2004/11/23 投稿者・fuyuhime328 紅梅

     江戸小咄
留守
 金を借りに幾度人をやっても、留守だという返事。
 そこで、そんなら自分で掛け合いにいくと言って出かけ、
 門口から、
「ご主人に会いたい」と、怒鳴った。
 すると、主人が出てきたが、
「主人は留守です」と言う。
「あなたが、ご主人じゃありませんか」すると、
「此はおかしなお方だ。主人が直にお目に掛かって留守だというのに、それでもお疑いになるのか!」

あまのじゃく
 隣へ茶臼を借りにやったところが、
「茶臼は他所へ貸すとゆがみますので、お貸ししないことにしております。お茶をおひきになるのでしたら、此方へお届けくださればひいて差し上げます」という返事。
 主はけちな奴だと腹を立て、いつか仕返しをしてやろうと待っていると、隣から梯子を借りにきた。そこで、
「梯子は他所へ貸すと曲がりますので、お貸ししないことにしております。屋根へお登りになりたかったら、此方へ来てお登りください」と、やっつけてやった。

蛇足 茶臼をそれに似た暖かく柔らかいものに、梯子をいつもは寝せているが使うときは立てるものに置き換える
2004/11/21
おりん
 今日は死んだ親父の祥月命日で、毎年、精進日と決まっている。ところが、その朝、知り合いから、生きのいい黒鯛を沢山貰った。その男は黒鯛が大好きで、見れば、見るほど、食べたくて堪らない。
 そこで、黒鯛をまな板に載せて、仏壇に供え、
「親父様、今日は親父様の祥月命日で、精進をいたしす積もりでいましたところ、あいにく、他所からこの黒鯛を貰ってしまいました。今日の温気では、明日までおけませんが、いかがでしょう。今日食べてもよろしいでしょうかもしもいけないと思し召すなら、おりんをチーンとお鳴らしください。食べてもよろしかったら、お鳴らしになるに及びません」

煎じ薬
 息子がひどい堅物で、ただ稼ぐばかり、友達がいくら誘いに来ても、吉原へ一つ行かず、茶屋酒も飲んだことがない。
 そこで、親父様が、こんな堅い一方の世間知らずでは先が思われると心配して、なにがしの金を財布に入れ手渡し、たまには面白い目を見てこいと勧めた。
 すると、息子が、
「この暮らしにくい世の中に、遊びに行けとはなんたることだ、汚らわしい」と、腹を立て、川端へ降りていって、耳を洗った。そこへ隣の倅が通りかかって、
「おい、何をしてるんだ」
「うん、俺があんまり堅すぎると言って、親父の奴、女郎買いに行けと勧めるんだ。だから、そんな汚らわしいことを聞いた耳を洗ってるのさ」
 すると、隣の倅は、返事もせずに帰っていったが、直ぐに土瓶を提げて戻ってきて、少し下の方の水を汲んだ。
「おい、その水を汲んで、どうするんだ」
「此を煮詰めてな、うちの親父に飲ませるんだ」
2004/11/21
夢判断
 ある男が辺乃古の夢を見て、夢判断に占わせると、
「これはとてもいい夢です。大吉夢というのでしょうな。今から小間物類を仕入れて、奥州辺りへ商いにいらっしゃい。
 奥へ行けば行くほど商売がうまくいきます」と、言う。
 そこで、小間物を山と仕入れ、南部の松前辺りまで行って、大儲けをして帰った。
 それを見て、隣の女房が亭主にせっついて、ああいう夢を見ろ見ろというので、亭主は一生懸命に踏ん張って、ある晩、ようやくふぐりの夢を見た。
 そこで、同じ夢判断に占わせたところが、
「此は感心したた夢ではありませんね。第一、ふぐりという奴はせっかく立派な玄関へ訪れても、棒組ばかり入って、自分は決して入れてもらえず、いつも外でぶらぶらしていますからね。マア乞食と言えば間違いないでしょう。
 あなたも、よほど用心なさらないと、零落する心配がありますよ」

親馬鹿
 昔、えらく器量の良い息子を持った親父がいた。
 知り合いの人がみんな、「鳶が鷹を産んだ」と言うl。
 親父はそれを聞いて、却って嬉しがり、終いには、どこへ行っても、自分から
「鳶が鷹を産みました」と、ふれて廻った。
 ある時、旦那の所へ親子して呼ばれたとき、雉の焼いたのを御馳走に出された。すると、親父が、こういった。
「家の倅くらい、この雉の好きな者はございますまい。きっと鷹の生まれ変わりでしょう。だが、わたしは、鳶のなれの果てかして、雉より鼠が食べとうございます」
名古屋弁川柳 2004/11/21
 おみゃあさんも 登りゃあすかと 夫婦坂  出口 昇
2004/11/20
 返済日 守らぬ人で すかたらん  武藤 伶子
  【すかたらん=好きでない?、頭よくない?】


江戸小咄
2004/11/20
駕籠賃
「いくらかくらと争うのも面倒だ。四文銭を重ねて、俺のものの長さだけやろう」
「ヘイ、ヘイ、結構です。お道具の長さはお鼻の大きさで見当が付きますから」
 と言うわけで、宿場の女郎屋まで駕籠を走らせた。
 そして、約束の通り、長さを測ってみると四文銭で百五十枚。駕籠屋は大喜びだった。
 その明くる日、四つ辻でその噂をしていると、昨日の客が又やってきて、乗るという。駕籠屋は喜んで、かけ声も景気良く突っ走ったが、今日の行き先は高輪のある寺。
「それ、駕籠賃だ」と渡されたのが、なんと四文銭を十枚。
「こりゃ、旦那、約束が違いませんか。お前さんのものの長さだけと言うことでしたが」
「そうさ、間違いはない。よく見ろ」と、前を巻くって、
「これ、この通り、今日は寺参りなんだ」

産夫
 昔は助産婦を取り上げ婆と言ったが、その取り上げ婆はまだ水も滴る年増盛り、器量といい、姿といい黙ってみていられない代物。そこで、町の若い者が、何とかして近づきになりたいと思い、色々思案を巡らした末、髷を女のように言わせ、女の着物を着て、腹を産み月のように膨らませ、友達に頼んで呼んで貰った。
 取り上げ婆はすぐにやってきた。
「もう生まれそうです、すぐ来てください」
「そうですかそれは忙しい」
 と、取り上げ婆は前をまくって、アットたまげた。
「これは、まあ!如何したことでしょう。辺乃古から先に生まれてくる赤ちゃんなんて、今まで見たことがありませんわ、しかも、こんなに御立派なーーー」
名古屋弁川柳 2004/11/19
 だちかんわ 七十過ぎても まだおんな  竹見 吉弘
  【だちかんわ=どうもならない・しょむない。】

江戸小咄
2004/11/19

 息子が浅草の観音様へお参りに行って帰ってきて、
「今日は、仲見世に洒落た鏡が落ちていたんで、誰かが落とした人は居ないかと周りの人に聞いたけど、落とし主は見つからなかったよ」と話した。親父様がそれを聞いて、
「そりゃ観音様がお授けになったものだろうに、どうして拾ってこなかったんだ」
「いえ、私も拾おうと思って手を出したんですが、やめました」
「どうして?」
「だって、下から人が覗いていましたから」

かぎ
 田舎へ商いに行った連中が四、五人連れだって大阪へ帰る途中、其の1人が夜の間に金箱を盗まれた。
 みんなは気の毒がって、あちらこちら探してやったが遂に見つからなかった。しかし、盗まれた男は案外平気で、
「皆さん、そう心配してくださるな。盗まれた箱には錠を下ろして、鍵はこの財布の中に入れてありますから、大丈夫です」と云った。
名古屋弁川柳 2004/11/18
 やつとかめ 昔話で 酌み交わす  木原 広志

江戸小咄
2004/10/30
陰膳
 あるところの旦那が伊勢参宮に出けた。
 その留守に、しゅうとがやってきて、
「亭主が出ている間は、陰膳を据えると、旅先で腹を空かせないと云うことだ」と教えた。
 女房は此を聞いて、毎日、陰膳を据えた。
 そのうちに、日が経って、亭主が帰ってきて、互いに無事を喜んだが、亭主が、陰膳を見て、
「あの膳は何だ」
「あれは陰膳といって、お留守の間お膳をつけておくと、そなたが、旅先でひもじい思いをしないと、お父様が教えてくださったの」
「そうか、そりゃすまなかったな。そのせいか、俺は昼も夜もひもじい思いはしなかったよ」

【蛇足】「昼も夜」もと言うのが聞かせどころ。

死ぬより苦労
 差し向かい、二人だけで暮らしていた夫婦だが、亭主が大病にかかり、日頃懇意にしていた山田巧案先生を頼んだ。先生は、よいと言う薬は金に糸目を付けずに飲ませ、色々心を砕いたが、どうにも見込みがない。
 と、女房を物陰へ呼んで、ひそひそ話。
 亭主はそれを見て、女房を呼び、
「いかに俺が患っていればとて、あの医者とこそこそ乳繰りあうとは、何だ。このあばずれめー」と、死にかかっていながらの焼き餅。女房は涙ぐんで、
「それどころではありませんよ。あなたの病気はとても本復の見込みはないと言うお話なんですよ」と言う。
 亭主は泣き出して、
「そんなことなら、俺に直に云ってくれれば、こんなに気を揉ませなかったものを」
川柳蒼鷺 @ A B C D E F G H I J 179 瓜奴 紅梅 pinaillage2000 歴代川柳 愛-絆集 TOP頁