2004/3/1 3/11 3/13 3/14 6707 投稿者・shosuke1919(大阪府)

     女護島宝入船(にょごがしまたからのいりふね) 徳川末安政期一八五〇年頃

 江戸は神田八丁堀に、大店の主にて俳号を五琢ごたくと言う者ありし。
 三家の浄瑠璃を常磐津、富本、清元と習ってはみたものの、いっこうに風流心が起こらない。
 河東節、一中節もかじったが古風すぎて素人好みではない。
 五琢の家に出入りしている医者の宮田思庵しあんという者、幇間医者で、年は四十近いが生来のおどけ者にて、遊びにはまたとない連れと、五琢は、廓遊びはもとより、どこへ行くにも連れて行く。

 折りしも秋は半ば・・・・。
 昼のうちは暑気がのこっているが、朝夕には涼風が立つ。
 お天気続きで沖では「はぜ」が釣れるというので、五琢は一日、思庵を連れて馴染みの船宿に行き、釣りの話しを持ちかける。
 このところ、凪続きで大丈夫とのこととて、八という若いが腕利きの船頭をつけた。
 沖へ出た五琢と思庵、八とは顔馴染みの仲とて、軽口をたたいて退屈をまぎらわす。
五琢「なんと八公、今日はいい天気だなあ。和尚(思庵の事)、ちょっと見な。富士のお山がよっく見えるじゃねぇか。ここで一句浮かばねぇようじゃ、和尚も俳諧師たぁいわれめぇ・・・」
思庵「う〜む、まこと絶景でげすな。一句や二句は直ぐにもできやすが、それより、酒筒ささえと割籠わりごを開いちゃァどうでげしょう」
五琢「そうさな、いいだろう。湯も沸くし、燗もつけられる」
思庵「おい、八兄い、この釜へ突っ込んでもいかえ?」
八 「ようござんすよ。もっとも、そいつは飯を炊く湯ですがね」
 思庵「飯はど〜んとあるぜ。昨夜旦那がとこで、女どもが大勢で弁当をこさえたからな」
八 「そんなら、飯は炊きやしめぇ」
五琢「和尚、もう燗がよかろうぜ」
思庵「お〜っと、上塩梅だ!旦那、なんぞ、でけぇのでおやんなさいよ」
 八も呼んで、魚釣りはそっちのけで、大酒盛りが始まった。
 五琢と思庵の二人はゴロッと寝ると高いびき。
 八も酔っているが、艪を押してどうやら親船に着けて、やいを掛けたが、一緒に寝込んでしまう始末・・・

 身に沁みる沖の風に八がふと目を覚ますと、五琢と思庵も同じく目を開けて、あたりをきょろきょろ見回している。
五琢「ああ寒くなったわ。いつの間にかずいぶんと曇ってきやがったなあ」
思庵「曇ったはいいとして、沖をご覧なせぇ。八公、なんでもこりゃぁただごとじゃねえんでやすか?」
八 「アイサ、わっちもあんまんり酔って、つい寝込みやしたが、そのあいだに、天気が変わったうえに、もやいが解けてたいそう流されやした。さても、ここは一体どこだろう?」
五琢「流されたぁ?」
思庵「どうやら、ここは羽田沖だよ。向こうに見えるなァ本牧の鼻じゃねぇか。それあそうと、沖の波はありゃぁなんだ?おいら、どうも気になるぜ」
八 「なんだか今に暴風(はやて)がくる案配でやす。サアそこいらを片付けて、浪が入ってきたら、水をかい出す工面をしておくんなせぇ」
 と、言って空を見上げつつ力任せに艪を押し始めた。
五琢「えれえことになりやがった。おれにゃぁ、とても水をかいて出す真似なんざぁできねぇ・・・和尚、ひとつ尻でもはしょらっしゃい。」
思庵「どうもけしからん、ついに玉体を魚腹に葬るか?」
八 「もし、そんな悠長なことを言ってる場合じゃありませんぜ。それ、大波が鼻っ先まできやした」
 いきなり一陣のつむじ風が吹き寄せると、山のような大波が襲いかかってきた。
 五琢と思庵は胴の間をごろごろ転がるばかりで、声もでない有様。
 八はさすがに頭から湯気をたてて艪を押すが進まばこそ、陸も見えなくなって、どちらを目指せばよいのやら皆目わからない。
 折り重なって垂れ下がる黒雲から、車軸を流すような雨が落ちてきた。
 八も疲れ果てて、勝手にしやがれっと、へたり込んでしまう始末。
 いつか、日は沈んで、あたりは真っ暗・・・
八 「お客さん〜命に別条はねえっすかぁ?」
五琢「もうかなわねぇ〜かなわねぇ」
思庵「おい、八公よ、もういかんなぁ。南無阿弥陀仏・・なむあみだぶ〜」
八 「な〜に、そう気をおとすもんでもねぇ。これで風がちっと落ちてくりゃしめたもんでさ」と口では励ますものの、胸の内ではこの世の別れと、がっくりへたばって、腰を上げる気力もない。
 さんざんに風に吹きしこがれ、浪にもてあそばれたが、舟はひっくりかえらなかった。
 夜が明けると、風おだやかに空は晴れ上がっていた。
 朝日がキラキラと昇ってきた。
 船頭の八はようやく這い出して、
八 「もしもし旦那、もし思庵さん、おめえさまがた、息はあるかえ。風もおさまって天気も上った。おきなせぇ」
と呼びかけると、二人も気ずいて体を起こし、周りを眺めまわして、
五琢「ああ、生きていたか。おいらぁ死んだと思ったぜ」
思庵「わたしも、てっきり死んだと思いやしたよ。ここは地獄じゃねぇでがしょうね」
八 「ばかぁ言わねぇでしっかりしなせえ。ところで、めっぽう腹がへりやした。きのうの弁当はどうなりやしたえ」
思庵「板子の下へ突っ込んでおいたが見てくりゃ」
八 「おっと、あったあった。水びたしだが、うめえうめえ。みなさんも食ってごろうじろ」
五琢「どうでもいいが、一時も早く土が踏みてぇなぁ」
八 「どうやら島がありやす」
五琢「こりゃぁどこだえ、鬼界ヶ島じゃぁねえのかえ」
思庵「さようさね、なにしろ助かったってことらしい」
 島へ二、三町に漕ぎ寄せてみれば、磯際に立ち並んでいる大勢の者たちは日本人とは見えぬ者ばかり。
 はて、面妖なと三人、立ち上がって目をこらすと、絵で見た唐もろこしの女に違わぬ髪かたちと装束・・・
 これは妙なところに流されたと顔を見合わせたが、殺されても水の上で死ぬよりましと岸に着ける。
 と・・・木履ぽくりや草履、沓くつらしきものも混じえて波打ち際に並べてある。
 それを見て、思い当たった。
 これぞ、音に聞く女護の島ではないか。
 嵐に流されて辿り着いたが、女人の国とはこいつは稀有だ。
 しかし、この国の習いで、岸で履いた履物の主が女房になると言う。
 とんだ婆ァの草履を履いては糞をつかむと、きょろきょろするが、どれがどうだか分かる筈もなく、若い女の物らしいのを引っかけて上ると、女たちがばらばらと走り寄って、男一人に三、四人がついて連れていく。
 ところで妙なのは、はるか海を隔てた異国の島なのに、言葉は日本と変わらない上に、婀娜あだっぽくて、喋り振りも江戸前である。
 五琢の手を取った年増が、
「お前はおおかた日本だろうね。さだめしおかみさんもおあんなさろうし、情婦いろおんなもたんとありそうなお方だよ。だけど、ここへお出でては、めったに帰さないから、そう思ってなされ。なんだか、初めて男のそばに寄ったから、股がぴたぴたしてきて、いっそ歩きにくいよ。ェェじれったい。これから王様に差し上げるのだから、わたしらに下されるのは、いつのことだか、わかりゃぁしない」
 と言うと、思庵に付き添った女が、
「そうさね、いっそのこと隠しておいちゃ悪かろうね」
「もしも知れたら、ただじゃすまないよ」
「そんなら、一晩、わたしらが家に泊めて、この人数でくじを引いたらどうだろうねぇ」
「一晩くらいなら、どってことはないやね」
「それなら、そうしよう」
 やがて左手にいかめしい長屋門が近づいてきた。
 日本なら、さしずめ大庄屋か代官屋敷かという、たいそうな構えである。
 門を入って三人が奥まった部屋に連れ込まれると、程なく、酒肴が次から次へと運ばれてきた。
 酒は諸白もろはくの生一本、料理の献立も洒落ている。
「嵐に遭ってひもじかろう」と次から次へと酌をされて、三人は地獄から天国へ来た思いで盃を重ねる。
 女たちのなかに、夜雁遣司よがりやんす、寿喜遣司すきやんす、佐世遣司させやんすという者がいた。
三人はこの辺りの役人であった。
 夕刻に近づいた頃、くじ引きで、五琢に当たった佐世遣司、思庵に当たった寿喜、八に当たった夜雁が、それぞれ自分の住まいに連れて行った。
 五琢が伴われた部屋は、お香の香りが漂って心も浮き立つばかり。
 佐世は年の頃なら二十歳過ぎ、いまだ男を知らぬから、早くしたい胸の内をおさえて、もじもじ黙り込んでいる。
 その様が可愛らしく、五琢は手を差しのばし、
五琢「さあ、こっちへお寄りな。この島へ流されて、お前と結ばれるのは嬉しいが、お前はどうだえ。くじが外れて腹を立てているようだね」
佐世「おや、憎らしい。どうぞお前に当たりたいと願った甲斐あって、くじを開けたときは、嬉しゅうござりました」
五琢「それなら、どうして遠くにお出でだえ。こっちへお寄りな」
佐世「こうでござりますか」
 思い切って寄るのを、衿に手をかけて抱き寄せ、まず口を吸おうとするが、交接の法を知らない者だから、唇をあわせたまま、じっとしている。
 五琢は口の端をあちこち嘗め回して、
五琢「さあ、舌を長くお出し」
佐世「あい、こうかえ」
 舌の根もちぎれるばかりに吸い、股をはだけて手をやれば、額際の柔らかい毛と同じような、春草の手触りがなんとも言いようがない。
 なお、下をまさぐると、さねは埋まって、やっと指の腹に触るばかり。
 吐淫のぬめりが、ようやく縁まで溢れ出して、じくじくぴたぴたする中へ、指を差し入れ、子宮こつぼに届かせて、くるりくるりとかき回せば、女は目を閉じ、歯を食いしめて、ぶるぶる身体を震わせている。
五琢は、先刻より「ぶっきぶっき」と勃起おえ立って板塀でも突き破らんばかりの、己が玉茎たまぐきを、女の手を取って握らせると、女は嬉しげに、締めつ緩めつ、雁首を指にて撫で回す。
五琢「ェェもう」と横抱きに転がし、真っ白に滑らかな股へ無二無三に割り込んで、愛らしげなボボに魔羅を押し当てがい、小刻みに腰を使うと、初めは少しきしんだが、吐淫のぬめりに、ずるずると毛際まで滑り込んだ。
 佐世遣司の名は姓をあらわし、こつぼはひらけ、流れる淫水は湯よりも熱く、アウアウとうめき、死ぬばかりのよがりよう。
 佐世が十二、三度も精をやるさまに、五琢も今は堪えられず、鈴口からほとばしる腎じんの水は奔流のごとく、たがいに、ひたと抱き合って正体もない有様。
 ほどなく、五琢に教わって女が紙を取って拭き終わると、唐紙越に声あり。
「もうすんだかェ、あんまり長いじゃないかねェ。お前一人で嬉しがっていずと、ちとこっちへお回しよ」
 佐世遣司を一番に、今夜、五琢に割り当てられた女が十五人・・・
 佐世が名残惜しそうに出て行った後に、入ってきたのは、大年増。
 五琢の側にいきなり、ぴたっと寄り添った・・・・

巻之上完結  Sho- 巻之中に続く

江戸情話 第一話.第二話 第三話 第三話続き 開談栄花丁稚 女護島宝入船 巻之中 その九 愛・絆集 TOP頁