川柳秘語とバレ句 五 2004/10/21 投稿者・aosagi123

 御児様(おちごさま)
「御児様、お里が不弁さに、晴れがましき時は、何もかも借り物じゃ。借りらせられぬ物は指似ばかりじゃ。あら笑止や」
と三位が申せば、児、聞こし召し、
「まことに口惜しや。指似も、おれがではないげなよ」
「それはなぜに」
「人が見ては、『馬の物じゃ馬の物じゃ』とばかりいう程に」
 (きのうけふの物語上巻第四六話・寛永十三)

【蛇足】児は少年僧。不弁=貧乏。指似=少年の男根。
 三位=児の後見役。馬の一物は大きいので、馬の物とは巨根の異称。実家が貧しく日頃一切が借り着の稚児、生来身体に付いている男性器まで「馬のもの」といわれたおかしさ
「心ばかりは我が物」(鹿の巻筆巻座五・貞享三)など多く再出し、
「何馬な物だとたはけ者はいひ」(川傍柳二二四)の川柳もある。

亭主の空眼
 さる所の女房、近所の人と懇ろしていたりけるが、ある時亭主、二階に仕事して居られける時、下にて女房を仰向けにして乗つかかり致しけるが、折節亭主二階より見付けて
「ヤレ密夫」と声かくれば、ちゃっと飛び退き、素知らぬ顔 て、
「こなたはなにをいわしやる」といへば、
「二階から見れば、両人とも、そこで致しているによって、声かけた」と言いければ、
「滅相な。昼中にどふなるものじゃ。つい此処に炬燵にあたっていたばかりじゃ」と言いければ、亭主、済まぬ顔していられければ、この密夫、発明な者にて、
「さてさて疑い深い人かな。さよふなら今一度、二階へ上がって見た給へ。大方このように炬燵にあたっているのが、上から、しているように見へるものであらふ」といえば、亭主「いかさま」と二階へ昇る内に、ちゃっと男は女房の腹の上へ乗つかかり、又していれば、亭主は二階から覗いて、
「ほんに、ここから見れば、とんと、しているやうな」
 (軽口開談巻二・亭主の空眼・安永二)


【蛇足】済まぬ=納得できぬ。発明=利口、賢い。
 亭主のお人好しに乗じて、大胆な不倫を愉しむ密夫の奸智。

 夫婦の寝室で一緒に寝ていた友人が、夜中に女房と交接の寸前に亭主に見とがめられ、「夢見て寝ぼけた」と、一度は納まったが再度挑戦、両人の荒い鼻息に目を覚ました亭主が、
「コレコレ起きやれ、眼を覚ましや覚ましや」という「ねぼけ」
 (間女畑・天明頃)

【雷】俗諺に、「雷に臍を取られる」とて、電撃死の恐怖を語ると共に、夏期、子供などの裸体で居るのを戒めているが、性的には、
 此はやはり情火と交会の比喩語となっている。

押入の味から雷すきになり

雷の女房子つぼに油断せず

雷は馬鹿おれならば下をとる

雷は鳴るときばかり様をつけ

でんば女隠れん坊で味をしめ

高見から下界を笑う臍の穴

雷をまねて腹掛やっとさせ

【亀】華語には「烏亀(うま)」ということがあり、妻を他の男にくながらせるもので、それから「忘八(ワンパー)の名も出た。
 秘語では、陰名の亀頭。そのかかりとの意の雁首、
 類語のスッポン、張り形では鼈甲製のものを亀とも言う。

細工は流々亀が辺乃古になり 張り形

細工は流々牛の角馬となり 馬並の張り形
【からす丸】烏丸琵琶葉湯とて、暑気払いの薬湯。
 本舗が京都烏丸にあったので、この名がある。
 江戸では、馬喰町三丁目の薬店で売り、
 通行人に店先で誰でも自由に飲めるように出していたので、
 情事秘語では「からすまる」と言えば、誰彼と区別しない淫奔者の称となった。
    しておいて烏丸とはにくい口
2004/10/23
松茸
 田舎の叔父、松茸を土産に持ってくる。
 娘、かの松茸をぢろぢろ眺め、
「母さんへ。この松茸の頭は、大黒さんの頭によふ似ていやす」
 といへば、母
「もつたいない事をいやるな」(近目貫・松茸・安永)

嫁の乳
 嫁があった。至極器用で、よく働き、親父の月代を剃ってやる。
 髭を剃る時、美しい(はだえ)の乳が、親父の唇へ触った。親父、我を忘れて舐めるところを、息子が見て大いに腹を立て、
「さてさて、親人にもあるまじきなされ方。女房の乳を舐めての戯れ。ご所存の程が承りたい」と極め付ければ、親父、開き直って、
「おのれは、おれが女房の乳を、五年喰らったではないか」

【蛇足】
    「しゅうとぢい道理を付けて突っ込まれ」
     (柳四二・三四)
 で、年若い嫁のなまめかしい乳房に偶然触れて、思わず乳を舐めた不埒な行動から、息子と騒ぎを起こしたが、父親の詭弁のまかり通った。中国笑話集『笑府』の「父子論理」(閨風部)の翻案で、「密夫の乳」(軽口瓢箪巻四・寛延四)では、密夫代を求める息子に対し、
「五年が間、俺が女房の乳を吸うた間男代として、よほど(つり)を取らねばならむ」と親父は開き直る。

赤貝
 赤貝を買ひ、水を入れ置きたれば、さも心よげに貝を開きたるを見て、亭主、何と思ひけるにや、中指をぬっと入れたれば、赤貝腹立ち、指をしっかり挟みて、いかにすれども一向離さず。
 見るうちに指は凄まじく腫れ、痛さ堪え難く、
「まだ指でお仕合わせ」(寿々葉羅井・赤貝・安永八)

【解説・蛇足】
 赤貝は、形の似たことから女性の性器を言う隠語。
 亭主も閨房の行為から連想して指でいじり、医者も言外に、
「大事な一物でなくて…」と艶色味を含めている。
    「赤貝をたはけ抉って食いつかれ」
    (柳の葉末二)の状況。
 蛤、蜆など貝類は女性器の形容に多く使われるが、竜宮で魚介類が演芸会を催すと、赤貝は一間に入り、唐紙を開けて口を開き、
「お寄んなんし」と、岡場所の娼妓の客引きの口まねをする
 「芸づくし」(郭壽賀書・寛政八)がある。

【雁】卑語では、茎冠(けいかん)を「雁首」と言い、男淫品等の一級品は
 「紫色雁高(ししきがんこう)」と称せられた。

お立派なお道具雁の高蒔絵
 大名道具に見立て

雁高はくわえて引くと思うなり

紫色雁高を落雁かと下女思い

ししきがんこう死ぬ死ぬと女出し

紫は辺乃古にしても至極なり
 僧衣に同じか?

【刈込み】秘語では売女の整毛に言う。「手入れ」一つとされ、
 除草方法には「毛焼き」「毛引き」「毛切り石」などのことあり、
 類称には「つみ草」の称もある。

売り物は草をむしって洗う鉢 女郎の手入れ

こぎれいに毛を引いておく店屋者 下タ化粧

吉原の土手通るほど草を抜き

またぐらの刈り込み石っころでする

土手の草ぬれたで馬はすべり込み

度々怪我をさせても女房髪おしみ

抜くのはいやと女房かき分ける
【蛇足】女郎の毛引きは、各自が鏡を前に置いて行ったが、この鏡は、決して外の化粧などには使わず、鏡台の引き出しの奥などに密かに隠して保管し、他人にも見られないようにしたという。
2004/10/24
【乾く】近代語にも「乾き」とて、飢渇の意の情事語があるが、
 古語には「秋乾き」とて、秋期の食欲の増進、性欲の旺盛、
 妊娠度の多いことに言う秘語がある。
 芝居町の通言で「かわかし」というのは、うるおいの枯渇する意で、俗にシケでアゴが干上がるといった状態のことである。
 そこで、ただ見(素見物)、ただ使いなどに言われる語である。
 それから秘語としても用いられた。
かわかしがつくで囲いの所替え
 旦那の留守に来る

母親に娘辺乃古をかわかされ 芋田楽

花婿の辺乃古姑にかわかされ

長じけに河童の乾く芝居町 河童は客引き

まだ伸びもせぬにもう来る麦畑 野合

【皮冠り】秘語、包茎の俗称。「頬かぶり」ともいう。
 「素ぼけ」「越前」「すっぽん」「きぬかつぎ」などの異名がある。

どう見ても茄子は女の皮かむり なすび開

殊勝げに見ゆる出家の皮かむり

女房にくぼく見られる皮かむり

越前は一生幼顔失せず

冠りもの脱がせてみたら赤ッ面

【河津がけ】
角力の取り手口にある灘が、転じて秘戯姿態名にも言われる。

【川の字】親子三人で寝た形容。

川の字をりの字に崩す夫婦仲
川の字に寝ていて船をやる工夫
 船をやる?=交会
昼寝
 娘、縁側で昼寝。親父が行きて見たれば、白い股を出して、
 よく寝入った有様。親父こたへられず、乗りかかってやり付けたが、娘が目を覚ましたに驚き、抜き身のままで表へ駆け出し、
 暫くして何喰わぬ顔付けで
「コリャそこらに昼寝して居ると、狐が、俺に化けてきて、するぞよ」(今歳噺・昼寝・安永二)

故郷へ錦
 亭主は七十近いに、内儀は四十そこら、相応な身代なれども、
 実子はなければ、直に用立つ養子をと、二十三になる息子を貰ひけるがけるが、お袋の様子、どふか色気のある気味。
 愛想かと思へば、又堅いところもあるやうで、気が知れぬ。
 息子つくづく思ひけるは、
「どうぞお袋をしめてやりたい」と兼ねて思ひけれども、
 言い寄る手だてもなければ、何となく打ち過ぎけり。
 ある時、親父留守なり、店は忙しく取り込んで居る。
 お袋は二階にて仕立物して居りければ、折りよしと、息子、
 抜き足にて二階へ上がり、お袋の後ろから、物言はず、
 ぬっと抱きつけば、お袋、振り返り、
「畜生め」と叱られて、手持ちなく、そろそろ梯子の方へ行けば、
「コリャコリャ降りると猶、畜生だぞ」(豆談話。二階・安永頃)

【蛇足】後妻に入った年増の母親、養子の積極的な行動に、まんざらでもないらしい。
 この場合は血のつながりはないが、後家になった実母が、
 息子への思いが募って病が重く、本心をうち明けられた孝行息子も得心して結構な織物の褌をして床入りするのを見て、
 母親が不審がると、
「コレは、今日の晴れにこしらへました。『故郷へは錦飾れ』でござります」という 「倭の朱買人」(軽口開談巻二・安永二)もある。
2004/10/25
【皮つるみ】
「皮つるみは後の書にきせはぎともいへり、独淫のことなり」
 と書にあり、異説もあるが、手奔の秘語と言われる。
思う恋夜毎自殺のかわつるみ

   大神楽終うと獅子を〆殺し

【蛇足】神楽の秘語は「お祭り」の縁語で、交会・行房だったから、
 推して知るべし。

皮つるみ筧の水を待つ心

土器(かわらけ)】素焼きの陶器。
 「土器投げ」とて、京都では愛宕山、江戸では飛鳥山で、
 花見時には土器売りの店が出て、昔は燈明皿の小型のもの、
 後には杯形の土器を人々が買って、山上から思い切り投げて、
 遠方に達するほど得意がった遊びが行われた。京都では、
 深草、江戸では浅草の今戸焼きが土器の産地として知られていた。「今戸焼き」は、俗語では、粗末な醜婦の異名となっていた。

 秘語の「かわらけ」は、無毛陰の異名で、男女ともに言う。
 『末摘花』や江戸ではほとんど「かわらけ」の名が用いられているが、上方では「お茶わん」の名もある。「与吉の女房」も類語。
かわらけはさっぱりとした片輪也

【蛇足】『紫式部日記』に
「ものきよく、かはらかに、人のむすめとおぼゆるさましたり」とあり、「かはらか」とは、さっぱりした様の形容詞、
 これに掛けた句である。

土器(かわらけ)の開万年新造なり

土器(かわらけ)の豆では馬の間に合わず

かわらけも間々あるものと湯番いい

比丘尼の開がかわらけで大笑い 頭と一緒

土器町は草深いところでなし

ふるさとはみな草深いところ也

甘草(かんぞう)】俗に甘草魔羅とて上級陰とされた

    かんぞうと蛸と出会って震動し 共に妙陰

麩と蛸を出してもてなす出合い茶屋
 麩魔羅も一級品

【かんぴょう】干瓢は、秘具”肥後芋茎”の代用になると言う。

かんぴょうも確かいいいと女房いい
遠慮
 姉、二階に昼寝をして居るを見て、弟、姉の寝顔に見とれ、
 一物を木のようにして、いろいろにすれど萎えず。どうしようも堪らぬゆへ、そっと姉の上にまたがり、そろそろ入れれば、
「これはたまらぬ」と、根まで入れると、姉、目を覚まし、
「これはどふしたもの。罰当たりめ」というふ。弟はぐっとのぼせ、
「真っ平御免。さようならぬきましょう」といへば、
 姉、ぬからぬ顔にて、
「抜くと猶、罰が当たるぞ」(腹愛想・遠慮・寛政)

【蛇足】一物を木のようにするは、勃起硬直させる状態。
 忍び込んだ夜盗が娘を犯しに掛かり、
「声を立てたら抜くぞ」と、本物の刀と露出した男性器の抜き身を掛けて脅す「不用心」(軽口耳過玉巻二・寛保二)もある。

比丘尼
 ある比丘尼、三人連れで通りけるが、道ばたに馬が、かの物をおやして居たりけるを比丘尼ども尻目にかけて、さらぬ顔にて通りけるが、先なる比丘尼、こらへ兼ね申しけるは、
「今の物は、さても見事や、いざ、面々に名を付けう」と申す。
 後なる二人の比丘尼申しけるは、
「さてさてよく心が付いた。まづまづ先より名を付けさせられえよ」といふ。
「さらば我ら、申し出したことじゃほどに、付け申そうがよかろうか知らぬ」とて、「九献」と付けられた。
「その謂われは」と問へば、
「酒は昼飲みても夜飲みても、飲みさへすれば心が勇みて面白い。その上、酒は三三九度とて、献数は定まりて、九度が本じゃ、それより 上は、あなたの気根次第じゃ。これほどよい名はあるまい」といふた。中なる比丘尼申しけるは、
「梅法師」と付ける。
「その謂われは」と問へば、
「見るたび毎に、唾が引っかかる」といふ。
 後なる比丘尼「鼻毛抜」と付ける。
「なぜに」といへば、「抜くたびに涙落ちつる」といふた。
 (きのふけふの物語上巻第六六話・寛永十三)

【蛇足】九献は、酒の女言葉。梅法師は梅干しのこと。
 貞操堅固ぶる尼さんも、馬の勃起した巨根を見て、
 体験者ならではの見立てをした。
 壁に大きく男性器の落書きがあるのを見て、町屋の女房が、
「いつ喰っても喰い飽かぬ」から、「御飯」と言い、供の下女は、
「根まで入れてよふござります」から「芹」と見立てる
 「壁の落書き」(按古於当世巻六・文化四)も同想話。
2004/10/26
行水
 ある者、夏の暮れ方、背戸にて行水して居たるところへ、
 草の中より蛇一筋出て、立ちすましたるれきの真ん中をしかと食ひつきたり。あわてて騒ぎて弟を呼びけり。
 弟心得たりとて、菜刀おっとり、切りに掛かる。兄がいふやう、
「あはてて率爾をするな。よく目を見て切れ、目のなきはおれが物じゃぞ」といふた。(当世手打笑巻六・文化四)

【蛇足】れきは、例のやつ。男根を言う。率爾は軽率の意。
 中国笑話瞎眼(かつがん)」(笑林広記・形体部)の翻案。

小便の風景
  ある屋敷の長屋続きに、物見座敷ありけるに、奥方に付女中ども二三人、物見座敷で遊び居られしに、表で誰か小便する音聞こへければ、奥方
「ソレ、ちゃっと覗いて見よ」といわれける故、牧野といふ女中、
 連子より覗いて来て、
「碁を打っていました」といふ。その次に常磐と言ふ女中、
 見て来て、
「イヤ、将棋でござります」といふ。その次に梢と言う女中、
 見て来て
「イヤ双六でござります」といふ。奥方、面白く思われ、
「アノ小便をして居ると思ふに、いろいろと見た模様が違うが、どふした事じゃ」
牧野「ハイ、私が見ました時は、石に手を掛けて居りました」
奥 「ムゥ、其の次に常磐が見たのは、将棋と言やるが、それはどふじゃ」
常磐「ハイ、私が見ました時には、玉の脇に、金がござります。
 その側に、毛ィがござりました」
奥 「ムゥ、その次は梢が見たのは、双六じゃとは、いかがじゃ」
梢 「ハイ、私が見ました時は、筒ふって退きました」
 (按古於当世巻六・小便の見立て・文化四)


【蛇足】小便する男性器を、順序を追って、碁、将棋、双六と、
 遊び道具に見立てたおかしさ、初出話「関東の連れ小便」
 (一の富・安永五)に、双六の見立てを付け加えた脚色咄。
 古く、公卿がする小便の音をまず「しょう少将」、中頃に
 「中将」、最後に「侍従と止まりました」と聞いた音を報告する。「官女の噂」(正直咄大鑑巻四・貞享四)がある。

【気】気味と言った意の語。
 情事語では気があるなどと「色気」のこと。
 「夕べけ」は過房疲れの気分、秘語では「気をやる」「気が出る」
 「気が行く」「きざす」など精気の事に言う。

蒸し返しする名也紀貫之 きのつらゆき

おみたちは気がゆかぬかと浅黄裏
 女郎への問いかけ

気をやると叱られますと新造云い
 一々では身が持ちません

すこすこの気あるでお婆々やかましい

気ばかりさなどとご隠居酌をさし

たんと出しそうな名いずみ式部也

【灸】灸点のこと。「四火」とも言い、「赤団子」の異称もある。
 遊里では起請「命」の入れ墨を消す方法として、入れ墨の上に灸を据えて焼き消すのを「火葬」と俗称している。
 額口、石門、百毫と称する陰阜に灸を据えれば、避妊の法となる、と言われる。また、秘語で「灸を据える」と言えば、交会の意味に用いられることもある。

赤団子だよに倅は泣き寝入り

二の腕の火葬で客をあつくさせ

ふてえあま腕に火葬が二つ三つ

額口焼いても同じおとみなり 弟見=妊娠

百毫のとこへすえてもまた孕み

消渇の灸は兜布のとこへすえ 額口

【牛】遊女屋の客引き男「妓夫」のこと。また、よく寝るとのたとえから、「うし」は娼婦の異名にもあり、「牛角」は張り形のこと。
 「牛の角文字」杯の字の隠し文字。

生娘にうわばみとみえるなり
生息子は連れに目利きをしてもらい
小娘を頭ばかりと口説くなり

せつない口説きようおつつけるばかり
2004/10/27
磁石
 相長屋の女房と密夫(まおとこ)、壁に穴を開けておき、火打ち石の音を合図に一物を穴から出せば、此方からあてがい、いつも壁越しに気をやりぬ。
 ある時密夫、出合いに手前の二階を貸し、お屋敷女中にて何かよがり泣きを聞き、一物頭を持ち上げ急に兆しける。
 折から隣の亭主、外より帰り、嬶ァは留守、火は消ゆる、釜の下焚きつけんと、火打ち箱とりだし、かっちかっち、密夫聞きつけ
「得たりかしこし、いざ参らん」と、件の穴より、火吹き竹のごとき一物をぐっと出せば、隣の亭主びっくり飛び退き、そこに有りあふ火箸にて一物の先を挟めば、後ろへすいと引く、亭主、ふしぎそふに
「ハテ、鉄を忌むそうな」(まめだらけ・磁石・安永四)

【解説・蛇足】出合いは、男女の密会情事。
 節穴を利用して不倫を愉しんだが、亭主の目の前へ
「節穴へ辺乃古を出したが落ち度」(川傍柳三七)で、痛い目にあった。中国宗代の笑話「隔壁講歓」(笑海叢珠巻二)の翻案。

 男色右道知らず
 若き僧、一夜の宿を借りけるに、十一、二歳なる小人、
 同じ座敷に寝たるが、何事やありけん、亥の刻ばかりに、
「母よ母よ、尻に火がついたは」と、「しきりによばはる」
「あら悲しや」と、急ぎふためき、火を持ち来たり見て、
「大事もないぞ、御坊主様のせいがハイって、消して給わったは」
 (醒睡笑巻六・右道知らず第六話・寛永五)


【蛇足】右道は、衆道・男色同様「男性の同性愛。
 亥の刻は午後十一時頃。精液が入ると、
 熱心に精を入れるを掛けた。
「人は唯十二、三より十五、六 盛りすぐれば花に山嵐」の歌通り、美少年が対象になる。

対穿
 「痛くはせぬから、言ふなりになりや」と、やうやう合点させて、尻ひきまくり、よく濡らしても、雁首を通りかねるを、
 チクと力を入れて押し込めば、ヌルヌルグウイと入った。
 若衆の前へ手をやって見たれば、若衆の辺乃古がグット生へた。
「ナム三宝、突き抜いた」(今歳話・衆道・安永)

【解説・蛇足】雁首は陰茎の頭、亀頭。師僧と沙彌で出ている
 中国笑話「対穿」(笑府・広茎部)の翻案。


川柳蒼鷺 @ A B C D E F G H I J 179 瓜奴 紅梅 pinaillage2000 歴代川柳 愛-絆集 TOP頁