江 雪         江 雪   柳宗元
千山鳥飛絶     千山 鳥の飛ぶこと絶え
万径人蹤滅     万径 人の(あと)()
孤舟蓑笠翁     孤舟 蓑笠(さりゅう)の翁
独釣寒江雪     独り釣る 寒江の雪
山々に 飛びゆく鳥の影もなく
径は皆 足跡さえも消え果てた
孤舟にひとり 蓑笠の翁が糸をたれ
寒々と 雪は川面に降っている

 「江雪」は中国の漢詩のなかでも五言絶句の名作とされているもので、日本でも人口に膾炙しています。
 柳宗元が永州(湖南省零陵県)の司馬に流されていたときの作で、流謫の身の孤独感がひしひしと迫ってきます。


登柳州峨山      柳州の峨山に登る 柳宗元
荒山秋日午     荒山 秋日 午なり
独上意悠悠     独り上る 意は悠悠
如何望郷処     如何せん 望郷の処
西北是融州     西北 是れ融州
荒れた山に 秋の日がさす真昼どき
ひとり登りつつ つきぬ思いにさいなまれる
故郷を遠く望むが どうしようもなく
北に遥かに ただ融州の町がある

 柳宗元は永州司馬に流されてから、いったん都にもどされますが、すぐに柳州(広西壮族自治区柳州市)の刺史に左遷されます。
 四年後、その地で四十七歳で亡くなりました。
 順宗の永貞元年(八〇五)の失脚から前後十四年にわたる流謫の生活でした。「意悠悠」は『詩経』関雎を踏まえており、悩みで寝つかれないことです。融州は柳州の北百キロほどのところにある。
 柳州の峨山に登ってはるか北の故郷河東(山西省永済県)を望んだのでしょう。北は都の方角でもあります。


 秋風引        秋風の(うた)  劉禹錫
何処秋風至     何れの処よりか秋風至り
蕭蕭送雁群     蕭蕭として雁群を送る
朝来入庭樹     朝来(ちょうらい) 庭樹に入り
孤客最先聞     孤客 最も先に聞く
秋風は どこから吹いて来るのか
蕭々と むれ飛ぶ雁を送りやる
あけがたに 風が庭樹(にわき)を吹きぬけて
ひとり旅ゆく寂しさを 誰よりもはやく感じとる

 劉禹錫は柳宗元と同様、王叔文の政治改革に参画して失脚し、二度の流謫に遇います。しかし、のち中央に復帰して太子賓客(正三品)になり、検校礼部尚書を加えられますので、官途を全うしたわけです。
 詩は旅の孤独を詠うものですが、品格のあるのを感じます。
 晩年は洛陽に住んで白居易らと交遊し、武宗の会昌二年(八四二)に七十一歳で亡くなりました。

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