淥水曲       淥水曲りょくすいきょく 李 白
淥水明秋日    淥水 秋日しゅうじつに明らかに
南湖採白蘋    南湖 白蘋はくひんを採る
荷花嬌欲語    荷花かかきょうとして語らんと欲す
愁殺蕩舟人    愁殺しゅうさつす舟を蕩うごかすの人
清らかな水が 秋の日に明るく映え
南湖では 白蘋摘みがはじまる
蓮の花は ささやくように艶めいて咲き
乙女心は たゆたう舟とともに切なくゆれる

 この詩も「採蓮曲」と同じ趣旨の詩でしょう。
 白蘋摘みがはじまっていますが、蓮の花も咲いていますので、秋のはじめころの作品でしょうか。「南湖」という名の湖は江南のあちこちにあって、どこと場所を特定できません。舟に乗って白蘋(浮き草)を採る娘たちを眺めながら、李白は青春のひとときを楽しんでいますが、二年に及ぶ東遊の旅も終わりに近づこうとしています。


 贈孟浩然      孟浩然に贈る  李 白
吾愛孟夫子    吾は愛す孟夫子もうふうし
風流天下聞    風流ふうりゅうは天下に聞こゆ
紅顔棄軒冕    紅顔こうがん 軒冕けんめんを棄て
白首臥松雲    白首はくしゅ 松雲しょううんに臥
酔月頻中聖    月に酔いて頻しきりに聖せいに中あた
迷花不事君    花に迷いて君に事つかえず
高山安可仰    高山こうざんいずくんぞ仰ぐ可けんや
従此揖清芬    此ここより清芬せいふんを揖ゆう
私の愛する孟先生
先生の風流は 天下に聞こえています
若くして高官になる志を棄て
白髪になるまで 松雲の間に臥しておられる
月下に酒を飲んで 聖にあたったと答え
君主に仕えずに 花を眺めておられる
高山は近寄りがたいので
私はここから 清らかな香りを拝しています

 李白が安陸に着いたころ、漢水中流の襄陽(湖北省襄樊市)に孟浩然もうこうねんが住んでおり、隠逸の自然詩人として有名でした。李白は多分、江陵に滞在していたころに孟浩然の噂を聞いていたでしょう。
 安陸に着くとほどなく孟浩然に詩を贈ったとみられます。
 孟浩然はこのとき三十八歳であり、白髪の翁と呼ぶには早すぎますが、李白は二十六歳の無名の若者であり、年長の孟浩然を敬して「白首」と言ったのでしょう。孟浩然はそのころ、襄陽の県城から二〇㌔㍍ほど漢水を下ったところにある鹿門山という山に別業(別荘)を営んで、風雅な生活を送っていました。無名の詩人が有名な詩人に捧げるのにふさわしく、詩は非常にへりくだった書き方になっています。

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