川柳秘語とバレ句 その四
2004/10/13 投稿者:aosagi123

【かかる】交会の俗称。仕掛かるの略、また係わるの意
医者がもうよいと云ったとかかる也
まっぴるまかかつて亭主くらわされ

かかりける所へ亭主戻りけり

医者さんにわたしが毒と云われやす

医者様に云いつけますと女房させ

病み上がり女房ひやひやものでさせ

馬鹿らしい病気女を見るも毒

【かく】掛ける、掻くなどに云う俗語。
 秘語では裸を掻くといい、男子独悦にもいわれる。女子では
 「あて入れ」「(くじ)る」「せせる」「撫でる」「叩く」など云う。

    蝋燭や一本書いて立てておき
【蛇足】昔の蝋燭屋の看板に見立て、男の独悦を云っている。
 昔の蝋燭屋は、竹の棒に溶けた蝋を塗り、
 手でしごいて形を整えた様が独悦に似ている。

消せばかく辺乃古には医者匙を投げ
馬鹿な独り身四つ目屋をつけてかき
不器用な経師屋やめてろうそく屋

    とぼそうと云えば消しなと女房云い
【蛇足】女陰は火消し壺だからね。

四つ目屋をつけて夜這いはもちにつき 餅搗き

【神楽】秘語では「お祭り」の縁語で、行房の称とされる。
 神楽獅子、神楽堂に擬せられる。

    神楽堂蠅を追うのがいとま乞い
【蛇足】(ぬさ)を降り終わる有様だが、「顎で蠅を追う」の句となる。

異なとこへ当たって笑う神楽堂
神楽堂太鼓や笛で味をつけ

【陰膳】旅に出た者に、留守居の家人がそのもののためにと一人前の食前を作って供えること。
 こうすると、道中で食に餓えることがないとの俗信があった。

品川に居るに陰膳三日据え
していると知らず陰膳三日据え
陰膳
 あるところの旦那が伊勢参宮に出けた。
 その留守に、しゅうとがやってきて、
「亭主が出ている間は、陰膳を据えると、旅先で腹を空かせないと云うことだ」と教えた。
 女房は此を聞いて、毎日、陰膳を据えた。
 そのうちに、日が経って、亭主が帰ってきて、互いに無事を喜んだが、亭主が、陰膳を見て、
「あの膳は何だ」
「あれは陰膳といって、お留守の間お膳をつけておくと、そなたが、旅先でひもじい思いをしないと、お父様が教えてくださったの」
「そうか、そりゃすまなかったな。そのせいか、俺は昼も夜もひもじい思いはしなかったよ」
【蛇足】「昼も夜」もと言うのが聞かせどころ。
2004/10/14
間男
「其方の女房を人が盗むを、得知らぬか。さてさてうつけじゃ。
よそへ行く体にて隠れて見付け、打殺せ」と、いろいろ言ひふくむる。
「心得たる」とて、二階に隠れて待つところへ、案の如く間男来り、さまざま痴形のあまりに、女申すやう、
「真実思へば、舐るものじゃが、そもじは我々を、さほど思召さぬ」といふ。男の曰く、
「一命をかけて此のごとく参るに、お疑いなされ候。今なりとも舐ぶらう」とて顔をさしよせるけるが、あまり臭さに、鼻にて撫づる。女房よく覚えて、
「今のは鼻じゃ」といふ。
「いや、舌じゃ」といふ。詮議まちまちするを、二階より節穴から覗き、よくよく見て、
「どちの贔屓にてもないが、今のは鼻じゃ鼻じゃ」といふた。
 (きのふけふの物語下巻第五十五話・寛永十三)
【解説】女房と間男の現場を取り押さえようと二階で覗く亭主、両人の痴態にも公平な審判を下すお人好し。
 また、女房と間男が、祇園囃子の拍子で腰を使うのを見て、
「モウ一番所望所望」と亭主が声をかける「曲どり」
 (豆だらけ・安永四頃)も同じく寝取られ亭主の愚行。

【陰間】舞台子、色子などを装った男子。「若衆」「野郎」その他いくつかの異称がある。江戸では芳町、湯島天神前などに有名な陰間茶屋があった。陰間の語源については諸説在るが、要するに、陰(隠れたること、または後庭の意)を売る密娼との義である。
 間とは仲間の意か。

    牛はものかはと陰間へ局いい
【蛇足】生ものに勝るものはない。

芝居とはそら事女中陰間なり

芳町で化けそうなのを後家へ出し

芳町へ蛤が来て汐を吹き

芳町のあす張り形は大味さ

【囲い者】外妾のこと。囲われ、日陰女、その他、異名が多い。
 「連子窓」は妾宅の代名詞。「下猫(げねこ)」「二仕(ふたせ)」「おなで」「おさすり」
 「焚きざわり」などは下女兼メカケの称。

囲い者どか喰いしたりかつえたり

    かわかしが付くで囲いの所替え
【蛇足】
 かわかし=潤いの枯渇=顎が干上がる=旦那の留守=ただ乗り。

店賃の早く済むのが囲い者

【笠】被る笠。秘語には、かぶりものの意に用いられる事があり、
 「笠伏せ」は御法の一称で、茶臼開と同義語

    旅立ちは二度目の別れ笠でする
【蛇足】旅に出てしばらくの留守になる別れを惜しんで、戸口を出てからも、遙か彼方から菅笠を掲げて挨拶をするという情景だが、破礼句では名残を惜しんで今一度の笠伏せである。

    冠りものぬがせてみたら赤ッ面
【蛇足】すぼけ=頬被り=越前=すっぽん。
2004/10/15
 夜這いの言い訳
@ 猫
 亭主の留守となれば、常に通い慣れたる者あり、
 兼ねての約束は、
「屋根から忍び来たれ。梯子を掛けおかん。亭主帰りたらば、
 『屋根を歩くは猫であろう』といふとき、猫の鳴く真似をせよ」と、示し合わせておきつるが、まことの折、男聞きつけ、
「屋根を歩くは、人のやうな」。女房
「いや、この程大いなる猫が歩く」といふに、かの男肝を消し、
「にやう」というべきを打ち忘れ、細声になり、
「ねこう」と申しける。(醒睡笑巻七。癈忘第五話・寛永五)

【解説】中国宗代の笑話集『笑苑千金』巻四「両脚猫」の翻案で、
 そこでは亭主が女房に二本足の猫だと皮肉っている。
 下女の部屋へ這い掛けたとき、ギチギチと音を立て、隠居
「誰だ」「ニヤアン」「猫か?」「ハイ」と、思わず返事をする
 「猫」も(今歳咄)、猫の声色で誤魔化そうとした失敗咄。

A 子ゆへの闇
 さる親父、下女に心をかけ、ある夜暗がりに下女が寝室へ忍び行きけるが、息子も同じく忍び行き、互いに行き当たりければ、「これは親父様、何としてござった」といへば、親父ぬからぬ顔をして、「その方が暗がりにて踏み迷ふかと気遣いさに、尋ね歩く、子ゆへの闇に迷ふ」といはれた。
 (軽口手葉古の玉四・子ゆへの闇・享保元)

【解説】子を愛する余り、親が思慮分別を失う俗諺「子ゆへの闇」で言い訳とした。
    「夜這いにも後陣続く下女が部屋」
 明五亀二で、褌一本の裸体で下女の部屋で鉢合わせした親子を見た下女が、相撲の行司よろしく、
 「こなた伊名川伊名川」と声を上げる
 「下女が見立て」(軽口開談義巻一・安永二)もある。

【傘袋】傘をしまっておくときに、損傷しないようにしまっておく袋。紙または布で出来ていた。
 秘語では「柄袋」と同じく、又「鞘」と言った意味になる。

    傘袋横を向き嫁ははめるなり
【蛇足】ちょっと艶情を作った女らしい姿であるが、
 恥ずかしげなのはあらぬ連想を意識しているともみられる。

嫁いやでのうて覗かぬ鞘写し 物売りの見せ物
鞘は江戸殿は抜き身で御出立

    大黒の柄漏りは寺の茶臼なり
【蛇足】大黒様の濡れよう凄まじい、カサの柄伝うか。

【花山帳】芸者の出を記す見番の玉帳。
 吉原には客帳を「入り船帳」、揚げ代記入帳を「水揚げ帳」と
 言っているのがある。
 花の山とは祝儀玉代(花)を意味した縁起言葉であろうか。
 秘語では女陰阜に言われる場合がある。

煙をば切り売りにする花山帳 線香代
粋な線香一両に五本なり

【貸本屋】読み本、絵草紙の類を風呂敷包みにして背負い、
 屋敷の奥向き、妾宅、遊女屋などを廻って貸し歩いた。
 「小間物屋」と同様に、怪しげな絵本も持ち歩いた。

貸本屋無筆に貸すも持っている

貸本屋これはおよしと下へ入れ

貸本屋何を見せたかどうづかれ

おや馬鹿らしいと本屋にぶつ付ける

かのものにかの本添えて小間物屋

男には武具を商う小間物屋 鎧・兜形
2004/10/16
【鹿島】常州(今の茨城県)鹿島神宮。ここには、大地深く埋もれて、鯰を押さえ地震を鎮めるという要石があり、古歌に
「ゆるくともよもや抜けじの要石、鹿島の神のあらんかぎりは」と言う。それより、秘語には「鹿島の留守」とて、鹿島参りの留守中に密夫すれば、不離の身となるとの俗信が行われていた。
 また、吾妻形代用の「蒟蒻」の砂払には、大和こんにゃく、鹿島こんにゃくが著名である。
伊勢よりも鹿島の留守は抜けぬ筈
伊勢縞はある夜娘へ抜け参り
抜けぬぞを女房脅し伊勢へ立ち

【貸元】賭場に於ける元締めで、寺銭を取るほか、掛け金の融通をして貸し与えたりした。秘語では、女陰の取り締まりといった意の語で、その締まりの悪いのを「貸し元がずるい」と言った。
 ずるいは「浮質」と書かれていて、多情女のことである。

貸し元のずるいところに松ヶ岡 縁切り寺

【貸屋】俗秘語では多情女。後家などに言われる。
 「貸屋」「明き家」「貸し船」などは類語。
 相手のないのを「ねかし開」と言い、「貸し船」は「乗り合い船」
 「辻便所」などの縁語となる。

後家船を貸したではたに波が立ち
隠し所貸したで隠しきれぬ腹
手を出すな危うし船のヘリ

妻の願い
 船に乗って遊びに行ったが、船が向こうから来た船とすれ違ったとき、小縁に手を出していたので、指を挟まれて、怪我をした。
 帰ってきてから女房にその話をすると、
 女房は溜息をつきながら、
「頼みますよ。これからは十分に注意して、決して船で小便をしないようにして頂戴」

尻に敷く女房腹へはよその人
死なぬうちから女房は人のもの

    へりはせまいけれど広くはなろう
【蛇足】入り口は狭いが、良しとするも、締まりの問題か?
 方円の器。牛蒡から道鏡までだ。

【かつぐ】(かつ)ぐこと。奪略の意。女が男に連れ去られて、強いられる事を言う俗語となっているが、実は女も、半ば女もそれを承知の場合が多いし、民俗慣習にはこの形式を用いて親たちに結婚を承諾させることも行われた。集団的に行われた「かつぐ」では、「廻り取り」もある。

かつがれた下女はさせもが露だらけ

かつがれた下女は明地で賤ヶ岳 七本槍

かつがれた下女貧僧の重ねどき 二度は喰う

かついだは嘘手を引いて逃げた也

かつがれる宵にしばしば裏へ出る

糠袋頬張って下女腰が抜け ふぐり
2004/10/18
 かねがね、合点がいかぬと思ひけれど、今日という今日、間男見付けた。憎い奴とわめきける。
 間男、少しも騒がず、脇差しをひねくり回し、
「親父、やかましゅう言いやんな。俺が所へどこからも、間男の法度と言うお触れも廻らず。又自体、われに似合わぬよい女房持つたが、不調法じゃ。きつと以来を嗜め」といふて帰りける。親父、肝をつぶし、
「ああ、うれしや。よい女房持ったりやこそ、命を拾ふた」
 (軽口春の山巻二・間男の間違い・明和五)

 「間男をした」とて大乱をやる故、隣の亭主聞きかね、
 「何事でござる」といふて来たれば、
内の亭主「イヤ、嬶めが、あの男と密通しました」
隣の亭主「俺がこふあろうと思った。まだここの亭主は大まかだ。
 おれがみたばかりも、密通や四つじゃない」(口拍子・間男・安永二)

【蛇足】密通と三つを掛けたサゲ。
    「このたびで都合三度と馬鹿亭主」(天三信二)

【河童】川に住み人間の尻こ玉を抜くという架空の動物。
 俗諺では、芝居長の「客引き」の異名。
 また、川に客を引き込むとて、「船饅頭」の異名ともなる。

岡に住む河童の多い二丁目 客引き男
河岸に出る河童は鼻を抜きたがり 船饅頭

【火動の症】腎虚の異名。
 俗に「火の病」とて、淫欲異常に昂進して消すことの出来ないものである。過房の結果、局部に硬直状態を持続するに至れば、すでに腎虚の危険期に入ったもので、やがては交会逐情を繰り返し、体力を消耗して死を招く、更に、死後まで局部硬直は続くと言われる。

裸にて火動の症は追っかける
鑓先の功名今はふところて 顎で蠅

【門口】女陰異名。門戸、前門などに同じ。
 その入り口の義である。秘語には「門口でお辞儀」とて、
 非礼な「ご挨拶」の意となる。

門口でお辞儀奥へと女房云い
逢わぬ道具は門外で埒をあけ
【蚊と蛇】蚊はさす、蛇は飲むとの洒落。男女陰異名

    出来茶屋女は蛇なり男は蚊

    蚊のくるを蛇が待ってる出合い茶屋
2004/10/18
焚き付け
 忍男(まおとこ)を引き込んでコッテリの最中、亭主が帰り、
「南無三宝」とうろたへながら、幸い空いた(すえ)風呂へ隠し、主、素知らぬ顔で座敷にいる。間男はひもじからふと女房が心中の握り飯、風呂の中へ投げ込むを、主がちらと見て、何喰はぬ様子で、風呂のふたを明けると、中から、「ヲット、塩か」
 (口拍子・間男・安永三)

【蛇足】(すえ)風呂の蓋を明ければ胡麻塩か」(明四智七)の光景。同様に風呂桶に隠れた間男が、亭主の「あれは何だ」の声に、中から「たき付け焚き付け」と答える「密男」
 (落噺笑種・安政三)

あの世で添わさず
 亭主、密夫を真っ二つに斬り殺す。女房
「私も供に斬りなさい」といふ。亭主、かぶりを振り、
「まづそふは致すまい」。女房手を合わせ、
「慈悲じゃ。殺してくだされ」といへば、亭主
「あの世で添わせてはならぬ」(近目貫・密夫・安永二)

【蛇足】姦通は現場で成敗してもお構いなしだった。
 間男は斬り殺しても、女房にはまだ未練を持つ亭主の処置でもあり、憎しみでもある。
 重ね斬りにする時でも、上の男は殺したが、下にいる妻は斬りかねて、「この生板、片づけておけ」と助ける
 「鶏助」(新選勧進帳巻二・享和二)

【蟹】遊里言葉では「横に這う」との意味で、「横ばん」に言う。
 妓が勤めの時間を盗んで密夫に会うことを金山ことばで
 「横板をきる」と言い、遊里通言では「盗み」と称している。
 秘語の「かに」は、挟む意で交会の女性称となる。

傾城は間夫の辺乃古でかにになり

蟹の出た穴を覗きに来るかぶろ

汐干狩今日は見ものと蟹は待ち

かの薬それ幾代餅の隣なり

かののもにかの本添えて小間物屋

かんざしや櫛や辺乃古を出して見せ
 小間物屋

【賀の祝い】
 六一の還暦、七〇の古希、七七の喜寿、八八の米寿など、
 長寿の祝いを賀の祝いと称した。

賀の餅はさぞ提灯でつくだろう
賀の餅を腰も強いとほめて喰い
賀の祝いちょうちんでつく餅をやり

【庚申】干支の庚申の日は、もしこの日に妊娠すると、産まれた子は後に盗人になるとの俗信があったから、この日は交会禁忌の日とされた。夜中起きている風習もあった。

庚申はせざるを入れて四猿なり

もうよかろうと庚申の明け方

けつをするぶんには構わぬ庚申

盗人の子も出来ようと姑と云い

【かぶせる】秘語では姿態名に「投網」というのがある。
 これも、えてものにかぶせるとの意からの、座り茶臼である。

【釜】秘語では後庭華の名となる。「釜の座」「菊座」「菊の華」
 などの異称が在り、「切り口の牛蒡」とも俗称。

【蝦蟇】女陰異名。蛇の縁語。
2004/10/19
目を盗む
 座頭の女房、密夫しているをけどつて。
「憎い、おのれは大泥棒め」と叱りつけられ、女房腹を立て
「何も泥棒した覚えはござりませぬ。人に傷を付けなさる」
 といへば、
「黙りおろう。おれが目を盗みおつた」

【蛇足】「座頭の女房ないもせぬ目を盗み」
 (柳一四二・四〇)

狸寝入り
 さるところの女房、間男を引きずり込み、奥の間にて愉しむ最中、戻ってくる亭主の咳払いにびっくりしながら、逃げて出るもいいが、隠れる所も無し、いつそ糞落ち着きに落ち着いたまま、
 空寝入り。亭主は戻りて奥を窺いて、
「ハハァ嬶ァは間男の夢でも見ているそうふだ」
 (恵方棚・狸寝入り・文政)

【髪】結髪の風俗、生え際など性風俗に関係が深いが、秘語では
 「もみあげ」「襟足」「額の生え際」「縮れ髪」など、性毛に擬して言われる場合がある。
 さらにその「刈り込み」「春草」のことを暗示した句もある。

    十六で髪置きをする気の悪さ
【解説】髪置きというのは、子供の頭髪を伸ばし始めるときの儀式で、男女とも三歳になると、此を行った。
 次いで、男子は五歳で袴着、女子は七歳で帯解きの式をする。
 此が七五三の祝いで、いずれも十一月十五日に着飾って氏神に詣でる習慣となった。
【蛇足】秘語で髪置きというのは、春草の見え染めたことを言う。

    十三と十六ただの歳でなし
【解説】女子は十三で初潮、十六で春草を生じるとされ、かくて
 「道具揃い」となる。
【蛇足】「おけし」派、罌粟殻頭とて、用事が頭の上だけに髪を残して廻りを剃ったもの。髪の毛の少ないもののことは「おけんつう」と言い、普通語では愛想のない様に言われる語となっている。
 「惣髪」長い垂れたなで髪のこと。
 遊女などが防毒防傷のために行っている「刈り込み」もある。

女郎はおけし惣髪は地物なり
おごもったようになるまで縁遠さ

    おごの白あえ一種なり出合い茶屋
【蛇足】おご=海髪=うご、刺身のツマに用いる糸状の海草。
 おごの白あえ・・・ザーメンであえたのか?

度々怪我をさせても女房髪惜しみ
毛巾着せいて道具にきれが出来 毛切れ

    あたまから惚れられるのはちぢれ髪
【蛇足】俗に縮れ髪のおんなは情が深いと言われる。
 縮れ髪とは実は性毛をさしたものだった。

おくれ髪かき分ける女医者
腰元のいたずら狆を富士額

開のもみあげ尻近く生えさがり
2004/10/20
【紙】御事紙、浅草、深草、吉野など紙に付く語は多い
捨てる神あれば助かる屑拾い

拾うのは遣い捨てたる紙の屑

品のいい紙屑かごは犬張り子

雪隠や黄金の山に福の神

女房の泣くたびにいる福の神

ふくかみを乗せた娘の宝船

みす紙はふくの小菊はやるの也

紙花を散らして今は屑拾い

まずい事紙鉄砲をしてさせる 詰め紙

込め玉をしている女房肘鉄砲

おひねりの残る雑魚寝の祭り後

仕留めたと見えて抜き身を拭う音

おそろしくしたと吐き出す出合い茶屋

ことおかしくも張り形へ吉野紙

下付
 ある夫婦のもの、一義をする度々に女房にいふようは、
「そちが物は下がりて、下に付きてしにくい」といひけるを、
 隣の者、立ち聞きに再々聞きた。
 ある時かの男他所へいきて留守の時、かの隣の立ち聞きしたる男、留守の女房の所へ行きて申しけるは、
「我々は、ちと他所へ参り候ほどに、後を頼む」と申しければ、
「何事に、何方へ行き給ふぞ」と問いければ、
「そのことじゃ。他所に『牛のへへが下がりたるほどに上げてくれくれよ』といふ程に、上げに行く」といふ。
 かの下に付きたる女房、(なのめ)に喜び申すようは、
「人のは直り申すまいか」といふ。
「牛さへ直し候ほどに、人のは猶々易く候」と申しければ、
「恥ずかしき申し事にて候へども、我らがものが『下がり候』とて、これのが常々嫌はれ候ほどに、上げて給わり候へ」と申しければ、「心得候」とて、尻に小枕をさせて、したたかにくはせた。
 さても賢い奴の。きのうけふの物語上巻第76話・かんえい13

【蛇足】下に付くは、位置のことで、交会時の味わいが悪いと嫌われた。へへは女陰。手もなく、下付を直す治療の口車に乗った。

狡智
 ある分限者、娘を二人持ちけるが、姉は十八、妹は十五になる。この家の祈祷坊主、比叡山の座主にて、常々祈祷に呼びけるが、ある時父親申されけるは、
「我はなににても思うことはなきが、息子を持たぬのが何より迷惑にて候が、もし御坊達のご祈祷の力にて、あの娘どもを男子に御なし候事はなるまいか」と申されければ、座主申されけるは、
「それは易きことにて候。お経にも『変成男子の法』とて御座候。
 御娘御二人ながら、下の坊まで給わり候へ。いずれなりとも器用の方を、男になし申さん」と申されければ、夫婦ながら斜めならず喜び、娘どもを遣はしける。さて座主、姉妹の娘を別々に置き、思うほどたくりて飽き候時、
「なんと祈り候ても、男にはなり申さず候まま、其の方の因果と思し召せ」とて、実家へ帰された。
 そのとき親ども、娘にいふやふは、
「何と祈られたか、又さもなかりけるか」と申されければ、
 妹申すやうは
「御坊様も色々精を出し、夜昼指似を植え給えども、生へ付かぬも道理じゃ、逆さまに植えたほどに」といふた。
 (きのうけふの物語上巻第七九話・寛永十二)

【蛇足】たくる=だます。指似=男性器。
 仏力と称して、姉妹と情交を交わした破壊坊主の狡智で、
 『日蓮宗二人娘』(はなしの種・天保十)にも再出。


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