川柳秘語と破礼句 179 2005/5/23 aosagi123

わがもので見たことのない菊の花
【渡す】俗秘語で「えんこうを渡す」「お祭りを渡す」などという。
 渡すは、通す、及ぶと言った意味の語。
 近代では、渡りを付けるとて、交渉に意味に用いられる。
 又、大正、昭和の初めの頃の流行語に、情を通ずるといった意味で「通す」との流行語が行われた。
お祭りの最中蔵で下女渡し
据え風呂の加減は指が二本濡れ

【鰐口】社殿の前の軒に吊されている平たい鈴のような金具。
 伏せ金を二枚合わせたようにできていて、下が裂けて広い口が横まで広がっている。前に布製の綱が下がっていて、此を振り鳴らして礼拝するもの。
 秘語では、男の鈴口にたいして女陰の異称となっている。
 『桂林漫録』には、鰐口とて仏堂前に掛ける鰐口のことを古くは金鼓(こんく)とも言ったか、云々とある。

さあらぬ鈴を鰐口に参らしょう (三番叟の文句取り)

鰐口に舞わせて鈴は太鼓打つ (腹太鼓)

鰐口と鈴で陰陽和合なり

この鈴でお出来と乳母は引いて見せ

内証の用に鈴とは面白い (呼び鈴)

【笑い】古くから、好色に「笑い」との称が行われて来た。
 「笑い絵」「笑い本」「笑い話」「笑い道具」などの名があり、
 「咲き本(わらいほん)」と訓している咲きは、笑いの本字だという。
 「笑める(えめる)」は女陰異称。秘画春本を「わじるし」と称したのも笑い絵、笑い本から起こった名である。

笑いとはそら言篇乃古道具なり(張形)

かのものにかの本添えて小間物屋

かんざしや櫛や篇乃古を出して見せ

セキレイの絵ですと女将笑って居

にぎにぎに親指が出て大笑い

歌かるた抱絵と云って叱られる

お祭りに泣くは機嫌のよいのなり

薬研形こをこしらえる道具也

【割床】女郎の大部屋。回し部屋。
 割部屋以下で、安物買いの客を一緒に入れて屏風などで仕切った床座敷である。宿屋では「合い部屋」と言った。

割床の地震隣へ揺り返し

【割る】俗秘語。「割れる」は破瓜の義で成女の意味に称するが、又、男を知った陰名にも云われる。「割れ物」はキズ物の類語。破根を「割る」という。

菱餅も割れる頃にはけが生える

びいどろも割れる頃には声変わり

びいろろも割れると後は水入らず

【悪足】遊里語では「紐の男」のこと。
 妓を食い物にしている情夫のことを云う。この足も男陰秘語の名であろう。

【悪紙】すき返し紙のような粗悪紙をいう。
 「浅草紙」はネズミ色のすき返し紙で、「落とし紙」や「鼻紙」などの雑用紙に使われた。

悪る紙へ紅と墨との文を書き (遊女の文)

真似をして下女浅草を口でとり

昨夜の秀句の解説 (おさらい)

一度して孕むものかとむりなこと (娘への口説き言葉)

もう一度拭いてとへのこ引っこ抜き (愛液ふんだんな熟女)

    芳町へいきなと女房かさぬなり
 (葭町は陰間茶屋で有名。たまには後穴をと要求した亭主に)

まっ昼間するは女房も盗みもの 
 (昼取りは間男をしているような気分)
夕べしたとは知れている恥ずかしさ(初夜の花嫁の心情)
2005/5/23

【蝋燭屋】男子手弄者の俗称異名。
 昔、蝋燭屋は店の内の左右に三尺ばかりの床貼りを作り、そこに職人が安座し、細かい竹の棒に溶かしたロウを塗りつけ、平手でしごきながら、蝋燭作りをした。
 そのありさまから出た秘語である。隠語では、津液をトロと言い、ろうそくのことはトロ棒と言っている。

不器用な経師屋止めてろうそく屋

ろうそく屋一本書いて立てて置く(看板)

珍宝をこうしなさいとろうそく屋

大道でかきくらをするろうそく屋

こすりこすり太くしているろうそく屋

【六阿弥陀】江戸の近郊六カ所に散財する阿弥陀仏で、春秋二季の彼岸まいりをすれば後生が良いと言われ、老婦などの彼岸参りの場所となっている。
 享保十三年の『江戸内めぐり』には、武州六阿弥陀の記載があり、一九作の『六あみだ詣』も此と同じだが、総里程は六里二十三丁(二六キロメートル)あった。
 このほか青山方面にも「山の手六あみだ」、芝方面には「西方六あみだ」とて別にある。また、「六地蔵」と言うのもある。

小言の親玉連れだって六阿弥陀

湯にやって見ればつまらぬ六阿弥陀

ねれて来て七番になる六あみだ

六あみだ皆回るは鬼婆ァ

秩父の留守に孕んで大いびり

【六味丸】『川柳語彙』には、六味丸、補精の丸薬。此に地黄を加味して六味地黄丸と言うのもあった、とて、地黄丸とは別に言っている。
 地黄丸も腎薬であって、これに「六味地黄丸」と「八味地黄丸」がある。

顎で追う蠅は六味へたかる也

六味飲んでる側にいい女房

水切れにつき当分の内地黄丸

【ろてん】『猥褻廃語辞彙』には、男陰の俗称として、寛政の頃迄行われていた語と言い。船頭などが男根を「艪栓」と言ったことから転じた、とある。
 又、ろてんは露移しから転じた陰名で、露転か、とも言っている。
 『好色旅枕』にも「露転」とある。

一本のろてん末世に名を残し (道鏡)
あれあれと艪まらはずれてほととぎす

【余録・解説】空に一声ホトトギスの鳴き音を聞き、思わず空を見上げたため艪点を外したとの句だが、秘語では、鞘走ったのと嬌声との句となる。

一度して孕むものかとむりなこと

もう一度拭いてとへのこ引っこ抜き

芳町へいきなと女房かさぬなり

まっ昼間するは女房も盗みもの

夕べしたとは知れている恥ずかしさ
2005/5/20
蓮掘りに気を通しやなと池の茶屋

出合い茶屋忍ぶが岡は尤もな

蓮飯をとろろで二人食っている

【れんとび】『古語辞典』に蓮飛びとは軽業の名だとあり、竹馬の様な一本棒に横木をつけた上に乗り、飛び回ったのがあった。
 『好色一代男』には…品川のれん飛び…うんぬん…とあり、娼婦の名としているが、「蓮葉女」の類の軽佻な娼婦の義か。

安い鳶あひるふさがり鷹へそれ

 娼婦名を連ねた句だが、この鳶は安い鳶との意に言ったものかとも言う。
 難句とされている。


前句  よいかげんなり
   付け句 五十ほどかくとせんずり終ひなり
 千摺りとは言うが、実際は五十回ほどで射精に至る。

前句  もしやもしやと
   付け句  井目を押す気で上がる出会茶屋
 井目は囲碁の九点。九番も行うつもりで。

前句  うけ合いにけり
   付け句  こらへじょうの無きへのこは朱塗りなり
 耐えかねて月水中に行うと、朱塗りの棒のようになる。

もふもふお許しをと陰間後家へ言い
 後家の飽くなき欲求に陰間も降参。

とろふりと練れたを女房みやげなり

 長歩きすると、よく練れて具合良しと言う。亭主へのみやげ。

蛸を惜しがって辛抱婿はする

  家付き女房はわがままだが、辛抱する秘密の理由。

臍へひっついているので旨がられ 上付は上物とされる。
春よりは一番足らぬ出会茶屋
  秋の宿下がりの御殿女中、落日が早いので。
よく持ちゃげなよと女房上で言い 熟練した女房の茶臼。
御用達陰間をねだるには困り

 幕府出入りの商人が役人を饗応したところ、陰間茶屋へ行きたいと。商人側では陰間茶屋の消息に不慣れであると同時に、意外に経費がかさむので困る。

2005/5/18

【留守】旅の留守、亭主の留守などには、とかく浮気の起こるものとして話題になる。

女戸に他の羅を禁じ旅に立ち

抜けぬぞと女房脅し伊勢へ発ち

道中じゃよしなと女房強いる也

伊勢よりも鹿島の留守は抜けぬはず (要石)
 それにしても、離れなくなるとはマコトかと、俗諺よりも欲に心惹かれ
おっかない麻具波比(まぐわい)をする伊勢の留守

留守中を知らぬが仏礼を云い

知らぬは亭主ばかり也旅戻り 旅の留守には類句が多い。

下タ口のすぐしての来る旅の留守

すえぶろに丁稚を入れる旅の留守

あとの減るものかと口説く無筆同士

減りはせまいけれど広くはなろう

とつさんは留守かかか様が来なさいと

旅の留守内にもごまの蠅がつき

旅の留守おじさんちゃんのように寝る

かみ様へそらったわけで這ってみる

よしなよの上のよの字は下女置き字

爺さんと婆さん寝たら寝たっきり
蒲焼きの謎を亭主は晩に解き
 女房が精力を付けるために準備。
 その謎が寝床で氷解させられた。
若後家は寺で精進ものを食ひ 密かに和尚に振る舞われて
言いだしたのは俺だよと先へする 下女への輪姦

2005/5/1

【りくつ】俗秘語。房事のこと。「わけ」などの類語。
 『通言東至船』には、一件(りくつ)とあり、洒落本『意気の口』では…はや、かの理屈もすんだと見え、ここに落ちついて話している…とある。
 「工夫」「やりくり」の称もある。

化け物で度々乳母はりくつする

【余録・解説】お化けだ、こわいこわいと幼児に顔を隠させて、その間に、男とやりくりをするとの句。

子心に乳母が負けたと思って居
鬼となり天狗となって乳母をする

利生(りしょう)男陰異名。利生は利益衆生との仏語の略。
 およそ、生ある者に利益を与えることの意である。
 『春色入舟町には御利生』に篇乃古の訓がある。

御利生を関所で見せる伊勢参り (参詣の御利益にかける)

【りの字】情事語の「川の字」に対する戯称である。都々逸の文句には…
 宵にゃ横、夜中まともで明け方頃は、後ろからさす窓の月…と言う。
 りの字にも様々ある。

川の字をりの字に崩す夫婦仲

両首(りょうしゅ)張形の一種で「両頭」「千鳥形」なととも言う両頭の具である。
 『真似鉄砲』には…あいみたがい張形かし…とあり、又別の柳句には…
 部屋方の兄弟分は互い先…との句もあって、ひも付き単頭の張形を交互に用いるのもあるから、句義も取りにくい場合がある。

相身たがい身とは長局の言葉
角細工女がすれば恋になり (二つ文字牛の角文字)
差し違い死ぬ死ぬという長局

【りんの玉】秘具の一種。
 金属製で、今の一円硬貨を休憩にした程の大きさの玉に二個で一対になっている。
 一個はやや重く、ただの玉だが、外の一個は中が空洞で、振ると細かい振動と共に、すこぶる美音の鈴のような妙音を発する。
 用法はこの二個を一緒に蕨中に入れて行えば、女悦によって妙音を生ずるというのである。

りんの玉芋を洗うが如くなり
りんの玉女房急には承知せず
どつちらの為になるのかりんの玉

【りんきの輪】秘具の一種。茎頭にはめて用いたという。

女房の悋気頭へ判を押し

 この句は、それに擬した女房の工夫だが、出先での浮気封じに、亭主の出がけに一目さずけたことかも知れない。
 あるいは、男に対する、描く貞操帯の一法とも思われる。

道中じゃよしなと女房強いる也

旅立ちは二度目の別れ笠でする

若亭主でようとすればさずけられ (子供を預ける)

今夜も巻末の秀句を掲載しておこう。

もふもふお許しをと陰間後家へ言い
 後家の飽くなき欲求に陰間も降参。
とろふりと練れたを女房みやげなり
 長歩きすると、よく練れて具合良しと言う。亭主へのみやげ。
蛸を惜しがって辛抱婿はする
 家付き女房はわがままだが、辛抱する理由。
臍へひっついているので旨がられ 上付は上物とされる。
春よりは一番足らぬ出会茶屋
 秋の宿下がりの御殿女中、落日が早いので。

2005/5/16

【裸根】俗に無褌の陰具に称せられ、「振り魔羅」「振り開」などと男女ともに言われているが、裸根本来の義は「露茎」の意味で、男陰名なのである。『陰名考』には
「男陰を裸根、女陰をかいひんという」とあり、『墨水抄』に
「裸根は男根、開閇は女陰をいへるなり、他開ひんは男女二つの称なれども、当時(天文のころ)はただ女陰にのみ言いしなり」と言っている。
 開閇の開は女陰、ひんは男陰名だったのを、後には「かいひん」で女陰名になったのである。

女のを振りというのはきつい無理

木綿高値に付き下女無褌

褌を足場にこいつ慣れた奴(密這い)

口説きようこそあろうに抜き身なり

【裸身】女の裸身を「剥身」と言う。
 また蜆、蛤、赤貝などの類語で女陰名異称の一つにも言うが、これは無褌の女陰名、または土器の少女陰に言う。
 「裸嫁」は美人の別称ともなり、何はなくとも裸でよいと請け負うからである。「そうこういん」の異名もある。

裸でと言えば娘はおかしがり

黒吉の顔が持参でまつぱだか(美人の故)

立派なるものは花嫁丸裸

迷うまいものか持参と裸なり(色と欲)

裸寝(らしん)裸寝風俗は古くからあったが、後には愛情の表現として「手管」にも用いられたのがあった。
 『阿奈遠加志』三三話、みあいの作法の条にも、…
 むかひめに(正妃)にあらざるかぎりは、衣服を脱ぎ、ふたのをとき、あかはだかになりて、御ふすまのうちにはいるならいいこそあれ、うんぬん…。とあり、中国上代の後宮制度にも、宮妃の寝御にはまず入浴させ、髪を解き改ためると、係り役人がそのまま裸身に布を覆って背負い、寝所に伴った制度だったという。
 我が国、徳川大奥でも、だいたいこの制にならったもののようである。
 そして、中臈は裸寝で、かつ、後ろ向きに寝た、と言われている書もあるが、此は真実ではないらしい。

三千の剥身一本の串で刺し 二千九百九十九は牛

【羅切】男陰切除のこと。昔、中国の後宮に仕えた男役人は、
 情事の間違いが起こらないようにとて、去勢された風習があった。
 此を宦官といい、また、「黄門」の称もあった。

無一物とは羅切かと馬鹿な僧

禅坊主羅切してから無一物

奥家老羅切したのを鼻にかけ

羅切して又下になる長局(互い型)

僧正は越前で猶殊勝なり(顔を上げない)

前句  いたづらなこと
   付け句  嫁も持て余そうと湯屋いらぬこと

 湯屋の番頭の言。嫁も持て余すほどの長大さだと。

前句  いたづらなこと
   付け句  昨今もまた勃えますと脈をみせ

 腎虚で療養中の男。医者に様態を言う。

前句  かくしこそすれ
   付け句  かわらけと縮れ毛人の好くかたわ

 土器(かわらけ)(無毛)と縮れ毛の女性は味よしと言われる。
  ともに男が珍重する。

前句  よいかげんなり
   付け句  五十ほどかくとせんずり終ひなり

 千摺りとは言うが、実際は五十回ほどで射精に至る。

前句  もしやもしやと
   付け句  井目を押す気で上がる出会茶屋

 井目は囲碁の九点。九番も行うつもりで。

前句  うけ合いにけり
   付け句  こらへじょうの無きへのこは朱塗りなり

 耐えかねて月水中に行うと、朱塗りの棒のようになる。

2005/5/15

夜蛤(よはまぐり)夜鷹の異称という。蛤は女陰名、それに夜と冠して、いっそうその義を明らかにした称である。
 せんぼ(遊里語)には、「合貝屋」の称があり、私娼家の事であるが、また略して「貝屋」(飼屋に作る)とも言う。これも陰名から転じた称である。

二つ三つ明るみへ出す夜蛤(蛤売りに擬す)
蛤も桑名この頃生で売り(桑名の焼き蛤)

【呼び出し】深川岡場所での私娼の上妓。
 子供屋という置屋に抱えられて、「寄場」から口が掛かると茶屋へ出向くので「呼び出し」の称がある。深川で呼び出しの子供ばかりがいたのは中町と土橋だけだった。

呼び出しの夜は亥の刻に一度明け
呼び出しは一夜に二度の起き別れ

【嫁】娘から若嫁、婿取り、新嫁と新所帯、嫁と姑など、句が多い。

あいあいと嫁さまざまに行われ

庚申を嫁の聞くのは目立つなり

姑が死んで夜な夜な嫁は泣き

新所帯人の思ったほどはせず

今日は庚申だと姑いらぬ世話

【よりをかけ】よりを戻すと言えば復縁のこと。
 普通義で「よりをかける」は、糸などをひねり掛けること。
 秘語では御法の一称と言う。

新造は干し大根によりをかけ

【余録・解説】老人客を相手に新造が、老練さはないまでも、
 せいぜい腕によりをかけてもてなすとの表面の句。
 秘語で干し大根は老陰の陰萎の名。その扱いに掛けていった句となる。

出合い茶屋しまいはおつぺしようつて入れ
居つづけは毎朝鼻をつまませる

【羅】『和漢三才図会』に、「男勢俗曰末羅、故上略曰羅」とあり、『陰名考』には、「魔羅、是は男の陰具の古名にて、今猶かくの如しは云えり、またラとのみも云えり」とある。類語に「羅刹」の称もある。

女戸には他の羅を禁じ旅に立ち
鼻は欠け落ち女房は逐天し (欠け落ちに掛ける)

 小話に、しばらく旅に出て留守になると言えば、女房が一人では心許ないというので、亭主「心配は入らぬ、それならよいまじないがある」とて、出ていった跡で見たら、戸口に「この家に美人局有り」と書いて貼ってあったの話もいくつかある。

抜けぬぞと女房脅し伊勢へ発ち
抜けるにも抜けぬにも伊勢縁があり

前句  おもひこそすれ
   付け句  おやかして見せると相模目を廻し
好色な相模下女。硬直したものを見て欲求のあまり気も転倒。

前句  いやらしいこと
   付け句  気が悪くなっても女かさばらず
 「気が悪い」は性的興奮をすること。男は体積が膨張するが。

前句  おしあいにけり 
   付け句  のし餅のように夜鷹はぶっかへり
 三十四文の街娼。筵の上にすぐに寝て大股開き。

前句  気を付けにけり
  付け句  先んずるときは女房不足顔
 亭主が持続力無いと。

前句  似合いこそすれ
  付け句  五十銅火蓋を切りに行く
 代五十文の鉄砲見世。一発放ちに行く

2005/5/13

【夜泣石】小夜の中山、夜泣石の伝説にある石。
 『旅枕五十三次』には、昔、この辺に淫婦が出没して野合の嬌声を石がないたと語り伝えたものと戯説している。

御同勢たて裂けのする夜泣き石 (行列が別れる)
夜は泣き昼は旅人の邪魔になり (道の中央にあり)

【夜鍋】夜鍋仕事の略称。夜延べの訛言とも云い、また夜食を煮る鍋を掛けて仕事をする風習からの名とも言う。「夜仕事」「夜業」「夜食」とも房事の俗称異名。

新所帯油のいらぬ夜なべ也

女房の夜なべに客が寝そらける

股ぐらで夜なべをしたで不首尾なり

(よね)遊女のこと。または女陰名異名。
 『大言海』には…よね、女郎、善寝の義。遊女の異名、隠し売女を「かくしよね」と言う。二代男三に娼様よねさまとある。
 女郎買いを「よねまじり」という…と見え、『岡場所遊廓考』には上妓を米、私娼を麦飯と言うとある。
 また、武左衛門の『口伝ばなし』には、いはろの…よたれそつね、上の世の字と下のねの字との間に字が四つあり、シジを挟むによって惣じて女をよねという也…とて、これは陰名の称とされている。

賀の餅はさぞ提灯でつくだろう
賀の餅を腰も強いとほめて食い

米饅頭(よねまんじゅう)『川柳語彙』には…米の粉で作った饅頭、普通は麦粉である。一説には、慶安の頃浅草待乳山,聖天の表門石坂下で、鶴屋の娘よねが製し出したのでこの名があるとも言う…と見えるが、『美味求真』では、餅米に黄粉を混ぜて蒸したもの、と言っている。「よね饅頭」は浅草以外にも随所にあった。
 秘語では、よねも饅頭も女陰名異名となっている。

米饅頭初手一と口は餡がない

【夜這い】招婚(よばい)とて、古くは婚姻形式の一つであった。
 「よぼう」と言い、呼び合うの義。「妻訪い(つまごい)」ともいい、男からある期間、女の家へ通って行った風習があったが、後には、男が女の寝所へ忍び込む意の語となり、「夜這い」となった。

四つ目屋をつけて夜這いは持ちにつき

無名円つけるは夜這い不首尾なり(傷薬)

酔うたとき夜這いはよせと懲りた奴

殿様の夜這いはズカズカ行き

ふてえ奴夜這い枕を持ってゆき

ごく知恵者夜這いに帯の綱渡り

こは夜討ちむきみで逃げる馬鹿女

傍へ抜身を置いて夜盗する

手と足で来るのを下女は待っている

入り婿は間男までに侮られ(侮りと穴とり)

正夢の如くに話すふてえ奴

大声をすると間男してはなし

また一度十七八で這いならい

2005/5/12

【寄場】深川の岡場所の私娼は「子供」と称し、これには「伏せ玉」と「呼び出し」の妓とがあり、伏せ玉はもぐり売女である。
 私娼家の店付き妓だったが、呼び出し妓は、茶屋へ呼ばれて出た妓である。
 寄場はこの呼び出し妓の見番で、ここから茶屋へ呼ばれていった。よって、寄場には妓の名札を掲げ、売れっ子の上妓から順に名札が並べられ、お職女郎に相当する妓を「板頭」、次位の「板脇」と称したのである。

売れ残り寄せ場に頬の立田姫 (ほおづえ)

【夜鷹】江戸の街娼で最低の私娼だった。
 『岡場所遊廓考』には…本所夜鷹の始まりは、元禄十一年寅九月六日、数寄屋橋より出火し、風雨にて千住まで焼亡す。
 その焼け跡に小屋かけし、折ふし本所より夜に女来たりて小屋に泊まる。世のよき時節ゆえ、若者徒然の慰みに惜しまず争い買いけるより始まるという…と見える。
 後年には本所の吉田町、吉岡町が夜鷹の巣窟のようになり、「夜鷹屋」とてその寄場があった。厚化粧して、手ぬぐいを姉さんかぶりにし、ムシロなどを抱えて出かけていった。古くは黒木綿で裾模様を着、白桟留めの帯を前結びにしたが、後年は縞木綿の着物に錦帯を後ろに結び、小脇にムシロを抱えて出た。

わっちらも武士づきあいと夜鷹云い (武士でも仲間)

脇差しを抜きなと夜鷹初会なり (木刀)

夜鷹の道中浪銭の六文字 (四文銭六枚)

【夜鷹蕎麦】京阪にて夜泣き蕎麦風といい、江戸ではよたかそばと言う。夜たかは土妓の名、夜になると屋台店を背負って町を売り歩いた夜蕎麦売りである。
 価十六文、それで「二八そば」と言うともあるが、実は、此はそば粉二分にうどん粉八分の調合を言ったものだとのことである。

現金にかけを売るのは夜鷹蕎麦
客二つつぶして夜鷹三つ食い (玉代二つで蕎麦三つ)

【四ッ目屋】江戸時代の秘具秘薬専売店。
 両国薬研堀の四っ目屋忠兵衛の店は四ッ目の佐々木の紋所を目印として寛永三年(一六二六)に長命丸で売り出したと言うが、もう一軒、両国通り吉川町に四ッ花菱の紋所で、高須屋安兵衛の店がやはり四っ目屋を名乗って存在していた。

よくいきやすは四ッ目屋の符丁なり 能書きの通りじゃ

四ッ目屋の女房わっちが請け合いさ

きかぬのは新ばつかりと四ッ目云い

買いにくい薬行灯に目が四つ

長局四ッ目小僧が出ると泣き

馬鹿な独り身四ッ目屋をつけてかき

四ッ目屋をつけて夜這いはもちにつき (もてあます)

【夜泣き】夜の文字を冠して房事の秘語とする類語。
 『好色旅枕』には「泣き女」の名が見え、遊里語には「泣きを入れる」との秘語がある。

かごの鳥夜泣きをするで尚流行り

姑が死んで夜な夜な嫁は泣き

傾城のなくのは内の首尾がよし

おきャがれ馴染んで見れば泣き上戸

甚兵衛の女房とうとう泣き殺し (腎虚)

女房泣くたびにいる福の神 (福の神と紙)

前句  うらみこそすれ
   付け句  ちんちょうでちもだと新造抜かしたり
 「チンチョウ」は提灯。「チモ」は餅。俚諺「提灯で餅を搗く」。

前句  見へつかくれつ
   付け句  女郎は生蝋女房は駄蝋なり
 生蝋は高級な蝋燭で、蝋の雫があまりでない。
 牛脂・鯨脂で作った下等な蝋燭が駄蝋で、蝋の雫が盛んに流れてすぐに熔ける。

前句  われもわれもと
   付け句  張り型は埋めやと長局 長年密かに愛用した張り型。

前句  いたづらなこと
   付け句  嫁も持て余そうと湯屋いらぬこと

前句  いたづらなこと
   付け句  昨今もまた勃えますと脈をみせ
 腎虚で療養中の男。医者に様態を言う。

2005/5/11

【吉野紙】薄い紙の代名詞になっている。
 『色里三所世帯』に…のべ紙は吉野より…とあり、
 『見た京物語』には…女郎は鼻紙に御簾紙を用いず、みな延べ紙なり…とあるのは上方の風習、奉書、糊入り、杉原、小美濃、吉野紙、延べ紙などは同一系統のやわらか紙で、厚薄によって名を異にしている。

事おかしくも張形へ吉野紙

牛若と名付けて局秘蔵する

仕留めたと見えて抜身を拭う音

みす紙で拭けば泪も気が悪し

【与次郎兵衛】弥次郎兵衛ともいう。京都では、乞食の頭の称。
 また、新年に鳥追いとなるものを「たたき与次郎」と言い、そのおどりの様から出たと言う「与次郎人形」がある。
 紙で作った小さい人形に笠を着せ、細かい串を両方の袖にさし、その先におもりを付ける。
 この人形を指先に立てると、おもりの為に立ち、左右に揺れてヤアトコセを踊る子供のおもちゃである。

与次郎の身振りで弥助子をあやし

沖ノ町与次郎のようにして歩き

長い篇乃古茶臼の時は与次郎兵衛

鍔かける筈で女房を呼び戻し

天狗の篇乃古さぞ長かろう

小間物屋さんお前のは高かろう (かりになる)

女天狗は寝呆けて鼻へおっかぶせ

2005/5/11

【吉田町】本所吉田町、吉岡町、石原町などは夜鷹の巣窟。
 「京で辻君、大阪で惣嫁、江戸の夜鷹は吉田町」とて、土地によって名は違うが、街娼の賤娼。ここには「よたか屋」とて娼婦の寄せ場があった。
 着衣、持ち物の類を売っていたし、賃貸しもした。共同で雇う妓夫もいた。

吉田町稼ぐを嬶鼻に掛け

もみくちゃな新造の出る吉田町

そのつらがしかも鹿子の吉田町 (おしろい斑)

四十から老いには入らぬ吉田町 (若作り)

【芳町】
 葺屋町新道で江戸における陰間茶屋の本場とされていた。
 『塵塚談』には、芳町を第一とし、その他、木挽町、湯島天神、糀町天神、神田花房町、芝神明前の七カ所があったが、今は芳町、湯島、神明前の三カ所だけが残っていると言い、宝暦の頃と違い衰退した、と言っている。

芳町へ行くには真似をせずとよし (坊主にならず)

背に腹をかえて芳町客をとり

女でも男でもよし町と云い (両刀使い)

芳町で年増の分は二タ役し
 (御殿女中、後家などには二〇歳以上)

おやこの里に裏門はありません (大門一方口)

吉原の裏門は芳町にあり

背に腹を代えて山猫帰るなり

芝居とはそら言女中陰間なり

芳町で女の客は返り討ち

後家へ出す陰間は一本つかいなり

大釜は後ろの家によく売れる

十八位の鬼では後家足らず (鬼→陰間)

2005/5/11

前句  のこりこそすれ
   付け句  茶臼の夜おふくろ五人扶持になり
 殿に未経験の快楽を堪能させた妾

前句  うらみこそすれ
   付け句  ちんちょうでちもだと新造抜かしたり
 「チンチョウ」は提灯。「チモ」は餅。俚諺「提灯で餅を搗く」。
 老人客が陰萎であることを若い女郎が暴露する。

前句  見へつかくれつ
   付け句  女郎は生蝋女房は駄蝋なり
 生蝋は高級な蝋燭で、蝋の雫があまりでない。
 牛脂・鯨脂で作った下等な蝋燭が駄蝋で、蝋の雫が盛んに流れてすぐに熔ける。女郎と素人女の愛液の滲出の差を言う。

前句  われもわれもと
   付け句  張り型は埋めやと長局
 長年密かに愛用した張り型。遺言で人知れず始末せよと。

前句  いたづらなこと
   付け句  嫁も持て余そうと湯屋いらぬこと

2005/5/10

饅頭に楊枝がついて食えぬ也(楊枝→用事)

金魚だよおよしと鰻入れさせず

赤団子だよに倅は泣き寝入り

【夜討ち】情事語。
 夜襲との意から「夜這い」の俗称となり、また、忍んでいって交わるとの意で「夜盗」とも言い、交会のことは「夜戦(よいくさ)」とも言う。

すは夜討ち剥身で逃げる馬鹿女
夜軍に小兵はよろい(かぶと)なり

夜軍の白い血を吸う犬張り子

傍らに抜身を置いて夜盗する

【余録・解説】犬張り子は、昔は、嫁入りのときに持たせてやったもので、上下に開き中が空洞の屑紙入れになっていた。
 実は、寝所に置いて御事紙のくず紙入れだったのである。

口説き様こそあろうに抜き身なり (抜身を見せておく)

前句  なぶりこそすれ
付け句  有り余る手代差し置き後家通ひ
 商家の後家。若い手代が沢山居るのに、専ら陰間通い

前句  もちあげにけり
  付け句  蛤に婿殿ばかり二度すわり
 一度目は蛤汁。二度目が床入りで。

前句  こしらへにけり
  付け句  一盛り毎夜春三夏六なり
 養生訓に「春三夏六秋一冬無し」とあるが、新婚当時は、毎晩数交。

前句  におひこそすれ
  付け句  気が悪くなると女は冷たがり
 女がほしがる時には、亭主に寒いから暖めてくれろと言う。

前句  わがままなこと
   付け句  したかろうなと思ってるいい女
 美女の心中を穿った見方で捉えた男の好色さ。
 同類句に「おれをしたかろうと思ういい女」というのがある。

前句  のこりこそすれ
   付け句  茶臼の夜おふくろ五人扶持になり
 殿に未経験の快楽を堪能させた妾

2005/5/ 8

【指】親指、小指を出して「れこ」と言い、輪にして秘語では「和じるし」を意味し、
 探春には「指人形」の称があり、「二本人」(日本勢とも)とも言う。
 「指切り」は児戯に約束の印として行われるが、元は遊女の心中立てから起こったもの、幼児のにぎにぎに似て指を出した形を「女握り」と言う。

手を切ると指を切るとは大違い

指二本いくのの路の案内者

指二本姫が岩戸の手力雄(たじからお)

めめっちょ船を折る時も指の先 (中高舟)

食い飽きた饅頭指で抉っている

饅頭に小僧だまって指を差し

人形は足の指まで曲げられず (指人形だけでは)

横笛の穴へ滝口初手は指 (滝口時頼と横笛女)

賞罰は指と髪とでわかるなり (指切りと髪切り)

【湯開酒魔羅】女は湯上がり、男は酒という。

湯にやって見ればつまらぬ六阿弥陀
湯がいてはさせる回しのはしゃぎ開

【湯文字】湯具の女房ことばで、此には多くの異名がある。
 「ふんどし」は踏み通しの意で、ズボン式の下裳から発達した形式のものという。
 又「したのび」(下帯)と共に男女とも用いられる称である。
 「白湯文字」はシロウトを意味し、「緋ちりめん」はクロウト女、商売人が用いるものとされ、遊女の湯文字には紐を付けず、ただ巻いた端を折り曲げて腰にはさむのを定めとされていた。

身がママになると褌まで白し

ふんどしは外す湯文字ははねる也

緋縮緬紐の無いのがほんのこと

緋縮緬虎の皮よりおそろしい

山伏の額をこする緋の衣

【湯屋】銭湯のこと。銭湯風呂屋とも云い、営業浴場である。
 古く寺院あった「湯屋」は湯殿の建物の称である。江戸銭湯の始まりは天正十九年と『そぞろ物語』に見え、蒸し風呂だった。
 大阪では天正十八年に初めて風呂屋が出来たと『厭世女装考』にある。

物騒と知って合点の入込湯
湯屋の羽目岐阜と桑名の国境 (蛤と提灯)

【湯屋の石】銭湯には昔、どこにも必ずこの石が備え付けられていて、此で局部の贅毛をすり切ったのだった。俗に「毛切石」とも言う。

銭湯に軽重の石三つあり

股倉の刈込石っころでする

小僧の月代銭湯に石二つ

いらぬこと女房石にて核をぶち

ぼうぼうと生えるとカチカチ山をする

【与市】源氏の武者、那須与市宗高のこと。
 この名自体に秘語の意味はないが、関連句に特殊なものがある。源平屋島の戦いに平家方の船一艘が海上に浮かび、竿頭に旭日の扇を掲げ、美姫玉虫が紅の袴をうがって立ち、源氏にそれを射落として見よと招くのだった。
 義経の命令で那須野与市が見事にこの扇の要の上一寸ばかりの所を打ち抜き両軍から喝采が起こったと言う故事がある。

那須の与市を駒込だと覚え (駒込名物茄子の夜市)

土弓場の与市官女の尻を射る (矢とり女と外の場所へ)

一ノ谷扇の割れ目尻つつき(逆落とし御法)

前句  気を付けにけり
  付け句  先んずるときは女房不足顔  亭主が持続力無いと。

前句  似合いこそすれ
  付け句  五十銅火蓋を切りに行く
 代50文の鉄砲見世。一発放ちに行く。

前句  おくびょうなこと
  付け句  芳町の客こつがらの良い女
 陰間茶屋で著名な芳町。骨柄は人相、御殿女中の陰間買い。

前句  もちいこそすれ
  付け句  なまくらに成ると地黄で先をかけ
 地黄丸は強精剤。刀の研ぎにかける。軟弱を防ぐために予防する。

前句  でかしたりけり
  付け句  踊り子は山吹色に蹴っまずき
 山吹色は金貨。二分遣れば容易に転ぶ芸者。

2005/5/7

始まるとまた行きますと堺町(人形芝居)

【湯具】入浴の時に着た浴衣、今の腰巻き、との説明もあるが、湯具、湯巻、腰巻き、下帯などは、正しく言うと差別がある。
 湯具は、いわゆる女褌であり、「湯文字」のこコと。

【湯気】湯煙、蒸気のこと。
 俗に長湯をして卒倒するのを「湯気に当たる」と言う。

なえかねてすんでに湯気に当たるとこ

湯気の立つ篇乃古けいどでうろたえる (警動)

道鏡でなくても抜けば湯気が立ち

かくらんもどうか祭りの罰当たり

【弓削道鏡】
 孝謙帝に仕えた怪僧、弓削道鏡は巨根の持ち主だったとの俗説がある。

道鏡の幼名たしか馬之介

弓削形は切らしましたと小間物屋

運のいい鼻だと弓削を相者ほめ

道鏡の浮気官女のふたをする

銅鏡に崩御崩御と詔のり

道鏡でなくても抜けば湯気が立ち
(湯気に掛ける)

弓削の門馬も辞儀して通る也

門口でお辞儀奥へと女房いい

【湯女】
 蒸し風呂時代の「垢かき女」「風呂吹き女」は、洗湯時代には浴客の世話をして、背を洗い、髪をすいた湯屋の女になったが、寛永十年(1633年)頃から、これらの風呂屋に売女が発生した。
 これを「湯女」と称したのであるが、古くは温泉場にいた遊女を「湯女」と称したから、江戸市中の風呂屋の湯女は「町湯女」とも呼ばれた。
 元禄十六年以後は、以前の「湯女風呂」以外に、町の銭湯が夕刻七つ時(午後四時)以降に湯屋、営業閉店の後に酒客を取り、湯女が相手をして娼婦化したものが盛行したので、これらには「二枚櫛」「風呂屋者「呂州」などの異名がある。
 又、温泉宿の湯女はアカをかくとの意から「猿」とも異名した。

べらぼうめ又煩えと湯女の文 (湯治場の湯女)

針箱の謎湯女を解く下の諏訪 (針箱の私娼)

湯女のへ上り奥中でにくまれる (御湯殿上がり)

【湯番】初めは「湯汲み」とて、上がり湯を出すところが、銭湯の流し場の一隅にあり、小窓を切って向こう側に湯船が別になっていて、湯番の男がそこから汲んで出した。後年、上がり湯の浴槽から各自浴客が自分で汲むようになった時代には、「湯番」と言えば浴槽の背後、羽目板の向こう側の元湯の上に座して、湯加減を調節する男衆の名となった。「湯番」とも言う。
 これら湯屋の男衆を「番頭」と呼ぶようになり、アカかき髪洗い女が男の「三助」に変わったのは寛政、享和の頃からであろう。

あの嫁は毛沢山だと湯汲み云い

開帳をうらから湯番拝んでる

舟後光逆さに拝む湯番なり

抜身の中へ飛び込むは湯番なり(男湯の喧嘩)

湯屋喧嘩篇乃古のないは湯番なり

女湯は潮干となりは稲荷山 (ハマグリとマツタケ)

小桶よりなめらの下る板舐めり

前句  ぞんぶんなこと
   付け句  気を遣った跡で未来の恐ろしさ
 無我夢中で逐情した後、こんな仕儀になって今後どうなることかと恐ろしくなる。見分不相応な恋の結末はいかに。

前句  うわきなりけり
   付け句  手繰り出す抜けたずいきの馬鹿らしさ
 肥後芋茎が途中でほどける。

前句  ねんごろなこと
   付け句  外聞が悪いと拭いて泣きやませ
 女房の絶頂時の嬌声が大きすぎると。

前句  はれなことかな
   付け句  下女が蛸誰がはなしたか殿に知れ
 下男などの実践談が殿の耳に。いずれはお召しがある。

前句  おもひこそすれ
   付け句  おやかして見せると相模目を廻し
好色な相模下女。硬直したものを見て欲求のあまり気も転倒。

前句  いやらしいこと
   付け句  気が悪くなっても女かさばらず

2005/5/5

【湯上がり】関西ではもっぱら「風呂」と呼び、関東ではもっぱら「湯」と呼ぶ。
 風呂は元来、蒸し風呂のことで、この方が古くから発達し、湯は洗い湯とて浴槽の温湯に浸かる形式で、江戸に発達したからであろう。
 だから、川柳には風呂といった句は案外に少ない。
 湯上がりの爽快さと艶姿のことは昔から定評がある。
 しかし、その他にも「生風呂」「肉風呂」などの陰名異称や、「据え風呂」「風呂入り」などの秘語、また「湯開酒魔羅」など言われているものもある。

湯上がりの味は古語にもほめてあり

不都合さ亭主湯上がり女房酒

うろたえる筈湯上がりに嫁お客

女房を湯にやり亭主呑んでいる

湯にやってみればつまらぬ六阿弥陀 (ねれがらり)

据え風呂を出てから何の日だときき

据え風呂に丁稚を入れる旅の留守

【夕べけ】夕べ気と書き、昨夜の床疲れ気味と言った意の語。
 『一代女』に…奥様はゆうべけにて云々…とある。「二日酔い」の縁語もある。

夕べけは人の居るのに眠たがり

新女房昼居眠ってなぶられる

白酒に二日もたれる色男

【ゆがく】湯で蒸し煮する事。

湯がいてはさせる回しのはしゃぎ開 (遊女の下湯)

回し開つまみ洗いをしてはさせ

穴端でおいでおいでは下湯の手

【本当の蛇足】
小咄に、吉原に遊びに行った男、床に回った女郎に
「ホンニお前の肌は雪のようだ」と言うに、
女「なぶりゃしゃんすな、黒うおす」
男「色のことは申さぬ、冷とぅて」といったのがある。

【湯加減】
 湯の熱さのころあいなのを言うのであり、湯加減を見るという。

湯加減を握ってみなと長局

据え風呂のかげんに指が二本濡れ (相手の心意気)

もっともなこと張形へかん酒入れ (人肌)

お刺身の前に土手をば一寸なで

女天狗は寝ぼけて鼻へおっかぶせ

【行く】秘語では、遂情喜悦のこと。俗に「出る」「やる」「落ちる」「死ぬ」とも言う。

あらさもう牛の角文字ゆがみ文字

前句  きついことかな
   付け句  尻で書くのの字は筆の遣いやう
 女が布団上で描く尻の「の」の字は「筆」すなわち男の動きによる

前句  急ぎこそすれ
   付け句  持ち上げるところを亭主重ね切り
 姦通は大罪、間男と共に二人重ねて四つに切るという。

前句  しっくりとする
   付け句  尻からがきついことさと囲い言い
 坊主の囲い女。アナル合体が好きで困ると。

前句  さばけこそすれ
   付け句  日の本がとは大それたよがりよふ
日の本が一所へ寄るようだとは、絶頂時の女の嬌声の最たるもの

前句  ほどけこそすれ
   付け句  お妾は足の八本ないばかり
 殿様が熱中するのも蛸開のせい

2005/5/4

【山伏】山伏というのは、修験者のことで、俗に「法印」「野伏り」などとも言った。
 野山に起き伏して修行する僧で、身には篠掛けを着け、額には兜布を戴き、法螺の貝を吹いて歩いた。
 秘語では、額の兜布を戴くとて女陰異称の名とされている。

山伏の額をこする緋の衣 (ひぢりめん)

大巾三尺山伏の緋の衣 (湯文字の見立て)

玄人の山伏額抜いている (刈り込み)

山伏の断食をする松ヶ岡

山伏のうちのちまきはすごくみえ

山伏は独鈷を呑んで反吐を吐き

山伏へ夜な夜な見舞う大天狗

山伏をいじり独鈷をいじらせる

水鏡山伏に見せ田植え也

門前に山伏無用道成寺 (鐘を損する)

【山入り】出納帳に言う縁起名。山々入りは出入り帳である。
 元帳・台帳を「大福帳」、控え帳を「日家栄帳」、覚え帳を「大恵方帳」とする類である。
 遊廓では遊客の氏名、年齢、人相、服装、相方妓、遊興月日などを記入する客帳を「入り船帳」と暑し、妓の揚げ代計算、その他の会計記入帳を「水揚げ帳」と呼んだが、芸妓の花街では、玉代その他の記入帳を「花山帳」と呼んでいる。

金銀は山々入りと帳に書き

煙をば切売りにする花山帳

入り船帳へ帆柱の数を付け

【病み上がり】病後のこと、川柳では腎虚病の句がよくある。

病み上がり日本の人に慰まれ

【蛇足・解説】
 当人はひげ面の毛唐人のようになった、との句であるが、「にほん人」は、
 探春の手弄にも言われることのある秘語。

医者さんに私が毒といわれやす
馬鹿らしい病気女をみるも毒

【槍・鑓】秘語では男陰異称。「なぎなた」に対する語。

鎗先の功名今はふところ手

破れ障子強者どもが鑓の跡 (くらべ馬)

うらだのに槍の閃く気味悪さ

かつがれた下女は明き地で賤ヶ岳 (七本槍)

薙刀へ槍をっつかけむずと組み

薙刀はいつでも槍にしてやられ

槍ででも突かれるように嫁案じ

槍持ちは御門御門を撫で回し (軒端へ鑓先)

槍持ちのくさめは鞘が身震いし (槍と鞘)

【やりて】
 遊廓では遊女の取り締まりをし、勤めの世話をする女。
 「花車」「香車」とも言い、多くは、女郎上がりの大年増などがなった。
 花(祝儀)をほしがり、現金者で、意地悪者とされていた。
 女郎に手練手管の秘伝を訓練させるのも、やり手の役目だったが、思い切った恥ずかしいことまで教えたという。

吉原でいつち高いは婆ァ也
欲の皮張り裂けそうな婆ァ出る (顔はしわ)

【野郎の娘】男髷を結った娘のことと『川柳辞彙』にある。
 深川の手古舞姿で出る女郎を「野郎の傾城」と言ったとある。

野郎の娘我がママを言い通し (男風に)

前句  このみこそすれ
   付け句  延紙を四五枚持ってたれに行き
 遊女。事前の準備に延紙を携えて雪隠へ。たれるは小便放出。

前句  是は是はと
   付け句  御気の毒今朝からといふ出会茶屋
 待ちに待った出会いなのに、女が今朝から來潮と男に告げる。

前句  くらひことかな
   付け句  さかに毛を撫でて地女さあと言ふ
 遊女と違って、素人女は繁茂しているので逆撫でをしてから。

前句  ゆふなことかな
   付け句  元日にするやよくよく好きな奴
 年始は二日から姫はじめなのに。

前句  めっそうなこと
   付け句  薪部屋で夕べの残を下女ちぎり
 昨晩の不足を日中に補う。

2005/5/3

【宿入り】「藪入り」に同じ。
 奉公人が休暇を得て親元などに帰ることで、一般には盆と正月の二回、その月の十五、十六日中に行われるのが例であった。
 下男下女などでは一年契約が多く、毎年、三月四日が「出代わり」日だった。
 継続して雇われる場合でも、一応、この日が切り替えとなり、契約更改となるから、このときに休みが取れ、市内に親元のない者は「中宿」に行ったり、周旋屋の請け宿に行って休んだ。
 御殿女中や屋敷奉公の女中などは、年何回というのではなく勤続二年または三年以後は何日と言った定めで実家に帰れる許可が出た。
 これを「宿下がり」「宿おり」と呼んだ。

藪入りを叱るを聞けば灸のこと
宿下がり今度も灸をすえはぐり

【蛇足・解説】身体の丈夫が第一とて、このとき灸を据える風習があったが、
 それに擬して女の宿下がりを狙って情を交わす者もあり、
「灸をすえる」を情交の情事秘語に言う場合がある。

宿入りを生もの知りにして返し (張形でなく)

藪入りの五ヶ月過ぎて暇がいで (腹が目立って)

せり箱を洗って寝ろとどやの嬶 (娼家)

【夜盗】秘語では「夜這い」と同義の語。
 「好色旅枕」には「夜奪」の字が、当てられている。
 女の寝所に忍んで行ってとること。

傍らに抜身を置いて夜盗する

【蛇足・解説】裸で無褌で這うのを習いとした。
 あるいは褌を長く延べてその上を渡れば足音がしないとも言われていた。

盗人もあきれてとらぬ持参金(醜婦では)

【破れ傘】秘語では茶臼取りの異称。
 中国では「倒蓮華」「倒堯蝋燭」などの称があり、『笑林広記』には「破れ傘」の名がみえる。内柄を伝って傘から雨水が漏れるというわけだった。

茶臼では柄漏りがすると亭主云い

大黒の柄漏りは寺の茶臼也

吹くほどにちゃるめろになる破れ傘

【蛇足・解説】この句は破れ傘が風にうなりを立てて唐人笛のチャルメルの陽だとの句だが、類句例である

茶臼ではなくて白酒臼のよう

【山猫】江戸の淫売女の一種。
 『瀬田問答』によると、元文に始まり寛保にかけて、寺社の境内にあった淫売女と云い、『婦美車』には、赤城明神付近の私娼にも此の称があったと記されている。
 山の手の猫との義であろう。両国回向院の近くには「金猫」「銀猫」の妓がいた。
 橘町その他牛込など山の手の猫を「山猫」と言い、私娼家にいた淫売女だった。

三十匁出すと娘をあおのける(踊り子)

【山の芋】
 ジネンジョ、ナガイモのこと。此を摺ると「とろろ汁」となる。
 俗に「山の芋鰻となる」との俚諺は、非常な立身出世をする例えにいわれるが、これらの語は秘語にも用いられている。又、隠語では僧侶の異名にも言う。

山の芋鰻に化ける法事をし

【蛇足・解説】立派な法事をするとの句だが、秘語では僧侶が化けて遊びに行く意ともなる。鰻は「耳のない鰻」と同義の男陰異称でもある。

山の芋鰻になって羽織也 (医者に化ける)

品川は山の芋より薩摩芋 (坊主より薩摩武士)

芋の味などと吸い付く蛸の痴話

篇乃古を握ってうなぎを釣った夢

【山の神】女房をさして言う俗称。「荒神様」とも言う。
 荒神はかまどの神であるが、荒々しくて恐妻の意味に用いられている。

梵語では大黒俗語では山の神

松の年明きは荒神様になり (松と荒神)

山の神通う神をば粉みじん (呼び出しの文を)

連れだした相手にたたる山の神(遊び仲間)

山ノ神荒れてお祭り延びる也

お祭りが済んで鎮まる山の神

【山の手】江戸時代から称せられた、下町に対する呼称で、台地の高台になっている地域を言う。

山の手の湯は女人とて隔てなし (男女入れ込み湯)

前句  たしなめにけり
   付け句  出会茶屋お宿下がりかと星をさし
 あのお客は御殿女中の宿下がりで、男との密会だなと、図星

前句  おちつきにけり
   付け句  つんとした風でしつこい御殿者
 つんとした風情ながら、いざ男との逢瀬となるとしつこいのが御殿女中の特徴。

前句  だてなことかな
   付け句  御出立奧の名残に人払い
 参勤交代で国元へご帰還の殿様。奥方との永の別れのため、直前にまた床入り

2005/5/1

女房の妬くほど亭主もてもせず

やく座頭杖を殺して帰るなり (息を殺すのもじり)

お局の悋気踵へ角が生え (張形)

けしからぬりん気頭へ判を押し

湯へ行けと女房無性に穢ながり (朝帰り)

【厄年】一生のうちで厄難があると言われる忌み年。
 男は二五歳と四二歳、女は一九歳と三三歳。
 この年には厄よけに川崎の大師詣でをした。

品川で厄を除けると太い奴 (川崎まで行かず)

岡場所はあとの厄までさせるとこ
 (吉原は27,岡場所は33)

奥様の十九妾の火がとまり (お妾が妊娠)

【厄払い】厄よけに川崎の大師、西新井の大師に詣でて祈願したり、厄除けまたは厄落としなどの呪いが種々行われ、年越しの夜に褌に銭百文を包んで、それを人知れず四つ辻に捨てると厄払いとなると言われ、もしもそれを拾うとその者が厄を着るなどの俗信があった。

【薬研】
 薬研というのは、生薬屋で、草根木皮の薬種を刻んで細かにする器具。鉄製の舟形になった器に木の台が付いていて、この中に生薬を入れ、丸鋸のような刃物の中央の穴に棒を通し、此を両手で握り、回しながら薬を粉にするのである。
 又、「薬研堀」は両国の一地名。
 ここには、薬研堀芸者がいたし、そのほか、子おろしの「女医者」が住まっていたので有名だった。
 四ッ目屋の元祖という四っ目屋忠兵衛の店も両国薬研堀にあった。
 秘語の「薬研」は女陰の異名。

薬研形こをこしらえる道具也 (いずれも)

薬代に薬研を売って孝をたて (身売り娘)

おろす事尤も至極薬研堀 (粉卸しにかける)

竿入れた奴が釣られる薬研堀

薬研堀子おろしの見世いい所 (女医者)

【夜食】秘語では「夜なべ」「夜仕事」などの縁語で、夜なべは夜延べの訛言というが、又夜業をするときに囲炉裏に夜食の鍋を掛けて煮る風習があったから、夜鍋の名が出たとも言う。交会の異称。

めしもりは夜食を強いる気味があり
信濃と相模上下の大ぐらい (信濃者の大食らい)

【厄介棒】陽茎の異称。
 聞き分けのないもの、煩悩の鬼と化して手に負えぬものなどの意から言う。
 「因果骨」も類語。

厄介を股ぐらに持つ独り者

男のは邪魔になろうと女の気

思い内にあれば前高くなり

ふわふわにしても因果の骨となり

前句  ふくれこそすれ
  付け句  地女は龍の髭ほど生やして居
 地女は遊女に対する素人女。地女は生えっぱなし。

前句  すきなことかな
  付け句  根津の客四つたたいたなどという
 根津の岡場所は大工客多し。「四つたたく」は四交したと他言する。

前句  もらいこそすれ
  付け句  大三十日達者な夜鷹四貫取り
 夜鷹は二四文(六百円)の街娼。大晦日に四千文も稼いだ。
 単純計算だと一六六人の男と接したことになる。

前句  すきなことかな
  付け句  逆さまな薬研で杭の打ちにくさ
 薬研は漢方の薬草を細粉する道具。形から女性器に譬える。
 女が慣れていないので、順調にいかないことを言う。

前句  よろこびにけり
   付け句  もふ水を飲みなと女房堪能し
 閨房薬の長命丸を塗って実践。男は水を飲むまで、持続力無限であると言われる。女房が堪能して「もう水を飲みなよ」と。

005/4/29
よしねえと前を合わせるおちゃっぴい
化け物で度々乳母はりくつする
向かい風お化けの出るに下女困り (下着のぼろ)

【もやもやの関】みちのくの古い関所。
 有也無也の関の異称で、「むにゃむにゃの関」とも言う。
 秘語では女陰名に利かせた称。

もやもやも壺も見て来る奥の旅

もやもやの関を許して五両取り

女房の損料亭主五両取り

女房喜べ手前にも二両二分

【門】玉門と言い、女門と言うなど、一般には女陰名としてさまざまな異称が多い。
 あるいは後門に対する前門、裏門に対する表門の称もある。

寒念仏している門で回向する (金たたき)

合わぬ道具は門外で埒をあけ

両ほうの赤いは下女の匂う門

生き物の出入りはさせぬ御殿門

天神のうら門で売る通和散

文字(もんじ)女言葉には、下略して文字という。
 すしをおすもじ、ひゃくしをおじゃくし、ことばをおはもじ、面接をお目もじ、湯具を湯もじと言う類である。
 又、分解語、形容語などで、文字を替えて呼ぶことも行われ、川柳にもそれぞれに用いて秘事を言っている句が多い。

妙の字を二字に引つさくどら和尚 (少女)

よしなよの上のよの字は下女置き字

死にたいのにの字を抜いて欲しい後家

さあ筆が当たるとのの字やたらかき

丸のの字尻で書かせる面白さ

身上がりに枕のくの字抜いて待ち (情人)

川の字をりの字に崩す夫婦仲

めの字からへの字になるとつけあがり (お部屋様)

なりも似て一字違いは木の子なり

アレサもう牛の角文字ゆがみ文字

二つ文字牛の角文字娘知り(こい)

玉ぐきを娘に聞かれ母困り (玉茎の違い)

川の字に寝ていて船をやる工夫

貸し屋あり後ろの家の前のとこ(後家の空屋)

子おろしを下女は八百屋へ買いに行き

無一物とは羅切かと馬鹿な僧

雷は馬鹿おれならば下をとる

三助とお三で六なことはなし

角細工女がすれば恋となり(こい)

前句  命なりけり
 付け句  乳の下で屁の音のするおもしろさ
 汗を掻いて素裸で密着して抱き合っていると、時たま空気が漏れる。

前句  おし付けにけり
  付け句  てて親に似ぬを知ったは母ばかり

前句  ひびきこそすれ
  付け句  船饅頭ちょっちょっと細かい浪が打ち
 船饅頭は、第三二文(八百円)の小舟で営業する卑娼。
 律動が小波を起こさせる。

前句  いろいろがある
  付け句  ご亭主は六日のあたり願って見
 月経終末頃に「そろそろどうだ」と女房に

前句  めいわくなこと
  付け句  木娘はぜひ無い肩へ食らいつき
 木娘は生娘。初体験で仕方なく男の肩へしがみ付く

前句  なかのよいこと
  付け句  立っていてちぎりを込める下女が恋
 寸暇を惜しんでの出会いで、立ち位のまま。

2005/4/2

【申し子】
 子供のない者が神仏に祈願して、ようやく生まれた子のこと。

申し子の後に申さぬ子が出来る

申し子のあと年々に申さずに

申し子は神と間男するこころ

この鈴でお出来と乳母は引いてみせ (宮の鈴)

若殿は神代からある鈴で出来

只の鈴でない故子が出来る

【餅】俗謡には「石の地蔵さんに団子あげて、どうぞやや子のできるよう。
 そこで地蔵さんのいうことにゃ、団子あげるより餅あげよ」とある。
 「石地蔵」は天井の節穴を数えると言った無精、不動の状に言う秘語だし、
 持ち上げは動作の秘語となる。

 情事秘語には「餅肌」「餅つき」「牡丹餅」「草餅」など有り、「菱餅」は女陰異称である。「餅つき」は交会異名。

賀の餅はさぞ提灯でつくだろう (長寿の祝い)

賀の餅を腰も強いとほめて食い

四ッ目屋の近所幾世は面白い (いくよ餅)

四ッ目屋をつけて夜這いは餅につき (始末に困る)

引き摺りを貰って亭主餅につき (艶めいた女と不精者)

引き摺りを呼んでべらぼう餅につき

酔った篇乃古尻餅をつく開の土手

こね取りは先をぬらしてさあと云い

【蛇足・解説】
 搗き賃を出してつきに出すのを「賃餅」、ウスとキネを引きずって歩き回る搗き屋にやらせるのを「ひきずり餅」と言った。
 それにしても、こねとりは先に濡らしてとは、よく言うよ。

【もどき】模擬の意。それに似たことの意に言う言葉。
 雁もどき、梅もどきなど、それである。
 秘語には後背位に「けつもどき」と言うのがある。

腹の子がせつなかろうと尻もどき

落ちそうな腹はからめてから攻める

尻からは嫌やと持参を鼻にかけ

胎内である夜赤子はけつをされ

うしろからしなとは余程月ッ迫し

【もとどり】男の髪のたぶさのこと。秘語には「下ももとどり」とて男茎の異名がある。

もとどりを切れと花魁下知をする

【蛇足・解説】
 吉原の遊女が遊客に加えたリンチに「髪切り」があった。
 馴染み客が馴染みの妓に隠れて、他の女郎のもとに遊んだ客は、掟破りとして捕らえて来て、仲間の女郎大勢で遊客を裸にし、妓の長襦袢などを着せ、髷を切って散髪にし、皆して笑いはやしたてたのである。
 この様な客は恥ずかしくて往来もできないため、頬被りして帰途、田町の「奴床」に立ち寄り、入れ髪をして貰った。

散切りを田町の床屋待っている

【もみあげ】生え際、襟足などと同様に、春草のさまから女陰を意味する秘語。
 此の薄いのは下の髪も薄いと言う。

開のもみあげ尻近く生え下がり

おくれの髪かき分ける女医者

度々怪我をさせても女房髪惜しみ

【ももんがア】多毛の化け物に云う俗語。
 「ももんじィ」とも言い、小児を脅すときなどに称した。
 「ももんがァ」はムササビの一種だとも云われる。
 秘語では異名異称で、あるいはこのムササビから、むさいところとの異名になったか。そして、ももんがァ、ももんじィは、どうやら雄雌の区別らしいのだが、柳句などでは判然とした証はない。

化粧の間不意にあけるとももんがァ

下女の蚊帳覗くと中にももんがァ (剥身の寝相)

総仕舞だんだんももんがァが出る (醜女の年増も)

振り袖に似合わぬ所はももんじい (踊り子か)

だまってろももんじいだと押し伏せる

前句  横着なこと
 付け句  女房を湯にやり亭主酒を飲み 湯ぼぼ、酒マラを実践

前句  なびきこそすれ
 付け句  芝居から帰ると撮み洗いをし
 舞台での濡れ事を見て催情した女。腰巻きのしみを落とす。

前句  じゃまなことかな
 付け句  嫁が来て息子の頷を団扇にし
 俗に腎虚したことを「頷で蠅を追う」と言う。
 息子が励みすぎて頷で蠅を追う始末になる。

前句  よいかげんなり
 付け句  女同士お客と言えば通用し 現代も同じ。お客は月経の隠語。

2005/4/27

【妾】目かけ、手かけ、隠語では「そっかけ」とも言う。
 日陰者、囲いもの、内妾、外妾様々の種類と異称がある。
 寺では梵妻、大黒などと呼ばれ、その他に下女兼妾には「おなで」「おさすり」「炊きざわり」「下猫」の称があり、上方では「さきすり」、古語では「二仕(ふたせ)」と言った。
「小便組」も妾稼業の悪計者で「手水組」「おしし組」などの名もある。
 「出格子」「連子窓」は囲いの妾宅から出た異称である。

立つ女横に寝るのが御奉公

お妾はたつた四五寸仕事なり

めの字からへの字になると付け上がり (お部屋様)

変な寺女大黒生きた釜

囲い者どか食いをしたり飢えたり

御隠居はめかけのせきにはみ出され

奥様の十九妾の火が止まり(十九は厄年)

お妾は小便無用じろりと見

小間物屋おめかと帳へ付けて置き

牛の角男妾にさまを替え(秘蔵の張形)

【飯盛女】本来は旅籠の給仕女だが、後年には旅宿の娼婦として「飯盛はたご屋」が全国的に出現した。「出女」「おじゃれ」「留め女」とも称した。
 天保十四年(一八四三)、大阪道頓堀の飯盛りはたごは「泊まり茶屋」と改称して許可されたが、文化元年(1800)には「平はたご」が組合を作って「浪速講」が起こったのを始めとして、他にも、いくつかの同様な講宿が出現した。
 軽井沢の宿妓には、「針箱」の異名があり、有名だった。

飯盛りは夜食を強いる気味があり

飯盛りが寝ぼけて二百棒に振り (値段は二百か五百文)

這ってきた女に二百くれて立ち

据え風呂の脈を見に来る留め女

針箱のなぞ湯女と解く下の諏訪

【目無坊】武蔵坊弁慶の戯称。
 一生に只一度女に接しただけとの伝承により、小町の穴無しに対して目無しと言ったのである。秘語では男陰異名。

穴無しも目無しも交じる小倉山(蝉丸)

女握り(めにぎり)手のひらの指を握って、人差し指と中指との間に親指の先を突き出すようにした形を作ったもの。俗にこれを「豆」と称し、女陰の表徴とした。
 イタリアでは同様なことを「フイカ」と言い、これを相手に示すと、お前は助平だという侮辱する意味になる。我が国でも、やや似た意味で、情意を示したり、色好みだとの意味となる。
 又、この形を作って示すと、悪魔払いの呪詛となるとの俗信は、女陰の展開と同様に、それを女握りに代えた俗習なのである。

にぎにぎに親指が出て大笑い
にぎにぎのあとは家内の大笑い

【蛇足・解説】小児の手の運動のためや、ようやく手の自由が見え始めたころに、
 親が言葉を掛けて小児に手を握ったり開かせたりするのを「にぎにぎ」と呼んだが、たびたび繰り返させているうちに、手元が狂って、親指を突き出してしまうと、大人たちが、さすがは血統は争えぬもの、などとの意の滑稽である。
 「ちょちちあわわ」と言うことも、どうやら性的な言葉であるらしい。

役人の子はにぎにぎをよく憶え
れこさにはよくききますと卵売り

前句  かのふたりけり
付け句  宝船櫓を押すような音をさせ
 正月二日姫始め、吉夢を見るように箱枕の下に宝船の絵を敷く、夢見の前に夫婦の取り組み、箱枕の軋み?

前句  いやしかりけり
付け句  故郷を弘法大師けちをつけ 女色厳禁、男色許容。

前句  ぐちなことかな
付け句  きんかくし女中は何を隠すやら 男なら呼称に適合するが?

前句  ひらきこそすれ
付け句  湯が沁みて苦い顔する里帰り 初夜から三日目に里帰りした嫁。

前句  次第次第に
付け句  相応に頬のふくれる小山伏
 山伏は玉開。空割れの両側の土手が豊満。
 俗に饅頭を二つ合わせたようだと表現する。

2005/4/26

【むにゃむにゃの関】
 羽前国(今の山形県)笹谷峠にあった関所で、有也無也の関と称したが、あるいは無也無也の関とも呼ばれた。秘語では、かってな通行を許さぬとて、女陰異名の「関所」と草深い意味に掛けて言い、「むにゃむにゃ」とて言いにくい意に言ったもの。

むんやむんやの関をおろぬく店屋者 (毛引き)

もやもやの関を許して五両取り (間男代)

もやもやも壺を見て来る奥の旅 (関と壺の碑)

【無筆】文盲のこと。無学の者との意に言う語。

貸本屋無筆に貸すも持っている (物の具)

跡の減るものかと口説く無筆同士

弘法は篇乃古ばかりは無筆なり

ヘリはしないけれど広くはなろう

【むふん】「無褌」俗に「ふり」英語で「フリー」と言う。

衣通(そとおり)はふんどしのなかりせば
衣通は見えるをいつそ苦労がり

【蛇足・解説】衣通姫はその艶姿、衣を通したと言われる。
 女の夏姿には実際にも無褌で透かし織りの衣を着たクロウト女の風俗があったけれども、前は二重に合わさるので、透いて見えはしなかった。

【無名円】キズ薬、鉄の赤錆でつくったもの。
 佐渡の無名異に擬したものと言われ茶人は薬用とせず、これで土瓶など作らせたと言う。秘語では毛切り薬などに言っている。

無名円付ける篇乃古は不首尾なり

毛巾着せいて道具に切れが出来

度々怪我をさせても女房髪おしみ

初花にたばこをつける大騒ぎ(血止めにと思い)

【紫】俗に「江戸紫に京鹿子」とて、紫は江戸が名高く、紅は京のがよいとされていた。又、紫色は高貴の色として一般には使用させなかったので、「禁色」とも言った。
 秘語では「紫色雁高」とて、男端の最高級品とされたが、いんやけした手練れの強者との意である。

篇乃古でもひけをとらぬが江戸の色

紫は篇乃古にしても至極なり

巾着のふちは紫中はもみ

紫色雁高をお経かと下女思い

【妾】目かけ、手かけ、隠語では「そっかけ」とも言う。
 日陰者、囲いもの、内妾、外妾様々の種類と異称がある。
 寺では梵妻、大黒などと呼ばれ、その他に下女兼妾には「おなで」「おさすり」「炊きざわり」「下猫」の称があり、上方では「さきすり」、古語では「二仕(ふたせ)」と言った。
 「小便組」も妾稼業の悪計者で「手水組」「おしし組」などの名もある。
 「出格子」「連子窓」は囲いの妾宅から出た異称である。

立つ女横に寝るのが御奉公

お妾はたつた四五寸仕事なり

めの字からへの字になると付け上がり (お部屋様)

変な寺女大黒生きた釜

囲い者どか食いをしたり飢えたり

御隠居はめかけのせきにはみ出され

奥様の十九妾の火が止まり (十九は厄年)

お妾は小便無用じろりと見

小間物屋おめかと帳へ付けて置き

牛の角男妾にさまを替え(秘蔵の張形)

前句  おかしかりけり
付け句 剃りにくい所を鳶は出家させ 鳶虱は毛虱。その撲滅だ。

前句  のぞきみこそすれ
 付け句 よい女みたい所が一つあり 幼なじみ同士の結婚

前句  まれなことかな
  付け句 同じ二朱出して天蓋買い当たり
 安女郎を買ったが、意外や名器。天蓋は蛸の隠語。

前句  おしわけにけり
  付け句 淋病に馬上ながらも無手(むず)と組み
 馬は月経。月水の女とのまぐわいは直るという。

前句  自由なりけり
  付け句 煩悩を起こす清少納言有り
 清少納言が書いたのは枕草子、煩悩は?草紙

2005/4/25

【無一物】俗に「無一物」とも言い。文無しの貧者に言う語。
 秘語では「羅刹」などに蔑称している。

無一物とは羅刹かと馬鹿な僧

禅坊主羅刹してから無一物

美しい嫁は本来無一物(裸嫁)

首のすつこむ迄出合いしいる也

使い果たして握ってる二分一本

【麦畑】柳句では、野良出合いの場所とされている。

瓜田より不埒の出来る麦畑

まだ伸びもせぬにもう来る麦畑

でけいからやあだと麦を踏み荒し

瓜田よりコタツの足の疑わし

野良出合い行雁列を乱すなり(野に伏勢)

麦を別けて尋ね出す村の色 (草を分けてのもじり)

秋がわき抜くより早く出合いしい

芋畑親も子もとるふてい奴

【剥き身】裸身の異称。貝の剥き身に擬す。
 裸根を「剥玉子」と言い、男のは「抜身」と言う。

すは夜討ち剥き身で逃げる馬鹿女
(馬鹿貝の剥き身に掛けた?)

馬鹿の剥き身の気でしゃぶる核の先

松茸でおごと剥き身をかき回し

三千のむきみ一本の串でさし (後宮の官女)

二千九百九十九本は牛 (張形)

田楽の串に篇乃古を使うなり

【麦飯】『世俗奇談』に赤坂田町の岡場所の私娼を記して…
 裏通り酌取り女あり、今按ずるに、この酌取り女を麦飯と言うは、似て非なるものという心なりと、また、良き女郎を米という。故に賤しき女郎を麦というか…とある。

麦飯の昼夜を食らう大たわけ (居続け)
麦飯は軽井沢さと知った振り (「針箱」の飯盛り女)

【聟】入り聟のこと。家付きの女房に遠慮がちで、とかく尻に敷かれた。

入り婿と間男までに侮られ

入り婿の篇乃古一チ目弱く勃え

ぐずろ兵衛聟の不足のおこり也

味なこと養子を嫁にあてがわず(芋田楽)

狸婆養子を入れておっかぶせ

【無褌】俗に「ふり」と言い、「むふん」と言う。
 女は「剥身」、男は「抜身」とも称す。
 「裸根」は本来は男陰名に言う『陰名考』にある。

木綿高値につき下女無ふん也

すは夜討ち剥身で逃げる馬鹿女

男湯のけんか抜身と抜身なり

ふんどしははずす湯文字ははねる也

ふんどしを猿にとられる草津の湯

【武蔵坊】武蔵坊弁慶のこと。一生一交。

前と背に不用な道具武蔵坊(ムダな道具)

【蒸返し】繰り返す意だが、秘語では続交のことに言う。
 「二つ玉」「二番取り」その他の異称がある。

水くさいはず蛤は蒸し返し

たんと出しそうな名和泉式部

五番すみ七番すみ出合い茶臼

ねれて来て七番になる六阿弥陀

またうちでせんやあならぬと朝帰り
(痴話喧嘩)

【虫がつく】情事語で、娘に付く「悪い虫」のこと。
 遊里語ではこれを「悪足」「紐」などと言った。

妻恋も困る娘の虫封じ (本郷妻恋稲荷)

箱入りにすれば内にて虫がつき (番頭手代)

据え風呂に丁稚を入れる旅の留守

【筵破り】俗に老人をさして「唐傘爺々に提灯婆々」と言うが、陰名には、筵冠(むしろかぶり)産俵開(さんだらぼぼ)などという。いずれも、しわくちゃの意であり、その起陽を「筵破り」と言う。

提灯で夜通し攻める一ノ谷
祭り前気ばかりせき込む提灯屋

【息子】秘語では男根の異名。「倅」「小僧」などの類語もある。

真ん中にあんよは御下手ぶら下がり

前句  われもわれもと
付け句 穴を出で穴に入る迄穴の世話
 産道も墓穴も恋も、常に穴ばかり

前句  かくしこそすれ
付け句 早乙女も水が濁らざおかしかろ
 下着は腰巻きだけなので?水鏡。

前句  おしいことかなおしいことかな
付け句 提灯を下げて宝の山を下り 好機に老人は実行不可能

冠付け つよいこと
付け句 つよいこと障子に向かふ大笑い 石原慎太郎の「太陽の季節」彷彿

川柳蒼鷺 @ A B C D E F G H I J 179 瓜奴 紅梅 pinaillage2000 歴代川柳 愛-絆集 TOP頁