昔遊          昔 遊   杜 甫
昔者与高李     昔者せきしゃ 高李こうり
晩登単父台     晩くれに単父ぜんぽの台だいに登る
寒蕪際碣石     寒蕪かんぶは碣石けつせきに際し
万里風雲来     万里ばんり 風雲ふううん来たる
桑柘葉如雨     桑柘そうしゃの葉は雨の如く
飛藿共徘徊     飛藿ひかくは共に徘徊はいかい
清霜大沢凍     清霜せいそう 大沢だいたくこお
禽獣有余哀     禽獣きんじゅう 余哀よあい有り
昔 李白や高適こうせき
日暮れに 単父の台の登る
寒空の下 荒地は碣石につらなり
万里の彼方から 風雲がやってきた
桑の葉は 雨のように落ち
豆の葉も あたりに飛び散る
霜は清らかに降りて 大沢は凍り
鳥や獣は 哀しげな声で啼く

 宋城の東北には、当時、孟諸沢もうしょたくという沼沢が広がっていて、良い猟場でした。三人は秋の終わりから冬のはじめにかけて、孟諸沢で狩りの遊びをしました。
 三人は狩りが終わると、孟諸沢の東北にあった単父(山東省単県)の東楼に登楼して、酒宴を開いたことが李白の詩でわかります。
 「単父台」というのは単父の北にあった琴台きんだいのことで、三人がここを訪ねたのは孟諸沢での狩りのあとでしょう。
 琴台はむかし孔子の弟子の宓子賎ひつしせんが琴を奏しながら良い政事を行ったという伝説の場所です。
 琴台の地は、北は碣石山(河北省昌黎県の北)につらなっており、北から冷たい風が吹いてきます。風に吹かれて落ち葉が舞い、霜が降りて孟諸沢は凍りつき、鳥や獣の哀しそうな鳴き声が聞こえてきます。
 淋しげな荒れた風景の描写です。

是時倉廩実     是の時 倉廩そうりん
洞達寰区開     洞達どうたつ 寰区かんくを開く
猛士思滅胡     猛士もうしは胡を滅めつせんことを思い
将帥望三台     将帥しょうすいは三台さんだいを望む
君王無所惜     君王くんおうおしむ所無く
駕馭英雄材     英雄の材ざいを駕馭がぎょ
時に天下の米倉は満ちあふれ
大道はいたるところに通じていた
勇士は胡賊を滅ぼそうと思い
将軍は三公の位につこうと考えていた
君王は彼らの欲するものを惜しげなく与え
天下の人材を自由にあやつられた

 「昔遊」の詩句からは、杜甫が安禄山の乱が迫っているのを予感しているような印象を受けますが、それは「昔遊」が後年の作だからでしょう。安禄山は天宝元年に平盧節度使になったばかりで、三人は名前も知らなかったでしょう。杜甫も「是の時 倉廩実ち 洞達 寰区を開く」と詠っているように「開元の盛世」はなおつづいていたのです。
 「昔遊」はこのあと二十二句つづきます。

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