題袁氏別業 袁氏の別業に題す 賀知章
主人不相識 主人 相識らず
偶坐為林泉 偶坐するは林泉が為なり
莫謾愁沽酒謾 りに酒を沽 うを愁うること莫かれ
嚢中自有銭嚢中 自ずから銭有り
ご主人と お会いするのははじめてですが
上がり込んだのは 見事な庭があるからです
どうか お酒の心配などなさらぬように
いやいや 財布に銭はつきものですから
賀知章は玄宗朝で政府の要職にありましたから、立派な庭を持っているほどの人には顔を知られていたと思います。
だから「別業」(別荘)の主人が気を使ってもてなしの準備をしようとするのを、ユーモラスに断った詩と思われます。
結句の「嚢中自有銭」は微妙な表現で、詩人の三好達治はなんとなく笑って誤魔化すような口吻があると言っています。
長干行 長干行 崔
君家住何処 君家きみは 何れの処にか住む
妾住在横塘 妾は住みて 横塘に在り
停船暫借問 船を停めて 暫く借問しゃもんせん
或恐是同郷 或は恐らく 是れ同郷ならん
あなたは何処のお方かしら
わたしの住まいは横塘よ
船を停めて ちょっとお尋ねいたします
郷里おくにはもしや いっしょの方ではないかしら
若いころには相当の遊び好きであったらしく、「長干行」(楽府題)はその一端を示すものでしょう。天宝十三載(七五四)、つまり安史の乱の起こる前年に亡くなっています。
「
詩は遊び女になりかわっての作で、四句すべてを女性の言葉として民謡調に詠っています。
女性が言葉巧みに言い寄る状況がいやみなく表現されています。
長楽少年行 長楽少年行 崔国輔
遺却珊瑚鞭 遺却す 珊瑚の鞭
白馬驕不行 白馬 驕りて行かず
章台折楊柳 章台 楊柳を折る
春日路傍情 春日 路傍の情
珊瑚の鞭を忘れてきた
だから白馬も 動こうとしない
色里の 柳の枝を折りとって
春麗らかな路傍 で ふと揺れ動く婀娜心
官は集賢院学士から尚書省礼部員外郎(従六品上)に至ったとありますので、出世したとは言えないでしょう。
詩は崔国輔の代表作(遺作四一首のうち)と称されるもので、開元の世の若者の姿をよくとらえていると思います。
「珊瑚鞭」は珊瑚で飾った上等の鞭、「章台」は漢代の都にあった街の名で、唐代ではもっぱら遊里の意味に用いられています。
「路傍情」は難解ですが、鞭の代わりに柳の枝を折り取ったものの、家に帰ろうか、それとも鞭を忘れたことを口実にまた遊里の女のもとにもどろうか、迷っている心を詠ったものでしょう。