩十六篇の連作を作ったりして、閑日月を過ごします。陶淵明の閑居の精神に学ぼうというわけですが、白居易にはそこまで悟りきることができなかったようです。
 十六篇のうち其二だけを掲げますが、其の二の詩では長雨や強風の被害を憂鬱そうに描いています。

村深絶賓客     村深くして賓客ひんかくを絶
窗晦無儔侶     窗まどくらくして儔侶ちゅうりょ無し
尽日不下牀     尽日じんじつしょうを下らず
跳蛙時入戸     跳蛙ちょうあ 時に戸に入る
出門無所往     門を出ずるも往く所無く
入室還独処     室に入りて還た独処どくしょ
不以酒自娯     酒を以て自ら娯たのしまずば
塊然与誰語     塊然かいぜんとして誰とか語かたらん
奥まった村に 訪れる客もなく
暗い窓辺に 友人の顔もない
一日中 寝床にいると
蛙がときどき 戸口に跳ねてくる
門を出ても 行くところがなく
部屋にもどって またひとりいる
酒でも飲んで 楽しまなければ
黙然と坐して 話し相手もいないのだ

 後半八句では、訪れてくる客もいないのを嘆きます。
 一日中寝床にいると、戸口に蛙が跳ねてきます。
 行くところもなく話し相手もいないので、酒でも飲んで楽しまなければ過ごしようがないと嘆くのです。
 この年には、二番目の子の阿亀あきが生まれています。

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