International Dose-Response Society Dose-Response, 6:369-382, 2008
原爆の健康への効用 トーマス・ラッキー(ミズーリ大学名誉教授) (有志グループ訳)

”収集されたデータによれば低線量の放射線は有害ではない、いや実際には人間の健康に明らかに有益であることが多い。” 近藤宗平(1993)
 原爆によりたくさんの人が死亡し、壊滅的な被害があったことなどがメディアで大々的に報道されたことにより、世界中の人々は(電離)放射線は全て有害であると信じ込むようになった。
 このため、わずかな量の放射線についても怯えるようになってしまったのである。
 LNTドグマ( Linear No Threshold ―放射線はわずかな量でも害があり、有害な度合いは量に比例して直線的に増加するとする考え)に基づき法律が制定された。
 低線量放射線が健康に有益であるという科学的に実証された情報は無視された。
 本論文に取り上げた諸研究には原爆で生き残った日本の人々の健康が増進された例が紹介されている。
 突然変異、白血病、臓器のがんによる死亡率などが減少したこと、平均寿命が延びたことなどがその例である。
 それぞれの研究においてLNTドグマが否定される”閾値”があることが示されている。
 原爆による急性放射線被曝の閾値の平均は約100cSV( 訳者注:100センチシーベルト=1000ミリシーベルトmSv)である。
 原爆の生存者に関するこれらの研究から次のようなことが結論として得られる:
・低線量放射線を一回浴びことにより生涯の健康増進につながる。
・低線量放射線で健康増進があるということはLNTの考え方の間違いを意味する。
・生存者の治療に当たっての効率的な治療の優先順位には放射線ホルミシス効果*を取り入れるべきである。
(訳者注:*低放射線に細胞再生効果のあることを博士はホルミシス効果と名付けた。この研究学会として国際ホルミシス学会、日本にはホルミシス臨床研究会がある。)

はじめに
 殆どの人は放射線に関するLNT仮説を信じており、その当然の帰結として、”放射線はすべて害毒である”と信じている。
 日本に落とされた原爆による人的、物理的な甚大な被害がメディアで大々的に報道されたことにより、世界中の人々は放射能にはすべて害があるというLNTドグマを信じこむようになった。
 LNTドグマは正しいに決まっていると、学校や大学で教えられている。
 それが当然であるかのごとくメディアでは連日報道されているし、多くの国ではそれを前提として法律が制定されている。
 しかし、ここに誤信がある。
 フランスの哲学者ジャン・デ・ラ・ブリュイエール ( 1645-1696 )は次のように述べている「一般に信じられていることと全く逆のことに真実があることがしばしばある。」(ブリュイエール、1688 ) LNTドグマを信じ込ませる為に、放射線生物学者は学生、医者、教授、メディア、一般大衆、政府の諮問委員会、政治的指導者たちを絶えずミスリードしてきた。
 この類の欺きの具体例が約30ほど呈示されている。(ラッキー2008a)
 本論文は、日本に落とされた原爆の生存者が浴びた低線量放射線の影響を研究した一般には未発表の論文をレビューしている。
 原爆からの低線量放射線の効用は一貫してみられ、LNT仮説を否定するにとどまらず、低線量放射線を一回浴びることにより生涯の健康増進につながることを示唆しているのである。
 あまりにも放射線の害毒に目を奪われることにより、人々は低線量放射線のもたらす恩恵に目をつぶってきた。
 低線量放射線を生体が浴びることにより生体に良い効果が得られるということは一世紀以上前から知られている。
 このことは3000以上のレポートに記録されているのである。(ラッキー1980、1991、マッカーハイド2002)
 低線量放射線が遺伝子的に正常な人間に対し、或は実験動物に対し有害であるという統計上意味のある科学的レポートは見あたらない。
 従って、人体への影響においても実験動物に対する影響においてもLNTドグマはその科学的根拠がないのである。
 フランスの科学アカデミーの委員会も国立医学アカデミーも次のように同意した。
「結論として、低量放射線(100mSv未満)更には超低量放射線(10mSv未満)の発ガン性リスクの評価にあたり、LNT仮説が使えるとは考えにくい。」(オーリンゴ他、2005)
 ウラニウム爆弾(広島)、プルトニウム爆弾(長崎)、水素爆弾(漁師ーー第五福竜丸乗組員)などが生存者の健康にどのような効用があったのかを調べることで、一般的に思われていることと科学的データとのギャップが解消される。
 広島や長崎の人については、それぞれの人につき爆弾が破裂したときにどこにいたか、遮蔽物がどうであったかなどの状況に基づき被曝線量を推計した。
 第五福竜丸乗組員の場合をのぞき、主な被曝は爆弾の破裂からの直接のものとし、その後の移動時に受けたかもしれない降下物による効果は除外してある。
 空気、食物および水の摂取による影響は無視してある。
(注;清水氏ほかの論文(1990、1992a、1992b)では被曝集団ごとの線量の範囲から被曝線量を推計してある。
 また、あいにく初期の論文の中には中性子は1cGy(センチグレイ)と等量であるという前提のもとに、(被曝線量を)cGy を用いて表示してあるものがある。
 ただ、長崎の場合にはこの推計は有効である。
 一般平均住民の設定は必ずしも適当ではないと思われるケースもみられる。
 ”市内”住民は、それぞれの爆心地から3Km以内の住民である。
 一方、”市外”住民は爆心地から3Kmを超える村の住民である。
 これにより大きな誤差の余地が生じる。
 長崎の3Km東、小さな山を越えたある町での放射性降下物は20cGyであった。(近藤、1993))
 広島、長崎合計で86,543名の被曝者が統計の対象になった。
 うち、45,148名が最大1cSv(センチシーベルト=10ミリシーベルト)を被曝し、”市内住民平均”としてある。
 これらの生存者は時として、市外住民平均よりも健康であった。
 被曝集団の90%超が50cSv未満の被曝量であった。
 原爆による荒廃の淵から、多くの日本の科学者は電離放射線の照射反応効果を有益で必要な要素であると認識するようになった。(ラッキー、2007)
 放射線ホルミシス効果の研究のリーダーである服部博士は次のように述べている。
「もし放射線ホルミシス効果が存在するとすれば、我々の日常的な放射線管理の活動は大変な間違いであったということになる。」(服部、1994)
 日本は今や原子力の平和利用で世界をリードしている。
 これは原子力発電にとどまらない。
 日本には低線量放射線を利用した治療クリニックもいくつか存在している。
 日本が原爆で甚大な被害を被ったことはいろいろな形で伝えられてきた。
 これによって生じたバイアスにより、多くの人はLNTドグマを確信するに至った。
 原爆が実は日本の被曝生存者の生体に良い効果をもたらした面もあるということは全く、あるいは殆ど公表されなかった。
 本論文は原爆による効用には一貫して閾値があったことを明らかにする。
 それぞれの閾値はLNTドグマを否定している。

原爆の効用

突然変異
 原爆による被害を最初に考察した際に、我が国の議会や一般の人々は過度の放射線を照射されて遺伝子異常を来してモンスターと化したショウジョウバエの写真に強く印象づけられた。
 これがきっかけで放射線ヒステリーが始まり、放射線の与える害毒に関する研究に湯水のごとく資金がつぎ込まれることとなった。
 逆に低線量放射線の効用に関する研究への支援を実質的に止めてしまうこととなった。(ブルーサー、1990)
 実際、過度の放射線により日本の原爆の被被曝者は数多く亡くなったり原爆症に苦しんだりした。
 しかし、被曝者の両親から生まれた子供に遺伝子異常のモンスターは一人も見つかっていない。
 半世紀に及ぶ研究の結果、次のような点に関し統計的にみて異常と思われるような影響は見つかっていない。
 先天性欠陥、死産、白血病、がん、子孫の死亡率、男女割合、幼少期の成長・発達度合い、遺伝子異常、突然変異などである。
 また、血清タンパクに反映されるDNA突然変異につき、非常に繊細なテストが実施された。
 原爆からのさまざまに異なる強さの放射線を浴びた、298,868名の子供たちからは何ら影響は見いだされなかった。(ニールほか、1980、シュルほか、1981)
 広島にある放射線影響研究所(RERF)データによると、軽い放射線を浴びた胎児の方が一般平均よりも表現型異常が少ないことが示されている。(グラフ.1)(シュルほか、1981)
グラフ.1.父が10cGy.未満の放射線を受けた広島と長崎の妊娠例50,689のうち表現型異常の比率(%)(Schull 他、1981)
 一般平均と比較した場合、低線量放射線を浴びた母親から生まれた日本の子供たちの方が、死産、先天性異常、新生児死亡などの比率が低いということにシュルツ達は注目している。
 閾値(ZEP=Zero Equivalent Point効果がないゼロ相当点)は卵巣に対し約100cGyであった。
 これらの結果は、父親の被ばく量が10cGy未満の場合に得られた。
 広島でも長崎でも、乳児に小頭症は散見されている。(近藤、1993)
 広島でも長崎でも、妊娠第一期を過ぎた妊婦が被曝したケースでは、小頭症のケースが極めて少ない。
 長崎では(親の)被曝量が300cGyを超えた場合に重大な知能障害がおこっている。
 広島ではこの閾値は約100cGyであった、(近藤、1993)
 この症候群が顕著に見られるのは、妊娠8-15週の時期に被曝した乳児であった。
 日本の被曝生存者の生殖作用の研究結果によれば、急性の低線量放射線被曝は効用があるということをどの研究でも一貫して明らかにしている。
「とりわけ、この研究結果は研究に協力してくれた数多くの日本の被曝者やその子供たちを安心させることに役立てなければいけない。なぜなら、彼らの絶大なる協力がなければこの研究は不可能であったし、又彼らは長年にわたり誇張された遺伝子異常のリスクを喧伝されて苦しんできた被害者なのだから。」(ニールほか、1990)
 これらの人々の調査により、以前の動物での調査の結果が裏付けられた。
 慢性的に低線量放射線を照射された場合、実験室の動物では全ての生殖相/期において効用があることがみられたのである。(ラッキー、1991)
 例えば、繁殖力、不妊率、突然変異、胎児及び新生児の生存率、幼児の肉体的発達具合などである。

ガン
 もし、慢性的な照射線量が適度であれば、ガンは無視できるものになるのではないか、という仮説があった。(ラッキー、2008b)
 このことは、急性の低線量放射線を照射したあとの白血病に関し、当てはまるように見られる。
 白血病は全てのガンの中でも最も放射線で誘発されやすいと考えられている。
 BEIR I ( 電離放射線の生物学的影響に関する委員会 I)は、長崎のプルトニウム爆弾の被曝生存者の調査結果として、2,527名からなるある被曝者層においては白血病により死んだ人が一人もいなかったと報告している。(グラフ.2 a)
グラフ.2.a.長崎でプルトニウム爆弾を受け生き残った人の白血病死亡率(100,000人・年当り)(BEIR I、1972)
 これらの人々は、31cGyの被曝量グループと69cGyの被曝量グループの人々である。(BEIRI I、1972)
 閾値は約80cGyであった。
 白血病の発病率がゼロであったということは、ランドの研究で確認された。(1980)
 ランドは、39cGyの被ばく量の人びと(25,643人・年)には白血病がなかったことに注目している。(グラフ.2 b )
グラフ.2.b.長崎の白血病死亡率(100,000人/年当り)。
(Land、1980)
 閾値は約50cGyであった。
 (長崎だけでなく広島を含めた)全ての原爆生存者を考慮した場合の白血病死亡率(グラフ.2 c)をみると、7.2 cGy の被ばく量の人々のところに極小値がある。(清水ほか、1990)
 閾値は14cGyであった。
 ここで注目すべき重要なことは、この研究で使われている”一般平均”の人々は、市外にいた人々ということである。
グラフ.2.c.広島と長崎の白血病死亡率。
(清水ほか、1990)
グラフ.2.d.原子爆弾を生き残った日本人の白血病累積死亡率。(清水ほか、1992)
 被曝者平均(被ばく量1cGy未満)の人々の白血病死亡率は、市外の二つの町のグループの人々よりも低かった。
 全ての生存者における白血病死亡率を累積した場合(グラフ2. d )、閾値は約26cGyであった。(清水ほか、1992a )
 市外にいた”一般平均”の人々と比較した場合(グラフ.3 a )、白血病以外のガンでの死亡率および全てのガンでの死亡率ともほぼ類似の傾向を示し、いずれも被曝量7cGyのグループで極小値を示している。(加藤ほか、1987)
グラフ.3.a.両都市(1950–1978)の単純平均ガン死亡率(白血病を含んだ場合、含まない場合)。最下部の数字は、各グループ100,000当りのサイズを示す。
RBE(中性子の相対的生物学的効果は1と仮定)
(加藤ほか、1987)
 このデータは1950年から1978年の間のものが使われている。
 それぞれの閾値は同じで、12cGyであった。
 もし、中性子のRBE ( 生物学的効果比:放射線の種類により生物学的影響の強さが異なることを表す為の指標で、ある生物学的効果を与える線量を、同等の効果を与える基準放射線の線量で割って逆数にしたもの。)が10であることを前提とすると(上述の研究では1であるとしているが)、閾値は120cGyともいえよう。
 広島、長崎両市での白血病以外のガンの死亡率のデータを見ると(グラフ.3 b )、被曝線量が2cGy未満の場合に死亡率が低下していることを示している。(清水ほか、1990)
グラフ.3.b.両都市での非白血病ガン死亡率。
縦軸は対照群と比較した時の相対的なガン死亡リスクを示す。
(清水ほか、1990)
 被曝線量が32cGyまでのグループの臓器ガン死亡率は、統計上ほとんど”一般平均”と変わりがないため、実際の閾値は約25cGy程度であると見られる。
 長崎の生存者の全てのガンの死亡率は(グラフ4 a )被曝線量300cGyまでであれば、一般平均の人々の数値を上回ることはなかった。(メッツラー、モースリー、1985)
グラフ.4.a.長崎の被爆生存者1000人当たりの全ガン死亡率。
年齢を調整した率。標準誤差が示される。(Mettlerほか1985)
 プルトニウム爆弾からの放射線(殆どが中性子)には、弱い発ガン性があると見られる。
 閾値は約340cGyであった。
 市内にいた人々(図中の白抜きの丸は、0.03 cGyの被曝線量の生存者を表す)の方が、ほんの少しではあるが一般の人々よりも死亡率が低くなっている(1000人当り2.2人)ことに注目されたい。
 広島、長崎両市のがん死亡率を、観察値と予測値との対比をしてみると(グラフ.4 b )、閾値は約20cGyであると見られる。(清水ほか、1990)
グラフ.4.b.両都市の被爆者の全ガン死亡率:予想値と観察値の比較(清水ほか、1990)
 広島、長崎両市の全てのガンの死亡率(MM)は、約2cSv(2センチシーベルト=20ミリシーベルト)の被曝線量であった7,400人のグループで著しい低下が見られた。(グラフ.4 c 、清水ほか、1992a )
グラフ.4.c.両都市の全ガン死亡率(MM)。各点の人数(単位千人)が横軸上に示されている。(清水ほか、1992)
 閾値は約3cSvであった。
 日本の被曝生存者において、殆どの臓器ガンの死亡率には予想された通りホルミシス効果が認められる。(近藤、1993)
 広島、長崎両市の累積での全てのガン死亡率をみると、7,400人のところで、市内平均(爆心地より3Km未満)の人々よりも著しく低かった。(グラフ.4 d、清水ほか、1992 b )
グラフ.4.d.両市の被爆生存者41000人の全ガン累積死亡率。各点の人数(単位千人)が横軸上に示されている。(清水ほか1992)
グラフによれば閾値は約3cSvであった。
 外見上の閾値(グラフの左から2番目の点と、右端の3点とをつないで得られる直線からの閾値)は6cSvであった。
 これによれば、一般平均よりガンの死亡率が低い被曝者23,000人が含まれることになる。
 これらのデータは、白血病や臓器ガンの死亡率が低くなっていることを一貫して示している。
 このことは、平均寿命の増加につながるのである。

寿命
 低線量放射線の生物学的効用として、平均寿命の増加が含まれているという概念を裏付ける動物実験での証拠はふんだんにある。(ラッキー、1991)
 被曝者の間に生まれた子供50,689人の調査では、被曝線量が10-99cGy(生殖腺への被曝量)の母親から生まれた子供は一般平均より低い死亡率であった。(シュルほか、1981)
 これは、父親の被曝線量が0、10-99、つまり100cGy未満の場合の子供についてあてはまった。
 年齢が同じ一般平均グループと比較した場合、長崎の被曝生存者で被曝線量が50-99cGyのグループの、ガン以外での死亡率は、一般平均のわずか65%であった。(グラフ.5 a 、近藤、1993)
 これは相当に低い率である。
 閾値は約180cGyであった。
グラフ.5.a.長崎の被爆生存者の非-ガン死亡率。
(近藤、1993)
 広島、長崎両市でのガン以外での死亡の相対的リスクをみると、200cSv未満の被曝線量であった20,000人には平均寿命の短縮は見られなかった。(グラフ.5 b 、清水ほか、1992 b ) 閾値は155cSVであった。
グラフ5.b.両方の都市の非-ガン死亡の相対的リスク
(清水ほか、1992)
 放射線影響研究所が、同じデータベースを使用して行った報告では、被曝線量の増加に伴いガン以外の死亡率の顕著な低下が示されている。(グラフ.5 c 、清水、1992 a 、72ページ)
 このデータには1950年から1985年までが含まれている。
 閾値は50cSvより大きいのではないかと見られる。
グラフ5.c.両都市の総非-ガン死亡率。(清水ほか、1992)
 広島、長崎両市の全ての死亡率は、被曝線量が14cGy未満の被曝者において、相対リスクの低下が見られた。(グラフ.6、峰ほか、1990)
 閾値は約70cGyであった。
 被曝線量が300cGyの場合でも(グラフには表示されていない)、相対リスクは1.3にとどまっている。
グラフ6.両都市の総死亡率の相対危険度(峰ほか、1990)
 これらのデータは本質的には放射線影響研究所のデータ(グラフ.5 b )と同じものであるが、それぞれの解釈は異なっている。(清水ほか、1992 b )
 日本の被曝生存者のうち軽い被曝線量であった人々の平均寿命が増加していることは、被曝者に対する医療行為の効果かもしれないし、放射線ホルミシス効果によることかもしれないし、あるいは両方の効果によるものかもしれない。
 長崎のデータでは、被曝生存者に対する特別の医療行為(健康的な生存者効果)の影響の修正がなされているものがある。(近藤、1993)
 グラフ.7は、被曝線量の少なかった人々と、より多かった人々との相対的な死亡率(年率)を比較している。
 対照群としたのは次の条件に当てはまる被ばく生存者であった。
 1)市内で被曝、2)被曝線量 0.5 cGy 未満、3)被ばく手帳の所持者、4)より被曝線量の多い人々と同様の医療行為や恩恵を受けている。
(医療行為の影響を修正している)このデータは、(平均寿命の増加という)主たる効用が原爆からの低線量放射線に起因することを示唆している。
グラフ.7.長崎生存者の総死亡率の相対的リスク。1cGy以上の被爆と0.5 cG以下の被爆との比較。各年齢層の範囲は10年(表示年数値±5年)(近藤、1993)。

水爆による死の灰
 1954年3月、ビキニ環礁で行われた水爆実験の死の灰を日本の若い漁師23人が浴びた。
 彼らは爆心地から23マイル(約37Km)風下に位置していた。
 全てが白い粉末で覆われた。
 2週間かけて日本にたどり着いたあと、良質の治療を受けた。
 全員が放射線病にかかっていた。
 少なくとも40年間はガンで死んだ人はいなかった。(近藤、1993)
 近藤博士の推定では、乗組員のうちの一人の被曝線量は670cGyであった。
 この人は206日後に貧血、肝炎、白血球減少症で亡くなった。
 その他の人の被曝線量は200-575cGyであった。
 一人は21年後に肝硬変で死亡しているが、そのほかの人は回復した。
 このグループのしきい値は60cGyであったと推定される。
 これらの日本の若い漁師たちの結果は、主として放射線からの低LET(線エネルギー付与)放射により放射線病になり入院した209名のチェルノブイリの作業員(爆発後すぐに死亡した23人を除く)たちのケースと類似している。
 被曝線量200cGy未満の人は誰も死亡しなかった。(メティビエ、1995)

考察
 本論文で取り上げた諸研究をみれば、急性の低線量放射線は日本の原爆生存者に生涯にわたって健康に寄与したことを示唆している。
 それぞれのグラフは放射線ホルミシス効果と、閾値を示していた。
 広島と長崎の人々が一瞬で浴びた放射線は、いわば放射線ワクチンに相当した。
 これは重要な概念を想起させる。
 これらのデータは、低線量放射線を一時的に浴びることはー(その後の)慢性的な照射の有る無しに関わらずー生涯の健康に効用があるということを示唆している。
 これまでは人間が慢性的に放射線を浴びることに注目されてきた。
 慢性的な照射と、一時的な照射とで放射線ホルミシス効果や閾値に違いがあるのかどうかという疑問は解明する必要がある。
 動物を使った調査によれば、慢性的な照射でも一時的な照射でも長期的な効果があることがわかった。(ラッキー、1991)
 例えば、1)大量の電離放射線への抵抗力、2)傷の治癒が速いこと、3)DNAや細胞の修復力の改善、4)免疫力の強化、5)罹病率の低下(特に感染疾患からの)、6)健全な子孫、7)死亡率の低下、8)平均寿命の伸び、などである。
 原爆の健康への効用に関する総括的な結果は電離放射線の不可欠性でと、我々にはその不可欠な物質が不足しているかもしれないという仮説を裏付けるものである。(ラッキー、1997、1999)
 放射性廃棄物は健康の為に容易に使用することができる放射線の源泉である。(ラッキー、2008 b )
 20世紀においては放射性廃棄物は大いなるやっかいものであった。
 21世紀においては、放射性廃棄物の再分配が健康増進への一つの解決策になるのである。
 原爆の害に関する誤った情報により、一般に信じられているLNTドグマが強固なものになった。
 それとは全く反対に、原爆の健康への効用というこの新しい知識により、低線量放射線への信頼及びその応用への道が開かれることにつながってしかるべきである。
 日本の原爆生存者に関する諸研究により、放射線量には人体に有効となるか有害となるかを隔てる閾値があることが明らかになった。
 閾値のどれもLNTドグマを否定している。
 これらのデータは、フランスの最も権威ある委員会の結論を確証している。
「しかしながら、低線量放射線の領域においてLNT仮説を用いることは放射線生物学的知見と両立しない。」(オーレンゴほか、2005)
 全ての放射線は有害であるという考えは間違っている。
 放射線への一時的被曝についての、数量的閾値をそれぞれのグラフに示した。
 総括では、放射線への一時的被曝の場合のラフな安全指標が示されている。
 長崎における低量の線エネルギー放射(LET)はプルトニウム爆弾からの主として高速中性子をほとんど伴わないガンマー線であった。
 長崎の場合の平均閾値は160cGyであった。(グラフ.2a、2b、4a、5a参照)
 広島のウラニウム爆弾の場合、有用な閾値の数値化は、高LET放射においてcGyを単位として用いていることの意味合いを放射線影響研究所が明らかにしたあとに待たねばならない。
「原爆生存者の健康に与えた影響は、殆ど全てのケースにおいて長崎で被ばくした人々より、広島で被曝した人々のほうが過酷な影響を受けていた。」(近藤、1993)
 近藤博士はこの違いはウラニウム爆弾からの大量の中性子によるものではなかろうかと示唆している。
 広島の10のケースの研究の平均閾値は47cSvであった。
 低線量放射線を浴びた日本の被曝生存者に一貫して健康への効用が見られるということにより、放射線を浴びた場合の治療優先順位について新しいカテゴリーを導入する必要があるかもしれない。
 いうまでもなく、心理的なトラウマと肉体的トラウマとは分けて考えなければならない。
 閾値より低い値の放射線しか浴びていない生存者は特別な治療は必要としない。
 彼らは、救護チームの助っ人となりうるのだ。

結論
 日本の原爆生存者のうち一時的な低線量放射線を浴びた人に一様に見られる影響を理解すると、次の三つの結論が導かれる。
・一時的な放射線照射を受けたあとの健康に関する閾値は良く立証されている。
・一回の放射線照射により、生涯の健康増進が誘発される。
・新しい治療優先順位の考え方には放射線ホルミシス効果を取り入れるべきである。

謝辞 この原稿の作成にあたり、SJラッキー、ドナ・ラッキー博士、ジル・シャディの手助けを得たことに謝辞を述べたい。

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